ヤマビル被害がアウトドアで急増中「血が止まらない」「魔物のよう」ヒル増加に「シカ」や「キョン」が関係か

山歩きやキャンプが楽しくなる季節だが、日本各地の野山で「ヤマビル」の被害が広がっている。知らぬ間に吸血され、剥がしても血が止まらない──そんな声が相次ぐ。
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■タケノコ堀りで靴下が血まみれ
千葉県大多喜町。タケノコの名産地として知られ、春には観光客がタケノコ掘りに訪れる。近年、その豊かな里山で、静かに、しかし確実に増えているものがある。ヤマビルだ。
「タケノコ掘りに来たお客さんが、足にヒルが吸いついていたり、血まみれの靴下を見たりして、顔を引きつらせるんです。地元の農家はヒルにやられることを覚悟して山に入るけれど、慣れていない人は本当に驚くみたいですね」
そう語るのは、長年タケノコ農家として山に入ってきた高齢の女性だ。タケノコの最盛期である4月は、ヤマビルが活動を始める時期と重なる。
「タケノコを掘っていると、ヒルが足元から登ってくる。噛みつかれても痛くないから、気づいたときにはもう血を吸われている。ヒルを剥がすと血がだらだら出て止まらない」
■人や動物の体温や振動を感知
ヤマビルは体長2~5センチほどの細長いヒルで、体の前後に吸盤を持ち、尺取り虫のように伸び縮みしながら移動する。茶褐色の体に3本の縦じまがあり、落ち葉の下や湿った斜面に潜んで、人や動物の体温、振動、二酸化炭素を感知して近づく。
ヤマビルには毒や病原菌があるわけではない。だが、女性はヤマビルの姿を「魔物みたいだ」と言う。落ち葉の下からぬっと現れ、細い体を持ち上げてこちらを探すように動く。足元をトントンと鳴らすと、まるで合図を受け取ったかのように向きを変えて近づいてくるという。
千葉県でヤマビルの吸血被害が顕著になり始めたのは1980年代。当初は県南部の鴨川市の一部地域に限られていたが、生息域は徐々に北上し、20年ほど前から大多喜町でも増え始めた。
「今では、家の中や舗装道路以外はどこにでもいる」と、女性は言う。
■血を吸ったヒルは「確実に殺す」
昨年、女性の長女は実家の屋根のトイを掃除していてヤマビルに吸血された。
「噛まれないようにストッキングをはいていたのですが、いつの間にか脇の下に張りついていた。床に落ちたヒルは、吸った血でころんころんに膨らんでいました」(長女)

孫の女の子も4歳のとき、靴の上を5匹のヒルが這い上がってくるのを見て、「不気味だった」と言う。
「血を吸ったヒルは、くわや鎌を突き刺して確実に殺します」(女性)
というのも、吸血したヤマビルは栄養を得る。雌雄同体だが交尾して卵を産み、個体数を増やすからだ。体は丈夫で、踏んでも死なない。つまり、吸血したヤマビルを放置すれば、ヤマビルが増殖してしまうのだ。
■林間学校でもヤマビル被害
ヤマビルとマダニの研究者で、作新学院大学短期大学部(栃木県)講師の森嶋佳織さんによると、アウトドアやハイキングに訪れた子どもたちが被害に遭うケースもあるという。
「地元、栃木県の日光では、林間学校のキャンプ場で、『子どもたちがヤマビルにやられてショックを受ける』と管理人が嘆いていました」
■足元を防御すべき
森嶋さんは、ヤマビル対策として足元の防御を最重要ポイントに挙げる。
「ヤマビル用の忌避スプレーを足元に吹きつけます。ズボンの裾を粘着テープで巻いて入り込ませないようにするのも有効です」
また、複数人で歩くときは、後ろの人のほうがリスクがあるという。
「先頭が通ったあとにヤマビルが動き出すので、3~4人目が狙われやすい」
■ヤマビルの唾液に「ヒルジン」
ヤマビルの唾液に含まれる「ヒルジン」は血液を固まらせない強力な麻酔・抗凝固成分で、痛みを感じにくくし、血流を増やす作用がある。
吸血されたときの対処法は、①ヤマビルを引き剥がす、②ポイズンリムーバーでヒルジンを吸い出すか水で洗い流す、③抗ヒスタミン剤の軟膏を塗って絆創膏を貼る――の順だ。
「ヒルジンが残ると血が止まりにくい。かゆみや腫れが出るかは個人差があります」(森嶋さん)
■吸った血の多くが「シカ由来」
なぜ今、各地でヤマビルが増えているのか。
「全国的にヤマビルが血を吸うシカが増加しており、その影響が大きいとみています」(森嶋さん)
環境省によると、1990年代前半に推定60万~80万頭だった全国のシカは、2023年には同約303万頭に増加。生息域も1978年から2018年にかけて約2.7倍に拡大した。
「10年ほど前に秋田県から鹿児島県で行った調査でも、シカが生息する地域では、ヤマビルが吸った血の多くがシカ由来でした」(同)

シカ増加の背景には、地球温暖化による降雪量の減少やハンターの高齢化などがある。
千葉県では、県南部の観光施設から逃げ出した外来種のシカ「キョン」が野生化して増加し、茨城県境に迫っている。茨城県の担当者も、「キョンが侵入すればヤマビルも一緒に入ってくる可能性が高い」と警戒する。
■ヤマビルは一度定着すると…
マダニが数時間から数日かけて吸血するのに対して、ヤマビルの吸血時間は「通常、1時間以内」(森嶋さん)と短い。満腹になると落ちる。そのため、マダニのように長時間動物に付着して遠距離を移動するわけではない。
「ヤマビルは一気に広がるというより、じわじわと広がっていく。ただし、一度定着すると減らすことは非常に難しい。ヤマビルはどんな動物の血でも吸うので、餌が枯渇しにくいんです」(同)
シカ、イノシシ、カモシカ、ウサギ、ネズミ、猫、犬、カエル、そして人間……。ほとんどの動物を吸血すると見られる。
■雌雄同体で繁殖力強い
「ヤマビルは雌雄同体で繁殖力が強く、数個体が定着するだけで増える。だから、『見かけるようになった』と思ったが最後、一気に増えることがあると見られます」(同)
森嶋さんが暮らす栃木県では、家庭菜園や庭先で花の手入れをしている人がヤマビルに吸血される被害が相次いでいるという。
「隠れ家の落ち葉を掃除すると一時的にヤマビルは減りますが、やめるとまた増える。マダニのような重篤な健康被害はありませんが、とにかく気持ち悪い。生活者のモチベーションを確実に削いでいます」
温暖化やシカの増加により、今後もヤマビルの生息域が広がる可能性は高いという。
アウトドアが楽しいシーズン、野山に入るときは特に、ヤマビルの特徴と対処法を知っておきたい。
(AERA編集部・米倉昭仁)
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