8歳少年兵は誘拐被害者で残虐行為の加害者だった 変えられない過去、消えないトラウマ

8歳少年兵は誘拐被害者で残虐行為の加害者だった 変えられない過去、消えないトラウマ

戦時下の子供たちを苛(さいな)むトラウマ。先の大戦下の日本、そして現在も世界では子供の5人に1人が戦災に巻き込まれている。心の傷は子供たちに何を残すのか。今を見つめ、未来を探る。

同じ仲間の子供たちを鞭で思い切り打つ。「許して」「殺さないで」。口々に懇願されたが、やらなければ自分が罰を受ける。ウガンダ人、オコト・ジョセフ(38)が武装組織の少年兵だった8歳頃のこと。「今でも彼らの姿が目に焼き付いている。人として最低の経験でした」

ウガンダでは、政府軍と武装組織「神の抵抗軍(LRA)」の内戦が1986年から20年続き、10万人以上の国民が犠牲になったとされる。

LRAは拠点とする北部の集落を襲撃し、子供を誘拐。男児は兵士、女児には幹部との結婚を強いた。教育の機会を奪い、脱走者は処刑する。恐怖で支配し、規律を破れば少年兵同士で罰を与えさせることで互いに疑心暗鬼に陥らせた。元少年兵らの社会復帰を支援するNPO「テラ・ルネッサンス」(京都市)によると、最大3万8千人の子供が被害に遭った。

北部アティアクで育ったジョセフは8歳で誘拐され、98年、10~11歳で初めて戦闘を経験した。

敵軍の激しい空爆にさらされ、目の前で仲間の手足が吹き飛ぶ。陸上からも攻め込む敵に向かって、無我夢中で引き金を引いた。

解放されたのは16歳の時。右脚を撃たれ、保護された。ようやく帰還がかなったが、社会のまなざしは冷たく、入院先に訪ねてくる家族もいなかった。「悪いことをした自分は価値のない存在だと感じた」と振り返る。

拘束で奪われる自尊心 帰還少年兵の9割超にPTSD

少年兵は誘拐の被害者でありながら、残虐行為の加害者としての側面も持つ。隣国コンゴや東南アジアのミャンマーなどでは、今も少年兵が戦地に送られている。

ウガンダ北部のグルで洋裁店を営むジョセフさん(右)=10月(テラ・ルネッサンス提供)

少年兵は数カ月から10年以上に及ぶ拘束で自尊心を奪われ、帰還後は人間不信に陥る。ウガンダの帰還少年兵ら71人を対象とした調査では、97%に心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状がみられた。

ジョセフも帰還から4年ほどは月1回程度、密林での戦闘の悪夢に苦しんだ。前を向くきっかけは、「テラ・ルネッサンス」が2005年に同国北部グルで始めた自立支援プロジェクト。08年、21歳頃に参加した。

「出会ったとき、彼は表情も自信も失っていた。やりたいことをやっていいと伝えても『できない』と答えた」。同団体理事のプロジェクト運営者、小川真吾(50)が振り返る。

プロジェクトでは、読み書きや算数などの基礎と洋裁技術を3年かけて教え、同じ経験を持つ仲間との交わりを通して自立を促す。ジョセフは手先が器用で覚えも早く、次第に笑顔が増えた。

「過去は変えられず、トラウマは消えない」。小川は言う。「それでも、小さな成功体験を繰り返し、自尊心を取り戻すことで悪夢などの頻度は減っていく。積み重ねが社会復帰につながる」

「普通」の幸せ噛みしめ

ジョセフは今、グルで洋裁店を営む傍ら、プロジェクトの生徒に洋裁技術を教える。今は妻と5人の子供と一緒に暮らし、求める幸せの形が見える。「特別ではない、普通のことなんだ」。生徒には「過去にとらわれ過ぎないで」と伝える。

世界ではいまだ多くの子供たちが戦時下で生きる。ナイジェリアでは11月21日、寄宿学校が武装組織に襲撃され、子供300人以上が連れ去られた。パレスチナ自治区ガザでは、10月10日の停戦発効後も60人以上の子供が命を落としている。

「子供は直接のトラウマだけでなく、親の精神状態にも影響を受ける。大人から怒りや憎しみを引き継ぐ可能性もあり、将来への懸念は計り知れない」。児童精神科医で東京大教授の田中英三郎(50)は危惧する。

幼心に刻まれたトラウマは、人生に影を落とし続ける。

田中が警鐘を鳴らす。「社会全体で子供の行く末を考えなければならない。未来を担うのは、ほかでもない子供たちだ」

(敬称略)

=おわり

小川恵理子、池田祥子が担当しました。