宇都宮で約30年廃虚だった施設を再生 「石の里」大谷に食とアートの観光施設がオープン

廃虚を再生した「大谷グランド・センター」=宇都宮市大谷町(井上総合印刷提供)
「石の里」として知られる宇都宮市大谷町の砕石場跡地で約30年間にわたり廃虚となっていた元レジャー施設の建物が、アートスペースとレストランなどが一体となった観光施設としてよみがえった。同市内で印刷会社を経営する父娘が「大谷の魅力づくりにつなげたい」と再生に取り組んだ。新たなにぎわいと文化を創出する文化観光拠点として注目されている。
大谷町は市の中心部から北西に約6キロ。帝国ホテルの旧本館など数多くの近代建築に利用されてきた「大谷石」の採石地として知られている。かつては大谷石の採石と観光で栄えたが、安価な外国産建材の台頭により石の需要が減少。採石場跡での大規模な陥没事故も起き、観光も一時は衰退した。

1階のアートスペース。映像と音のインスタレーションが楽しめる(井上総合印刷提供)
長年、廃虚となっていた建物は、観光客でにぎわった昭和40年代にレジャー施設として開業した。浴場や宴会場を備え人気を集めたが、昭和60年ごろに廃業し、その後、放置されたというが、今年1月5日、「大谷グランド・センター」としてオープンした。同市に本社を置く印刷会社「井上総合印刷」の関連会社が建物と周辺の土地を購入し、両社の社長を務める井上加容子さん(56)が廃虚施設の再生を決断した。井上さんの背中を押したのは同社の創業者で会長を務める父、光夫さん(86)だった。

2階のレストランとカフェ(伊沢利幸撮影)
「イメージダウンになる」と購入
光夫さんは宇都宮市の隣、鹿沼市の出身で中学卒業後、宇都宮市内の印刷会社に就職。社員旅行で初めて大谷を訪れ、地域の文化や歴史、自然、また観光客のにぎわいに魅了されたという。20代で独立し、県内でも大手の印刷会社に育てあげた後も、大谷の思い出は消えなかった。
そんな大谷が一時、観光客が減り衰退する様子を目にし、再び観光客が訪れる地域へと復活させたいと、放置されていた大谷地区の土地を活用しようと購入。この土地の目の前にあったのが、廃虚の建物だった。
加容子さんも目にして「大谷地域のイメージダウンになる」。平成28年に周辺の土地とともに購入した。
「唯一無二の構造」と評価、再生へ
ただ、購入からオープンまで費やした期間は約9年間。途中、取り壊すことなども考えたというが、残す決めてとなったのは建物の珍しい構造。2階建ての建物は大谷石の岩山の上に建つ。地元の石工が大谷石を切り出し、そのスペースに直接建てられた。加容子さんは再現不可能な「唯一無二の構造」と評価し、再生を決めた。大幅な改修は避け木造部分などを解体する形で、アートと食を楽しめる空間としてリノベーションした。
大浴場があった1階はアートスペースと貸しギャラリーに。目玉は世界的に活躍するアーティスト、YOSHIROTTEN(ヨシロットン)による映像と音のインスタレーションの常設展示。当時の浴場の雰囲気や構造をそのまま生かした空間では大谷石や町の自然から着想を得た映像と音が楽しめる。
文化の拠点に
大広間があった2階はレストランとカフェ。栃木県出身の著名なイタリアンシェフとパティシエが監修した料理やスイーツが提供される。また屋上からは大谷地域が一望できる。
加容子さんは「この施設が演奏会やレセプションなど『何かをやりたい』と思ってもらえる文化の拠点として大谷地域全体のにぎわいにつながればうれしい」と話している。(伊沢利幸)