深刻な教員不足に文科省の「ズレた対策」では限界

教職を目指す学生でも「教師になるのはムリそう」と漏らす今、教員不足に真に必要な対策とは(写真:ふじよ / PIXTA)
深刻な「教師不足」に歯止めがかからない。文科省は手当の増額や校務DXなどの対策を提示するが、「ピントがずれている」と筆者は考える。
【画像】「間違ってはないが、これで教員志願者が増えるのか?」と筆者が疑問詞する、文科省の教員不足への方策
教師の精神疾患による病気休職者数は高止まりしており、その要因の多くは「児童・生徒への指導」や「職場の対人関係」にある。教師が自信を持って指導できず、心身ともに削られている現場の疲弊は明らかだ。
教職の魅力を取り戻すには、小手先の改善ではなく、教師の権限や働き方に大胆なメスを入れることが不可欠ではないか。教職の授業を担当する筆者が、現実的な改革案を提示する。
ピントがずれている文科省の姿勢
文部科学省が「令和7年度『教師不足』に関する実態調査」を行っている。その中で、全国で慢性的な教師不足がより明確になり、教員志願者を確保する対応策を打ち出した。
例えば、「教師を取り巻く環境を整備し、教職の魅力を向上」するとして、教職調整額の10%までの段階的な引き上げ、効率的な業務遂行を実現するための校務DXの推進などの具体策を提起している。
「教職の魅力に関する全国的な広報」戦略では、教師を目指す学生等へ教職の魅力を積極的に発信するとしている。

(画像:文科省「令和7年度『教師不足』に関する実態調査」より)
いずれも間違った方策ではない。ただ、こんなことで教員志願者が増えるだろうか。2024年度実施の教員採用試験は、小学校で2.0倍、中学校で3.6倍と、過去最低の倍率である。
対して、校務DXなど存在せず、教職調整額は4%だと信じて疑わなかった2000年代前半。小学校教員の倍率は12.5倍、中学校では17.9倍と過去最高値を記録していた。
つまり、環境整備をしたり、教職の魅力を発信したりしなくても「先生になりたい」という若者は引きも切らなかったのである。それなのに、こんなピントがずれた分析や取り組みにはあきれるばかりだ。
なぜ教員志願者が減ったのか?
文科省が24年度に実施した「公立学校教職員の人事行政状況調査」の結果を見てみよう。
24年度の教育職員の精神疾患による病気休職者数は7087人。23年度の7119人からやや減少したものの、7000人という大台を超えたままである。

教育職員の精神疾患による病気求職者数は右肩上がりで高止まり
その病気休職の要因を見てみよう。上位2項目は「児童・生徒に対する指導」「職場の対人関係」となっている。教師は児童・生徒に対する指導で疲弊し、職場の対人関係に問題を抱えることで心を病んでしまう――。
教職を目指す学生は、そうした実情を目にし、また耳にすることで、徐々に、「教師になるのはムリそうだな」となる。
私は2校で大学の教職授業を担当している。どちらも教員養成系大学ではないので、土曜日や夜間の授業に出て、単位を取得する仕組みである。遊びたい気持ちが強い年ごろだろうに、「私も恩師のようにステキな先生になりたい」と教職に魅了され、真面目に授業に出席している。
だが、その学生の多くが、「教職は取っているけど、先生になるのは躊躇する」と言うのだ。確かに魅力ある仕事であろうが、疲弊する現場の状況を見て尻込みするという。
文科省が進める小手先の対策ではなく、大胆な改革を断行しなければ、もはや教員志願者が増えることはないのではなかろうか。
教師の権限が弱すぎる?
なぜ教師は児童・生徒の指導に疲弊するのだろうか。それは子どもたちが教師の言うことを聞かなくても、何も問題は起きないと知っているからだ。
教師が注意をする。子どもは無視する。または言うことを聞かずにそのまま続ける。再び教師が注意をする。子どもは無視を続ける。ときに子どもは暴言を吐き、酷いときは暴力に打って出る。
でも、教師は何もできない。体罰は論外だし、強い言葉で注意したら「ハラスメント」になりかねない。そんなリスクを冒せるはずがない。それを子どもたちもよく知っている。
本当に教師は何もできないのだろうか。文部科学省は『学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰等に関する参考事例』の中で、認められる懲戒を示している。
(いずれも常識的な活動時間での)「放課後等に教室に残留させる」「授業中、教室内に起立させる」「学習課題や清掃活動を課す」等は指導の範囲内とされているのだが、意外と知らない教員が多い。
教育委員会等が研修を行い、どのように懲戒行為を実施できるのか、細かく教員に伝えていくべきである。また、保護者にこれらの懲戒例を示し、「学校は断固として間違ったことは許しません!」というメッセージを発していただけるとありがたい。できれば、文部科学省からの発信となれば、全国的な問題提起となろう。
出席停止命令についてはさらにハードルが高い。出席停止の基本的な要件は、「性行不良」「他の児童生徒の教育の妨げがある」場合である。大声を出して授業を妨害することがあれば、それは真面目にやっている子の人権侵害である。だが、この出席停止命令を出すのは“最終的な手段”とされているため、かなり難しい。
もしこれが適切なタイミングで出せるようになれば、「好き勝手やっているとマズい」という抑止力になるはずだ。
今の教師たちは、権限があるにはあるが、それを行使することを制限された中で仕事を続けている。それでは精神を病む教師が続出し、学生たちも尻込みするに決まっている。
教員用の個室整備で居場所づくりを
教員のメンタルヘルスが重要視されるようになり、悩みを相談する場所があるにはある。ただ、それは対症療法的な手立てである。それ以前に、対人ストレスが発生しないようにするための方策が必要だと考える。
教員は毎日子どもと接し、時には保護者の理不尽なクレームにも向き合わなければならない。そこに職場の対人関係のストレスが加われば、疲弊するのも当然と言えば当然だ。
そこで、まず一人ひとりの教員に個室を提供することを提案したい。ただし、予算の関係で新たに部屋を作ることはできないだろう。そこで、少子化の影響でできた空き教室を使い、間仕切りをして半個室のようにするという方法ではどうだろうか。
多くの教職員でごった返す職員室ではなく、放課後に冷暖房を一人で使う後ろめたさを感じる教室ではなく、何人かの教員が過ごす半個室である。児童・生徒、保護者との人間関係で疲弊している教師にとって、第三の居場所づくりになることが期待できる。
夏休みは「出勤停止」に
もう1つ、夏休み期間の出勤をなしにしてはどうだろうか。対人関係に悩むことが多くても、「夏休みに一度も顔を合わせずに済むなら……」と考えるだけでリフレッシュできるはずだ。
「先生は夏休みで授業がないのに、給料をもらっているんですか?」
多くの声を受け、教員は肩身の狭い思いをしてきた。夏休み中でもさまざまな会議や研修をこなす必要があり、半ば無理矢理に枠を埋められてきたのである。
そこを文部科学省の音頭のもと、思い切って出勤停止にする。保護者や他業種から異論が出そうだが、今学校は小手先の解決策では済まないほどの危機に陥っていることを忘れてはならない。
こうした大胆な対策をしなければ、教員志願者は減少する一方だ。精神疾患で休職を余儀なくされる教員も減らないだろう。
「それでも、教師という仕事は魅力があるのです」
精神論を振りかざすのではなく、実際に今現在追い込まれている教師たちの憂いを断つことで、若者にとって魅力ある職場にしたいものだ。