蟲神器、IQ脳トレ…ヒット連発の秘密 攻めの百均「ダイソーの本」

ダイソーの本を制作する大創出版。西田大社長が仕掛けたトレーディングカードゲームが社会現象に=東京都豊島区(重松明子撮影)

全国4625店舗を展開する100円ショップ「ダイソー」の本を発行する大創出版には、四半世紀の歴史がある。出版不況の中でも年間約100の新作を出す。学習ドリル、知育絵本、シールブック、占い、語学、小説…とジャンルも幅広く、派生したトレーディングカードゲーム(以下、TCG)「蟲神器(むしじんぎ)」は1600万セット超も売れて社会現象化している。昨年発行のIQ(知能指数)トレーニング本がヒット中の著者もその発信力を絶賛。唯一無二の媒体「ダイソーの本」の魅力に迫った。

ダイソーの本「今から伸ばす! IQトレーニング」の著者、秋谷光輝さん。一般書籍も発行した=東京都北区(重松明子撮影)

限られた予算から生まれる知恵

110円でこんなにカードが入っている「蟲神器」スターターセット(重松明子撮影)

すごい、これも税込み110円なの!? 東京・巣鴨の大創出版を訪ねると約300作品が本棚にびっしり。店舗では地域性に応じて品数が絞られるが、初めて見る全貌に圧倒される。猫好きにはたまらない猫写真集形式の間違い探し本の表紙には「脳を鍛えつつ、心に癒やしを!」の文字。遊び心にほっこりする。

「このご時世でも値上げできないのは大変ですが、学びと楽しみのコンテンツを頑張って作っています」と西田大社長(52)。安さの背景には大量に刷ることでの薄利多売に加え、ダイソーで本を出すことにメリットを感じる著作者などの意向をくみ、印税や制作費を案件別に話し合う姿がある。企業コラボ書籍も多く広告媒体としての期待度も高い。

「ダイソーさんのパワーですね」とは、発売5カ月で10万部を突破した「今から伸ばす! IQトレーニング」の著者、秋谷光輝さん(52)だ。先天的能力として語られるIQだが「トレーニングで伸ばせることを伝えたかった」。

全人口の上位2%にあたるIQの持ち主が入会できる国際団体メンサの会員で、一般財団法人高IQ者認定支援機構のキャムズでIQ185と認定された秋谷さん。電気通信大大学院修了後、ソニーのエンジニアを経て、法則学による能力開発講座を開き、独自のIQトレーニング理論を構築した。出版社を探すなかで、かつて一緒にファミコンで遊んだ小学校の同級生である西田社長と偶然再会し、昨年出版に至った。

本の裏表紙の2次元コードから秋谷さんの公式サイトにつながり、IQトレーニング講座(3カ月)に全国から124人を集客。2月までの修了者57人がメンサを受験し、37人が合格した。この中には中卒の男性もいた。

「日本の学校教育は暗記中心だが、思考の繰り返しでIQは伸びる。変化パターンを見抜いて危険を回避したり、先手を打ったりする能力の指標でもあり、ビジネスだけでなくスポーツやお笑い、人生全般で役立つ。進化する生成AI(人工知能)を人が使いこなすための力としても養ってほしい」と秋谷さん。昨年末には一般書籍でIQトレーニング本を出版した。

大創出版初のTCGにして最大のヒットとなった蟲神器は令和4年、ゲーム展示会を回る西田社長のスカウト活動で生まれた。「自分のゲームを世に出したいクリエイターと思いが合致した」

1つのスターターセットに2人分のカードが入る。「世界観づくりからの制作費が予算を圧迫したが、カードを減らしてコストを抑えるのではなく、すぐに対戦できる枚数を最初から入れちゃえと決断した」

これが専門店領域だったTCGの間口を広げた。

全国各地でファン「蟲主(むしぬし)」による大会が開かれ、世界遺産の富岡製糸場(群馬県)で開くタイアップ催事「蚕蟲祭(さんちゅうさい)」が毎回大盛況。昨年11月には任天堂のゲーム機のソフト「蟲神器 めざせ!最強の蟲主」、今年2月にはKADOKAWAから公式ガイド本が出版されるなど、100円ショップの枠を飛び出した。

「カードには虫の生態解説も入れています。願いは活字を通じて好奇心を育てること」と西田社長。

この物価高でも迷いなく買える110円はうれしい。限られた予算の中で知識や心を豊かにと、攻めのモノづくりがされていることを知れば、手に取った一冊から熱が伝わるようだ。(重松明子)