自民党圧勝を生み出したのは「高市人気」でも「小選挙区制」でもない【2026年衆院選分析】

高市自民党への支持は岸田自民党並みに回復, 自民比例票を大幅に上回る票を集めた自民党選挙区候補, 高市首相「人気」説では小選挙区の自民圧勝を説明できない, 小選挙区の自民圧勝は「小選挙区制のせい」ではない, 対抗馬の魅力低下で相対的に自民党候補が優位に?, 2026年衆院選小選挙区の得票構造の変化, 「絶対安定多数」は安定した政権運営を保証しない

自民党圧勝を生み出したのは「高市人気」でも「小選挙区制」でもない【2026年衆院選分析】

突発的に行われた2026年衆院選は自民党が小選挙区をほぼ総取りする圧勝に終わった。日本全土が自民党一色に塗り潰された選挙区地図は、普段は政治に関心が向いていない層を含めて衝撃をもって受け止められ、さまざまな議論を呼び起こしている。

もっとも、今回のような一方的な選挙結果は衆院の小選挙区比例代表並立制の下でこれまでも起きており、圧勝の規模が多少大きいとは言え不思議なものではない。それでも、異常とも映る結果に引きずられ、若者や日本人が保守化した、高市首相が若者や日本人に人気だといった、大した根拠のない議論が先走りしている。

並立制という制度を理解していれば、議席数がそれら日本人全体の政治意識の転変を語りうる材料とはならないことは明らかである。並立制は極端な結果を生み出しうるが、その要因は人々の投票行動よりも前に、政党、政治家の行動選択に存在するためである。

こうした問題意識を踏まえながら、このニュースレターでは2026年衆院選の結果を順次分析していきたい。今回はまず、主に自民党の得票率という基礎的なデータを取り上げ、今回の選挙の特徴と論点を明らかにしていく。

※今回のニュースレターは本文が長いですが、図表の説明や分析の注釈、繰り返しの主張・強調、これまでのニュースレターの議論を追認する個所が多いです。太字部分を追えば議論の大枠を理解できるようになっていますので、お急ぎの方はご自由に読み飛ばしていただければと思います。

高市自民党への支持は岸田自民党並みに回復

まず、並立制のうち比例区の結果を確認する。比例区の「相対得票率」(有効投票数に対する対象の得票数の割合を示す。以下、単に得票率とする)は、各政党が実際にどれくらい支持を受けているかを端的に示す指標である。

図表1は、11ブロックで行われている衆院比例区の各党の得票数を全国で集計したものである。この表のとおり、自民党の比例区の得票率は全党の中で最も高いが、その値は36.7%である。報道される圧倒的な選挙結果の印象に反し、比例区で自民党と書いた投票者は半数を大きく割り込んでいることがわかる。参考までに、今回衆院選の有権者数(1億351万7115人、1月26日現在の総務省発表値)に占める「絶対得票率」は20.3%である。つまり、比例区で自民党に票を投じたのは全有権者の5人に1人ということになる。

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このように書くと、今回の自民党の得票率が低いように感じるかもしれない。しかし、今回の自民党得票率は、図表2に示すように並立制下では2005年の郵政解散に次ぐ高い値である。つまり高市自民党は、歴代自民党政権の中でも高水準で支持を集めていたと言える。

前回のニュースレターで述べたように、今回は自民党が公明党の集票を融通しなくなったため、歴代の選挙結果との比較ではこの増分(公明党からの返却分)を考慮して評価すべきである。前回注で示した2025年参院比例公明党得票率8.8%のうちの18%という試算なら1.6%、2024年衆院比例公明党投票者10.9%のうちの18%なら2.0%が「比例は公明」返却分となる。

前者を採用するなら36.7-1.6で35.1%、後者なら34.7%が歴代比較可能な比例区得票率ということになる。これらの値でも小泉政権下の2003年衆院選(35.0%)や岸田政権下の2021年衆院選(34.7%)に匹敵する良績である。中でも、今回の56.3%に近い55.9%の投票率だった2021年衆院選が良い比較対象となるだろう。以前の記事で高市自民党が勝利するためには自民党の支持率を上げていく必要があると述べたが、衆院選当日の自民党に対する支持は岸田内閣発足直後のレベルにまで回復していたということになる。

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さて、このように書くと、強烈な違和感を抱く方も多いだろう。岸田文雄首相は「増税メガネ」などと呼ばれ、動画サイトやSNSなどで殊更に叩かれた政治家であった。岸田内閣は発足当初の選挙とは言え、「サナ活」で今回衆院選を圧勝したとされる高市首相の自民党がこれと同じくらいの支持率と言われれば疑問に感じてしまうのも致し方ない。

しかし、以前のニュースレターで述べたように世論調査の内閣支持率の数字は水物である。高支持率を説明するためにメディアが集めた局所的エピソードや、動画サイトやSNSの熱烈な支持者もしくは業者の膨大な高市支持キャンペーンも、実際の支持率を示すものではない。これに対し、有権者全員が投票権を持つ選挙は悉皆調査(全数調査)であり、世論調査やネット上の目撃例から作られる印象よりも世論を端的に明示するものである。

繰り返すが、比例区得票率が示すのは、岸田内閣と高市内閣の衆院選時の自民党に対する評価は同程度である、ということである。ただし、その比例区得票率の数字は決して低くはなく、むしろ岸田内閣並みに高いと表現できるものである。

もっとも、自民党の支持率や比例区得票率は石破内閣時代の低迷状況からは脱しているが、単独で勝利するには本来不十分である。以前のニュースレターでは、公明票抜きで自民党が勝利するためには大幅な支持率と得票率の増加が必要だと論じた。だが、シミュレーションで示したように、岸田内閣並みの比例区得票率では各選挙区10%近い厚みの公明党票の離反を埋めるほどの支持率回復とはならない。回復させたとは言え、この比例区得票率が示す支持率の水準では、小選挙区で過半数を大きく超える議席を獲得するのは本来困難なはずである。

自民比例票を大幅に上回る票を集めた自民党選挙区候補

このようなデータを目の前にすれば、自民党圧勝という今回選挙の印象や「高市人気」という議論と、十分に高くはない比例区得票率という現実を埋めるための反論を提起したい人もいそうである。たとえば、小選挙区で自民党が勝ちすぎると報じられたので、与野党伯仲を願う有権者が比例区でバランスをとって自民党以外に入れたのだ、といったものである。

あくまでこれは、評論家に転じた元新聞記者などがコラムなどで開陳しそうな根拠のない俗論を筆者が勝手に想像したものである。こうしたもっともらしい言説に出くわした際は、信じる前に論理や根拠を精査したり、他の事例と比較したりすることが、これに騙されないコツである。

たとえばこの空想例の場合、なぜ小選挙区ではなく比例区でバランスを取るのか?と疑問を挟むことができる。あるいは、これまでも自民党圧勝が伝えられた選挙があったのに、そのときはバランスを取らなかったのか?と考えてもよい。

実際のデータを確認してみよう。図表3は、自公連立以降の衆院選について、自民党および同党と協力関係にあった公明党(2024年まで)、維新の会(2026年)との合計の比例区、選挙区の得票率、およびその差を示している。2024年まで、自民党単独で計算すれば選挙区得票率は比例区得票率を常に大きく上回っていたが、これは公明党との協力があったためである。自公で得票率を合計すれば、選挙区と比例区の得票率差は小さくなる。

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ところが、公明党との協力が無くなった2026年衆院選では、この傾向から外れた結果となっている。自民党単独の選挙区・比例区得票率を見ると、公明党票の流入が大きく減ったにもかかわらず、自民党の選挙区候補は自民党の比例区得票率を大きく超えた得票率となっている。公明党との協力関係を解消した分、自民党の候補者数は増えているが、その分では説明できないほどの落差が選挙区と比例区の得票率の間に生じているのである。別の言い方をすれば、公明党票の離反分を埋め合わせる票をどこからか獲得できたことが、選挙区での自民党の勝因である。

ここで、選挙協力はあまり行わなかったが国政では協力関係にあった維新の会との合計で見ても、選挙区得票率が比例区得票率に対して突出して高いという傾向が見られる。つまり、2026年衆院選で自民党選挙区候補の得票率が同党の比例区得票率に比較してかなり高くなっているのは、維新の会に比例区で投票した人々の選挙区での自民党候補への投票では説明がつかないのである。

このように、2026年衆院選の最大の特徴は、自民党選挙区候補が公明票の離反にもかかわらず自民党の基礎的な支持を示す比例区得票率を大幅に超える票を集めた点にある。自民党は比例区ではなく選挙区で独占的に議席を集めたことから、この点をいかに説明し、分析するかが、今回の選挙の理解の鍵となるはずである。

高市首相「人気」説では小選挙区の自民圧勝を説明できない

岸田自民党並みの比例区得票率であった高市自民党の今回選挙区での法外な圧勝の要因として、大抵の報道関係者や世の政治通の人々は、「高市人気」なるものを真っ先に挙げている。今回の自民党圧勝を「高市旋風」と表現したがる評論家風の人々も多い。しかし、「高市人気」なるものが比例区には効果がなく選挙区でのみ効果を発揮したとする議論は、過去の「人気」例と反する主張である。

図表3に示すように、2005年のいわゆる郵政選挙では、自民党の比例区得票率38.2%に対して自民党の選挙区得票率は47.8%と9.6ポイントの開きがあったが、これは歴代でも小さな差であった。選挙協力を行った公明党を合わせれば、比例区51.4%、選挙区49.2%とその差は-2.2ポイントとなり、比例区得票率の側が大きくなっている。この選挙では当初から自民党の圧勝が伝えられていた。前節冒頭の架空の俗説のような比例区で他党に入れるバランス作用は見られず、むしろ比例区で自民党は通常よりも多く集票したことになる。

小泉純一郎首相は、一般には「人気」があった首相とされる。小泉内閣の下で衆院選は2003年、2005年と2回行われたが、いずれも自公の選挙区・比例区得票率の差はマイナス、つまり比例区の得票率の側が高かった。小泉首相の「人気」が投票に作用していたと考えるなら、その作用は選挙区の候補者ではなく比例区での自民党という政党名での投票により強く表れたと考えることができる。

なお、筆者自身は小泉内閣期の自民党比例区得票率の高さを「人気」と形容しない。小泉内閣の改革イメージにより、都市部を中心に自民党自体の評価が高まり、比例区での集票に繋がっていると分析しており、これを「小泉効果」と表現している。いずれにしても、人々の政党リーダーの評価が選挙に影響するのであれば、それは政党に投票する比例区でより直接的に表れることになるはずである。選挙区でのみ「高市人気」が作用したとする説は、現象のメカニズムを説得的に示すことができず、論理性に欠く。

今回の選挙結果は、小泉政権の例とは全く異なる。歴代首相を大きく超える「高市人気」なるものが存在し、自民党の勝利を後押ししたのなら、自民党の比例区の得票率が2021年と同程度とはならない。あるいは、岸田首相が率いた自民党の勝利も「岸田旋風」と呼ぶ必要がある。野党共闘と称し部分的ながら野党が効率的に戦った2021年衆院選は、自民党にとって下野の危機を感じさせる状況でもあったので、そう呼んでも良いかもしれない。

どうしても今回の選挙を「高市人気」、「高市旋風」と表現したいなら、党首の「人気」なるものがなぜ比例区の政党票に乗らず、選挙区の候補にのみ乗ったのかを説明する必要がある。しかし、筆者が見たところ、「高市」を自民党圧勝の要因とする報道や評論の中で、この点を明快に説明したものはない。

小選挙区の自民圧勝は「小選挙区制のせい」ではない

今回の選挙結果で特に聞かれたもう一つの議論として、「自民党の圧勝は小選挙区制のせい」というものがある。

最初に述べておくが、衆院の選挙制度は小選挙区比例代表並立制であって、小選挙区制ではない。衆院の選挙制度が小選挙区制ではなく小選挙区比例代表並立制(以下、並立制)であるという理解は、小選挙区と比例区を同時に行うと決められているという法制度上の観点だけでなく、政党制との関係という政治学的な観点により支えられる。

「自民党の圧勝は小選挙区制のせい」との議論が含意する単純小選挙区制は、イギリス、アメリカ、インドなどの旧イギリス領を中心とした少数の国で採用されている選挙制度である。その制度的特徴は長く研究されており、全国政党の競争を前提とした場合、より広範な支持を受けた高い得票率の政党が、さらに高い議席率となる傾向がよく知られている。

この特徴は、今回に限らず日本の並立制の小選挙区部分の結果でもよく見られる。図表3に示したように、一部の衆院選を除いて自民党は小選挙区で50%近い得票率を得ることができている。図表4に示すように、今回の小選挙区では2番手の中道改革連合を大きく引き離した票を獲得している。他の勢力を引き離して50%に近い得票率を得ていれば、並立制の小選挙区部分で過半数を大きく超える議席を獲得しても全く不思議ではない。

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ただし、この自民党の高い選挙区得票率は、自党の直接の支持者以外からの票によって支えられている。図表3で見たように、自民党を直接支えているのは比例区得票率で代表される自民党の支持層である。自民党は常に選挙区と比例区の得票率に大きな落差があったが、これまでこれを公明党票によって埋め合わせ、小選挙区での勝利を生み出してきた。

比例区により多党制が存置され、新党の結成と進出を助ける並立制では、小選挙区部分において単純小選挙区制であれば起きうる大政党への勢力の集約、あるいは二大政党制の出現が期待できない。中小政党が小選挙区でも候補を出馬させる誘因を持つためである。

以前のニュースレターでも述べたように、この多党が参加し続ける並立制下の小選挙区の競争で勝つのは、大政党ではなくより大きな規模の政党間の協力、政党の連合である。自民党と公明党の連合、協力関係は常に分立する他党に比較して効率的で、多くの選挙で勝利してきた。一方、野党の側は賢明さが足りずに分立して戦い、これまでも必要以上に負け続けた。

今回の選挙で自民党は、自公連合時代と同等かそれ以上の票を集めることに成功している。並立制の小選挙区を勝つに十分な票を集めたのだから、同党の勝利は正当なものである。しかし、比例区得票率37%は、本来は対抗勢力次第で選挙区大敗もありうる数字であり、今回のような圧勝を生むものではない。実際、2024年衆院選で自公は38%弱の比例区得票率で与野党逆転を許している。したがって、やはり今回の選挙結果の最大の論点は、公明党票の離反にもかかわらず、そして自民党への支持が大きく伸びていないにもかかわらず、なぜ小選挙区で自民党候補が票を集められたのかである。

もちろん、以上の指摘は並立制そのものを擁護するものではない。いくつかの国では政治の混乱を避ける等の目的から大政党にプレミアムを与える選挙制度が導入されているが、日本の並立制にそこまでの制度的意図はない。比例区で投票者の37%しか票を入れていない政党が、小選挙区の側で不用意に9割近い議席を得て衆院の3分の2を超える議席率となった事実は、日本の並立制が民主主義の制度として何か重大な欠陥を抱えていると疑わせるに十分である。世論とその変化に対し選挙結果が適切に応答しないことは、並立制のみならず民主主義に対する信頼を損なうものだろう。

ただし、これも何度も指摘し続けていることだが、並立制でこうした結果が続いてきたのは野党政治家の賢明さの不足ゆえである。図表3や後の図表6に示すように、自民党候補の選挙区での得票率も実は2021年とあまり変わらない。しかし、同年選挙の野党に比べて現野党は大幅に議席を減らしている。図表4に示されるように、大量擁立による候補の競合をはじめ、野党が分立し互いに協力しない姿勢が自民党の独走を許した面が強い。小選挙区部分での自民独走は、並立制とこれに適切に対応できない野党政治家が生み出した選挙結果である。その意味で2026年衆院選は、第2次安倍政権以降、何度も繰り返されてきた典型的な並立制の選挙結果の延長と言える。野党政治家が今回の選挙からすら何も学ばないなら、それは支持者と投票者への裏切りでしかないだろう。

対抗馬の魅力低下で相対的に自民党候補が優位に?

なぜ自民党は比例区得票率、支持率を大して伸ばさずに選挙区の得票率を伸ばすことに成功したのだろうか。各種のデータと手元の分析などと整合する現時点での仮説を述べておきたい。

この仮説を簡単に述べれば、対抗馬となる野党の魅力が下がったので自民党候補の魅力が相対的に上がった、というものである。もう少し細かく表現すれば、立憲民主党と公明党が合流して結成された中道改革連合が、両党の支持層すら維持できず、これまでの選挙での立憲民主党の有利な立場や他野党支持者への訴求力を引き継げなかったため、野党投票者の票が自民党候補に流出した、となる。

単純に最も好ましい政党に投票する比例区とは異なり、多くの小選挙区の選挙では代表する2つの政党の候補の争いとなる。投票者がどちらに投票するかを決める評価尺度を、ここでは便宜上「魅力」と呼ぶこととすると、2人の候補を比較してどちらの魅力が相対的に高いかの争いが小選挙区の投票となる(図表5)。両候補は自党支持者だけでなく、比例区で他党に投票した層を巡って争う。

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小選挙区の自民党圧勝を高市人気とする説(図表5①)は、首相のおかげで自民党自体の魅力が上がり、その恩恵にあずかって得票を伸ばす、という考え方になる。マス・メディアの報じ方を見るとこの説が正しそうに感じるかもしれないが、比例区得票率が岸田内閣並みという事実に矛盾、もしくは2021年衆院選を岸田人気と呼ぶべきということになる。高市人気説は、首相が自党比例票を大きく増やせなかったのに、小選挙区で比例区他党投票者を大きく集めたことを説明しないのである。

これに対し、対抗馬の側の魅力が下がり、有力2候補の中で自民党候補が相対的に優位となり、自民党候補が比例区他党投票者から票を集めることができたという説(図表5②)であれば、自民党自体の魅力の大幅な上昇を伴わずに選挙区自民党候補の得票率上昇を説明できる。

立憲民主党は、野党内では国民民主党や共産党などの中間に位置し、自民党に対抗する野党の第1党として認知されていた。比例区得票率が示す立憲民主党の素の支持率は高くないものの、選挙区では多くの野党投票者の票を集めることができる立ち位置にあった。比例区得票率12.5%で第4位だった2025年参院選ですら、1人区で8人の公認候補を当選させ、野党勝利の核となっていた。

これに対して中道改革連合とその候補は、立憲民主党のような野党の中核の立場を失した。立憲民主党と公明党の支持者を十分にまとめられなかった上に、これまで得ていた比例区他党投票者の票も多く失っている。立憲民主党が中道改革連合という新党に変わったことにより、候補の魅力が下がったのだと言える。

なお、ここでは魅力の増減で表現したが、その内容は一様ではなく、さまざまに考えられる。その一つはもちろん拒否感である。立憲民主党は、その支持率は低かったが、拒否感はあまり強くなく、拒否層はもともと自民党などに投票しているため集票上大きな問題とはならなかった。しかし、高齢層を中心に公明党、創価学会に対する拒否感は今でも残るため、中道改革連合を拒否した人々もいたのではないかと考えられる。そうでなくとも、選挙直前に勝手に新党を作ること自体に拒否感を抱くことも多いだろう。

一方、このような強い拒否感情ではなく慣れや親しみの低下で説明される部分もある。立憲民主党は支持者以外から多くの票を集めていたので、こちらの見方が通る投票行動のほうが割合的には大きいかもしれない。自民党に対抗する野党の名前が消え、よく知らない、立場もよくわからない勢力が出現したというのが、野党第1党だからとりあえず立憲民主党に投票していた多くの有権者にとっての中道改革連合の印象だと考えられる。いつも買っているケチャップが急にブランド名を変え、色も茶色っぽくなっていたら、きっと買いにくいはずである。このとき、これまであまり選んでいなかったブランドのほうがマシに見えたなら、そちらを選ぶ消費者は多い。

この位置に、高市自民党という要素も絡めることができる。与党的立場の維新の会に加え、国民民主党や参政党の支持者、投票者からすれば、急に出現したよくわからない政党ではなく、最近支持政党と似たようなことを言っている自民党のほうに親近感を感じ、候補がより魅力的に映る場合も多いだろう。比例区で自民党自体に投票するほどではないが、自民と中道との候補の選択になれば自民を選択するくらいには自民党候補の想定的な魅力が上昇した、という可能性である。この政策的な近接性に基づいた議論は、選挙前のニュースレターで指摘した高市自民党の勝ち筋に沿った内容でもある。特に国民民主党に関しては、前回衆院選以降の“ゆ党”路線による自民党への接近、および選挙区での競合候補大量擁立が、中道改革連合候補への票の集約を阻害した可能性を指摘できる。

2026年衆院選小選挙区の得票構造の変化

最後に、今回の選挙の得票構造の変化を単純な試算により整理しておく。得票構造の変化については前回のニュースレターで情勢調査結果から予測したとおりであったが、ここではその具体的な規模感を知るために図表6を作成した。ただし、これはあくまで得票構造の変化の規模感を把握するための単純かつ便宜的な計算と割り切って理解していただきたい。

高市自民党への支持は岸田自民党並みに回復, 自民比例票を大幅に上回る票を集めた自民党選挙区候補, 高市首相「人気」説では小選挙区の自民圧勝を説明できない, 小選挙区の自民圧勝は「小選挙区制のせい」ではない, 対抗馬の魅力低下で相対的に自民党候補が優位に?, 2026年衆院選小選挙区の得票構造の変化, 「絶対安定多数」は安定した政権運営を保証しない

この表の上側には、3回の衆院選での自民党候補と立民・中道候補の平均得票率を示している。2026年の自民党候補の得票率50.4%は2021年の51.1%と同程度である。これだけを見ると自民党は比例区と同様に2024年から支持を回復させ、対抗馬である中道候補が2024年の立民候補よりも得票率を落としたから自民党は選挙区で圧勝できたと解釈できそうである。

しかし実際は、自民党候補は2024年に比較して公明党票を失っている。以前のニュースレターのシナリオでは新党結成については考慮していなかったが、今回の出口調査結果からは相当規模の離反があったと推定されている。

朝日新聞の出口調査分析記事によれば、中道候補が出馬した選挙区で2025年参院選公明党比例区投票者のうち73%が中道候補に投票したと報告されている。これを前回衆院選公明党比例区得票率10.9%に適用すると、中道候補に加わったのは8.0%分である。同じ数字が自民党候補から離れと仮定し、2024年衆院選の自民、立民両党候補の得票率を元に公明党票離反時の得票率を求めると、自民党候補は34.7%、立民候補は47.5%となる(表の「24年±8%」の値)。

この予測値に比べると、実際の2026年衆院選の数字は自民が+15.8ポイント、中道が-17.1ポイントの差となる。この予測とのズレは、両党の基礎的な支持票の増減と、党外から集票の増減に分けることができる。

基礎的な支持票は比例区得票率により算出される。公明党票のうち本来は自民党の票である部分(前述のように2.0%とする)は24年の自民党比例区得票率に加算する。また中道は立民と公明が合流しているため、24年の基礎的な支持票は24年立民比例区得票率に公明比例区得票率10.9%から自民残留分2.0%を除いた9.0%を合算した値とする(合計が11%となるのは四捨五入の関係である)。

この24年の値と26年の両党の比例区得票率の差が「基礎票の変化」の値である。これを見ると、自民党は8.0ポイント伸ばし、中道は11.9ポイント下落させていることがわかる。ただし、この動きのみでは、自民党候補は公明党票の離反の動きを埋め合わせているに過ぎない。つまり、自民党の選挙区候補は2024年レベルの得票率に留まり、選挙区での自民党圧勝は生まれなかったはずということになる。

実際の両党候補の得票率は、基礎的な支持の増減以上に動いている。これを「党外票の変化」とする。これは「26年との差」から「基礎票の変化」を減じて求めることができる。これを見ると、自民党の側では支持の増分に加えて7.8ポイントの伸びが見られる。一方、中道候補は立民候補に比較して5.2ポイント党外からの票を失ったと見ることができる。

説明が長くなったが、今回の選挙区での自民党圧勝を導いた得票構造の変化のうち、おそらく最も決定的だったのは立民+公明に比較しての中道の基礎票の落ち込み(-11.9ポイント)である。自民党自体の支持率回復は、2024年から21年レベルに戻す程度(+8.0ポイント)であり、離反した公明票を埋め合わせるまでは不足していた。これを補ったのが党外票であり、比例区で自民党に投票しなかった投票者が小選挙区で自民党候補に投票した(+7.8ポイント)ことにより、自民党候補は2021年と同等レベルの得票率となった。一方、中道候補は2024年立民候補に比較して比例区他党投票層からの集票でも落ち込んだ(-5.2ポイント)。

ただし、中道の基礎票の落ち込みについては、中道改革連合の結成のみに帰すものではない。2024年衆院選以後、立憲民主党は多数の議席を持て余し、その支持を伸ばすことができなかった。中道改革連合結成以前にすでに立憲民主党が支持を失っていたことが、中道の比例区得票率の落ち込みの主要部分を占めるはずである。立憲民主党の参院選と衆院選の比例区得票率を比較することは本来困難だが、仮に参院選時点の立憲民主党の比例区得票率(12.5%)と公明党の比例区得票率(8.8%)から「比例は公明」返却分(1.6%)を除いた値の合計(19.7%)と中道の衆院比例区得票率(18.2%)を比較すれば、参院選時から1.5ポイント程度しか落ちなかったことになる。

繰り返すが、ここでの試算は単純かつ便宜上のものである。特に、図表6はあくまで集計上の表現であり、個人レベルの投票行動の変化はもっと複雑で投票・棄権を含めた複数方向の動きになる点は注意されたい。また、この集計結果は、票の動きの背後にある政治意識や心理について強い示唆を与えるものではないことも、念のため指摘しておきたい。

ただそれでも、2026年衆院選の並立制小選挙区における自民党の圧勝は、野党、特に立憲民主党の無為無策、さらには中道改革連合結成という下策によって生み出された部分が大きいと推認するには十分な試算であると言えるだろう。

「絶対安定多数」は安定した政権運営を保証しない

今回は2026年衆院選について、基礎的なデータと試算から、結果の背後にある投票行動の変化を探ってきたが、最後に今後の展望を述べておきたい。

自民党が絶対安定多数を超える議席を獲得した2026年衆院選は、「高市人気」、「高市旋風」の選挙と喧伝されているが、得票率が示すその内実は報道関係者や評論家が作り出す印象とは大きく異なっていた。高市首相の下で自民党比例区得票率が回復したと言っても、それは2021年の岸田内閣下の衆院選時と同レベルであった。それでも選挙区での公明票離反の影響を埋め合わせることができたのは、党外からの票を伸ばすことに成功したからである。

高市内閣は解散で圧倒的な議席数を手に入れることになり、政権運営の他党への依存度を大きく下げることに成功した。前回ニュースレターのタイトルの言葉を用いれば、高市首相は「リセマラ」に成功して有利なカードや武器(議席数)を手に入れた、ということになる。

しかし、衆院の多数の議席数が政治の安定をもたらすわけではないことは、ポスト小泉3内閣の例などから明らかである。衆院の議席率は、決して内閣や政党の支持率を保証するものではない。選挙での大勝の報を受けて、直後の世論調査結果での内閣支持率や自民党支持率は過去の例と同様に上昇している。したがって、これも過去の例と同様にすぐに下落すると予測される。

むしろ、自民党に投票した割合が岸田内閣並みという事実は、実際の支持率、支持のベースも同程度であることを意味する。正確には、公明党支持層がない分、内閣の固い忠実な支持基盤は岸田内閣より狭いと言える。圧倒的な議席率やマス・メディアが作り出した印象とは異なり、世論は大して高市内閣や首相を「推し」てはいないのである。そもそも比例区で37%の得票率しかない政党が単独で政権の座に就けてしまう並立制に問題があるということになるが、選挙結果に示されたこの実際の支持率に沿うように内閣支持率は(あるいは政党支持率も)低下していくことになるだろう。以前のニュースレターで指摘した内閣支持率の今後の下落見込みは今回の衆院選の結果でさらに明確になったと言える。解散総選挙では世論はリセットできないのである。

これ以上大幅に自民党の実際の支持率を伸ばせないのなら、あるいは党外票を再び得ることができないのなら、公明党票の支援を失った自民党は次の国政選挙で大敗する可能性が高まる。内閣への支持が下落する見込みを回避するためには、結局は多数の有権者に受け入れられる実績を蓄積し続けて実際の自民党支持率も高めていかなければならないだろう。

ただそのために、小選挙区で自民党に投票したような他党支持層の歓心を買うような政権運営に向かうかもしれない。だがそのような政治は、従来の自民党政権の支持層の意向とぶつかり、俗に「政権担当能力」と呼ばれる信頼性を損なう可能性がある。財政上の懸念は経済に影響を及ぼす芽を見せており、安保、外交関係で危ない橋を渡りかねないことも周知のとおりである。これらも含め、実際の支持率が低い政権の舵取りの難しさは、議席数の多さで解消できるものではない。

おそらく、仮に高市政権が窮地に陥った際に最も助けとなるのは、並立制の選挙を理解せず、支持者と有権者を蔑ろにする野党の政治家だろう。中道改革連合や国民民主党の今後がどうなるかは不明だが、これまでと同じような行動と言動を続ける限り、再び2026年衆院選のような選挙結果が現れる可能性が高い。実のところ、各党の分立による自民党への強力なアシストという2012年以降全ての衆院選で確認されてきた特徴は、今回の選挙にもよく表れていた。

長くなったが、今回は選挙結果の概観や構造の把握を目的としており、より細かい分析については今後のニュースレターで示していく予定である。

* * *

なお、次の朝日新聞出口調査によれば、同じ参院比例区公明党投票者のうち比例区で自民党に投票したのは12%とされる。この場合は1.1~1.3%が「比例は公明」返却分と試算される。

「保守票、自民に回帰 参院選では参政・保守、2割弱自民へ」『朝日新聞』2026年2月9日配信、https://digital.asahi.com/articles/DA3S16400223.html

なお、維新の会が特に強い近畿地方を除いても、自維の選挙区・比例区の得票率の差は9.2ポイントと大きく開いている。

いわゆる郵政造反組の選挙区無所属候補、および国民新党、新党日本の選挙区候補と比例区の得票数を自公に含めて考えた場合、選挙区から比例区の得票率を減じた値は-2.5ポイントとなり、やはり比例区の側が大きくなる。

筆者による小泉純一郎内閣下の選挙結果に関する分析や議論については、次の文献を参照されたい。蒲島郁夫・菅原琢「総選挙結果を分析する――公明がどちらを選ぶかで政権は替わる」『中央公論』(2002年1月号、2001年)、蒲島郁夫・菅原琢「自民党圧勝の構図 地方の刺客が呼んだ「都市の蜂起」」『中央公論』(2005年11月号、2005年)、菅原琢『世論の曲解――なぜ自民党は大敗したのか』(光文社新書、2009年)。

ここでの議論について詳しくは、拙稿「選挙制度は日本の政治にどう影響しているのか?――自民党一党優位の背景を説明する」『選挙との対話』(青弓社、2024年)を参照されたい。

2024年衆院選で支持を伸ばさなかった立憲民主党が勝利したことも、世論に対し選挙結果が適切に応答できていない例である。こうした例を踏まえて、次の論文では並立制が「安定した政党制、政党政治を並立制がもたらすと期待することは難しい」と指摘している。菅原琢「並立制はどのように日本政治の混迷を深めたのか?――2024年衆院選・与野党逆転の計量分析」『「あの選挙」はなんだったのか――2024衆院選・2025参院選を読み解く』(青弓社、2026年)、

https://www.seikyusha.co.jp/bd/isbn/9784787235688/

前掲論文参照。

今回の試算では、自民党候補から離反した公明党票の規模を、参院比例区の投票行動の思い出し回答による公明党投票者の中道候補への投票割合を用いて当てはめている点が特に便宜的である。

「保守票、自民に回帰 参院選では参政・保守、2割弱自民へ」『朝日新聞』2026年2月9日配信、https://digital.asahi.com/articles/DA3S16400223.html

立憲民主党の衆院比例区の集票は各選挙区候補の運動に依存する部分が強く、他の条件が同じであれば衆院比例区の得票率は参院に比較して高くなっていると想定される。したがって、本文中の1.5ポイントの落ち込みという単純な差分は過小評価と考えられる。

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【通信欄】

長々お読みいただきありがとうございました!

ところで、今回の選挙が「推し活」の結果だっていう議論は、一般の「推し」の意識と行動に適合してるのでしょうか? アイドル等に詳しくなくても、アイドルグループのリーダー「推し」のファンが、そのアイドルグループ全員が映ったグッズは買わずに、他のメンバー1人だけが映ったグッズを買ったりはしないんじゃないかと思いますけど、どうなのでしょう。もちろん、小泉自民党のほうこそ推し活だって言いたいわけではないです。

選挙を推し活のようにしたいっていう議論なら、それに賛同はしないまでも理解はできるのですが、選挙結果の数字のどこに「推し活」要素を見いだせるのか、ぜひ伺いたいですね。

それでは次回もお楽しみに!

【お知らせ】

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菅原琢の政治分析、https://sugawarataku.theletter.jp

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