「大きいEVはもういらない」BYDとボルボが狙う、全長4.3mという最適解

コンパクトEV台頭の背景

 世界の電気自動車(EV)市場を覆っていた、ある種の熱狂が落ち着きを見せている。「航続距離が長いほど価値がある」という神話のもと、大型で高価なモデルが主役を張る時代は、どうやら一区切りついたようだ。需要の伸びが鈍化した今、市場の視線はより現実的な全長の短いモデルへと注がれている。

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 もっとも、コンパクトEVへの期待は以前からあった。しかし、十分な距離を走るためには相応の電池を積まねばならず、その重さと容積が車体を大きくさせる。電池の性能という壁が、車づくりの自由を縛る制約となっていた。

 事態が動き出したのは、電池の研究開発が新たな局面を迎えてからだ。コンパクトながら容量を高める技術が広がり、ようやくコンパクトEVを軸にした動きが目に見える形になってきた。なかでも全長4.3mを下回るコンパクトスポーツタイプ多目的車(SUV)(EV)は、次なる主役として俄然注目を集めている。

・ボルボ「EX30」

・比亜迪(BYD)「ドルフィン」

がその象徴だ。各社がこの領域へ開発資源をこぞって振り向け始めているのには、それなりの理由がある。

 なぜ今、このサイズなのか――その背景には、私たちの暮らす都市のあり方と、車の使われ方が大きく変わりつつある現実が横たわっている。

 今回の焦点であるコンパクトSUV(EV)の具体的な姿を思い描いてみる。おおよその仕様は、全長4000~4400mm、全幅1700~1800mm、全高は1550~1700mmといった範囲に収まるものだ。この数値が持つ意味は、都市のインフラと照らし合わせるとよく見えてくる。

 日本の機械式駐車場を例にとれば、最低限の全幅として2300mm、推奨で2500~2600mm程度の幅が必要になる。奥行きは5000mm以上が目安だ(駐車場点検を担うアイ・エー・エスのデータによる)。さらに車が通る通路も、対面通行なら6000mmほどの幅が求められる。

 こうした制約は、日本に限った話ではない。欧州の生活道路は、広い場所でも8000mm程度、歩行者優先の路地ともなれば2000~4000mmしかない。中世の面影を残す旧市街にいたっては、道幅が2000mmを切ることさえ珍しくない。中国においても、古い住宅地や生活道路の事情は欧州と似通っている。

 世界各地の道路事情を眺めてみると、全長4300mm以下、全幅1800mm以下のEV-SUVがいかに

「理にかなっているか」

がわかる。この大きさなら、高齢者や運転に自信のない人でも扱いやすく、それでいてEVとして環境への配慮も両立できる。SUV特有の

・視界の良さ、荷室の広さ

・路面を選ばない最低地上高の高さ

は、日常の買い物から週末のレジャーまでを過不足なくこなす。都市空間という逃れられない物理的な制約を前にしたとき、このクラスこそがEVの生き残る道となるだろう。

実走行距離の実態

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EX30(画像:ボルボ・カーズ)

 では、肝心の航続距離はどう考えるべきか。国土交通省の統計や政府の自動車燃料消費量調査といったデータを紐解くと、私たちの移動の実態が浮かび上がってくる。

 結論からいえば、都市生活者が自家用車を走らせる距離は、1日平均でわずか5~20km程度にすぎない。車は決して毎日長距離を走る道具ではなく、週末の買い物や近場への外出を支える

「補助の足」

としての役割が色濃いのが現実だ。例えば、東京都内の標準的な世帯では、1週間の走行距離は約20km、年間でも3000kmに満たない。1日あたりに直せば約8kmという計算になり、しかもその利用は週末に集中している。

 こうした「たまに、短く乗る」という使い道を前提に置けば、コンパクトSUV(EV)が備える200~300kmの一充電走行距離は、決して不足ではない。むしろ、日々の暮らしには過不足のない、極めて現実的な水準といえるだろう。

 筆者(近澤眞吉、モータージャーナリスト)が長くEVの動向を追うなかで見てきたのは、「EVは非力で走れない」という根強い偏見に抗う現場の苦悩だった。少しでも長く走れることを証明するために、電池を限界まで積み増す必要に迫られてきたのだ。電池の積み過ぎが価格を跳ね上げ、車重を増やして道路に負担をかけると知りながら、その流れを止められなかった側面がある。

 しかし、ようやく風向きが変わった。電池技術の進展により、コストを抑えた使い勝手の良いモデルが、費用対効果の面でも納得感のある選択肢として受け入れられ始めている。

 インフラ側の変化も見逃せない。公共の充電設備は着実にその裾野を広げている。経済産業省のデータによれば、国内の充電スタンドは2025年末時点で約2.8万拠点に達し、今も月に数百のペースで増え続けている。マンションや商業施設への導入を担う事業者の動きも活発だ。

 先行する中国の勢いはさらに凄まじい。国家エネルギー局の発表では、2025年末の充電設備は2000万基の大台を超えた。特筆すべきは、1500万基以上を占める個人用設備の充実ぶりであり、家庭での充電が当たり前の風景になりつつある。欧州に目を向けても、オランダ、ドイツ、フランスを中心に、地域全体で網の目のような整備が続く。

「必要なときに、必要な分だけ充電する」

というスタイルが定着すれば、重く巨大な電池を常に抱えて走る理由はもはや見当たらない。電池という制約から解き放たれたことで、都市の暮らしに寄り添うEV-SUVの真価が、ようやく正当に評価される時代が来たようだ。

中国勢のコンパクトSUV戦略

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ATTO 3(画像:BYD Auto Japan)

 都市のあり方や日々の暮らし、そして充電インフラの整備状況を重ね合わせれば、EVがSUVへと収斂していくのは極めて自然な流れといえる。では、

・日本

・欧州

・中国

という三つの巨大市場で、メーカー各社はいかにして生き残りを図ろうとしているのか。具体的な顔ぶれから、その戦略を読み解いてみたい。

 中国のコンパクトSUV(EV)において、いま最も外せない存在がBYDの「ATTO 3」だろう。2022年2月に本国で産声を上げたこのモデルは、瞬く間にオーストラリアやタイといったアジア太平洋地域へと版図を広げた。2022年末までのわずかな期間で世界累計販売20万台を突破したという事実は、このサイズのSUVが国境を越えて求められている証左でもある。

 BYDの強みは、何よりその出自である電池技術にある。独自のブレードバッテリーを心臓部に据え、約485kmという十分な航続距離を確保した。それだけではない。予測緊急ブレーキや全周囲カメラなど、守りの機能にも抜かりはない。

 ATTO 3を眺めて気づくのは、中国のメーカーが車を移動の道具とは見なしていないことだ。車内の中央に鎮座する大型モニターに象徴されるように、彼らが重視するのは「車内での体験」そのものである。

 圧倒的なコスト競争力を武器に、彼らは若い世代のライフスタイルに滑り込む。車は、もはや通信機能を備えた巨大なモバイル端末に近い。スマホと連動したアプリ操作や遠隔での空調管理など、日常の延長線上でいかにストレスなく使いこなせるか。その利便性とSUVらしい使い勝手を掛け合わせた点に、中国勢の真の強さがある。

 対する欧米勢で、いま最も注目を集めているのがボルボの「EX30」だ。同社史上、最もコンパクトなフルEVとして誕生したこのSUVは、全長を約4235mm、全幅を約1835mmに抑え込んでいる。日本の都市部に多い機械式立体駐車場への入庫を明確に意識したサイズ設定だ。

 2023年11月に国内投入されるや、400万円台からという価格設定も相まって、これまでにない身近なボルボとして受け入れられた。2024年3月には月間523台の販売を記録するなど、上級EV市場においても確かな足跡を残している。

 走行距離は、最も身近なモデルで390km、上位モデルでは500km超を誇る。平日の通勤から週末の遠出まで、この一台で完結できる絶妙なバランスが支持の背景にある。

 一方、テスラもまた、全長4280mm程度を見込む低価格なコンパクトSUV(EV)の開発に動いているとささやかれる。ボルボやテスラといったブランドが目指すのは、車体を小さくまとめつつも、内装の質感やデザインで所有する喜びを損なわない、新しいプレミアムの形だろう。彼らはその高い知名度を背負い、これまでEVに手を伸ばさなかった層へ、一気に攻勢をかける構えだ。

トヨタの都市実証

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ウーブン・シティ(画像:ウーブン・バイ・トヨタ)

 日本のメーカーは、このコンパクトSUV(EV)という潮流にどう対峙しようとしているのか。その象徴ともいえるのが、トヨタ自動車が進める「ウーブン・シティ」だ。静岡県東部にある裾野市で建設が進むこの実証都市では、AIや自動運転、水素エネルギーを生活の場に投じ、移動のあり方を根本から問い直している。車づくりを超え、

「モビリティ企業」

へとかじを切る同社の姿勢は、世界からも注視されている。国内メーカーの現場からは、こうしたトヨタの動きが、都市生活と移動の関係を捉え直すきっかけになったとの声が聞こえてくる。これに呼応するように、日産自動車や三菱自動車、SUBARUといった面々も、日本の住環境や日常の機微に寄り添うサイズと機能に、改めて照準を合わせ始めている。カギを握るのは、軽EVの成功で得た

「身近なEV」

という手応えを、いかにSUVという付加価値へ昇華させるかだ。なかでも日産が2026年度の投入を掲げる「ジュークEV」は、国産コンパクトSUV(EV)の有力候補として期待がかかる。全長は約4200mmと見込まれ、現行モデルの取り回しの良さを引き継ぐ形になるだろう。電動化で培った知見を武器に、日々の生活に溶け込む一台を目指す構えだ。

 しかし、世界の競合がひしめくこの分野で、勝ち筋を見出すための壁は決して低くない。

 第一に立ちはだかるのは、コストと価格の壁である。補助金に依存せず、ガソリン車と対等に比較される300万~400万円台という水準に、リン酸鉄リチウムイオン電池(LFP電池)などの採用でどこまで迫れるか。現状、BYDのATTO 3が418万円、ボルボのEX30が479万円という値付けで市場を揺さぶるなか、量産効果を背景にいかに価格を抑え込めるかが焦点となる。

 次に、使い勝手と心の満足度をどう担保するかだ。SUV特有の視界の広さや扱いやすさに、いかに洗練されたデジタル体験を融合させるかが問われている。正直なところ、日本勢は欧米や中国に比べてソフトウェア分野の人材不足が否めない。使い心地の要となるUI(ユーザーインターフェース)の面で、自前主義にこだわらず、いかに外部の知見を柔軟に取り込めるかが成否をわかつ。

 そして、販売の仕組みそのものの見直しも急務だ。流通の無駄を削ぎ落とし、価格競争力を高める体制が求められる。すでにBYDが先行するオンライン販売を横目に、既存の販売店を安心の拠点として生かしつつ、ネット販売といかに共存させるか。こうした実利と安心の両立こそが、最終的に消費者に選ばれる理由となるはずだ。

車体サイズ収れんの流れ

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自動車とOTAのイメージ(画像:日産自動車)

 都市の形や日々の暮らし、インフラの広がり、そして電池技術の進展。これらを重ね合わせると、EVが進むべき道は全長4.3m級のサイズへ収束していくに違いない。そうなれば、車というハードウェアの差は縮まり、勝負の舞台はソフトウェアへと移る。ネットとつながることが当たり前になった今、無線で機能を書き換えるOTA(オーバー・ジ・エア)への対応こそが、車の価値を左右することになる。

 正直なところ、このOTAの分野で日本は後手に回ってきた。だが、悲観する必要ばかりでもないだろう。日本メーカーには、長年積み上げてきた安全性や信頼性、品質への執念がある。OTAは一歩間違えれば、不具合や情報漏えいが人命に関わるリスクをはらむ。安全な仕組みを築き、長く使い続けられる信頼を守るという点において、日本の土壌は決して弱くない。デンソーのようにハードとソフトの両面を熟知した企業も多く、車全体を見通した堅実な更新基盤を整える力は備わっている。

 地理的な利点もある。アジア太平洋地域では車載OTAの市場が勢いよく伸びており、日本が培ってきた

「安全で長く使える」

という価値観を広げる余地は十分にあるはずだ。もっとも、先を急ぐ中国勢や欧米のテック企業は、

・更新の速さ

・AIの活用

を武器に攻勢を強めている。車をソフトを中心に動くものと捉える発想や、そこから生まれる新たな体験、さらには課金の仕組みといった事業モデルの面では、日本勢の遅れは否めない。

 日本が真に強みを発揮するためには、安全規制や品質の基準と切り離せない、安心して使い続けられるOTAの仕組みを自ら形づくることが求められる。それと同時に、部品メーカーから完成車メーカー、さらにはIT企業までが垣根を越えて手を取り合い、サービスのあり方を整えていく取り組みが欠かせない。

 この道を進むことができれば、日本勢は単に車体を売る立場を超え、安全で賢い移動を支える「基盤」そのものを担う存在になれるかもしれない。そのためには、何よりもソフトを操る人材をどう育て、惹きつけるかが、最後の、そして最も大きな関門となるだろう。

都市適合型EVの台頭

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「コンパクトSUV(EV)」が注目される理由。

 こうして多角的に眺めてみると、コンパクトSUV(EV)こそが、都市に暮らす人々の実情に最も即した選択肢であることが見えてくる。それは脱炭素への歩みにとどまらず、都市生活そのものの質を高めることにもつながるはずだ。

 2020年代の後半、市場の主導権を握るのは、おそらく航続距離の長さを競い合うメーカーではない。都市という空間との「なじみやすさ」をどこまで突き詰められるか。その一点に、勝負の行方はかかっている。

 これまでの自動車メーカーにとって、走行性能こそが価値の源泉であった。もちろん、その重要性が揺らぐことはない。しかし、EVとデジタル技術がわかちがたく結びついた今、車から得られる価値のありようは、かつてない速さで変わりつつある。

 主役の座がコンパクトSUV(EV)へと移り変わる流れのなかで、問われるのはソフトウェアによっていかに新たな価値を上乗せできるかだ。ブランドの誇りを守りながら、いかに持続可能なビジネスを描けるか。車体というハードと、それを動かすソフトをひとつの体験として捉える視点こそが、これからの競争を左右する決定打となるに違いない。