衆院選の先に待つ「自民圧勝」「2.19退陣」の分水嶺

自民圧勝シナリオに不安の声も, 与党過半数という“決勝線”の行方, 女性代表3氏が“反高市”で声を枯らす, 超短期決戦で交錯する各党の立ち位置

東京・秋葉原で第一声を上げた高市首相(右)と日本維新の会の吉村代表(写真:ブルームバーグ)

1月27日、“超短期決戦”の火ぶたが切って落とされた。第51回衆議院選挙は2月8日の投開票に向けて激しい選挙戦に突入した。

【写真あり】主要政党が掲げる衆院選の争点は? 討論会のパネルで確認してみた

今回の衆院選には、自民党、中道改革連合、日本維新の会、国民民主党、共産党、れいわ新選組、減税日本・ゆうこく連合、参政党、日本保守党、社民党、チームみらい、諸派・無所属が参戦。立候補者数は小選挙区1119人、比例代表166人(単独)の合計1285人で、そのうち女性候補は過去最多の313人となり、小選挙区289・比例代表(11ブロック)176の計465議席を争う構図となっている。

高市早苗首相としては「新たに誕生させた自民・維新連立政権について、国民の信を問うことで本格・安定政権とするのが目的」(官邸筋)とされる。だが、解散決断に至るまでの自身の“迷走”と、それに対する自民党内の反発の根強さ、さらには与党・日本維新の会に生じた“高市不信”などが複雑に絡み合い、「圧勝狙いに“落とし穴”も目立つことが今回選挙戦の最大の特徴」(有力選挙アナリスト)だ。

自民圧勝シナリオに不安の声も

27日の公示に先立ち、主要政党の党首たちは各種の討論会でそれぞれ獲得議席目標を掲げた。その中で高市首相は「目標は与党で過半数(233議席)」と控えめな数字を繰り返した。しかし、自民党内では「それはあくまで“最低限”で、本当の目標は自民単独で過半数」(同党幹部)との見方が支配的だ。

確かに、高市氏は「私が首相でいいかどうかを国民に問う以上、与党で過半数を下回った場合は即刻退陣する」と明言することで、目標達成への強い意欲と自信を隠さない。

これに対して、これまで“敵対関係”にあった立憲民主党と公明党が衆院解散直前に合流し、新党「中道改革連合」を結成するという「誰も予想しなかった展開」(政治ジャーナリスト)となったことで、「高市首相の『自民圧勝戦略』は崩壊への不安が拡大」(同)しつつある。

新党・中道の共同代表に就任した野田佳彦元首相は、公示前の党首討論会を通じて「最大の目標は与党過半数の阻止」と、全国の有権者に理解と協力を訴えた。同党は「保守にも革新にも偏らない穏健な政治」を掲げることで、「与党の対抗軸となる」(野田氏)ことを目指しており、「選挙結果次第では次の衆院選での政権交代への重要な第一歩となる」(同)ことは間違いない。

確かに、立憲民主党と公明党を合算した中道の解散前の議席数は自民党に迫る規模で、合流に踏み切った野田氏や斉藤鉄夫・前公明党代表は「比較第1党を目指す」と公言している。このため、政界関係者の間では「選挙での自民・中道両党それぞれの獲得議席数が、選挙後の政局展開を左右する最大の焦点となる」(政治ジャーナリスト)との見方が支配的だ。

与党過半数という“決勝線”の行方

そこで多くの政界関係者が注目するのが、「与党過半数割れの可能性」である。というのも、「もしそうなれば、高市首相は選挙直後に退陣表明せざるをえず、政局が大混乱となる」(政治ジャーナリスト)からだ。

そもそも、今回の選挙戦での中道の目標は「次期衆院選での政権交代実現への道筋をつける」(野田氏)ことであり、「仮に与党が過半数割れとなっても、自民党が比較第1党である限り、自民・維新連立政権は継続」(同)となる。

自民圧勝シナリオに不安の声も, 与党過半数という“決勝線”の行方, 女性代表3氏が“反高市”で声を枯らす, 超短期決戦で交錯する各党の立ち位置

「生活者ファースト」を訴える中道改革連合の野田共同代表(写真:ブルームバーグ)

一方で、選挙結果を受けた特別国会召集が見込まれる2月19日までに、自民党は高市氏に代わる後継者を総裁選などで選任しなければならない。ただ、「現状では誰もが認める有力候補は不在で、すべては選挙後の自民党内の動き次第」(自民党長老)というのが実態とみられている。

もともと、高市首相が極めて異例な通常国会冒頭解散に打って出た理由は「通常国会での質疑が始まれば、野党側は一向に解決しない『政治とカネ』の問題や、首相と旧統一教会との関係、さらには最側近である首相補佐官の『核武装』発言などで首相を攻め立てることは確実で、内閣支持率も急落しかねないとの不安があった」(官邸筋)からだとされる。

だからこそ、野党側は「個利個略解散」「自己中解散」などと高市首相の決断を厳しく批判することで、「与党圧勝による“高市独裁政権”の誕生に待ったをかけるのが唯一最大の戦略」(中道幹部)としている。

もちろん、首相はなお「与党圧勝に自信満々」(側近)とされるが、「選挙はふたを開けるまでわからないのが政界の常識」(自民党長老)。それだけに、「改めて有権者がどのような判断で投票するか」(有力選挙アナリスト)が注目されているわけだ。

公示日の1月27日、各党党首らは全国に散り、それぞれの立場から有権者の支持を訴えた。

まず高市首相は東京・秋葉原での第一声で「何といっても経済成長がいま必要です。何が何でも必要です。日本はまだまだ強くなれる。まだまだ成長できる。日本の国力、外交力も防衛力も、もちろん経済力も技術力も情報力も人材力も強くする」と、経済政策を中心に声を張り上げ、こぶしを突き上げた。

この高市演説に“相乗り”したのが維新の吉村洋文代表だ。「物価が上がっている。食料品の消費税、皆さんが食べる食料品、やっぱりこれぐらいなんとかしようよ、ゼロにしようよ。高市総理も自民党の中で言いにくい部分もあるかもしれません。でも、われわれ日本維新の会が高市さんのアクセル役になります」などと、集まった聴衆に笑顔も交えて語りかけた。

これに対して、中道共同代表の野田元首相は、雪深い青森県弘前市で「生活者ファーストの理念のもとに政策を訴える。いちばん物価を押し上げているのは何か。食料品でしょ。きちっと財源を明らかにして、今年の秋までには実現しようというのがわれわれ中道である」などと、物価高対策に重点を置いて支持を求めた。

また、与党とも中道とも一線を画して“政策実現野党”としての立場を強調する国民民主党の玉木雄一郎代表は「もっと手取りを増やすということで、残された課題、住民税の控除額を178万円を目指して引き上げて、皆さんの手取りを年間6万円、今年中に確実に増やす、そんな政策を推し進めてまいりたい」と、これまでに実現した政策のアピールと残された課題への決意を表明することで、“第3の勢力”への支持を呼びかけた。

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国民民主党の玉木代表は“政策実現野党”として「もっと手取りを増やす」とアピール(写真:ブルームバーグ)

昨年の参院選で大躍進した参政党の神谷宗幣代表は「いま、経済が回っていないなら減税です。景気が悪いのに、一般庶民や貧しい人や赤字の企業からも税金をしぼり取るんですか。そんなことしたら、若い人たちの所得は上がらず、結婚ができず、人口が減るじゃないですか。人口が減るから外国人の移民が必要になるんでしょ」と、これまでどおりの歯切れのよい口調で、集まった支持者らと気勢を上げた。

女性代表3氏が“反高市”で声を枯らす

一方、いずれも党勢拡大が課題となる共産党、社民党、れいわ新選組、減税日本・ゆうこく連合の各党首は「消費税の撤廃を目指す」と口をそろえた。

共産党の田村智子委員長は「私たちは儲かっている大企業、儲かっている富裕層にふさわしい税金を取れば、消費税は減税できるとしっかり提案しています。もう共産党を伸ばして実現するしかないじゃありませんか」、社民党の福島みずほ党首は「自民党政権を打倒する選挙です。税の再配分が非常に弱いのが日本の政治です。大企業の600兆円以上に及ぶ内部留保には課税をすべきだ」などと声を枯らせた。

さらに、れいわ新選組の大石晃子共同代表は「私たちは消費税廃止を訴えています。そもそも税金は大金持ちから取らないといけないと違いますか。私たちの政権、これでいいんでしょうか。高市早苗のわがまま解散。許したらいけませんよ」と、高市氏を厳しく批判した。

自民圧勝シナリオに不安の声も, 与党過半数という“決勝線”の行方, 女性代表3氏が“反高市”で声を枯らす, 超短期決戦で交錯する各党の立ち位置

れいわ新選組の大石共同代表は消費税廃止を訴えるとともに、高市首相への批判を強める(写真:ブルームバーグ)

減税日本・ゆうこく連合の原口一博共同代表は「われわれは何でこんなに物価高に悩んでいますか。政治が悪いからでしょう。消費税、これは廃止一択です。食品だけゼロにしたって何の意味もない。むしろ飲食店は潰れます」と、新党を急遽立ち上げた理由と目的を強調した。

そうした中、他党とはまったく違う独自のカラーを打ち出したのが、チームみらいと日本保守党だ。

チームみらいの安野貴博党首は「未来に対して希望が持てるような、そんな国をつくる。それが、チームみらいがやりたいことです。消費税を下げるのではなくて、いま、大きな現役世代の負担となっている社会保険料を下げる、これを優先すべきだと考えるからです」と、消費税減税反対の独自路線を繰り返した。

また日本保守党の百田尚樹代表は「私たちは今回、最も大きな問題と考えてるのは移民問題です。移民はもういらんと。いったんストップしようじゃないか、抜本的に見直そうじゃないかと言ってるんですよ」と、強い口調で外国人対策の強化を訴えた。

超短期決戦で交錯する各党の立ち位置

いずれにしても、今回の衆院選は解散から投開票までの期間が16日という、戦後最短の超短期決戦だ。ただ、与野党の立ち位置が複雑に入り交じり、訴える政策も減税などでは微妙な食い違いもある。

さらに、各種世論調査でも解散に至る高市首相の“迷走”への有権者の不信感の高まりも目立ち始めている。選挙アナリストも「結果がどうなるかは最後までわからない」と困り果てているのが実情だ。