「自民圧勝」は本当?衆院選の票読みが至難の内情

寒空の下、選挙カーで演説する高市首相。各種世論調査では「自民圧勝」を示すデータがほとんどだが、その実情は?(写真:ブルームバーグ)
1月29日午後3時前に東京メトロの四ツ谷駅の改札を出ると、小粒の雪が顔にかかった。ダウンコートをしっかりと羽織っても、体が縮こまる寒さだった。
【写真あり】票読みに戦々恐々… 「民主王国」でも今回は接戦が噂される中道の候補者とは?
それでも、横断歩道を渡った先の広場にはかなりの人が集まり、中道改革連合の共同政調会長である岡本三成氏が「中道」のたすきをかけて、元気よく演説していた。そしてその隣には、自分の名前が入ったたすきをかけて和やかに微笑んでいる海江田万里元衆院副議長の姿が見えた。
雪が舞う中で演説に集まった聴衆が示すもの
「私たちは共通のところ、まさしく中道のイメージキャラクターの円と円の交わるところ、そこをしっかりと熟議を重ねて合意を得て、それをもとに社会を前に進めていきたいという思いで、中道という旗の下に集いました」
岡本氏は中道改革連合が公約のトップに掲げる「2026年秋からの食料品への消費税ゼロ」や持ち家並みの賃貸家賃補助など目玉政策を語った後、「私が社会人になった頃の日本で最も有名な経済評論家」として大々的に海江田氏を紹介。その言葉に照れる海江田氏に、にこやかにマイクを渡した。
海江田氏は持論の年金改革を唱えたうえで、食料品への消費税ゼロの財源として「政府系ファンド」を説明した。「政府系ファンド」とは公明党時代にゴールドマン・サックス出身の岡本氏が提唱したものだ。
200兆円程度の外国為替資金特別会計や80兆円程度の日本銀行のETF(上場投資信託)、そしてGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用資産約250兆円を合わせた約500兆円を、これまでより1%高い利回りで運用すれば、食料品にかかる消費税をゼロにする財源を生み出せるという。
まさに息もぴったりにお互いを紹介しあった2人の候補者。演説後には、写真撮影を希望する支持者が列を作った。
このときの演説会場に集まった聴衆は200人ほどで、平日の昼間としては少なくない数といえた。それでも、24年の衆院選で東京29区から出馬した岡本氏が日暮里駅前で石破茂首相(当時)を迎えて行った演説会に集まった支持者の数千人とは比べるべくもない。要人警備のみならず交通整理のために、多数の警官が出動されたほどだった。
だが、「それに比べて今回は勢いがない」と評することはできない。中道改革連合が政治団体として総務省に届け出られたのは1月16日で、まだ2週間ほどしか経っていないからだ。
「中道苦戦」の世論調査の信憑性
はたして、新党結党の効果はあるのか――。報道各社が1月27~28日に行った衆議院選挙序盤の調査が注目された。NNN(日本ニュースネットワーク)と読売新聞の情勢調査では「自民党は単独過半数」で「中道伸び悩み」と報道。とりわけ中間結果の「自民党は260前後」「中道は110前後」という数字が衝撃を与えた。
さらに日本経済新聞は「自民党は単独過半数を上回る勢い」で「中道は公示前の167議席を下回る可能性」と伝え、共同通信の調査でも「自民党と維新を合わせて過半数をうかがう」「中道は伸び悩み」と自民党の善戦ぶりが見て取れた。
これにうち震えたのが中道陣営だ。なかでも、かつて「民主王国」といわれた地域は驚愕した。

北海道9区で5度目の当選を目指す中道の山岡達丸氏(右)(写真:時事)
例えば、北海道9区で5度目の当選を目指す中道の山岡達丸氏は、前回の衆院選で4万票以上の差をつけて、自民党の新人候補だった松下英樹氏を下している。「しかし地元紙の予想では、かなり接戦となりそうだ」と中道関係者はおののく。しかも前回の衆院選に出馬した共産党の立野広志氏に加え、参政党の菅野望帆氏が出馬している。参政党が一定の保守票を自民党から剥がしてくれるはずだった。
せっかく立憲民主党と公明党が中道改革連合を作ったのに、これでは新党を結成した意味はないのではないか――。だが、ある報道関係者は次のように解説する。
「通常なら序盤でも投票先を決めていないのは3割程度にとどまるものだが、今回は5割も占めている」。要するに「固い自民票」は読みやすいが、新党結成で動く票を読みきれていないということだ。
理由は、1月23日の衆院解散から2月8日の投票日まで16日間という、「戦後最短」といわれる日程である。とりわけ、前回まで自民党を支持したものの、今回は敵対しなければならない公明系は「軌道修正」に時間がかかっているようだ。

今回の衆院選には「選挙報道のプロ」にも読み切れない要素が多いようだ(写真:ブルームバーグ)
もちろん、「公明票の約3割は中道に移らず、依然として自民党を支持している」と、26年間の自公関係がいまだ崩れていないことを強調する関係者もいるが、それだけではないようだ。
実際、ある公明党関係者は「前回の衆院選までは敵としていた候補の名前を書いてくれと頼むわけだから、その説明に時間がかかる。われわれとしては丁寧にやっていくほかない」と打ち明ける。
巨大な組織が方向転換するには時間も手間もかかる。かつて900万票近くあった公明票だが、今では600万票を切るほどに縮小。それでも巨大な票の塊であることは変わらない。
テコ入れを図る各陣営
各社調査結果の影響は小さくない。中道改革連合では「公明票にいっそうのハッパをかける指令が出た」とされる。
自民党も29日に鈴木俊一幹事長と古屋圭司選対委員長の連名で「急告」を発し、「選挙は一昨日に公示されたばかり」「選挙戦はこれからが本番」「一人でも多くの有権者に声をかけ、1票でも多くの得票ができるようにしなければ、とても勝利は望めない激戦」と引き締めにかかっている。
選挙戦は中盤に入り、各党各陣営はさらにテコ入れを図る。はたして自民党は逃げ切れるのか。それとも中道改革連合が盛り返すのか。いずれにせよ、今回の衆院選は歴史的なうねりとなるはずだ。