【特集】5年間の取り組みが将来につながる「進路プログラム」…普連土

  普連土学園中学校・高等学校 (東京都港区)は、中1から高2までの5年間を通した「進路プログラム」を実践している。生徒たちは、発達段階に合わせて設定されたテーマの中で自らの興味関心に応じた探究を行い、論文作成の基本とプレゼンテーション力を身に付ける。このプログラムを通して進路のヒントを見つける生徒もいるという。2023年度入試で、自らの探究を生かしてお茶の水女子大学に進んだ卒業生に話を聞いた。

論文作成力とプレゼンスキルを身に付ける

研究成果を下級生に向けて発表する上級生

 同校は、中・高ともに週1時間ある総合学習の時間に、「進路プログラム」を実施している。発達段階に合わせて大きなテーマがあり、中1では「『問いを立てる』とはどういうことか」、中2で「地域研究」、中3で「職業研究」と「社会科論文」、さらに高1で「学問分野研究」へと進み、高2の間にプログラムの集大成となる「研究論文」を仕上げる。生徒たちは、これらの段階を踏んだ大きなテーマの中で自分の興味関心に応じてテーマを見つけ、探究していく。

 なお、各研究成果は、中学では2000~3000字、高校では4000字程度の論文にまとめて提出することになっている。論文提出後は、クラス内発表だけでなく、上級生が下級生に向けて発表する機会も設けられており、プレゼンテーションスキルも身に付けられる仕組みだ。

 「進路プログラム」担当で社会科の今泉大輔教諭は、このプログラムの意義についてこう語る。「自分の興味関心に基づいて、知りたいことを調べるというのが大前提ですが、その過程で論文の基本的な書き方を学び、他者に分かりやすく伝えるための方法やスキルを身に付けてもらいたいと思っています。中学生にとって、論文の形式にのっとって書くことはかなり難しいのですが、早くから論文の書き方を学んでおけば、大学生になってからも必ず役に立ちます」

4年間積み上げた研究成果が学外でも評価される

「学校のプログラムの中に、進路について深く考える機会が用意されていてよかった」と話す栁田さん

 卒業生で、お茶の水女子大学文教育学部人文科学科比較歴史学コース3年の栁田 和(かず)音(ね) さんは、「進路プログラム」で意欲的に個人研究に取り組んだ。栁田さんは、中2の「地域研究」で、地元・千葉県佐倉市の給食をテーマに選んだ。その中でも津田塾大学創設者・津田梅子の父である、農学者の津田 仙(せん) に注目して研究を進めた。津田仙は栁田さんの地元である佐倉市出身で、小学生の頃からその名前と功績に慣れ親しんでいたことが、研究対象に選んだ理由だという。

 「佐倉市の小中学校では月1回、津田仙が日本に広めた西洋野菜を取り入れた給食が提供されます。その日のメニューは『津田仙献立』と呼ばれていて、市内の小中学生は全員が津田仙のことを知っています。また、普連土学園の校名の『普連土』という漢字を考案したのも津田仙です。津田仙とはいろいろ縁があるなあと思って、『地域研究』で調べてみることにしました」

 栁田さんは、「津田仙と上杉鷹山が現代の農業に残した大きな功績」という論文を書き、中3の「社会科論文」では日本の農業とその歴史に研究対象を広げて、「災害と食」というテーマで論文をまとめた。高1・高2の「研究論文」では、それまで積み上げてきた研究を基に、「西洋野菜の取り入れから考えるこれからの農業の残し方」という7000字弱の論文を書き上げた。この研究論文で栁田さんは、津田仙が西洋野菜を日本に広めた時の普及方法を例に挙げつつ、現代日本が抱える農業問題の解決策を提案している。

 さらに栁田さんは、今泉教諭に勧められ、高2の時に「第15回全国高校生歴史フォーラム」(奈良大学・奈良県主催)にも応募した。このフォーラムは「地歴甲子園」と言われる研究リポートの全国大会。第15回は全国の高校の個人・グループから88編の応募があり、「津田仙が本当に伝えたかったこと~明治時代の農業に関する仙の功績を中心に~」という栁田さんの論文は優秀賞に次ぐ佳作を受賞した。「私の研究は、フィールドワークではなく、文献を読み込んで考察を深めていくタイプの研究だったので、入選するのは難しいかなと思っていました。結果発表の時は、自分の名前が佳作の欄にあって驚きました。農業雑誌を始め、たくさんの史料やデータベースにあたって根拠を集め、多様な視点から考察したことが評価されたのだと思います」

 論文の指導にあたった今泉教諭は、「栁田さんの論文は、中2・中3の時の研究を踏まえて書かれていたので、考察に深みが出ていましたね。フィールドワークを重視する傾向がある大会のため、膨大な史料を読み込んでいくタイプの研究は入選しづらいという面があるのですが、そこで佳作を受賞したのは立派です。これも中1から『進路プログラム』に一生懸命取り組んできた成果だと思います」と目を細めた。

「進路について深く考える機会になった」

「進路プログラム」の意義について語る今泉教諭

 栁田さんは、大学入試でも「進路プログラム」で磨いてきた思考力や表現力を生かし、お茶の水女子大学の新フンボルト入試(総合型選抜)で見事に合格を勝ち取った。文系の新フンボルト入試は、1次選考は志望動機・活動報告書の提出だけでなく、大学の「プレゼミナール」の授業を受けてリポートを作成する、2次選考は図書館に1日こもって与えられた課題について小論文を作成する、というユニークな内容だ。

 中1からリポートや論文を書き続けてきた栁田さんにとっては取り組みやすい試験だったそうだ。「他大学ではあまり見かけない形式の試験だと思いますが、1次試験も2次試験も戸惑うことなく受けることができました。普連土ではクラス礼拝のための原稿なども含めて日常的にリポートを書いたり、論文作成に取り組んだりしていましたので、入試でも日頃の学びが役立ったと実感しています」

 栁田さんは現在、同大で歴史学を専攻している。農学と歴史学のどちらに進むかで迷った時期もあったが、津田仙についての研究が決め手となり、最終的に歴史学を選んだ。「自分とはまったく違う時代を生きた他人であっても、史料を通じてその人物を理解することができ、そしてそれが現代にある問題の解決策につながることもある。そこに面白さを感じたので、歴史学に進むことにしました。4年間、津田仙という人物を探究してたどり着いた結論です。学校のプログラムの中に、進路について深く考える機会が用意されていてよかったなと思います」

 卒業生の中には、農業や生物をテーマに探究を行い、そのまま農業系や生物系の学部に進学した人、経済・金融をテーマに探究を行い、総合政策学部に進学した人もいるという。一方、「進路プログラム」で取り組んだテーマが自分には向いていないと感じて別の進路を選んだ人もいるそうだ。「進路について向き不向きが分かるのも大事なことです。大学に進学してからミスマッチに気付くより、早い段階で自分の進路をじっくり考える機会があったほうがいい。その点で、『進路プログラム』は進路選択の一つのきっかけになっていると思います」と今泉教諭は語る。

 今後の「進路プログラム」について今泉教諭は、「栁田さんがそうだったように、興味を持って意欲的に取り組んでいる生徒が、学外で発表する機会を持てるよう、積極的に後押ししていきたいです」と語った。

 (文:岡崎智子 写真:中学受験サポート 一部写真提供:普連土学園中学校・高等学校)

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