JR東海「リニア新幹線工事」沿線各地で新たな局面

リニア中央新幹線の工事で、神奈川県駅から名古屋方面へ向けてのトンネル掘削に使用するシールドマシン(記者撮影)
JR東海が建設を進めるリニア中央新幹線は、1月24日に静岡県とJR東海が国土交通省立ち会いの下で、南アルプストンネル工事により、大井川流域の水利用への影響が生じた場合の対応に関わる補償確認書を締結した。
【写真はこちら】▶建設が進む巨大な地下駅の「神奈川県駅」や名古屋方面に掘り進む「シールドマシン」▶「山梨県駅の完成イメージ」と起工式の様子など▶各地で新たな局面を迎えたリニア中央新幹線工事の現在
品川から名古屋までの沿線で唯一、工事が始まっていなかった静岡県でも、着工に向けての大きな一歩となった。
水資源の補償に関する合意に続き、2月13日には事務所設置や用地造成などのヤード整備に関わる自然環境保全協定が県とJR東海の間で締結された。工事範囲が一定面積を超える場合は、事前に県と自然環境保全協定を結ぶ必要があり、2025年8月にJR東海が協議を求めていた。
静岡「ヤード整備」へ協定締結
ヤード整備は本体工事でなく、あくまで準備段階の工事にすぎないが、本格工事に進むための重要なステップである。締結式後の囲み取材で、平木省副知事は「(1月24日に)知事、JR東海社長、国交省の事務次官との間で、水資源の補償に関する確認書を取り交わして頂いたが、こちらも約束事を明文化するということで非常に重要なことだと思っている」と述べた。
報道陣からは、「水資源の補償確認書、自然環境保全協定と立て続けに締結が行われ、年内に着工かという報道も出る中で、(環境影響評価に関してJR東海との対話を行う)専門部会が冷静な判断をできるのか」という質問も出た。
これに対して、平木副知事は「スピードが速いのではないかと思っている人も多いと思うが、非常に長い期間、議論を積み重ねてきて、ここで一定の取りまとめができたと理解している」「そのような心配はないと思う」と説明した。
静岡工区以外にも、沿線各地で続々と進展が見られる。
2月27日、神奈川県駅(仮称:神奈川県相模原市)から名古屋方面に掘進するシールドマシンの組み立てが完了し、報道陣に公開された。神奈川県駅は地下駅で、JR・京王の橋本駅のすぐ近くで2019年から建設が進められている。

工事が進むリニア中央新幹線の神奈川県駅(記者撮影)
幅50m、深さ30mの巨大空間
建設現場に設置された桟橋の上に立つと、眼下に巨大な空間が広がる。掘削により駅部延長約680m、最大幅約50m、深さ約30mという“外枠”を構築し、そこに駅構造物を建設する。外枠の大半は地上から掘削し、駅構造物の完成後に埋め戻される。現在は駅構造物の建設中。「駅は3層構造で、いちばん時間がかかる軌道階の部分で作り終えたところが出始めている」と、JR東海中央新幹線建設部土木工事部の吉川太郎担当部長が説明する。
周囲を見渡すと、至るところに鉄骨や鉄筋コンクリートがあふれる、いかにも建設現場という景色だが、構造物を眺めていると、「ここにホームができる」「ここをリニア車両が走る」という将来の姿が想像できる。ホーム2面、線路4線が設置される計画だ。
2つのホームの間に上り本線、下り本線の2本の本線があり、上りホームと下りホームの両脇に副本線がある。基本的には列車は副本線側に停車する。「列車は本線上を時速500kmで通過し、上り列車と下り列車がすれ違う際には時速1000kmに達する。風圧対策として、しっかりした壁でホームを防護する必要がある」。JR東海のスタッフからこんな説明があった。
神奈川県駅の工期は2027年3月まで。JR東海は「工程が厳しくタイトな状況であるが、引き続き早期の完成を目指して全力で取り組む方針に変わりはない」と説明する。予定どおり完了するかについては、「今後工事の状況に応じて工期の変更を検討していく。工期を変更する際には、工事に関係する地域の皆様とよくコミュニケーションをとって進めていく」という。
工事現場の最深部から名古屋方面に少し歩くと、巨大なシールドマシンが姿を現した。延長約3.6kmの第二首都圏トンネルを掘削するための機械である。カッターヘッドと呼ばれる先端部分がぐるりと回転することによって、カッターヘッドに放射線状に取り付けられた562枚の鋼鉄製のカッタービット(刃)が土を削っていく。削られた土はスクリューコンベヤーで後方に運ばれていく。
マシンの外径は約14.0m、長さは約14.2m。その巨大さゆえに地上から地下に運び入れることはできない。地上からは部品を持ち込み、地下で組み立てる。マシンが動き出せば1日平均約20m、1カ月平均約400mのペースで掘進する予定だ。

リニア中央新幹線第二首都圏トンネルを掘削するためのシールドマシン。人の身長と比べると巨大さがわかる(記者撮影)
シールドマシンの「色」の理由は?
ということは、1年とかからず掘進が完了することになるわけだが、この日はスケジュールに関する説明はなかった。第二首都圏トンネルの工期は今年9月までとなっているが、JR東海は「第二首都圏トンネルの施工にあたっては区分地上権設定が必要であり、当該路線直上に土地をお持ちの方々にご協力をいただき、できる限り早期に掘進工事を開始したい」と説明する。その後、「工事の状況に応じて工期を変更することを検討している」という。神奈川県駅と同様、「工期を変更する際は地域とコミュニケーションをとりながら進めていく」としている。
2020年10月に東京外環道のシールドマシンによるトンネル工事が原因で道路が陥没する事故が起きた。マシンが掘削土を過剰に取り込んで地中に空洞が形成されたことが事故の原因だった。同じような事故は起きないのか。この点について吉川部長に尋ねると、「掘削にあたってはそのようなことが起きないように掘削した土の量と、後ろに出た土の量をしっかりと管理することで、過剰な取り込みを防ぐ形で、安全に工事を進める」とのことだった。
シールドマシンの先端部分は白い塗装が施され、ブルーの柱の上にオレンジのカッタービットという配色。白とブルーは東海道新幹線をイメージする色であり、オレンジはJR東海のコーポレートカラーだ。この配色について現場の担当者に指摘すると「たまたまです」と述べていたが、吉川部長にも尋ねてみたら、「よくわかりましたね」とニヤリと笑った。

白と青、オレンジの塗装のシールドマシン先端部分(記者撮影)
3月11日には品川―名古屋間の6駅で唯一未着工だった山梨県駅(仮称:山梨県甲府市、中央市)の起工式が行われた。神奈川県駅と異なり、地上に設けられる。延長約1200m、高さ約32m。4階建ての巨大構造物となる。ホーム2面、線路4線という構造は神奈川県駅と変わらない。工期は2031年12月までの予定だ。
県によれば、リニア開業後の山梨県駅は東京都心から約25分、名古屋から約45分で結ばれる。それだけではなく、駅は中央自動車道に直結するスマートインターチェンジ(SIC)や新山梨環状道路にも近いことから交流可能な範囲が拡大し、鉄道と道路を組み合わせた波及効果は広域に及ぶ。駅は自動車との結節を重視し、交通広場を設けてSICと直結させるほか、パークアンドライド機能とつながる動線を設ける計画だ。
起工式で挨拶に立った長崎幸太郎知事は「山梨県のポテンシャルを最大限に引き出すために停車本数の十分な確保を実現していきたい」と述べた後に、県が検討を進める新交通システム「富士トラム」によって山梨県駅と富士山を直結させる構想についても改めて意欲を示した。

リニア中央新幹線山梨県駅の起工式=2026年3月11日(記者撮影)
甲府駅とのアクセスはどうなる?
起工式後の囲み取材で甲府市の樋口雄一市長は富士トラムへの期待について「構想としては知事のご挨拶にもあったが、詳細についてはまだつまびらかにされていないので、今後情報をしっかりと共有していきたい」と語るにとどめたが、「山梨県駅が富士山に向かう新たなゲートウェイになるのは間違いない」としたうえで、「既存の甲府駅や身延線とのアクセスについても期待をさせていただきたい」と述べた。

リニア中央新幹線山梨県駅の起工式会場。駅予定地から東京方面を望む(記者撮影)
甲府駅と山梨県駅は約7km離れており、朝夕の道路が混み合う時間帯は車で30分程度かかる。山梨県駅に最も近い在来線の駅は身延線の小井川駅(中央市)である。小井川駅は無人駅で利用者も決して多くないが、リニア開業後は在来線との結節機能という役割が期待される。それだけにアクセス手段の構築が重要になる。
中央市の望月智市長は「山梨県駅と小井川駅をつなぐアクセスはこれからの議論になってくるが、交通の結節機能として重要な役割を果たす。県と協議しながら取り組んでいきたい」と述べた。そうなれば駅周辺を整備する必要も出てくるが、この点について望月市長は「具体的な構想はないが、JRとも協議していきたい」と述べた。また、「身延線が単線でいいのかという問題もある。どういう利用ができるのかについても検討していきたい」と述べた。
駅やトンネルの建設だけではなく、運行保守の技術面でも進展が見られた。2月9日、超電導リニアの設備を検査するロボットの試作機「ミネルヴァ」が公開された。
このロボットはJR東海、自動車メーカーのスズキ、自律移動システムなどを手がけるパナソニックアドバンストテクノロジー(PAD)の3社による共同開発。現在、山梨リニア実験線には分岐装置や乗降装置などの設備が点在している。作業員にとっては点検箇所まで移動し、狭い場所で体に負荷のかかる姿勢で点検するといった負担を伴う。
そこで将来の労働力不足を見据えて、設備検査ロボットの導入を決めた。「検査の精度を高いレベルで保ちながら、作業の効率化を図りたい」(JR東海中央新幹線推進本部リニア開発本部の鳥居昭彦担当部長)。

リニアの設備を検査するロボットの試作機「ミネルヴァ」。黄色い色は新幹線の「ドクターイエロー」をイメージしたという(記者撮影)
ロボットの黄色は「ドクターイエロー」
ミネルヴァはスズキが開発中の多目的電動台車「MITRA(ミトラ)」の技術を採用し、段差のある場所や砂利敷きの箇所のような不整地における走行が可能だ。「ヒューマノイドロボットがたくさん出てきているが、耐久性、信頼性、メンテナンス性、消費電力などを考えると4つのタイヤが現実解だ」とスズキ次世代モビリティサービス本部の藤谷旬生本部長が話す。
ミネルヴァはPADの開発した自律移動システムを用いて点検箇所まで移動して、長いアームの先端に取り付けられたカメラを使って外観検査を行う。「ガタガタした道を走れるロボットはなかなかない。これは完成形ではないので、現場の課題をどんどん吸い上げて改善していきたい」(PAD戦略企画室の髙橋三郎室長)。
まず山梨リニア実験線で実証を行った後に、効果が見込めれば複数台の導入を検討する。黄色い親しみやすいデザインは「新幹線のお医者さん」として知られる「ドクターイエロー」をイメージした。今から10年以上先の話になるが、リニアが開業すれば、沿線各地でこの黄色いロボットが活躍している姿を見ることができるかもしれない。