日本の水産業が韓国に抜かれつつある根本原因

韓国との比較でわかること, 魚の「失われた40年」, 40年前の日本は生産量で世界一だった, 実は世界全体の生産量は増え続けている, 「魚の獲りすぎ」という問題の本質

食用にならない大量のサバの幼魚(写真:筆者提供)

日本の水産物生産量(漁業と養殖の合計)の減少が止まりません。ノルウェーや韓国などと国際比較をすると、問題点が明確に浮かび上がります。よく「欧州には中国のような隣国がない」「海水温の上昇などの環境要因」といった意見が聞かれますが、同様の環境に置かれた韓国との比較でその矛盾が露呈します。

【画像でわかる】韓国に抜かれつつある日本の水産業

もともと日本の生産量が圧倒的でしたが、ノルウェーが増加したというより、日本の減少により2021年にノルウェーに抜かれ、その差は拡大傾向にあります。

日本のEEZ(排他的経済水域)は世界第6位の447万㎢でノルウェーの約2倍の広さがあります。この生産量逆転は極めて異常なのです。しかしまだノルウェーは遠い国で日本が置かれている環境とは違うと思われる方がいるかもしれません。

韓国との比較でわかること, 魚の「失われた40年」, 40年前の日本は生産量で世界一だった, 実は世界全体の生産量は増え続けている, 「魚の獲りすぎ」という問題の本質

(出所)GLOBAL NOTEに掲載のFAOデータを基に筆者作成

韓国との比較でわかること

韓国との比較でも同様の傾向が見られます。グラフを見るとノルウェーと比較した傾向と似ていることがわかります。最新のデータ(FAO)は2023年までですが、日本が水産物生産量(漁業と養殖の合計)で韓国に追い抜かれるのは時間の問題に見えます。

韓国も日本と同様に中国と隣接しており、海水温の変化などの環境条件も類似しています。さらに韓国のEEZは48万㎢で日本の約10分の1にすぎません。

韓国との比較でわかること, 魚の「失われた40年」, 40年前の日本は生産量で世界一だった, 実は世界全体の生産量は増え続けている, 「魚の獲りすぎ」という問題の本質

(出所)GLOBAL NOTEに掲載のFAOデータを基に筆者作成

下のグラフは、日本、ノルウェー、韓国の3カ国の生産量(漁業と養殖)推移を示しています。よく似ていることがわかると思います。

韓国との比較でわかること, 魚の「失われた40年」, 40年前の日本は生産量で世界一だった, 実は世界全体の生産量は増え続けている, 「魚の獲りすぎ」という問題の本質

(出所)GLOBAL NOTEに掲載のFAOデータを基に筆者作成

韓国の漁獲量は日本ほどではないにしても減少傾向にあります。日本と同じ漁場で資源管理が機能していない状況でスルメイカ、アジ、サバなどを漁獲しているため、必然的に改善は見込めません。

韓国との比較でわかること, 魚の「失われた40年」, 40年前の日本は生産量で世界一だった, 実は世界全体の生産量は増え続けている, 「魚の獲りすぎ」という問題の本質

(出所)GLOBAL NOTEに掲載のFAOデータを基に筆者作成

一方で養殖業は成長を続けています。もともとは、養殖でも日本は韓国より多かったものの、現在では韓国が大きくリードしています。この点からも日本の海洋資源の活用方法や効率性に課題が隠れていることがわかります。

韓国との比較でわかること, 魚の「失われた40年」, 40年前の日本は生産量で世界一だった, 実は世界全体の生産量は増え続けている, 「魚の獲りすぎ」という問題の本質

(出所)GLOBAL NOTEに掲載のFAOデータを基に筆者作成

魚の「失われた40年」

国連食糧農業機関(FAO)が4月に発表した2023年の世界の水産物の生産量(漁業と養殖)は、前年比2%増の2億2790万トンと過去最高を更新しました。

韓国との比較でわかること, 魚の「失われた40年」, 40年前の日本は生産量で世界一だった, 実は世界全体の生産量は増え続けている, 「魚の獲りすぎ」という問題の本質

(出所)GLOBAL NOTEに掲載のFAOデータを基に筆者作成

ところが世界全体での生産量(漁業と養殖)は増え続けているのと対照的に、日本では世界の例外として減り続けています。2023年は372万トンと同じ形で統計を取り始めた1956年以降で過去最低量を更新しています。

2024年の数字はまだ出ていませんが、釧路・銚子といった全国1、2位の漁港での水揚げ量は前年を割っています。資源管理に効果がある対応が打てていませんので減少傾向は続いてしまいます。

1990年代初めのバブル経済崩壊以降の低迷を指す「失われた30年」という言葉があります。こと漁業に関しては30年どころではなく、少なくとも「失われた40年」と言えます。世界の漁獲量推移を示したグラフの左端の1985年では、日本の漁獲量は世界で断トツでした。

ちなみに世界第1位だったのは1972年から1988年までであり、実に20年弱も世界最大の漁業国の位置づけだったのです。しかし、それは過去の話で今では衰退の一途です。

その本質的な原因は、1977年の「200海里漁業専管水域」の設定で遠洋漁業から撤退したからではありません。資源管理に対する戦略を大きく誤ってしまい「科学的根拠に基づく資源管理」に舵を切らなかったことが、本質的な要因であることが世界と比較すると明白にわかります。

40年前の日本は生産量で世界一だった

韓国との比較でわかること, 魚の「失われた40年」, 40年前の日本は生産量で世界一だった, 実は世界全体の生産量は増え続けている, 「魚の獲りすぎ」という問題の本質

(出所)GLOBAL NOTEに掲載のFAOデータを基に筆者作成

このグラフは、漁業と養殖の合計(生産量)の推移を示しています。40年前の日本は、赤丸の箇所でわかるとおり、漁業と養殖を合わせた数量でも世界一だったのです。世界の生産量で20年弱もの長期間世界一だった日本。しかし、他国の成長を横目に衰退が続いています。

忖度(そんたく)という言葉があります。他人の気持ちを推し量ることです。研究者やマスコミが、魚が減っている理由について忖度したら……、またそれをもとにマスコミが報道をして、前提が誤ったままで政策が実行されてしまったらどうなるのでしょうか。

魚が減った理由で頻繁に引用される理由は「海水温上昇」「外国漁船のせい」などです。もちろんそれらの影響がないわけではありませんが、日本が解決できる問題の本質ではないのです。

韓国との比較でわかること, 魚の「失われた40年」, 40年前の日本は生産量で世界一だった, 実は世界全体の生産量は増え続けている, 「魚の獲りすぎ」という問題の本質

筆者の話を聞いた、先入観がない小学生のコメント(画像:筆者提供)

SDGsやサステナビリティといった言葉が浸透して、水産資源の持続性や水産資源管理といったことへの関心は少しずつ広がってきました。しかしながら、「魚が消えていく本当の問題点を指摘したら圧力がかかってしまう」と恐れる関係者は少なくありません。またその現実は一般に知られていません。

このため、魚を獲りすぎているとわかっていても、あえて触れない。触れればこれまでの矛盾が露呈して資源管理を強化することになります。そしてそれに反対する人たちから圧力がかかることが懸念されるのです。

「本当のことを書くには覚悟がいります」といったことを業界紙で働く人から耳にします。もちろん覚悟をもって恐る恐る記事を書かれる記者もいます。しかしながら、そういった意識で書かれた記事はどうしてもインパクトは弱くなってしまいます。かくいう筆者も発信を控えていた時期が数年間ありました。おかしなことに、本当のことを書くには勇気がいるのです。

「日本の資源管理は素晴らしい!」と報じる内容は漁業関係者にとって耳当たりよく聞こえます。しかしながら結局獲れなくなって困っているのは、全国津々浦々の漁業者に限らず、消費者も含めた社会全体です。

実は世界全体の生産量は増え続けている

「日本周辺だけ海水温が上昇しているわけではないが、世界全体の生産量は増え続けている」「外国船が操業していない瀬戸内海の漁獲量も同様に減少している」など、従来の説明とは矛盾するエビデンスが多く存在します。

「クジラが食べてしまう」という指摘についても、確かにクジラは大量の水産物を食べています。しかしクジラ(ミンククジラ)の資源量は、全般的に魚の資源状態がはるかに良好な大西洋のほうが太平洋より10倍弱もいます。

韓国との比較でわかること, 魚の「失われた40年」, 40年前の日本は生産量で世界一だった, 実は世界全体の生産量は増え続けている, 「魚の獲りすぎ」という問題の本質

対照的な世界全体と日本の生産量推移(出所)FAOと農水省資料を基に筆者作成

日本の水産資源対策は、ピーター・ドラッカーの言う「間違った問題(問い)に対する正しい答えほど、実りがないだけでなく害を与えるものはない」状態になっています。対策しても一向によくなるどころか悪化しています。これは間違った処方箋の薬を飲んでしまっているのと同じです。

国は「国際的に見て遜色のない資源管理」を目指し2020年に漁業法改正を実行して改善しようとしています。しかしながら、必ずしも正しくない情報で偏見が社会的に広がってしまっており、効果が出る対策が打てていません。そしてその間にも魚がどんどん減って悪化しています。

「魚の獲りすぎ」という問題の本質

水産資源管理に関しての科学的根拠に基づく拙記事をご覧になり、理解が誤っていたことに気づかれた全国の方々からコンタクトがあります。マスコミ、研究者、漁業関係者、教育関係者、政治家をはじめ多岐にわたります。そして共通してたどり着く疑問「なぜこんな原因と対策がはっきりしているのに実行ができないのか?」。

ごく一部の例外があるとしたら除きますが、日本では数年もしくは数十年単位でほぼ全魚種の漁獲量が減少を続けています。もちろん気候変動や外国漁船の影響がないとは言いません。しかしながら、世界と比較すれば明確にわかるのですが、問題の本質は獲りすぎになっている国内の資源管理制度なのです。

筆者は、20年以上にわたり、ノルウェーなどの北欧諸国の最前線で、朝から晩まで、サバやアジなどの生産現場を見て回り、魚の検品や買付交渉を行ってきました。そこでは漁獲枠(TAC=漁獲可能量)は、毎年漁獲枠どおりに漁獲され資源管理が機能していました。そして水産業が成長産業になっていくのを目の当たりにしてきました。

世界全体とは対照的に、資源が減って魚が獲れなくなって疲弊が止まらない日本の水産業界。このまま悪いとわかっている仕組みを放置して、魚を獲れなくしてしまう負の遺産を積み上げていってよいのでしょうか? そうならないためには、科学的根拠に基づく魚が消えていく本当の理由に対する社会の理解と、そのための客観的な事実に基づく「教育」が必要なのです。