なぜ「高市一強」でも地方選で勝てないのか?練馬区長選で露呈した自・維・国「野合」の脆さと“真の敗因”

自民党大会で演説する党総裁の高市早苗首相(2026年4月12日、写真:共同通信社)
高市早苗内閣の高い支持率を追い風に、今年2月の衆議院選挙で歴史的大勝利を収めた自民党だが、その後の地方の首長選挙でまさかの敗北が続く。
3月8日に投開票された石川県知事選挙では推薦した現職の馳浩氏が敗れた。高市首相が、米国とイスラエルのイラン軍事攻撃直後で東京を離れることを批判されながらも石川まで応援に出向いたのに負けた。

石川県知事選で馳浩氏(右)の応援に入った高市首相(2026年2月28日、金沢市/写真:共同通信社)

石川県知事選で敗北が確実となり、支持者らに頭を下げる馳浩氏(2026年3月8日、写真:共同通信社)
3月29日投開票の東京・清瀬市長選挙では、推薦候補が共産党市議を6期務めた新人に敗北した。そして直近では4月12日投開票の東京・練馬区長選挙。与野党相乗りで負けるはずがないと見られた推薦候補が完敗した。
一体、「高市一強」の足元で何が起きているのか――。「日刊ゲンダイ」第一編集局長の小塚かおる氏がレポートする。
高市首相の熱狂が招いた「練馬ショック」の全貌
4月12日に東京都内のホテルで開かれた自民党大会。自衛官が制服姿で国歌を斉唱したことが批判を招いているが、党の最高意思決定機関と位置づけられる大会の今年の異様さはそれだけではない。

自民党大会で党歌を斉唱する党総裁の高市早苗首相(左から4人目)ら(2026年4月12日、写真:共同通信社)
会場には高市首相(自民党総裁)の等身大パネルが掲げられ、「早苗グッズ」が当たるガチャガチャまで設置。ゲストとして招かれたミュージシャンの世良公則氏が「燃えろサナエ」と熱唱するなど、まるで「サナ活」イベントの様相だった。

自民党大会の会場に設置された高市早苗首相のフォトパネルの前でポーズをとる浜田靖一元防衛相(左)と鈴木貴子広報本部長(2026年4月12日、写真:共同通信社)
そんな「高市カラー」一色の党大会で高市首相はこう演説した。
「私が目指すのは、国でも地方でも選挙に勝ち続けること。私が先頭に立つ。どこまでも自民党を強くしましょう」
だが、この訴えの当日夜、自民は地方選挙で手痛い敗北を喫したのだった。「練馬ショック」である。
東京・練馬区は人口約75万人。都内で世田谷区に次いで2番目に多く、政令指定都市にもなれる規模の自治体だ。その練馬区で行われた区長選には新人3人が出馬し、前東京都議の尾島紘平氏(37)と幼稚園理事長の吉田健一氏(59)の事実上の一騎打ちだった。
自民が推薦したのは尾島氏。小池百合子東京都知事が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」の元幹事長で、衆議院議員時代の小池氏の秘書も務めた。

尾島紘平氏(写真:共同通信社)
現職の前川燿男区長(80)は尾島氏を後継指名しており、依然、東京で人気の高い小池氏の全面バックアップの下、高市人気で支持率上昇傾向の自民、国政で自民と連立政権を組む日本維新の会が推薦した。
さらに、都民ファーストの会と過去の選挙で相互推薦などをしてきた国民民主党も尾島氏を推薦し、自民、維新、国民民主の国政3与野党が相乗りする盤石の選挙態勢のはずだった。
しかし、選挙結果は吉田氏12万3164票に対し、尾島氏9万135票。勝利したのは「完全無所属」を掲げた吉田氏で、社民党や共産党などが自主的に吉田氏支援に回ったこともあり、尾島氏は3万3000票超もの大差をつけられての惨敗だったのだ。
尾島氏陣営は組織総出の選挙戦を展開した。演説では連日、都議や区議、国会議員らが応援弁士として支持を訴え、小池知事が選挙期間中、計3回もマイクを握った。片山さつき財務大臣、国民民主の玉木雄一郎代表も応援演説に駆けつけた。小泉進次郎防衛相はビデオメッセージを、高市首相も必勝の「為書き」を送っていた。ここまでやったのに負けたわけだ。
“最強の女帝”2人がそろい、“連合艦隊”で応援しても勝てなかった。従来の勝ちパターンで敗れた自民のショックは大きい。
練馬区長選の敗因はさまざまある。建設費が150億円にまで膨らんだ美術館の建て替えの是非が争点化されたなど地方選挙ならではの地元事情もあった。だがここでは、国政にも直結する注目すべき3つの敗因に絞って触れておきたい。
【敗因①】自・維・国の相乗りが有権者の反発を招いた構造的欠陥
「食べ合わせの悪さとでも言うのでしょうか、推薦をたくさんもらえば何でもプラスに働くというわけではない相性の悪さがあった」
こう話すのは尾島陣営の選対幹部だ。
もともと小池知事は自民に反旗を翻して都知事選に出た経緯もあり、当初、自民東京都連と小池氏の関係は険悪だった。両者は今でこそ手を握り合っているが、小池氏の支持者は反自民・無党派改革色を好む。
一方で自民支持者には小池氏にわだかまりがある。そして、そうした構図は、自民、維新、国民民主の与野党相乗りでも同様だ。3政党の推薦がプラスの後押しにならず、むしろ足を引っ張り合ったのではないかというのだ。
「自民と国民民主は国政では対立しているのになぜ一緒にやるのかと、与野党相乗りが批判対象になった。SNSの発達で各党の支持者が先鋭化していることも背景にあると思います。『混ぜるな危険』ですね」(前出の選対幹部)
翻って国政では、自民が政権の連立相手の拡大を模索している。
自民と維新の連立政権は衆議院こそ4分の3の議席を占め圧倒的多数を持つが、参議院では過半数の124議席(議長除く)に4議席足りない。そのため、先の新年度予算案の採決でも無所属議員や日本保守党を説得するなど苦労した。
そうしたことから、12日の党大会後、自民の鈴木俊一幹事長は「政権基盤を安定させるため、さらなる協力を連立という形で整えるという思いもある」と連立の枠組み拡大に言及した。鈴木氏は具体的な政党名には触れなかったが、想定されているのは国民民主だ。

自民党大会で発言する鈴木俊一幹事長(2026年4月12日、写真:共同通信社)
国民民主は参議院に会派として25人が所属する。自・維・国の連立なら参院の過半数クリアに十分な数を確保できる。その鈴木発言の2日後の14日、自民の石井準一参院幹事長が記者会見で、政権運営を安定させるには国民民主との連立拡大が「一番望ましい形だ」と述べている。

会見する自民党の石井準一参院幹事長(2026年4月15日、写真:共同通信社)
だが、昨年の参議院選挙や今年の衆議院選挙での世論調査などから、自民が嫌だから国民民主を支持した保守層がいることや、高市首相の誕生でそうした保守層が国民民主から自民に戻ったという分析もある。自民と国民民主の支持は反比例の関係。それは野党だった維新についても言えることで、維新は連立入りしたことで支持を落としている。
そのうえ、維新と国民民主はともに改革・提案路線を掲げ、ライバル関係でネチネチやってきた仲だ。練馬区長選に見るように、まさに「混ぜるな危険」。連立拡大は両刃の剣だ。
国政で連立の自民と維新、さらに自民からラブコールを送られている国民民主。この3つの政党が組んで選挙に大敗するとは何とも皮肉だ。
【敗因②】「自公協力」の崩壊が招く波紋と深刻な打撃
自民との連立を解消し、野党になった公明党が今回の練馬区長選挙で自主投票だったことも選挙結果に影響した。
地方では依然、自公で与党を形成する議会が多く、連立離脱後も選挙は地域事情を考慮するとしていた公明だったが、練馬では尾島氏を支援しなかった。都民ファーストの会幹事長だった尾島氏は都政で与党的な立ち位置だった公明と関係は悪くなかったが、自民と維新が尾島氏を推薦したことで、公明が離れたのだ。
「小池知事と公明の関係悪化も響いた。衆院選で小池知事が、萩生田光一幹事長代行を筆頭に東京の自民候補の応援に駆け回った。公明は小池氏にお灸を据えようということだろう」(東京の自民衆院議員)
公明は練馬区に3万票前後の票があるとされる。前出の自民議員は「そのうち2万票が吉田氏に流れた」と見る。東京の公明党関係者を取材すると、「いえいえ、そこまでは動いていないですよ」と言ったが、「この先も選挙で自民と距離を置くのは間違いないですね」と付け加えた。
公明は衆院選で立憲民主党と「中道改革連合」を結党したものの、新党は大惨敗した。しかしながら、公明票は各小選挙区に平均2万票前後とされ、全国にほぼ満遍なく票がある。
地方選挙は自公協力で長年やってきた。衆院選の大勝で覆い隠されている感はあるが、自民の選挙において公明票がないことの打撃は想像以上に大きく、来年春の統一地方選挙に向け、これからじわじわ影響が出てくるだろう。
【敗因③】衆院選で勝ち過ぎた自民党に突き付けられた「バランス」の審判
練馬区長選挙での敗北だけでなく、自民が地方選挙で連敗している遠因について、前出の選対幹部はこうも話していた。
「衆院選で自民が勝ち過ぎた反動もあるのではないか。地方選挙で自民が負けると『高市人気に陰り』といった報道が出るが、そうではないと思う。高市人気は続いている。しかし、高市一強であるがゆえに、有権者が地方選挙で自民にお灸を据えてバランスを取っている」
高市人気は個人人気であり、他の人の選挙を自民が推しても連動しない、ということでもある。
ここまで挙げた3つの敗因は他の地方選挙、ひいては国政の参院選や衆院選でも言えることだ。「高市一強」だが足元は意外にグラグラしている。一強だからこそ有権者はシビアに自民を見ている。
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