人類は地球外文明の電波信号を見逃しているかもしれない 恒星活動で信号が変化する可能性
地球外文明の信号や痕跡を捉える試み「SETI(地球外知的生命体探査)」は、これまで数十年にわたって行われてきましたが、いまだに明確な証拠は発見されていません。その理由については「2つの文明が同じ時期に近い場所で存在する可能性が低いから」「発達した文明の高度な手段を使った通信を今の人類は捉えられないから」など、様々な仮説が提示されています。
人類が地球外文明の電波を受信できないのはなぜなのか。今回、その新たな可能性を示す研究成果が発表されました。SETI研究所のVishal GajjarさんとGrayce C. Brownさんによれば、地球外文明の電波信号は彼らの母星となる惑星などが周回している恒星の活動によっていわば「ぼやけて」しまい、私たちには気付きにくくなっているかもしれないといいます。両名の研究成果をまとめた論文は学術誌The Astrophysical Journalに掲載されています。

【▲ NRAO(アメリカ国立電波天文台)の「VLA(Very Large Array=超大型干渉電波望遠鏡群)」(Credit: Jeff Hellerman, NRAO/AUI/NSF)】
宇宙天気の影響で電波信号が拡散されてしまう可能性
GajjarさんとBrownさんによると、信号を気付きにくくしている原因として考えられるのは「宇宙天気」、すなわち恒星の活動にともなう宇宙環境の変動だといいます。
SETIでは主に、地球外文明が発する電波信号の捜索が行われてきました。私たち人類自身が電波を大いに活用していることに加えて、情報の伝達を目的とした電波信号は自然界の電波とは異なり、極めて狭い周波数帯域(ナローバンド)を利用するという特徴を持つと想定されることが理由です。人工的かどうかを見分けやすいということは、信号に気付くことができるチャンスもそれだけ高まるはずだ、というわけです。
しかし、文明の母星から宇宙空間へ飛び出した電波信号は、母星が周回する恒星から放出された恒星風やコロナ質量放出といったプラズマの流れの中を通過することになります。両名は論文の中で、こうしたプラズマの乱れが電波信号の波を歪めることで、鋭かった周波数のピークが裾野の広い形へと拡散されてしまう現象(Spectral Broadening)が引き起こされる可能性を指摘しています。
簡単にまとめると、人工的な電波を見分けるための「狭帯域」という重要な手がかりが、恒星の活動によって失われてしまうのではないか、というのです。

【▲ 地球外文明の母星(緑)から地球へ向かう電波信号(青)が、恒星(オレンジ)の周囲の宇宙空間を通過する様子を示した模式図。恒星から放出されたプラズマの乱れを通過することで電波信号の波形が歪み、鋭かった周波数のピークが拡散してしまう現象(Spectral Broadening)を表している。論文から引用(Credit: Vishal Gajjar and Grayce C. Brown)】
従来のアルゴリズムでは“ぼやけた”信号は想定外
この現象は、現在のSETIにとって致命的な影響を及ぼす可能性があります。電波望遠鏡の観測データを分析するためのアルゴリズムの大半は、自然界の現象では発生し得ない特定の狭い周波数帯域だけが強い電波、言い換えれば「非常に鋭いスパイク状の電波信号」を見つけ出すように最適化されているからです。
GajjarさんとBrownさんが太陽系近傍の100万個の恒星系を対象に行ったシミュレーションでは、通常1Hz程度と想定される信号の幅が、観測する電波の周波数が1GHz(ギガヘルツ)の場合は30%以上の星系で10倍以上に、100MHz(メガヘルツ)の場合では60%以上の星系で100倍以上に大きく広がってしまうことが判明しました。
つまり、仮に地球外文明からの電波信号が実際に地球へ届いていたとしても、周波数帯域が広がってピークの強度が弱まった信号はノイズや基準外とみなされてしまい、見落とされている可能性が高いというのです。

【▲ 地球外文明の電波信号が「ぼやける」様子を示したシミュレーション。左の赤いグラフは本来の非常に鋭い電波信号を示している。一方、右の青いグラフは恒星の活動によって信号の帯域が広がり、ピークの強度が元の6%にまで弱まってしまった様子を示している。論文から引用(Credit: Vishal Gajjar and Grayce C. Brown)】
今後のSETIに向けた提言も
さらに、両名によるシミュレーション結果は、天の川銀河の恒星の約75%を占める赤色矮星(M型星)の周囲で特に起こりやすいことも示しています。赤色矮星の周囲では地球のような岩石惑星が形成されやすいと考えられており、SETIの重要なターゲットとしても注目されていることから、今後の捜索では電波信号が変化する可能性を考慮する必要が出てくるかもしれません。
GajjarさんとBrownさんは今後の探査を見据えて、建設中の電波望遠鏡群「SKA(スクエア・キロメートル・アレイ)」などの次世代観測装置を使用する際には、狭い帯域の電波信号だけでなく「少し広がった電波信号」に対しても感度を持つ、新しい探索アルゴリズムの構築が必要不可欠だと提言しています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
・SETI Institute - Why SETI Might Have Been Missing Alien Signals
・Gajjar and Brown - Exo–IPM Scattering as a Hidden Gatekeeper of Narrowband Technosignatures (The Astrophysical Journal)