楽しく、おいしく…人と人とをつなぐ命の根源 食欲の秋に「食べること」見つめる6冊

(左から)谷口智則作『ワニのワッフルケーキやさんワニッフル』(アリス館)、稲見一良著『ダックコール』(ハヤカワ文庫JA)、羽海野チカ著『3月のライオン』(白泉社)
「食べる」ことは、生きることに欠かせません。今回は、子供の頃が懐かしくなる本や、大人らしく、お酒とさかなをゆっくり口にしたくなる本がそろいました。おいしく、楽しく食べるご飯は心を満たし、人と人の距離も近づけてくれるようです。頭に浮かんだ誰かを食事に誘ったり、誰かの思い出とともにご飯を味わったりして、食欲の秋を満喫してはいかがでしょうか。(司会・藤井沙織)

谷口智則作『ワニのワッフルケーキやさんワニッフル』(アリス館)
座談会メンバー

稲見一良著『ダックコール』(ハヤカワ文庫JA)
大橋崇博さん(流泉書房)/佐々木梓さん(ジュンク堂書店大阪本店)/百々典孝さん(紀伊国屋書店梅田本店)
藤井 大橋さんの選書のタイトルは、声に出したくなる語感です。
大橋 『ワニのワッフルケーキやさんワニッフル』(谷口智則作/アリス館)。ワニのカップルが営んでいる人気のお店なんですが、どうやってワッフルを作っているのか。お客さんのキリンさんやリスさんたちは、見てはいけないと言われた厨房をのぞいてしまい-。

羽海野チカ著『3月のライオン』(白泉社)
佐々木 いやいや、確かに生地がワニ柄にはなるけれども(笑)。
百々 ワッフルに挟んだクリームが出てしまうやん(笑)。
大橋 そこはプロなんですよ! 見てくださいこのハート形の尻尾。愛情も込めているんです。
藤井 これは、読んだら絶対に声をあげて笑ってしまう。
百々 1冊目は絶対にこれ。連作短編『ダック・コール』(稲見一良著/ハヤカワ文庫JA)。
百々 この中の「密猟志願」は、病気で仕事を早期退職した不器用な男が、夢だった密猟に挑戦する話。パチンコ(スリングショット)で簡単に鳥を仕留める少年と出会い弟子入りする。仕留めたキジバトやカモを使い、主人公がキャンピングカーで振る舞う料理がめちゃくちゃうまそう。そうやって、年の離れた2人が友情を育んでいくのがいい。
藤井 すてきなお話…なんですが、なぜに密猟。
百々 やっぱり、自分で動物を狩って命をいただくのは、男のロマンやん。
大橋 そうかな?(笑)。
佐々木 もしやるなら、ちゃんとライセンスを取ってくださいね。私も1冊目は絶対にこれだと思って。漫画で『3月のライオン』(羽海野チカ著/白泉社)。家族を亡くして将棋の道に進むしかなかったプロ棋士の高校生と、両親のいない3姉妹が出会う。題材は将棋ですが、姉妹の作るご飯を通じて物語が進んで、成長していく。
藤井 心が疲れているときは温かい物を食べるとか、この作品で学びました。
佐々木 私もです! 今日、明日に作れる料理が出てくるのがいい。9巻に登場する「甘やかしうどん」が、なんか好きなんですよ。
大橋 僕の2冊目は『おいしい給食』(紙吹みつ葉著/中公文庫)シリーズ。舞台は1980年代で、主人公の中学の先生は給食をめちゃくちゃ愛している。で、クラスのある男子生徒が、クジラの竜田揚げとキャベツをコッペパンに挟んだりとか斬新なアレンジしては見せつけてくるから、いかにおいしく食べられるかを張り合うようになります。
佐々木 給食へのモチベーションがやばい。
大橋 そうやって毎日ひそかにバトルしているうちに、不思議な絆が生まれていくんです。
藤井 先生の給食メニューのうんちくが勉強になります。昨今はネガティブな話題も多い給食ですが、子供たちにはワヤワヤと楽しく食べてほしい。百々さんの2冊目は、静かな大人の物語。
百々 『センセイの鞄(かばん)』(川上弘美著/文春文庫)。これもめっちゃ好き。主人公の37歳のツキコさんが、行きつけの飲み屋で高校の恩師と再会して、その店で会ったら一緒に食事をするようになる。
大橋 何十年も前の一人の生徒を覚えているんやから、先生ってすごいですよね。
百々 レンコンのきんぴらとか湯豆腐とか、飲み屋に行きたくなる料理がいっぱい出てきて、何てことのない会話が続いていくだけの、大人の恋愛小説。
藤井 センセイという呼び方も、艶(つや)っぽく感じます。思えば接待も合コンも、誰かと親しくなりたい場面ではご飯が必須。あとお酒。
大橋 確かに、まず「ご飯行かへん?」ってなりますね。
百々 食事って、相手のいろんなものが見えるよな。この2人はつまみの好みが似ていて、手酌で会計が別と、人との間の取り方も合う。タイトルの意味が最後に分かってイガイガするんやけど、後味がイガイガするのが、名作やと思うな。
佐々木 『夏物語』(川上未映子著/文春文庫)は、38歳の夏子が、子供がほしくて精子提供を考える生殖倫理がテーマの重い話なんですが…町中華のシーンがすごい印象的で。
佐々木 お店の中で夏子たちが亡くなった人や子供の話をしているんですが、ここに町中華を持ってくるセンスがすごいなと思って。
藤井 命についての話を、中華をモリモリと食べながらするのが…。
佐々木 なんかすごい生命力を感じますよね。
藤井 どんなときでも、生きるためには食べねば。
- 「中秋の名月」夜空を見て何を思う…人の心揺さぶる天体を知る