EVの弱点をソーラーで補う? 日産「アリア」ベースの新コンセプト登場
太陽光でBEV(電気自動車)の弱点を補う。そんな発想を現実のクルマに落とし込んだコンセプトが登場しました。BEVは、普及が進む一方で、「充電インフラ」や「航続距離」に対する不安は、依然として大きな心理的ハードルとなっています。日産自動車は今回、クロスオーバーBEV「アリア」をベースに、ソーラーパネルを搭載したコンセプトモデルを発表しました。すぐに量産化される段階ではありませんが、既存の量産車を土台にしたこの試みは、「クルマ自らが電気を生み出す」という新しい解を提示しています。
■太陽光で走る!3.8平方メートルのパネルが生み出す可能性
このコンセプトモデルは、毎年1月26日の「クリーンエネルギーデー」にあわせて発表されたものです。開発を主導したのは、ドバイを拠点とする日産の先進プロダクト計画チームと、バルセロナのパワートレイン計画チーム。単なる展示用のショーモデルではなく、実環境での検証を前提とした「実験車」という位置づけです。
最大の特徴は、ボンネット、ルーフ、テールゲートに合計3.8平方メートルのソーラーパネルを一体化している点にあります。いわゆる後付けではなく、ボディと完全に融合したフラッシュサーフェス構造とすることで、アリア本来の空力性能を損なうことなく実現しています。
ボンネット、ルーフ、テールゲートに高効率ソーラーパネルが組み込まれている。後付け感はなく、フォルムは損なわれていないBEVにとって空力はそのまま電費に直結する要素です。単に「発電できる」だけでなく、「走りの効率を落とさない」という設計思想まで踏み込んでいる点は、このコンセプトの完成度を示している部分といえます。
このソーラーシステムには、オランダのソーラーモビリティ企業ライトイヤーの次世代パネル技術を採用しています。車体一体型ソーラーの開発で先行してきた同社の知見を取り込み、ポリマーとガラスをベースとした高効率セルが太陽光を直接、直流電力へと変換します。発電された電力は専用コントローラーによって最適化され、走行中・駐車中を問わずバッテリーへと蓄電される仕組みとなっています。
■「1日分の移動を太陽光でまかなう」という現実味
気になるのは「実際にどれくらい走れるのか」という点ですが、具体的なテストデータも公開されており、晴天時の実環境テストでは、最大で23km分の航続距離を追加できることが確認されたそう。条件が揃えば、日常のちょっとした移動を太陽光だけで賄うことも現実味を帯びてきます。また、日照量の多いバルセロナでの平均値では、1日あたり約17.6km分のエネルギーを創出できたといいます。
地域別のデータも興味深い内容です。ロンドンでは年間平均で1日約10km、ニューデリーでは約18.8km、ドバイでは約13.2km相当のエネルギーを太陽光から得られると試算されています。
オランダのソーラーモビリティ企業「ライトイヤー」社のロゴが見える。高効率ソーラーパネルのおかげで、曇りがちな地域でも実用的な効果が期待できる太陽光が届く場所であれば、特定の地域に依存するものではなく、日照条件に応じて「確実に効いてくる補助電源」として機能するといえます。充電インフラが整備された市場では利便性の向上に、インフラが不十分な地域では移動の自由度確保に寄与できる、理想のシステムといえます。
さらに年間走行距離が6000km程度のユーザーを想定した試算では、車両が日当たりのよい場所に駐車されていることを前提に、外部充電の回数を年間23回から8回まで削減できる可能性があるそう。片道数km〜10km程度の通勤であれば、平日の大半をプラグインなしでまかなえる計算になり、「充電を意識しない生活」に一歩近づく技術といえそうです。
■「電力の地産地消」は日産の長期戦略のカギとなるか
このコンセプトの本質は、「走行エネルギーの一部を自給できる」という点にあります。日産はこれ以前にも、軽BEV「サクラ」をベースにしたソーラー拡張型モデル「Ao-Solar Extender」を発表しています。こちらは駐車時にパネルを展開することで発電量を増やすというアプローチで、年間約3000km分の電力を賄える可能性が示されています。
日産が開発した「Ao-Solar Extender」。サクラをベースに、走行時にはルーフに格納されるソーラーパネルを搭載したコンセプトモデル今回の「一体型」とサクラの「拡張型」、2つの方向性を並行して模索している点からは、日産がソーラー活用の実用化を本気で考えていることが伝わってきます。もちろん、現時点ではソーラーだけで全ての電力を賄うのは困難です。しかし、一部でもエネルギーを自給できるBEVは、短距離移動や待機中の電力補填において、これまでの「充電習慣」を劇的に変える可能性を秘めています。
太陽の下に停めているだけで、明日走る分のエネルギーが溜まっている。そんな未来は、意外とすぐそこまで来ているのかもしれません。
このシステムが量産化されるなら、次世代のあらゆるBEVモデルに続々と搭載されるに違いないソーラーパネル搭載のアリアコンセプトは、EVが抱える課題に対し「車両自体がエネルギーを創り出す」という新たな解を提示しています。量産化にはなお課題が残るものの、設計や実証の積み重ねを踏まえれば、この技術が次世代のBEVに組み込まれていく可能性は十分にあります。太陽の下に停めているだけで航続距離が伸びる、そうした使い方が現実になる日は、意外と近いかもしれません。
Text:立花義人、エムスリープロダクション
Photo:NISSAN