母語も文化も奪われる徹底的な「同化政策」チベットの子供たちに何が起きている

90歳を迎えたダライ・ラマ法王14世。祝賀行事にはハリウッド俳優、リチャード・ギアさんの姿も=2025年7月、インド・ダラムサラ(亀田浩史さん提供)

幼時から親元を引き離され、寄宿制学校で徹底的な「思想教育」を受ける―。チベット難民支援を続ける大阪市内のNGO(非政府組織)が、中国政府によるチベットの子供たちへの強制的な同化政策を明らかにした新たな翻訳書の作成を進めている。尋常ではない情報統制が敷かれているとされるチベットで今、何が起きているのか。昨年夏、チベット亡命政権の拠点があるインド北部のダラムサラを訪問したNGO代表は、同化政策の加速化に危機感を募らせる。

チベット難民支援学校を訪れた亀田浩史さん(中央)=2025年7月、インド・ダラムサラ(亀田さん提供)

翻訳作業を進めるのは、大阪市北区のNGO「ドリーム・フォー・チルドレン」の亀田浩史代表(46)。米人権団体による亡命者らの証言をもとにした報告書が原本となっている。

報告書は「中華民族」の名のもと、チベット人のアイデンティティーを否定するための徹底した「中国人化教育」の非人道性を強調する。

具体的には、幼稚園段階の4歳から家族と引き離され、遠隔の寄宿制学校に強制入学。チベット語の使用や仏教への祈り、伝統文化の継承は一切禁じられ、中国語によるカリキュラムが押し付けられる。中国人教師による虐待も報告され、親に頼れないために精神的なトラウマをかかえ、自殺する子もいるとも指摘する。

「習近平(国家主席)とその指導力、国に感謝する作文を書けばいい成績がもらえる。共産党や軍をどれだけたたえられるかで評価される」「子供を連れ去るためにあらゆることをする。親が不満や懸念をぶつける場所はどこにもない」との証言も並ぶ。

こうした寄宿制学校には100万人以上が収容され、大規模な「教育都市」まで存在する一方、チベット語の教育施設は次々に閉鎖に追い込まれているという。

亀田代表は昨年7月、チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世の90歳の誕生日にあわせてインド北部のダラムサラを訪れた。報告書をまとめた亡命チベット人学者のギャロ博士から、「中国のチベット人家庭には監視カメラがつけられている」と聞き、「弾圧はますます強まっている。昨年1月のチベット大地震の続報が全く出てこないように、情報統制は尋常ではない」(亀田代表)。

出版予定の翻訳書草稿を手にする亀田浩史さん=大阪市

14世はこの時、自身の後継者問題について「チベットの正当な機関以外のほかのいかなる組織も干渉する権限はない」との表明した。この意向に関し亀田代表は「都合のよい人物を選定しようとしている中国がチベットに圧力を強めるのは間違いない。子供たちから母語を奪い、文化を奪い、中国に同化させる動きは加速するだろう」と予測する。

米人権団体は、こうした強制教育は国際法や国内法にも違反しているとし、国連などに人権状況の改善を求めている。亀田代表は近く大阪市内で報告会を開き、チベットの実態を訴える予定だ。(河合洋成)