【独自】「小泉備蓄米」引き渡しいまだ完了せず 財務省の備蓄米「制度改変」もホルムズ海峡封鎖で迫る深刻な危機

■農水省の説明は本当か, ■備蓄米で高い米が売れなくなる, ■「輸送の遅れ」を理由に始まる民間備蓄, ■中国はリン酸肥料の輸出を停止か

 2025年、随意契約により国が放出した備蓄米――「小泉米」の一部が、いまだにスーパーなどの小売業者に引き渡されていない。国は、「迅速に米を放出できる仕組みが必要」として、民間備蓄制度の導入を目指しているが、それは表向きの理由にすぎないようだ。

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「うちは備蓄米80トンを昨年6月上旬に国に申し込んで、7月上旬から米が届き始めた。8月末までに販売を終了することが買い受け条件でしたから、大急ぎで販売期限までに売り切った。ところがその後、販売期限がなし崩し的になくなりました。あの苦労は何だったのか。正直、『ふざけるな』という感じです」

 そう語るのは、首都圏で老舗米店を営む小島敏郎さん(仮名)だ。

 昨年5月下旬、小泉進次郎農林水産相(当時)は、「国との随意契約によって備蓄米を、店頭で5キロ2000円程度で販売できるようにする」として、備蓄米、いわゆる「小泉米」の放出を開始した。

 農水省は計906社と27万9976トンの契約を結んだ(25年9月30日時点)。

 だが、今年3月下旬、農水省に取材したところ、同月19日時点で、契約した27万9976トンの約2%にあたる5600トンほどが、契約先の小売店などに引き渡されていないという。

■農水省の説明は本当か

 農水省の担当者によると、いまだに引き渡しが終了しない背景には、二つの要因があるという。

 一つ目は「輸送面で課題が生じた」(農水省の担当者)ことだ。

 「小泉米」の販売は昨年5月下旬から始まったが、当初の販売元はイトーヨーカ堂、イオン、ドン・キホーテなど、一部の事業者にとどまった。備蓄米倉庫からの「出庫がパンクした」(同)からだ。

 それ以前の江藤拓氏が農水相時に一般競争入札で放出された備蓄米、いわゆる「江藤米」約31万トンと、随意契約による小泉米約28万トンの出庫が重なった。その結果、米を運ぶトラックやフェリーなどの手配が間に合わなくなったという。

 昨年8月20日時点で引き渡しが完了した小泉米は 18万トン(全体の約64%)。8月末を販売期限とすることが厳しくなり、期限を設けず備蓄米を販売するようになった。

 秋になると、今度は「新米と備蓄米の精米が重なった」(同)

 これが二つ目の要因だという。備蓄米は玄米で倉庫に保管されているため、販売前に精米する必要がある。

 農水省の担当者によると、備蓄米の引き渡しが終わっていないのは、主に精米や袋詰めの施設を持たないスーパーだという。

「精米や袋詰めを卸売業者などに委託する申込者(小売業者)が多かった。卸売業者は新米についても同様の作業をするので、精米された米が届くまでに時間を要した。これらの要因で、現在の進捗状況になっていると思われます」(同)

 しかし、冒頭の小島さんはこの説明に首をかしげる。現在は26年3月。新米の時期はとっくに過ぎているからだ。

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■備蓄米で高い米が売れなくなる

 なぜ今も小売業者に届かない備蓄米があるのか。

「安い備蓄米をスーパーの棚に大量に並べたら、昨年秋に収穫された高い米が売れなくなってしまう。小売業者は、精米を依頼した卸売業者から白米の引き取りの量を意図的に絞っているのでしょう。だから、限られた量の備蓄米がだらだらと市場に出続けている」(小島さん)

 備蓄米の販売のピークは、新米が出回る前の昨年7月から8月にかけてで、1週間当たり1万3000トン前後だった。しかし、昨年12月からは2000~3000トン程度にとどまっている。

 農業経済学が専門の東京大学大学院・鈴木宣弘特任教授も同様の見方をする。

「小泉米は放出時、『値下げ効果』が期待されましたが、米の値段は二極化した。消費者の米離れが進み、高値の25年産米は売れず、在庫が積み上がった。小売業者からすれば、安い備蓄米を多くは売りたくない」(鈴木特任教授)

 あるいは、出したところでもはやニーズはないと考えているのかもしれない。精米すれば、おいしく食べられる期限は1カ月ほどになり、売り切れなければ廃棄するしかなくなる。

■「輸送の遅れ」を理由に始まる民間備蓄

 鈴木特任教授が懸念するのは、今回、「輸送手配などに時間を要した」ことを理由に、国が米の民間備蓄制度の導入を目指していることだ。適正備蓄量100万トンを維持したまま、卸売業者などに備蓄を義務づける。政府は保管料を補うことで協力を促す。26年度に5万トンで実証実験を行い、28年度から制度をスタートする。備蓄米全体の2割、20万トンを民間業者が保管する予定だ。

 しかし、鈴木特任教授は、「『不足時に米を迅速に消費者へ届けるため』とは表向きの理由にすぎない」と指摘する。民間備蓄の目的は、“後付け的に”変化したからだ。

 米の民間備蓄制度の議論は3年前、「財政負担の軽減」を目的に財務省・財政制度等審議会(財政審)で始まった。

 財政審は25年11月、次のような提言をした。

「政府備蓄米の保管には年403億円の財政負担が発生しているが、流通段階にある民間在庫を『民間備蓄』として活用した場合、16億円で賄える」

 財政審の提言に対して、鈴木特任教授は、「国民の命を守る備蓄を『コスト削減』で語るのは本末転倒」とし、こう話す。

「政府備蓄米は『確実に存在する備蓄』ですが、民間備蓄米は『市場の状況で変動する在庫』であるため、危機時に米を確保できる保証がない」

■農水省の説明は本当か, ■備蓄米で高い米が売れなくなる, ■「輸送の遅れ」を理由に始まる民間備蓄, ■中国はリン酸肥料の輸出を停止か

■中国はリン酸肥料の輸出を停止か

 現代日本で「危機」は実際に訪れた。24年、米の供給不足を発端に「令和の米騒動」が発生した。

 そしていま、次の「危機」がはやくもまた迫りつつあるという。

 中東・ホルムズ海峡の事実上の「封鎖」だ。

 日本の稲作は「石油に依存している」(同)ため、原油の輸入が止まると、生産・流通・加工のほぼすべてに影響が出る。

「燃料代や肥料代が値上がりして、農家の経営は苦しくなる。コスト割れになれば、離農する人はますます増えるでしょう」(同)

 米農家の平均年齢は70歳を超え、「5年以内に米を作る人は大きく減少する」(同)という。米の生産基盤が急速に失われるうえに事実上の「減反」が進み、政府備蓄米も減少する。

「今、米農家で何が起こっているのかを把握して、急いで対策をとらなければならないのに、政府の方針は逆行している。日本の食料安全保障は崩壊の危機に直面しています」(同)

 もし、石油由来の生産資材が途絶えれば、米の収量は減る。たとえば、日本は稲作に必須なリン酸肥料の約6割を中国からの輸入に頼っているが、今月、中国は輸出を停止したと見られる。

 現在、米の備蓄量は約30万トンと低水準のままだ。仮に今年また米不足が発生すれば、続く円安下で外国産米を輸入するほか手段はないだろう。

 だが、石油由来の資源不足という状況は世界も同じだ。各国が自国の食糧供給を優先すれば、近い将来、米の確保は困難になる恐れがあるのだ。

(AERA編集部・米倉昭仁)

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