食べるレガシーはどんな味?2050年の開封にむけて漬け込まれた梅干し「万博漬け」

「EARTH MART」で行われた「万博漬け」の記念式典で、梅を漬ける紀州梅の会のメンバーら=令和7年6月、大阪市此花区(南雲都撮影)

食をテーマにしたパビリオン「EARTH MART(アースマート)」で漬け込まれた梅干しを2050年に食するプロジェクトが進行中だ。名付けて「万博漬け」。「食べるレガシー」は万博の思い出を一年一年、熟成させていく。

たった一つの梅干しの思い出からプロジェクトは始まった。パビリオンを手掛けた放送作家、小山薫堂さん(61)の経験だ。かつて和歌山県田辺市周辺を訪れたとき。農家の女性が50年漬け込んだ梅干しを食べさせてくれた。ごはんと梅干しの質素な食事は、感動的なおいしさだった。

万博で記憶に残せる物はないか。思いをめぐらせていたときにこの経験がよみがえった。「冷蔵庫に頼らず塩で50年も保存し、うまみも出る。世界にシェアしたい食べ物」

同市やみなべ町など梅の産地の自治体や生産者などでつくる「紀州梅の会」が協力。若手の生産者らでつくる「若梅会」などが1トンの南高梅を漬け込んだ。昨年、若梅会の会長を務めた浜田朝康さん(47)は「梅干しは食卓の脇役だが、今回は主役。意気に感じた」と振り返る。

61年連続で収穫量日本一の和歌山の梅。ただ、令和6年産は開花前の高気温などで過去10年で最低、万博漬けに用いる7年産は持ち直したものの例年より低い水準にとどまったほか、雹(ひょう)で約47億円の被害も出た。だが「厳しい年だからこそやってみる価値がある」と前向きにとらえた。

小山薫堂さん

不作に加え、近年は食生活の変化などで消費も減少傾向にあるなど先行きは楽観できない。それゆえに「原点に返って保存食としての魅力を伝えなさい、と先人から言われている気がした。25年後、あのときの試練を乗り越えたと言えるように思いを込めた」。万博漬けを通じ、国内の梅生産を支えている産地の伝統を紡いでいく。

「EARTH MART」内で行われた万博漬けの漬け込み=令和7年6月(浜田朝康さん提供)

企画した小山さんの考えるレガシーとは-。「万博をきっかけに各地で食がテーマの施設がつくられていく。また、子供たちが食への感謝の心をもってもらえたらレガシーです」

期間中に配布された引換券をもつ人に2050年、田辺市で梅干しが渡される。「25年後も美味(おい)しいものがたくさん食べられる日本でありますように」。来館者が書いた絵馬カードには、食に困らない世を願うメッセージが目立つ。「いのち」のみなもと、食。未来の梅干しは人類の変わらぬ願いを伝えていく。(内山智彦)

「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、大阪市此花区の人工島・夢洲(ゆめしま)で184日間にわたって開かれた2025年大阪・関西万博。158の国・地域が参加し、趣向を凝らした展示が来場者の人気を集めた。昨年10月の閉幕に伴い、近畿の各府県や自治体が各パビリオンから引き継いだ品々や万博を機に広がった交流といったレガシー(遺産)を紹介する。

2050年の開封に向けて漬け込まれた「万博漬け」