日本にとってウクライナ侵攻は他人事ではない! 高校チュータイ外交官が警鐘

 一向にロシアによるウクライナ侵攻の終結に向けた交渉が進まない。この現状に、アメリカのトランプ大統領も不満が隠せないようで、プーチン大統領やゼレンスキー大統領に対して批判を強めている。

 さらに、ロシア軍に参加し、中国人捕虜2人拘束されるなど、戦火はいろんな場所に飛び火している。

 ロシアのウクライナ侵攻が始まって約3年。本当に停戦に向かうことができるのか? 

『13歳からの国際情勢』島根玲子(著)

 高校チュータイ外交官として知られ、『13歳からの国際情勢』を上梓した島根玲子氏に、その現状を分析してもらった。

(本記事は、『13歳からの国際情勢』より一部を抜粋し、再編集しています)

◆ロシアによるウクライナ侵略は、本当に終わるのか?

 ロシアがウクライナへの侵略を開始してから3年が経ち、ようやく停戦に向けた動きが出てきた。

 これまでの戦争で、ウクライナは領土の2割を占領され、4万人以上が犠牲となった。攻め込んだロシアも無傷ではない。欧米から供与された最新鋭の兵器を持つウクライナ軍に対抗するため、ロシアはとにかく兵士をたくさん突っ込んだ。

 その結果、人の命を軽く考える戦い方により、ロシア側の戦死者はウクライナ側よりも圧倒的に多くなっているとみられる。

「正確な数はわかりませんが、9万人超、または20万人という分析もあります。さらには1万人の北朝鮮兵士が前線に送り込まれ、半数に近い約4000人が死傷したといわれています」(以下、すべて島根氏)

 このように苛烈(かれつ)を極めたウクライナ侵略に、ようやく停戦の動きが出始めましたが、はたして、ウクライナに平和は訪れるのか。また、ウクライナ侵略は日本にどのような影響をもたらすのか。

 そもそもロシアはなぜウクライナに侵攻したのか。

 島根氏によるとキーポイントは、「不凍港」と「NATOの拡大阻止」だという。ウクライナやロシアの未来を占うため、そもそもから島根氏に振り返ってもらった。

◆そもそもロシアって、どのような国なのか?

※写真はイメージです(以下同)

 ロシアという国の基本を島根氏に教えてもらおう。

「ロシアは世界で一番広い国で、日本の45倍もの面積を持ちます。14もの国と国境を接する国土は東西に大きく広がり、ロシアの端と端では10時間もの時差があります。人口も1億4600万人と多く、国の規模が大きいことがよくわかります。

 ただ、ロシアという国は多民族国家です。国民の7割はロシア人ですが、他は200近い数の民族で構成されています。

 ロシアの正式名称は「ロシア連邦」といい、ロシアだけでなく、83の共和国と州が一緒になっている国です。共和国には一定の自治が認められていて、『自分たちの共和国のことは自分たちで決めていいよ』ということになっています。

 チェチェンなどイスラム教の共和国もあれば、世界最低気温(氷点下71度!)を記録したサハ共和国というのもあります。これだけ見ても、ロシアという国が実に多様なことがわかります」

◆ロシアもウクライナも元を辿れば同じ民族の国

 また、ロシア人もロシアだけでなく、いろんなところに散らばって住んでいるという。ラトビアでは40%、エストニアでは30%がロシア系の住民です。不幸にもロシアに攻め込まれてしまったウクライナも、実は約5人に1人がロシア系の住民です。

「島国である日本にはあまり馴染みがないかもしれませんが、ユーラシア大陸の国々のように陸続きの場所では、ある民族がいろんな国にまたがって生きているのは自然なことです。

 ウクライナとロシアも、ルーシ民族という共通の先祖を持ちます。『ルーシ』というのはロシアという国名の由来ですし、お隣のベラルーシという国は『ルーシ人の国』という意味です。

 ボルシチという料理を聞いたことがある人も多いでしょう。日本ではロシア料理として有名ですが、実はボルシチの発祥はウクライナです。ウクライナ風のボルシチは野菜をたっぷり使っていて、最後にニンニクを効かせるのが特徴ですが、ロシア風のボルシチはハムやソーセージが具として加わっていて、それもまた美味しそうです。

 このように、民族だけではなく、文化や食べ物なども似ている部分も多いのです。

 元を辿(たど)れば同じ民族が争っている、というのはなんとも悲しいことですね」

◆NATOの拡大を絶対に阻止したいロシアの思いとは?

Algimantas – stock.adobe.com

 冷戦下の1949年、アメリカ、カナダ、ベルギー、オランダ、など12の国が参加して、「北大西洋条約機構(NATO)」できた。できた当時は12ヵ国だったNATOも、現在は32ヵ国にまで拡大している。

 このNATO拡大の流れはウクライナにも及んでくるのだ。

「そもそもロシアは、NATOに入りたいという国が増えることを面白く思っていません。ロシアからすると、自分たちに対抗するためという理由で作られたNATOがどんどん大きくなっていくということは、ロシアの敵が増えているように見えてしまうのです」

 2014年のマイダン革命後、ウクライナは今までよりいっそうヨーロッパ寄りになっていきました。

 クリミア併合(2014年)が起きても、ウクライナはロシアに屈するどころか、むしろ『やっぱり仲良くすべきはヨーロッパだよね』と、今まで以上にヨーロッパの一員になりたいとの考えを強くしました。

 それに、『やっぱりNATOに入ってアメリカや西側の国と一緒に自分の国を守ろう』と主張する人も多くなってきたんです」

◆ウクライナ国内にいたロシア系民族の不満

 もっとも、ウクライナ国内には違う意見もあった。

 ウクライナは「汚職大国」として知られるほど汚職が多く、その国の政治状況のクリーンさを表すランキングでは180ヵ国のうち105位と低水準。

 ちなみに汚職が多いとEUには入れないので、ウクライナの汚職の多さはEU加盟にも障害となっている。ウクライナの経済をみても、GDPはソ連時代よりも6割にまで落ち込み、国民の生活は一向に豊かにならない。

 そもそもウクライナの中でもロシア系住民の多い東部は、地下資源が豊富なことからもともと工業が発達し、住民の生活も豊かだった。

 しかし、ソ連が崩壊し、ウクライナが国として独立すると、その東部地方は貧しくなっていく。東部の人の所得は、ソ連時代よりもウクライナが独立してからのほうが低くなった。そのようなことに不満を持っていた人もいたという実態もあった。

「このようになかなか国内がまとまらない状況の中、コメディアン出身の大統領が誕生します。それが今もウクライナを率いているゼレンスキー大統領です。ゼレンスキー大統領はそれまで以上にNATO加盟に積極的でした。

 ウクライナは地理的にみて、ロシアにとって裏庭のような存在です。しかも、ロシアにとって大事な海への出口もあります。だから、ロシアとしてはウクライナがNATOに入るのは絶対に嫌なのです。

 一方、ウクライナのNATO加盟を絶対に阻止したいロシアは、『ロシア系住民がウクライナ東部で辛い思いをしているんでしょ、だったらロシアがウクライナに行って助けてあげるよ』ということを口実に、2022年2月、ウクライナに攻め込んだのです」

◆ウクライナ侵略を仕掛けたロシアの“誤算”とは

 このように、ウクライナのNATO加盟に向けた動きが決定的な引き金となり、ロシアによるウクライナ侵略の始まったのだった。

 逃げなかったゼレンスキー大統領は、ロシアにとって想定外だった…

 ロシアは当初短期決戦でいけるだろう、と考えていた。クリミア併合のように、短期間で一気に占領して、他の国が手を出せないうちに終わらせてしまおう、元コメディアンの大統領なんてすぐに逃げるはずだと思っていたようだ。

「しかし、そこには誤算がありました。ウクライナ軍は思いのほか善戦し、ゼレンスキー大統領も逃げ出すどころか、毎日のようにSNSでの発信を続け、国民を励まし続けました。

 でもこれは偶然の産物ではありません。実はウクライナも2014年にクリミアを取られてから、ロシアの脅威を黙って見てきたわけではなく、ウクライナは着々と軍の改革をしていたのです」

◆まとまらなかったウクライナがロシアの侵略によって団結した

 事実、クリミアに侵攻された翌年の2015年には徴兵制を復活させ、クリミアで壊滅した海軍も建て直していた。

 ゼレンスキー大統領も、コメディアン出身という素養もあってか、巧みにSNSを使いこなし、国民や軍を鼓舞(こぶ)し続けた。それまでなかなか国内がまとまらなかったウクライナが、ロシアの侵略によって団結した……、これはロシアにとっては、皮肉に違いないだろう。

「ヨーロッパやアメリカなど欧米諸国もウクライナを支援しました。ミサイルやドローンなどの最新兵器をウクライナに送り、少し遅れながらも本格的な支援に乗り出しました。

 軍の規模ではロシアよりも圧倒的に劣るウクライナ軍ですが、ゼレンスキー大統領のリーダーシップ、そして絶対に国を守るんだという士気の高さ、そして欧米からの支援により、ロシアからの攻撃に耐え抜きます。

 一方のロシアとて今さら手を引くわけにもいきません。ウクライナ軍が使う最新兵器に対抗するべく、とにかく兵士を前線に突っ込む、いわば肉弾戦のような戦い方を繰り広げました」

◆日本人も「今日のウクライナは明日の日本」という危機感を持つべき

 今回のウクライナ侵略から学ぶべきことは、“日本の安全のありかた”だと、島根氏は言う。北方領土問題を抱え、地理的にもロシアに近い日本は、ウクライナ侵略を他人事としてみてはダメだというのだ。

「今日のウクライナは明日の日本だ、といってもいいかもしれません。

 ヨーロッパの国々には、ウクライナの次は自分たちだ、という危機感があります。特に北欧やバルト三国などロシアと地理的に近い国は、より切迫した危機感を持っています。もっともこのような危機感は、わたしたち日本人も十分に持つべきです。

 ウクライナ戦争から日本が学ぶべきことは、日本がどこかの国に攻められた場合に備え、少なくともしばらくの間は自分の国を守る力、同盟国などの助けが来るまでは耐え忍ぶ力をつけることが必要、ということです。

 ロシアがウクライナに侵攻した時、アメリカやヨーロッパは一斉にロシアを非難し、ウクライナの側につきました。

 それでも、ウクライナに武器が届くのには時間がかかりました。みんなそれぞれ国内の手続きも必要ですし、他の国を助けに行くとなれば反対の声もあるので、そんなにすぐにはできないのです。欧米からの武器支援が遅れたことも、ウクライナ軍が苦戦を強いられたひとつの要因です。

 このことは日本にも起こるかもしれません。

 日米同盟があるので、日本に何かあった際にはアメリカが日本を守ってくれることになっています。でも、日本が攻撃されて、即座にアメリカ軍が駆けつけられる保証はどこにもありません。

 少なくとも、日本としても何かあったときには、アメリカや国際社会が助けてくれるまで自分たちの国は守る、一定期間はしっかりと耐え忍ぶ、それくらいの準備と防衛力は必要なのです」

◆誰も予想していなかった侵略が起こるかもしれない

 日本も、何事も決して楽観視してはいけない!

 今、ウクライナ戦争は停戦についての話し合いが行われているが、もし各国がロシアに対して甘い態度を取ったり、ロシアが得をするような停戦内容にしたりすれば、いわば「やったもん勝ち」になってしまう。

 仮にそのようなことが起これば、他の国は「なんだ、侵略しちゃえばいいのか。力づくで領土を取れるのか」と思いかねません。

 日本も同じ。もしこのウクライナ戦争に対して日本が甘い態度を取ったら、「日本は侵略に対して甘い態度を取るのか」と思われてしまう。そのような誤解を与えることは、日本にとって非常に危険なことなのだ。

「最後にもうひとつ大事なことがあります。ロシアによるウクライナ侵略は多くの人が予想していませんでした。今から思い返してみると、侵攻直前に10万規模のロシア軍がウクライナ国境に配備されるなど、前触れはたくさんありました。

 それにもかかわらず、わたしたち外交官も含めて、専門家やメディアの中でも、『まさか本当にそんなことしないでしょ』、『ウクライナに侵攻したら、ロシアはとんでもないことになる。それくらいロシアもわかっているはずだ』、『この21世紀に戦争なんて馬鹿げたことする国なんてないよ』という考えの人が多かったのも事実です。

 それでも、大方の予想に反して、ロシアは実際にウクライナに侵攻しました。

 ここからわたしたちが学ぶべきことは、何事も決して楽観視してはいけない、ということです。

 わたしたち日本も、いつか本当に攻められるかもしれないという危機感を持つべきなのです。もちろん、日本はアメリカの同盟国だし、そう簡単に攻められる国ではないでしょう。

 でも、頭の片隅に置いておいて欲しいのは、ウクライナのときも多くの人が『まさかそんなことしないだろう』と思っていた、ということです。

 みなさんを怖がらせるつもりはまったくありません。でも、油断していると、攻め込まれるスキを与えてしまいます。平和を望む日本人だからこそ、常に危機感は持っておくべき、わたしはそう思います」

<文/島根玲子 構成/日刊SPA!編集部>

【島根玲子(しまね・れいこ)】

1984年埼玉県生まれ。高校時代に2度の留年と2度の中退を経験。一念発起して大検を取得後、青山学院大学文学部に進学。早稲田大学法科大学院を経て、2010年に司法試験および国家公務員Ⅰ種試験に合格。2011年に外務省入省後、スペイン駐在を経て、中南米外交やアジア外交に携わる。外交官として働く傍ら、国際情勢やキャリア設計についての講演活動も行う。著書に『高校チュータイ外交官のイチからわかる! 国際情勢』がある。