仏教系大学は全国に何校あるのか? 駒澤大学、龍谷大学、佛教大学、大正大学……他に意外な名前も

浄土宗の宗門大学、佛教大学(京都市)
(鵜飼秀徳:僧侶・ジャーナリスト)
全国の寺院では、およそ4割で後継者が定まらないなど仏教界は深刻な後継者難にある。これまで僧侶の育成を担ってきたのは仏教宗派が母体となった宗門大学だが、多くが定員割れという危機に瀕している。古くから宗教エリートを生み出してきた異色の教育機関が過渡期にある中、生き残りをかけて新学部設立を打ち出す大学も現れている。宗門大学は時代遅れか、それとも新たな価値を生み出せるのか──。
わが国における仏教教育の歴史は、平安時代初期(828年)に空海が開いた綜藝種智院(現在の種智院大学)にまで遡る。種智院大学は、前身機関を含めれば日本最古の大学だ。つまり、わが国の教育の原点を辿れば、仏教に行き着く。
室町後期から江戸時代にかけて、各宗派は自主的に「学林」「檀林」などと呼ばれる僧侶養成機関を整備し、宗内の人材育成を担うようになった。この学林・檀林が、明治・大正期の近代化と組織改編に伴って、宗門大学へと成長していったのである。当時、国内でキリスト教系学校が続々と開校していったことに対する仏教界の焦りも、数多くの仏教系大学が設立される背景となった。
伝統的な宗門大学には仏教学部が置かれ、僧侶(教師)資格を目指す者の登竜門となっている。入学資格は寺の子弟に限らない。在家の者も所定の単位と修行を修めれば、僧侶資格が取得できる。
現在、多くの宗門大学は総合大学化している。仏教学部の他に人文科学・自然科学の各学部が設置され、社会に広く開かれている。
例えば、箱根駅伝出場の常連、駒澤大学は曹洞宗の宗門校だが、7学部と17学科を有する。同様に、関西の主要私立大学の一角を占める龍谷大学は浄土真宗本願寺派(西本願寺)の宗門校だが、文系・理系の両方の学部を有している。2027年には環境と情報に特化した2つの新学部を設置予定である。さらに浄土宗の佛教大学では2026年度より、看護学部看護学科が開設される。

西本願寺に隣接する龍谷大学の校舎は重要文化財(京都市)
宗門大学では、仏教学部に在籍していれば、僧侶資格を得るための単位取得が可能になる。ただ、僧侶資格は各宗派が独自に認定するため、大学の卒業をもって自動的に資格取得とはならない。在学中、もしくは卒業後に「加行」と呼ばれる修行を終え、宗門に教師登録をすることで正式に僧侶(教師)となれるのだ。
「保守本流」と「一般ルート」僧侶資格を得る2つの方法
寺の子弟に生まれた将来の後継候補の多くが(宗派によるが、寺の子弟のうち7〜8割程度が)宗門大学に入学する。仏教界で活動する際には、宗門大学出身者は多くの面で優遇されるからだ。宗門大学は、僧侶になるための「保守本流」のルートとして機能してきた。
例えば、高野山大学はウェブサイトで「次世代の真言密教を担うリーダーを育てる、僧侶人材の宝庫」と宣言しており、宗内のエリート育成拠点としての自負が見え隠れする。平たくいえば、宗門の「ライン」に乗りたければ宗門大学を、できれば大学院まで出て僧階を上げ、宗門内部の要職についていくことがエリート僧侶の王道だ。
仏教界の組織は自衛隊組織にとても似ている。自衛隊幹部になるための本流は、防衛大学校を出て自衛官になり、さらに階級を上げていくことだ。仏教界と自衛隊のふたつの組織は、肉体的・精神的な修練(修行)が必要なうえ、閉鎖的かつ階級社会である点が酷似している。
なお、僧侶資格を得る別の方法として宗門大学に入学しないルートもある。筆者がそうだ。宗門校以外の学校を出た者も修行道場に入って宗教学・仏教学・宗学などの学問を修め、最終的に加行を満じれば僧侶になることが可能だ。
たとえば、定年退職後に仏道に入りたい者や、自坊の経済力では食べていけないため一般企業に就職する必要がある場合などがこちらの「一般向けルート」となる。ただ、一般向けルートはどちらかといえば傍流である。
いずれにしても「僧侶」になるには、かなりの時間と修練、そして費用が必要になる。
余談になるが、しばしば著名人が「僧侶」を名乗るケースがある。だが、それは、あくまでも「得度(修行に入るための前段階=小僧になる)」を受けたに過ぎないことが多く、正式な僧侶(教師)とは定義されない。
「自称・僧侶」は、律令制度下での「私度僧」のようなもの。真面目に僧侶になろうとしている者に対して失礼に当たることはもちろん、宗教的な規律が崩壊することにもつながり、あまり好ましいことでない。
大学の話に戻そう。仏教宗派が設置母体となっていながらも、僧侶養成機関を置かない大学も存在する。たとえば、東北福祉大学(曹洞宗)、埼玉工業大学(浄土宗)、淑徳大学(浄土宗)、名古屋音楽大学(真宗大谷派)、京都女子大学(浄土宗本願寺派)などである。
その他に、複数の宗派の連合体で運営されている大学がある。東京・西巣鴨の大正大学などだ。大正大学は浄土宗、天台宗、真言宗智山派、真言宗豊山派、時宗の5つの宗派が運営に参画する珍しい形態の大学だ。大正大学では、僧侶資格取得が可能である。

真宗大谷派の宗門校、大谷大学(京都市)

2027年度以降の募集を停止した京都華頂大学(浄土宗、京都市)
まとめると、仏教系大学は現在、主に3つに分類される。①僧侶養成課程を有する宗門大学、②僧侶養成課程を有さないが、宗門が設立母体になっている大学、③複数の宗門、もしくは超宗派で設置された大学──である。
では、わが国にどれくらいの仏教系大学があるのだろうか。
定員割れが続く仏教学部
1994年に設立された「仏教系大学会議」に加盟している大学は57校に及んでいる。
地域でいえば、本山が多く存在する近畿地方が23校と最多だ。名称だけでは仏教系とは判別できない大学もある。鶴見大学や愛知学院大学、東海学園大学、名古屋造形大学、京都文教大学、くらしき作陽大学、筑紫女学院大学なども仏教系大学である。
宗門大学が果たしてきた役割は僧侶養成にとどまらない。仏教学の発展を支えた学者の多くは、宗門大学を拠点としてきた。数多くの宗門大学には、伝統に裏打ちされた知の集積と、優れた仏教学者が在籍し、世界的にも高いレベルにある。
また宗門大学は近年、宗教者の育成だけではなく、仏教に紐づく分野に多くの人材を輩出してきている。特に、社会福祉士・保育士・教員などである。
佛教大学は長年、近畿圏の学校教員養成の実績を積んできた。東北福祉大学は介護・福祉人材の供給拠点として地域に根づいている。大正大学は近年、地域創生と仏教文化財のデジタルアーカイブなどに注力している。「仏教的人間観」を教育の基盤に置くという建学の精神が、こうした社会貢献型人材の育成にも影響を与えてきたといえる。
だが昨今、宗門大学は深刻な危機に直面している。中でも顕著なのが、大学の「顔」である仏教学部の定員割れだ。知名度の高い駒澤大学などでは充足率を維持しているものの、立地条件が悪く、小規模な宗門校の仏教系学部・学科は定員割れが続いている。
高野山大学や身延山大学など小規模な宗門専門大学では、慢性的な定員割れが経営基盤を揺るがしている。浄土宗総本山知恩院のお膝元にある京都華頂大学は、2027年度以降の募集を停止することを発表した。
宗門大学の危機の原因は「少子化」だけではない。根源的な問題として、「寺院の後継者」となるべき若者が減少していることにある。
年間収入500万円以下の寺院が全体の過半数
浄土真宗本願寺派が2021年に実施した宗勢調査では、「後継者が決まっている」と回答した寺院は44%にとどまる。浄土宗は52%、日蓮宗は55%で、他宗派も同様の水準と推測されている。若者が寺を継がない理由の根幹は、僧侶になっても「食べていけない」からである。
年間収入500万円以下の寺院が全体の過半数に達するという調査結果もあり、経済的な自立が難しいこと、都市部でのキャリアへの魅力、そして寺院そのものへの忌避感が重なっている。
後継者不在の寺が増えれば、宗門大学の仏教系学部に入学する「寺院子弟」も必然的に減少する。しかも、仮に子弟が存在したとしても、大学進学を機に都市部に出て一般企業に就職し、寺に戻らないケースが後を絶たない。
「寺に戻らない」問題は、仏教系大学で4年間学ばせても解消されないケースも多く、宗門大学の存在意義を根底から問い直す問題になっている。
宗教学・仏教学・宗学という学問分野が「就職に結びつきにくい」という社会的な評価も、受験生離れに拍車をかけている。2015年の文部科学省による人文社会系学部の見直し通知以降、「実学志向」の流れが加速した。仏教系学部はモロにその直撃を受けている。
だが、昨今のイラク戦争やウクライナ戦争などの国際的政情不安、国内に目を転じれば孤独死問題など、仏教の教えや死に対する思想が今ほど求められる時代はない。坐禅・瞑想・グリーフケア・死生学など、むしろ歳を重ねた大人のための学びと実践の舞台が宗門大学にはある。ゆえに「僧侶養成学校」だけにとどまっていては、宗門大学の未来はやってこない。
鵜飼秀徳(うかい・ひでのり) 作家・正覚寺住職・大正大学招聘教授 1974年、京都市嵯峨の正覚寺に生まれる。新聞記者・雑誌編集者を経て2018年1月に独立。現在、正覚寺住職を務める傍ら、「宗教と社会」をテーマに取材、執筆を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』『仏教の大東亜戦争』(いずれも文春新書)、『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)、『絶滅する「墓」 日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)、『ニッポン珍供養』(集英社インターナショナル)など多数。大正大学招聘教授、東京農業大学非常勤講師、佛教大学非常勤講師、一般社団法人「良いお寺研究会」代表理事。公益財団法人日本宗教連盟、公益財団法人全日本仏教会などで有識者委員を務める。
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