スマホにモバイルバッテリー必携時代は終わるか

「1万mAhスマホ」がついに現実に, バッテリー容量が「人気の決め手」に, 容量2倍で安全性は大丈夫か, 先進国投入の壁と日本との距離感, 新興国と先進国で変わるスマホ像, 「バッテリー戦略」を見てスマホを選ぶ時代へ

1万mAhのスマホが登場(筆者撮影)

ここ最近、モバイルバッテリーの火災や爆発事故のニュースを目にする機会が明らかに増えている。スマートフォンが生活必需品となり「電源が切れる」ことへの不安から、モバイルバッテリーを持ち歩くことは今や当たり前だろう。ところが中国ではこの1年でスマートフォンのバッテリー容量が一気に大型化し、iPhoneのほぼ倍となる1万mAh級のモデルが次々と登場している。

【写真で見る】世界初の1万mAhバッテリー搭載スマホ「HONOR WIN」シリーズ

「1万mAhスマホ」がついに現実に

スマートフォンの使い方は、この数年で大きく変わった。動画配信やゲームに加え、最近ではAIサービスまでスマホで利用するようになり、かつてはPCで行っていたような高度な処理も日常的にスマートフォンに任せるようになっている。その結果、朝に満充電したスマートフォンのバッテリーが夜にはほとんど残っていない──そんな経験は、今や多くの人にとって日常的なものだ。

現在販売されている一般的なスマートフォンのバッテリー容量は、おおよそ5000mAh前後である。小型モデルではそれより少ないケースも多い。一方で、この容量自体はここ数年ほとんど変わっていない。増え続けるスマートフォンの消費電力に対応しきれず、バッテリー切れを避けるためにモバイルバッテリーを携帯する人がますます増えている、というのが現状だ。

ところが中国の状況は大きく異なるっている。スマートフォン内蔵バッテリーの大容量化が、この1年で急速に進んだのである。2025年のはじめ頃から、従来より容量を約1.5倍に拡大した7000~8000mAhクラスのモデルが相次いで登場した。しかもこの流れはハイエンドモデルにとどまらず、1万~2万円台で購入できる低価格モデルにまで広がっていった。

こうした動きから、「来年(26年)の後半には、1万mAhを超えるモデルが登場するだろう」と多くの人が予想していた。ところがその「1万mAh時代」は予想よりも早く到来する。25年12月27日、HONOR(オナー)社はついに1万mAhバッテリーを搭載したスマートフォン「HONOR WIN」シリーズを発売したのだ。

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世界初の1万mAhバッテリー搭載スマホ「HONOR WIN」シリーズ(筆者撮影)

「HONOR WIN」の厚さは約8.3mm、重量も229g。下位モデルの「HONOR WIN RT」は同サイズ、225g。一般的な大画面スマホと大きく変わらないサイズの中に、従来の約2倍となる容量のバッテリーを詰め込んでいるのである。SNSやWeb閲覧などライトな使い方なら1日以上、重いゲームや動画視聴を続けても朝から夜まで安心して使えるスタミナを備えた、いわば「モバイルバッテリーいらず」のスマートフォンだ。

オナーはさらに26年1月、1万0080mAhとわずかながらさらに容量を増やした「HONOR Power 2」も発売した。カメラ性能は「HONOR WIN」より劣るものの、厚さ8.0mm、重量216gとさらに薄型軽量化されている。同じ26年1月にはOnePlus(ワンプラス)社の大容量バッテリーモデル「OnePlus Turbo 6 」シリーズが登場。26年は超大容量バッテリースマホが一気に市民権を得る年になりつつある。

バッテリー容量が「人気の決め手」に

こうした大容量バッテリーは、従来からスマートフォンに使われてきたリチウムイオン電池の容量を単純に増やしただけのものではない。バッテリー内部の負極材料をシリコンカーボンという新しい素材に切り替えることで、同じ体積でもより多くの電力を蓄えられるようになったのが特徴だ。

シリコンカーボン系バッテリーは登場してまだ数年という、歴史の浅い技術だ。しかし中国のスマートフォンメーカーが相次いで採用を進めたことで、バッテリーメーカー側の開発も一気に加速した。その結果「数年前なら冗談のように聞こえた容量」が、今では量産モデルとして実用化されている。

では、中国ではなぜバッテリーの大容量化が急加速したのだろうか。その背景には、主に次の3つの要因がある。

1つ目は、スマートフォンの使い方がよりハードになった点だ。長時間のゲームプレイや動画視聴に加え、モバイルペイメントや各種認証など、日常生活そのものをスマートフォンが支える存在になっている。そのため「バッテリー切れ=生活の停止」に近い状況が生まれており、中国では日本以上に、スマートフォンがなければ日常生活に支障をきたすレベルになっている。

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高度なゲーム利用などスマホの使い方はハードになっている(筆者撮影)

2つ目は、バッテリー技術そのものの進歩である。シリコンカーボン系バッテリーの商用化が急速に進んだことで、エネルギー密度の向上や劣化制御のノウハウが蓄積され、同じサイズのバッテリーパックに、より大きな容量を詰め込めるようになった。

3つ目は、中国市場特有の競争環境だ。中国では大都市部を中心にスマートフォンの普及率が頭打ちとなり、新規ユーザーよりも買い替え需要が中心になっている。一方で、ディスプレイやカメラ、チップセットといった部品はどのメーカーも似通っており、「性能も価格もほぼ横並び」のモデルが乱立しているのが実情だ。

そこで、わかりやすい差別化要素としてバッテリーの大容量化が注目されている。その結果、バッテリー容量の大きさは、スマートフォンを選ぶ際の重要な判断材料になりつつある。

容量2倍で安全性は大丈夫か

ここで多くの人が気にするのは「そんなに大容量で本当に安全なのか?」という点だろう。

スマートフォンもモバイルバッテリーも、基本的には同じリチウムイオン電池を使っている。リチウムイオン電池は、強い衝撃や外装の破損、繰り返される過充電などが重なると内部で短絡を起こし、最悪の場合は発火・爆発に至ることがある。容量が増えれば、万一トラブルが起きた際に放出されるエネルギーも増えるのは間違いない。

そのためスマートフォンメーカーは、内蔵バッテリーに対して多層的な保護を施している。

バッテリー内部には複数の温度センサーを配置し、温度を常時監視することで、異常な発熱を検知した場合は即座に充電や出力を制限する。さらにBMS(バッテリーマネジメントシステム)によって電圧・電流・残量を細かく制御し、過充電や高負荷状態を避ける仕組みを組み込んでいる。

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HONOR WINはバッテリー管理専用チップ「E2」を搭載(HONORのWEBページから)

またバッテリー内部構造や電解液の配合を工夫し、内部短絡が起きにくい構造にすると同時に、万が一短絡しても熱暴走に至りにくいよう設計する取り組みも進んでいる。バッテリーメーカーにとって発火事故は、企業の信頼や事業継続を根本から揺るがしかねない重大なリスクであり、この分野の安全性向上には各社が徹底した開発投資を行っている。

バッテリーだけではなくスマートフォン本体内部のベイパーチャンバーやヒートパイプなど冷却機構を強化し、バッテリーやチップセットから発生する熱を効率よく逃がす設計も一般的になってきた。本体フレームをより強固にするなど、スマートフォンの耐久性も高められている。

そのうえで量産前には落下・振動・加熱・強制短絡といった各種信頼性試験を行い、規格をクリアしたバッテリーのみが製品に採用される。従来より容量が増えた分、保護設計や品質基準もいっそう厳しくなっているのである。

先進国投入の壁と日本との距離感

それではこのような超大容量バッテリーを搭載するスマホが日本でも普通に販売されるようになるのだろうか? おそらく短期的には中国やインドなど新興国で採用が進む一方で、先進国では慎重な姿勢が続きそうだ。

最大のハードルは、各国の輸送規制である。例えばアメリカの規制では、バッテリー内部の「単一セル」が20Whを超えると危険物扱いとなり、輸送コストが大きく跳ね上がる。20Whはおおよそ5000mAhに相当し、多くのスマートフォンが5000mAh前後に留まっている背景の一つは、この輸送コストの問題だと指摘されている。

またスマートフォンの嗜好という点でも、先進国向け製品はフラッグシップモデルであっても「より薄く、より軽く」という方向性が根強い。実際、商業的な成功には至らなかったものの、アップルやサムスンは極薄スマホに挑戦してきた経緯があり、バッテリー容量を増やすよりも、省電力設計やソフトウェア最適化で持ち時間を伸ばす方向に重きを置く傾向が続いている。

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先進国ではバッテリーより本体の薄型化が好まれるか(筆者撮影)

加えて、ヨーロッパでは27年ごろまでに「ユーザー自身でバッテリー交換ができる構造」を義務付ける動きが進んでいる。シリコンカーボン電池を使えば同じサイズのバッテリーで容量を増やせる一方、膨張や発熱、サイクル寿命の管理がシビアになりやすい。バッテリーパック構造や保護回路設計なども難しくなるため、ユーザーが簡単に着脱できる構造との両立はハードルが高い。結果的に、従来型のリチウムイオン電池を無理なく搭載したほうが設計しやすく、あえて極端な大容量シリコンカーボン電池を採用しない判断も出てくるだろう。

新興国と先進国で変わるスマホ像

先進国に対して、インドなど新興国市場に目を向けると状況は大きく異なる。電力インフラが不安定な地域では、スマートフォン本体だけでなくモバイルバッテリーの充電すら十分に行えないことも少なくない。都市間の移動距離が長い地域も多く、「とにかく電池が長く持つスマホ」を求める声は非常に強い。

そうしたニーズに応える形で、realme(リアルミー)社はインドで1万0001mAhバッテリーを搭載した「realme P4 Power」を26年1月に発売した。同社は25年5月の時点で1万mAhバッテリー搭載のコンセプトモデルを披露しており、約8か月をかけて実際の製品として市場投入した格好だ。

インド政府はスマートフォンの国内生産を推進しており、国内工場で生産した端末を国内で流通させる分には、国際輸送時の容量制限の影響を受けにくい。リアルミーが中国本土での勝負ではなく、「インド初の1万mAhスマホ」という旗印を掲げてこの市場に挑んだのは、その象徴的な例とも言えるだろう。

そして今後、こうした大容量バッテリースマホが広がっていけば、モバイルバッテリーの需要は今より確実に下がるはずだ。中国ではすでに、国内線フライトへ持ち込めるバッテリーについて「3C認証」を義務付けており、この国内規制によって粗悪なモバイルバッテリーは大幅に減っている。だがスマートフォン側の大容量化が進めば、そもそもモバイルバッテリーを持ち歩く人自体が減り、発火事故などのリスクも下がることが期待される。

「バッテリー戦略」を見てスマホを選ぶ時代へ

日本のユーザーにとって、1万mAhクラスのスマートフォンはまだ「遠い国の話」に聞こえるかもしれない。それでも、このトレンドは確実に世界へ広がりつつある。

オナーは8300mAhバッテリーを搭載した「HONOR X9d」をアジア各国で販売中であるし、ZTE傘下のnubia(ヌビア)社は日本などで7500mAhバッテリー搭載の「REDMAGIC 11 Pro」を展開している。この「REDMAGIC 11 Pro」はゲーム用途を中心に、「日常利用なら2日に1回の充電で十分」といった評価も出ており、毎日の充電が当たり前というスマートフォンの常識が変わる兆しも見えてきた。

「1万mAhスマホ」がついに現実に, バッテリー容量が「人気の決め手」に, 容量2倍で安全性は大丈夫か, 先進国投入の壁と日本との距離感, 新興国と先進国で変わるスマホ像, 「バッテリー戦略」を見てスマホを選ぶ時代へ

日本でも販売中のREDMAGIC 11 Pro(筆者撮影)

こうした大容量モデルが世界各国で一般的になれば、「モバイルバッテリーを買う」という選択肢自体が不要になる可能性がある。バッテリー事故のリスク低減だけではなく、モバイルバッテリーという電子廃棄物を減らすことで、環境負荷の軽減にもつながるだろう。

さらに、AI機能など負荷の高い処理を行っても、バッテリー残量をいちいち気にせずに、思う存分機能を使いこなせるようになる。一度「バッテリー切れの心配をしなくていいスマホ」を体験してしまえば、その自由度と快適さは想像以上だと感じるはずだ。

とはいえ、シリコンカーボンバッテリーはまだ登場から日が浅く、その長期的な信頼性や安全性については、従来のリチウムイオン電池ほど実績が蓄積されているわけではない。新しい技術であることを理解しつつ、充電環境や発熱に注意しながら使う意識は当面は必要になるだろう。

これからのスマートフォン選びでは、カメラやチップセットといったスペックだけでなく、「どれだけ長く、安心して使えるか」という観点から、各メーカーのバッテリー戦略にも目を向けたい。その視点を持っておくだけで、数年後に訪れるかもしれない「1万mAhスマホ時代」を迎えても、自分に合った一台を冷静に見極められるだろう。