勝っても短命?衆院選「本当の勝敗ライン」どこか

高市首相(左)が率いる自民党は、序中盤の情勢調査では「地滑り的大勝」が予測されている。野田共同代表(右)の中道改革連合はどこまで巻き返せるのか(写真:ブルームバーグ)
高市早苗首相の冒頭解散により1月27日に公示された第51回衆議院選挙は、2月8日の投開票まであと3日となった。大手各紙による序中盤の情勢調査では「自民党の地滑り的大勝」が予測されている。
【写真あり】高市首相にとって“最善シナリオ”とは? その時にカギを握る人物って?
そこで注目されるのが、選挙後の政権運営にもかかわる「政治的勝敗ライン」だ。これまでの各予測を踏まえれば、「焦点は自民党の単独絶対安定多数で、最低でも自民単独過半数が重要な分岐点」(選挙アナリスト)との見方が、永田町の共通認識となりつつある。
選挙戦の焦点はどう変遷したのか
冒頭解散断行の際、高市首相が勝敗ラインとしたのは「与党で過半数」だった。確かに、与党で過半数の議席を獲得すれば「国民が政権継続を選択した」ことにはなる。
しかし、高市政権は解散前も実質的には「衆院過半数」を確保していただけに、「高市首相が目指す政権安定化」にはつながらないのは明白だ。だからこそ、高市首相は「私が首相を続けることがいいのかどうかを国民に決めてもらいたい」とし、「与党が過半数に届かなければ即時退陣」とあえて退路を断つことで、“圧勝”を狙ったとされる。
もちろん、その背景には「『憲政史上初の女性首相』に対する国民の圧倒的支持を自民圧勝に結びつける狙い」(政治ジャーナリスト)があった。それを強力に後押ししたのが、大手紙による序中盤情勢調査の結果だった。
ただ、「その副次効果として、高市首相にとっての政治的勝敗ラインがかなり高くなることにつながった」(同)のが現状。「選挙結果次第では、自民党勝利でもその後の政権運営に悪影響が出かねない」(自民党長老)との不安要因も拡大しつつある。
そこで、多くの政界関係者が注目しているのが、高市政権にとっての「具体的な政治的勝敗ラインの設定」だ。
大手紙の予測を踏まえれば、①自民党単独で絶対安定多数(261議席)以上、②自民党単独で安定多数(243議席)以上、③自民党単独で過半数(233議席)以上という、3ケースが重要な分岐点となる。
高市首相が「本当の勝利」を収めるライン
まず①の場合、各種予測で「30議席前後」が想定されている日本維新の会と合計すれば、連立与党で300議席に迫る。これに、10議席以上の獲得が予想される参政党や、解散前と同じ28議席前後と予想される国民民主党も加えれば、憲法改正発議に必要な「衆院議席数の3分の2」を超えることになる。だからこそ、ここにきて高市首相は街頭演説などで「憲法改正」を叫ぶ状況となったとみられる。

神谷宗幣代表が率いる参政党は10議席以上を獲得するとの見方が優勢。同党や国民民主党を加えれば、憲法改正発議に必要な議席数を確保することになる(写真:ブルームバーグ)
次に、②の場合は「与党で絶対安定多数となり、すべての常任委員会で委員長をとり、しかも委員数が与党多数となることで、国会運営は高市首相の思うがままになる」(自民党執行部)。そのため、メディアも「高市首相は総裁再選による長期政権への足がかりをつかんだ」などと報じることになりそうだ。
その一方で、③の場合は評価が分かれる可能性が高い。「与党でなんとか絶対安定多数を確保できるが、自民党の議席増は40議席前後で“大勝”とは言いにくい」(選挙アナリスト)ことになり、高市首相への求心力や統率力に陰りが生じる事態も想定されるからだ。
こうした状況も踏まえ、政界関係者の間では「高市首相が『本当に勝った』といえるのは②のケース以上の場合」という見方が広がる。
そこで問題となるのが、「最終盤での自民失速の可能性」(自民党幹部)だ。その最大のポイントは「高市首相の“失言”や“暴挙”の有無になる」との指摘が相次ぐ。
すでに高市首相は「円安で助かっているのは外為特会(外国為替資金特別会計)。今は、ほくほく状態」と自ら円売りを誘発する発言をしたことで、政府が火消しに追われる事態となっている。
さらに問題となったのが、選挙戦中盤の2月1日午前のNHK「日曜討論」への“ドタキャン”だ。
同番組での党首討論は、各党の党首が自党の政策などについて論戦することで有権者の有力な判断材料とする目的で実施された。だが、「肝心かなめの高市首相が欠席したことで、討論会はほとんど意味がなくなった」(政治ジャーナリスト)ことは間違いない。その後の民放テレビの情報番組はこの問題をこぞって取り上げ、SNSを軸とするインターネット上でも大炎上する事態となった。
批判の大きさに慌てた政府は、4日になって「高市首相が手の治療を理由に1日のNHK討論番組を欠席したのは、木原稔官房長官の判断だった」とし、具体的には「高市首相は公示以来の地方遊説先での握手などで関節リウマチの持病が悪化したため、(官房長官の判断で)治療を優先させた」と説明した。
ドタキャン問題はどこまで“延焼”するか
このドタキャン問題をめぐっては、ネット上などで「野党との討論を避けたかったのではないか」との批判が噴出している。さらに一部週刊誌が「2日前から仕組んだ計画的欠席」などと報じたことで、批判や反発が拡大する一方だ。

高市首相の変わりに「日曜討論」に出演した田村憲久政調会長代行(写真:ブルームバーグ)
「代わりに出演した田村憲久政調会長代行が、高市首相の側近ではないのにわざわざ自らの遊説日程を取りやめたのはおかしい」(野党幹部)との指摘も多い。「高市首相が自らの『政治とカネ』のスキャンダルや、韓国で大問題となっている旧統一教会との関わりについて追及されるのを嫌がったとの見方が、多くの有権者に真実味をもって受け止められている」(共産党幹部)との声もある。
こうした状況も踏まえて、高市首相が2日夜、自民党本部で麻生太郎副総裁や鈴木俊一幹事長ら党幹部と選挙情勢などを協議した際には、「麻生氏らから『余計な発言はしないように』と注意された」(自民党長老)との情報も広がった。
確かに、高市首相は公示前の党首討論で「私の悲願」として踏み込んだ「飲食・衣料品の消費税減税」について、街頭演説などでの言及を“封印”している。ただ、「その代わりにとばかりに飛び出した『憲法改正』発言で、せっかくの“安全運転”も帳消し」(同)になりつつある。
これに対し、大手紙の情勢予測で「議席半減の惨敗必至」と報じられた中道改革連合は、共同代表として選挙戦を指揮する野田佳彦、斉藤鉄夫両氏が「張り手を食った」「相当落ち込んだ」と嘆きながらも、「ここにきて手応えは極めていい。巻き返しの余地はまだまだある」と口をそろえる。
自民・中道で「370議席」を奪い合う構図
大手紙とは別に今回の選挙結果を予測している選挙アナリストが「予測のポイント」としているのが、最終的な自民党と中道改革連合の合計議席数だ。
というのも、その他の政党の獲得議席の予測はどの調査でもほぼ一致しており、「その合計は100議席足らず」(選挙アナリスト)とみられている。衆議院は小選挙区・比例区を合わせて465議席なので、「自民と中道は370議席を奪い合う構図」(同)となる。
これに先述の3つのケースを当てはめると、①なら自民260超・中道110以下、②なら自民243超・中道127以下、③自民233超・中道137以下という結果となる。
野田、斉藤両氏が目指すのは、悪くても②、できれば③のケース。これらのシナリオが実現すれば、衆参同日選も想定される28年7月参院選で政界再編を目指すための重要な第1歩となる。
昔から政界では「選挙結果は最後の3日間で決まる」「勝負は投票箱のふたが開くまでわからない」というのが定説。8日午後8時の投票締め切りまで、両党のせめぎ合いが続いていくことになりそうだ。