史上最悪レベルロサンゼルス山火事から1年…まさかの結末に住民の怒り収まらず
2025年1月にロサンゼルスの高級住宅街を襲った山火事。6800棟以上の建物が焼けるなど“アメリカ史上最悪レベル”の被害となった。「打ち上げ花火が原因」との報道もあったが、10月、捜査当局は当時29歳の男を放火容疑で逮捕。予期せぬ結末に住民は?徐々に明らかになる男の犯行当日の様子とは?(NNNロサンゼルス支局 山田元気)
■大みそかの街に…ひそかに忍び寄っていた“容疑者”

火はこの付近に放たれふもとの住宅街を襲った 日テレNEWS NNN
2024年12月31日の深夜、その男の姿はロサンゼルスの高級住宅街・パシフィックパリセーズにあった。ウーバーの運転手としてハンドルを握り、祝祭ムードに包まれる大みそかの街を静かに走っていた。
男は、午後10時15分から午後11時15分までの間に2人の客を乗せた。2人はその後の捜査員の聞き取りに対し、この時の男の様子について、こう語ったという。「興奮し、怒っているように見えた」。
午後11時28分ごろ、男はスマートフォンからYouTubeにアクセス。「絶望」と「苦悩」を表現したフランス人アーティストの曲を視聴するためだ。ミュージックビデオには主人公が物に火を付ける様子が描かれていて、過去4日間で3回視聴していたことがわかっている。
午後11時34分ごろ、男はパリセーズドライブで乗客を降ろし、近くにあるハイキングトレイルへと向かった。男はこの街に住んでいたことがあり、土地勘があったという。
午後11時38分ごろ、男はトレイルの入り口にある駐車場に車を止めた。真っ暗な中、1人で丘を登った。高級住宅街の沿岸エリアを見下ろすことができる丘の上…男はその付近から火を放ったとみられている。これが“アメリカ史上最悪レベル”ともいわれる大規模な山火事の始まりだった。
■保険損害額3兆円以上…“アメリカ史上最悪レベル”の山火事

6800棟以上の建物が焼失 日テレNEWS NNN
男が放ったとされる火は乾燥した草木に燃え広がったが、消防により2025年1月1日のうちに鎮圧され、人的被害や建物の損壊は確認されなかった。
しかし、地中でくすぶっていた火が強風にあおられ、1月7日に再燃。広がった火は12人の命を奪い、6800棟以上の建物が焼失した。消防当局が「完全に鎮圧した」と宣言したのは、1月31日のことであった。
アメリカのデータ分析会社によると、保険損害額は200億ドルから250億ドル、日本円で約3.1兆円から約3.9兆円とされている。
■誰もが予期せぬ結末…「放火犯逮捕」の衝撃に住民は

25年住んだ家を失ったユングさん 日テレNEWS NNN
10月8日、捜査当局は放火の疑いで当時29歳のジョナサン・リンダーネクト容疑者を逮捕したと発表した。当初、「打ち上げ花火が原因」との報道もあった中での「放火犯逮捕」の発表に、筆者自身も動揺したのを覚えている。筆者はすぐに現場へと向かった。
火災前は大きな住宅が立ち並んでいたエリアには、更地が広がっていた。そこに、わずかに残った植木に水をやる男性の姿があった。
パーグリン・ユングさん、60歳。容疑者が逮捕されたことを知っているか尋ねると、意気消沈した様子で語った。
「けさ、火災は放火によるものだったと知り、大きな失望を覚えている。我々は当初、花火が原因ではないかと考えていたが、まさか放火とは誰も考えていなかった。非常に落胆している」
ユングさんは25年前、妻との結婚を機にこの家を購入。長女と長男はこの家で生まれ育った。「この家は私たちの全てで、人生そのものだった。子どもたちの思い出も全て燃えてしまった…」と涙ながらに語った。容疑者への思いを聞くと、言葉を絞り出すように「怒りを通り越した感情だ。この惨状は言葉にできず、悲しみは計り知れない」と口にした。
■容疑者はなぜ浮上したのか? 犯行前後の“不可解な行動”

容疑者がチャットGPTで生成した画像(@USAttyEssayli) 日テレNEWS NNN
なぜリンダーネクト容疑者が捜査線に浮上し、逮捕に至ったのか。実は、犯行前後にいくつもの不可解な行動をしていたことが明らかになっている。
<不可解な行動(1)自ら消防に通報>
火災の兆候は、2025年1月1日の午前0時12分に防犯カメラで確認された。その30秒後、容疑者は日本の119番にあたる911番に自ら通報を試みていたのだ。電波が届かなかったとみられ、通話はつながらなかった。
その19秒後にも再度、通報を試みるも失敗。GPSデータから、容疑者が火元の近くの丘にいたことが特定されている。その後も通報を試みるが一向につながらず、容疑者は丘を下り始めた。すると、午前0時17分、初めて911番通報がつながり、容疑者は火災を通報したという。
<不可解な行動(2)チャットGPTに“とある質問”>
通報中、容疑者は自身のスマートフォンでチャットGPTに「たばこが原因で火災が発生した場合、過失責任は生じるか?」と質問していた。その後、捜査当局はたばこの吸い殻から山火事が引き起こされた可能性を排除。容疑者が植物や紙などの可燃物にライターのような物で火を付けたと特定している。
<不可解な行動(3)消火活動の様子を撮影>
消防との通話後、車に乗り込み現場から離れていたという容疑者。しかし、現場へ向かう消防車とすれ違うと容疑者は車を方向転換させ、消防車を猛スピードで追いかけた。現場に戻ると、容疑者は、消防隊員に消火活動の手伝いを申し出たという。その後、同じトレイルを登ると、スマートフォンで火災と消防隊員の様子を4本の動画で撮影していた。
<不可解な行動(4)チャットGPTで画像を作成>
事件前の2024年7月、容疑者はチャットGPTを使って「燃え盛る炎から逃げる人々」を描いた画像を作成した。作成する際の指示には「門と壁の向こう側には、最も裕福な人々の集合体がいる。彼らはくつろぎながら、世界が焼け落ちる様子や人々が苦しむ様子を眺めている」といった内容が含まれていた。
――これらの行動などから、捜査当局はリンダーネクト容疑者が放火した疑いが強まったとして逮捕に踏み切ったのだ。
■あれから1年。やり場のない怒りと進まない再建

依然として更地が広がる(2025年12月中旬) 日テレNEWS NNN
2025年12月中旬、再び現場を訪ねると、重機や作業員の姿が多く見られた。住宅もいくつか新たに建設されていたが、依然として更地が広がり、住民の姿はほとんどなかった。
逮捕から2か月がたち、ユングさんは「悲劇的で許しがたい。自宅の再建についても宙ぶらりんだ」と、やり場のない怒りを語った。
さらに、この火事では市の対応について責任を問う声も上がっているが、「政府機関を相手取る訴訟は困難」とされている。
容疑者の動機は何だったのか。リンダーネクト容疑者は起訴内容に対して無罪を主張していて、住民らは2026年4月から始まる公判で“真相”が明かされることを願っている。