「外国人によって治安が悪化している」は本当か? データから読み解く「外国人問題」の実態

――「この国に生まれたことが、罪ですか?」

日本で生まれ、日本語しか知らずに育ちながら、在留資格を持たず生きる子どもたちがいる。国民健康保険にも入れず、進学や就労の道も閉ざされ、強制送還の不安と隣り合わせの日々を送る。

子どもたちを物語の主役とした書籍『仮放免の子どもたち』では、データや政策を整理したコラムも収録し、外国人政策の「今」を描き出す。

本記事は、池尾 伸一『仮放免の子どもたち 「日本人ファースト」の標的』(26年1月22日発売)の一部を抜粋・編集しています。

『政府の「移民は受け入れない」発言は建前?…外国人はすでに「日本社会を支える一員だった」』より続く。

激減した非正規滞在者

一方、入管庁の在留外国人統計では見えてこないが、日本に確かにいる外国人として在留資格を持たない人たちの存在がある。観光ビザで来て、在留期間が来ても帰らず働いている人たちなど、在留資格がないまま滞在する超過滞在の人たちだ。

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入管庁は「不法滞在者」と呼ぶが、入管庁の厳しすぎる難民認定制度に阻まれ、在留資格が与えられない人など本人には非がない場合も多く、本書では「犯罪者」のイメージがある「不法滞在者」でなく「非正規滞在者」と呼ぶことにする。彼らは本書の主役だ。

入管白書によると非正規滞在者の大半を占める超過滞在者(入管用語では「不法残留者」)は2025年7月1日現在で約7万1000人。近年のピークはバブル期直後の1993年の約29万8000人。当時は、入管庁の取り締まりは厳しくなく、好景気による人手不足を補うため、超過滞在者も、半ば公然と工場や建設現場で働いていた。しかし、その後、日系ブラジル人などの受け入れや、技能実習制度の導入などによって、正規の就労資格のある人たちが来るようになった。警察や入管の取り締まりも厳しくなり、非正規滞在者は激減したのだ。

ファクトチェック(1)  治安は悪化している?

「外国人問題」という言葉から、何を思い浮かべるかは人によってさまざまだろう。ある人は、犯罪が増えていると感じ、ある人は、外国人が優遇されていると思い、不安感や怒りを覚える。だが、その一つ一つに根拠や客観的なデータはあるのだろうか。

2025年の参院選に際しては自民党や参政党が、治安状況が悪化していることを強調し、取り締まりの強化などの対策を訴えた。「いい仕事につけなかった外国人の方が集団をつくって万引きとかやって大きな犯罪が生まれている」。参院選公示日、参政党代表の神谷宗幣が東京・銀座での第一声で言った。

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統計データはどうなっているのか。日本全体では、外国人の人口は2004年で短期滞在者も含めて197万人。2023年は377万人と2倍近くに増えた。しかし、法務省がまとめた「犯罪白書」によると、刑法犯で検挙された外国人は、2004年の1万4766人から、2023年は9726人と34%減っている。23年は前年よりも増えたが、これはコロナ禍の反動とみられ、長期的には減少傾向にある。

凶悪犯(殺人、強盗、放火、不同意性交など)で検挙された外国人は、2014年は247人、2023年は361人と約1.5倍に増えた。この間に在留外国人は1.6倍に増えており、外国人が重大な犯罪を起こしやすくなっているとはいえない。

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トルコなどの少数民族クルド人の多くが集まって住んでいる埼玉県はどうか。埼玉県内の外国人人口(短期滞在は除く)は2015年時点で13万9656人だったが、24年には26万2382人と倍近くまで増えた。だが、外国人の刑法犯の検挙人数は2015年の717人から、24年は641人と1割減っている。全国と同じく減少傾向にあるのだ。

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次に約2000人のクルド人が住んでいるといわれる川口市ではどうか。2004年時点で1万4679人だった外国人人口(短期滞在は除く)が、24年に4万3128人とほぼ3倍に増えた。だが、市内の刑法犯の認知件数は2004年は1万6314件だったのが、2024年は4529件へと大幅に減少しており、ここでも犯罪の増加傾向はみられない。埼玉県警本部長の野井祐一も2024年末の県議会で「川口市内における犯罪情勢が特段に悪いという評価はしていない」との認識を示した。

国立社会保障・人口問題研究所の国際関係部長の是川夕は「データは長期的に外国人による犯罪は減っていることを明確に示している。外国人による犯罪が増えていると主張するのは難しい」と指摘する。

ファクトチェック(2)  外国人は優遇されている?

外国人が日本の制度にただ乗りし、優遇されているとの主張も政党候補者の発言やネットの投稿でよくみられる。

参政党は「企業が安く使うために、外国人労働者をたくさん連れてきて過酷な条件で働かせるために多くが逃げて、生活保護を受けている。公民の税金でなぜ払わなければならないのか」(代表の神谷)と主張した。

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実際には、労働者として日本で働く外国人の多くは「技能実習」「特定技能」「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格で就労しており、制度上、生活保護の対象外だ。生活保護を受けられるのは10年以上住んでいる「永住者」「特別永住者」や「定住者」など、国内での在留制限がない「身分に基づく在留資格」を持つ人だけだ。

「生活保護受給世帯の3分の1は外国人」との情報もSNSで拡散した。しかし、生活保護の利用実態をまとめた厚生労働省の「被保護者調査」(2023年度)によれば、生活保護利用世帯のうち世帯主が外国籍なのは4万7317世帯で、全体に占める割合はわずか2.87%にすぎない。

一方、生活保護を受けている人の割合を示す保護率については在留外国人は1.93%だった。日本人を含む全体の保護率は1.62%だった。外国人の保護率が若干高い背景には、旧植民地出身の在日コリアンの人たちが公的年金に加入すること自体が長年にわたって認められず、多くの人が高齢期に無年金または低年金に陥った事情がある。これは年金制度の不備を放置した日本政府の責任といえ、高齢の在日コリアンの人々を責めることは適当でない。

外国人が支える社会保障制度

SNSでは外国人が国民健康保険を乱用し、ただ乗りしているという情報も多い。だが、そもそも観光客は国民健康保険に加入できない。日本に3ヵ月を超えて滞在し、勤務先の健康保険組合などに加入していない外国人は国民健康保険への加入が義務づけられている。厚労省によると、2023年度で国保の被保険者2378万人のうち、外国人は97万人で全体の4.0%だ。

一方、国民健康保険が支払った総医療費(23年3月~24年2月)は8兆9000億円で、このうち外国人に使われた割合は1.39%の1240億円だった。外国人が国保を乱用していると主張するなら、1人あたりに支払われている医療費は日本人より高額でなければならない。しかし実際には、日本人を含む全体では1人あたり36万円なのに対し、外国人単体では13万円にとどまっている。

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背景には在留外国人は現役世代の割合が高く、比較的健康な人が多いという事情がある。現役世代の外国人が国民健康保険に入っていることで、むしろ日本人の高齢者の医療費が支えられている。「乱用」とは逆の実態で、外国人を国民健康保険から脱退させれば、健康保険財政は悪化することが分かる。

外国人に支えられているのは、実は年金財政も同様だ。厚生労働省の2024年の年金財政検証によると、70年までに現在1億2000万人の総人口が8700万人に減少する。年金財政はこのままでは危機に陥るが、外国人の入国超過が毎年16万4000人ほどあり、70年に939万人(人口の1割)に達することを前提に制度は何とか維持できる。ただし、給付水準は低下する(会社員について現役時に比べた所得は、現在の6割水準から5割水準に低下)。外国人がいなければ年金財政はさらに厳しくなり給付額も減少するのだ。

社会保障制度にとって「外国人は重荷」と考える人が多い。だが、労働者の構造と同じく、社会保障制度自体が外国人に支えられる「外国人頼み」の構造にならざるをえないのが実態なのである。

(※外国人当事者及び家族は注記のない限り仮名。敬称略。当事者らの年齢は取材時点。)

『2050年までに日本の人口の“10%”は外国人になる…「共生」が不可避となった日本が直面する「外国人の受け入れ問題」』へ続く。