モスバーガー「外国人幹部育成」への嫌悪感の正体

モスバーガー「ベトナム人の幹部人材育成」への反発, 「外国人材」の採用理由は多様化している, 外国人の管理職登用は「離職防止」にもつながる, 「外国人上司」と日本人部下はなぜすれ違うのか, 「外国人管理職」が全体の1割近くを占める時代が来る?

モスバーガーの「ベトナム人材を幹部候補生として育成」のニュースが物議を醸している(撮影:東洋経済)

いま、企業の外国人の受け入れをめぐる議論が活発化している。

【画像】モスバーガーが以前から推進していた「ベトナムカゾク」

「外国人材は貴重な戦力」とする積極的な賛成論から、「人手不足解消のためにやむなし」とする消極的な賛成論、さらには、「日本の文化や雇用が脅かされる」とする反対論まで、さまざまな意見が飛び交っている。

モスバーガー「ベトナム人の幹部人材育成」への反発

こうした議論を見ていると、立場は違っても、ある共通の前提があるように思える。それは、「外国人は日本人の下で働く存在」という見方だ。とりわけアジアから来る人材に対しては、こうした認識が根強く残っているように感じる。

先日、モスバーガーがベトナム人材を店長や幹部候補として育成するニュースが、SNSで炎上した。一部では、不買を呼びかける動きも見られたという。

その背景には、日本人の雇用が軽視されているのではないかという反発があるのだろう。だが同時に、現場の労働力とみていた外国人材が「幹部候補」として扱われることに、違和感を覚えた人も少なくなかったはずだ。

とりわけ、モスバーガーのような外食業の中核企業が外国人を幹部として育成するとなると、その違和感は一気に大きくなる。

実際、SNSやネット上では次のような声が多く見られた。

「日本人と衛生意識が違う人に、店舗管理をまかせて大丈夫なの?」

「人手不足の穴埋め要員ならわかるけど、なんで店長候補なんだよ!」

「日本人従業員を差し置いて、外国人を最初から幹部前提で採用するっておかしくない?」

外国人を「部下」としては受け入れられても、「上司」となると抵抗を感じる人が少なくないのだろう。つまり、「補助的な労働力」としては容認できても、「上に立つ存在」としては受け入れにくいという意識のギャップがある。

しかし実際には、こうした変化は着実に広がり始めている。一部の現場では、外国人がリーダーや管理職に就くことも、もはや珍しくなくなりつつあるのだ。

「外国人材」の採用理由は多様化している

外国人材の採用理由は、すでに「人手不足対策」だけではない。企業の成長を支える戦略の一部になっている。

厚生労働省の調査を見ても、「労働力不足の解消・緩和のため」が最も多い一方で、「日本人と同等またはそれ以上の活躍を期待して」が54.7%にのぼる。さらに、「事業所の国際化や多様性の向上」や「日本人にはない知識や技術の活用」を目的とする企業も少なくない。

ちなみに前出のモスバーガーでも、人手不足の解消に加え、「アジアに進出する際の基幹人材の育成」を採用理由としている。

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外国人労働者を雇用する理由

高度外国人材(専門的な知識や技術を活かして働く外国人)に限ると、この傾向はいっそう明確だ。日本貿易振興機構(JETRO)の調査では、「多言語対応できる外国人材の確保」や「海外展開における営業力強化」が、「人手不足の解消」を上回っている。

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高度外国人材の採用理由

このデータからも明らかなように、外国人材はもはや単なる補充要員ではなく、企業の成長を担う戦力として位置付けられつつある。日本人・外国人を問わず、能力重視で採用する動きも着実に広がっている。

その結果、外国人材には現場で働くだけでなく、組織の中核を担い、チームを率いる役割も求められるようになっている。優秀な人材を管理職として登用するのは、自然な流れといえる。

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モスバーガーを運営するモスフードサービスは、2019年から、ベトナム国立ダナン短期大学と現地の送り出し機関と連携して「ベトナムカゾク」と名付けた教育プログラムを実施していた。写真は、店舗で活躍するベトナム人材を紹介した記事(画像:モスバーガー公式サイトより)

外国人の管理職登用は「離職防止」にもつながる

企業が外国人材の管理職登用を進める理由は、それだけではない。

従業員数2000名を超える大手工作機器メーカーで、人事マネージャーを務める中村史郎さん(仮名)は、次のように語る。

「当社では当初、人手不足の解消を目的に外国人従業員の採用を始めました。しかし人数が増えるにつれて、日本人上司によるマネジメントの負担が大きくなりました。言語や文化の違いもあり、現場をまとめるのが難しくなったからです。そこで現在は、外国人管理職の登用も進めています。彼らがマネジメントを担うことで、やり取りの負担は大きく下がりました」

外国人材の人数が増えれば、従来のマネジメントでは対応しきれなくなる。そうした中で、現場をまとめる役割として、外国人管理職を登用する動きが広がっているのだ。

さらに、定着という観点からも、管理職登用は重要な意味を持つ。中村さんはこう指摘する。

「外国人材を管理職に登用するようになってから、離職率が下がりました。それまでは、『日本人だけが上に行く』構図に不満を感じる人も少なくありませんでした。しかし、努力次第でキャリアアップできることが明確になり、仕事への意欲も高まっています。

また、外国人管理職は、ほかの外国人材にとってのロールモデルにもなります。その結果、『この会社にはキャリアアップの可能性がある』というメッセージも伝わるようになりました」

実際、高度外国人材が早期に離職する企業には、いくつかの共通点がある。

 

・外国人材のキャリアパスが見えない

 ・外国人には昇進の機会がない

 ・日本人だけが上に行く構造が固定化されている

このような環境では、将来のキャリアを描きにくく、成長意欲の高い人ほど離職しやすくなる。

背景には、昇進やキャリア形成に対する価値観の違いがある。パーソル総合研究所の調査によれば、日本で働くアジア出身の人材は、日本人と比べて「管理職になりたい」と考える割合が大幅に高い。だからこそ、社内にキャリアアップの道筋を示すことが、意欲を引き出し、定着を促すうえで重要になるのだ。

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管理職になりたい人の割合

「外国人上司」と日本人部下はなぜすれ違うのか

外国人材の管理職登用が進めば、日本人が部下となる場面も増えてくる。とくに、パート社員や再雇用のシニア層が部下になるケースは珍しくない。

こうした実情について、埼玉県の食品製造工場で、パート社員として働く佐々木洋子さん(仮名)に話を聞いた。佐々木さんは、いまネパール人の上司のもとで働いている。

「最初は少し抵抗がありました。それまでネパール人と接したことがなかったからです。でも、いまは彼を信頼していますし、指示にもきちんと従っています。正直、日本語以外の能力は、すべて私より上だと思っています」

一方で、職場内には違う受け止め方もあるという。

「彼を快く思っていない人もいます。『なんで外国人に命令されなきゃならないんだ』と、不満を口にしています。50代以上の人が多いですね。これまで外国人と接する機会が少なかった世代ほど、戸惑いが大きいのかもしれません」

さらに、コミュニケーション法の違いも課題として挙げる。

「言い方が、年上に対しては少しきついと感じることがあります。また、日本人特有のあいまい表現や、言葉の裏にある意図をうまく読み取れず、認識がずれたまま仕事を進めてしまうこともあります。私たちの側も伝え方を工夫する必要があるのでしょうが、彼にストレスを感じている人がいるのも事実です」

こうしたコミュニケーション法の違いは、外国人管理職が日本の職場にうまく適応できるかどうかを左右する重要な要因となる。

問題の本質は、個人の能力の差にあるわけではない。「日本語特有のあいまいさ」や「言わなくても伝わる」という職場の前提そのものが、今後は大きな課題として浮かび上がってくるだろう。

「外国人管理職」が全体の1割近くを占める時代が来る?

外国人管理職は、今後さらに増えていくのか。外国人材の適正な受け入れを推進する「外国人雇用協議会」の理事、菅沼基さんは次のように語る。

「在留資格(いわゆる就労ビザ)によって、働ける期間や仕事内容に制限があるので、すべての外国人に管理職への道が開かれているわけではありません。ただし、組織の外国人従業員の比率が高まれば、それに応じて管理職に登用する企業が増えていくのは、自然な流れでしょう。

国の推計では、将来的に外国人が、人口の1割に近づく可能性があると指摘されています。こうした前提に立てば、企業内における外国人の比率も高まり、外国人管理職が全体の1割近くを占めるようになっても、おかしくありません」

こうした動きは、もはや一部にとどまらず、社会全体に広がっていく流れといえる。

これからは、外国人が上司になることが当たり前の時代になる。外国人を受け入れるとは、単に労働力を補うことではない。「将来、上司になるかもしれない人」を受け入れることでもあるのだ。