「台湾で挑発なら危険水域」中国教授は高市外交へ警告していた 韓国からは竹島式典への閣僚出席を不安視する声

衆院予算委で立憲民主党の岡田克也氏の質問を聞く高市早苗首相。「台湾有事」を巡り、安全保障関連法の規定で集団的自衛権の行使が可能となる「存立危機事態」に当たるかどうか問われ、状況次第で該当するとの見解を示した=2025年11月7日

 高市早苗首相の就任から1カ月が過ぎた。保守色の濃い政策を前面に出し、女性初の首相として高い内閣支持率を維持するが、外交では、台湾有事を巡る国会答弁に中国が強く反発し、関係が悪化している。

 高市早苗首相の初めてとなる日米首脳会談や外遊を踏まえ、10月末から11月頭に行った米国、中国、韓国の識者へのインタビューから、高市外交の行く末を探る。(聞き手・共同通信=笠井信孝、富樫顕大、関翔平)

▽安保戦略改定に警戒

 中国・清華大の劉江永教授は高市政権が国家安全保障戦略など安保関連3文書を改定することを警戒した。台湾問題で挑発すれば中日関係は危険な水域に入ると語った。

 インタビューを実施したのは11月3日だ。その4日後の7日には、高市氏が国会で、台湾有事に関し武力行使を伴えば存立危機事態になり得ると答弁し、台湾を自国領とする中国は撤回を要求。劉教授の懸念が的中した。

 ―高市政権の印象は。

 「最も注目しているのは高市早苗首相の背後にいる勢力だ。台湾と緊密な関係を持つグループや自民党の旧安倍派、麻生派は中国に友好的とは言えない。安倍・麻生路線の外務官僚らが政権とつながりを深めている。中国で高市氏は右派と目され、良いイメージはあまりない」

 ―10月31日に高市氏と習近平国家主席が初めて会談した。

 「日本側に会談への強い期待感があった。中国としても高市氏に歴史問題で真正面から警告する必要があった。何も言わなければ日本側が誤解する可能性がある」

 ―両首脳は共通利益を拡大する「戦略的互恵関係」推進を確認した。

 「日本は戦略的互恵関係と言いながら、(2022年策定の)国家安保戦略では中国の軍事動向について『これまでにない最大の戦略的な挑戦』と明記した。二つの表現は矛盾しており、納得する説明が必要だ。このままだと戦略的『誤解』関係になってしまう」

 ―高市氏がアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際に台湾代表と握手する写真を公表し、中国は抗議した。

 「高市氏の本音として発信されたもので予想されていたことだ。高市氏は7月に訪日した台湾の当局者と会っている。中国側は今回はっきり忠告した。高市氏が今後、台湾関係者と会えば、中日関係にとって良くない」

 ―高市氏は国家安保戦略の改定を目指している。

 「現行の戦略を巡っても、自民党案では中国の軍事動向を安保上の脅威と表現していた。当時の連立相手の公明党が修正したが、公明は与党ではなくなったので脅威と表現し直す可能性がある。防衛費を増加させ、米国製巡航ミサイル『トマホーク』取得を進めようとしている。中国への挑発が重なれば中日関係は今後、危険な状態に入ると思う。高市氏は国交正常化を実現した先人の努力を大切にすべきであり、両国関係の基礎を壊してはならない」

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 りゅう・こうえい 1953年4月、江蘇省南京市生まれ。2003年9月から現職。北京外国語大教授も務める。

インタビューに答える中国・清華大の劉江永教授(共同)

▽警戒感、首脳会談で和らぐ 

 韓国ソウル大国際大学院の金顕哲教授は、韓国で強かった高市早苗首相に対する「極右」との警戒感が10月30日の李在明大統領との会談で和らいだと語った。ただ日本で右傾化が進んでいると指摘し、日韓が領有権を主張する島根県の竹島(韓国名・独島)問題で高市政権が強硬な対応を取らないか不安視した。(インタビューは11月4日実施)

 ―高市氏をどう見る。

 「韓国では以前の言動から不安が強かった。(高市氏と近かった)安倍晋三元首相時代には、対韓輸出規制などつらい経験があった背景もある。だが韓国慶州での首脳会談で良い出発ができた。韓国世論は落ち着いた」

 ―会談の注目点は。

 「高市氏が韓国国旗に一礼し、韓国国民に良い印象を与えた。李氏が高市氏の地元、奈良県での会談を提案し、高市氏が快諾した。奈良にあった大和と朝鮮半島の百済は交流があったので、日韓友好のスタート地点だ」

 ―懸念はあるか。

 「高市氏は総裁選時、竹島に関する来年2月の式典に(従来の内閣府政務官ではなく)閣僚が出席するべきだと語った。実行すれば反日世論が爆発する可能性がある」

 「参院選で参政党が排外主義を訴えた。高市氏は日本維新の会と手を組み、首相指名選挙では参政党にも協力を求めた。ブレーキ役だった公明党はいなくなった。日本は右傾化が進んでおり、高市政権が流れに乗らないかどうか心配だ」

 ―高市氏が掲げる防衛力強化は。

 「一般の韓国人は植民地時代の歴史から懸念が大きい。私は専門家としてトランプ米政権の要求があることだと理解し、見守っている」

 ―高市氏は北朝鮮に首脳会談開催を打診した。

 「韓国の(李政権など)革新政権は南北融和を進めてきた。北朝鮮と日本がコミュニケーションを取り、国交正常化すれば良いと期待するが、日本が拉致問題を前面に出せば北朝鮮は対話に応じないと思う。それ以外の議題で仕掛けるべきではないか」

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 1962年、韓国大邱(テグ)出身。日本で名古屋商科大助教授、筑波大准教授を歴任。韓国与党代表らの諮問委員を務める。

インタビューに応じるソウル大国際大学院の金顕哲教授(共同)

▽対中強硬追従はリスク

 米国笹川平和財団シニアディレクターのジェームズ・ショフ氏は、トランプ米政権が高市政権に自衛隊による反撃能力(敵基地攻撃能力)など安全保障分野の協力拡大を期待していると述べた。トランプ大統領の対中姿勢は二転三転するため、日本が強硬一辺倒で追従するのはリスクを伴うと警鐘を鳴らした。(インタビューは10月30日に実施)

 ―10月28日の日米首脳の初会談をどう見るか。

 「順調だった。トランプ氏は個人的な関係構築を重視し、今回は日本の防衛費増額といった難題は避けたようだ。巨額の対米投資は具体性を欠き、今後の課題だ。高市早苗首相が長く政権を維持できるかどうかも日米同盟の安定性に影響する」

 ―トランプ政権が日本に求めることは。

 「安保分野でのさらなる協力拡大に期待しており、高市政権も大筋で一致している。日本に防衛関連で多くの投資を求め、米軍と自衛隊の統合を追求するだろう。核抑止や反撃能力、宇宙、サイバー防衛などの協力拡大が共通の優先分野となる。米国の次世代ミサイル防衛構想『ゴールデンドーム』への参画を求めるかもしれない」

 ―注意すべき点は。

 「トランプ氏は中国に圧力をかけたり融和的な姿勢を見せたり態度をころころ変える。日本が追従して中国に貿易面で強硬姿勢を取ったのに、いつの間にかトランプ氏は手を引いていたという事態も起きかねない。慎重になる必要がある」

 ―日米関係はどう変化しているか。

 「トランプ政権はサプライチェーン(供給網)確保などの経済安保でも日本との協力をさらに深めようとしている。一方、核不拡散や気候変動、多国間協力といった分野への関心は薄れている」

 ―日本の役割は。

 「米国が軽視している対外援助や多国間の協力枠組みといった分野で日本は指導力を発揮できる。国連や世界保健機関(WHO)は米国だけでなく世界にとっても大事な機関だ。先進7カ国(G7)で日本が果たす役割も一層重要になる」

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 1966年生まれ。オバマ政権で国防総省東アジア政策上級顧問。2021年10月から現職。

インタビューに答える米国笹川平和財団シニアディレクターのジェームズ・ショフ氏(共同)