トランプ氏は再三暗殺されかけ「極秘の宴会場」熱望、「ホワイトハウスの私物化許さない」国民の反発も

 米国のトランプ大統領がまた狙われた。ワシントンで開かれた記者会主催の夕食会で銃撃の標的に。要人の暗殺対策が改めて問われる中、難を逃れたトランプ氏が求めた案がある。ホワイトハウス内での宴会場建設だ。安全に会合を開ける場を、という趣旨のようだが、この宴会場建設は訴訟沙汰にもなっている。果たしてどう捉えるべきか。(佐藤裕介、山田雄之)

◆事件直後「予想外の出来事だった。凶悪犯が攻撃した」

 4月25日夜。事件直後に開いた会見で、トランプ氏はこう口にした。

 「予想外の出来事だった。凶悪犯が攻撃した」

◆事件直後「予想外の出来事だった。凶悪犯が攻撃した」, ◆初めて出席した夕食会で, ◆「目に見える形で政権の『レガシー』を残したいのでは」, ◆「宴会場だけでは対策の効果は限定的」, ◆「名前を恒久的にホワイトハウスに刻もうとしているのでは」, ◆高市首相「暴力は世界のいかなる場所でも決して容認できません」, ◆暴力を許さない空気を

トランプ大統領(資料写真)

 トランプ氏は2024年7月の大統領選の演説中にも銃撃され、間一髪のところで致命傷を避けた。2カ月後の9月には、ゴルフ場での狙撃未遂事件も発生して難を逃れていた。

 今回の現場は、ホテル「ワシントン・ヒルトン」。ホワイトハウス記者会が主催し、現職大統領を招いて交流を深める夕食会のさなかだった。

 上智大の前嶋和弘教授(米国政治外交)は、このホテルに複数回宿泊したことがある。ホテルは丘の中腹にあり、建物への出入り口は多くなく、警備はしやすい印象があるという。

◆初めて出席した夕食会で

 トランプ氏の夕食会出席は今回が初めて。これまでは大統領に批判的なコメディアンがゲストに招かれることが多く、前嶋氏は「辛らつな批判を嫌うトランプ氏は参加してこなかったものの、今回はそうした人物がゲストにいなかったために参加を決めたのではないか」と捉える。

◆事件直後「予想外の出来事だった。凶悪犯が攻撃した」, ◆初めて出席した夕食会で, ◆「目に見える形で政権の『レガシー』を残したいのでは」, ◆「宴会場だけでは対策の効果は限定的」, ◆「名前を恒久的にホワイトハウスに刻もうとしているのでは」, ◆高市首相「暴力は世界のいかなる場所でも決して容認できません」, ◆暴力を許さない空気を

ホワイトハウス(資料写真)

 逮捕されたのは、コール・トーマス・アレン容疑者(31)。かねてトランプ政権を非難し、「友好的な連邦の暗殺者」と自称していたと報じられる。

 散弾銃や拳銃、ナイフで武装してロビーの安全検査場を強行突破しようとし、大統領警護隊(シークレットサービス)と銃撃戦に。隊員1人が銃撃されたが、命に別条はなかった。

 世界を騒然とさせた事件後、狙われたトランプ氏が主張した暗殺対策がある。ホワイトハウス敷地内のボールルーム(宴会場)建設計画だ。4月26日の交流サイト(SNS)の投稿では「軍事的に極秘の宴会場があればこのような事態は起きなかった」と訴えた。

◆「目に見える形で政権の『レガシー』を残したいのでは」

 唐突に思える宴会場建設だが、実はトランプ政権が前のめりになってきた経過がある。昨年7月には、ホワイトハウスの東棟を改修して建設する計画を公表。総面積は約8360平方メートルで、定員は650人。費用は約2億ドル(約320億円)にも上るという。

◆事件直後「予想外の出来事だった。凶悪犯が攻撃した」, ◆初めて出席した夕食会で, ◆「目に見える形で政権の『レガシー』を残したいのでは」, ◆「宴会場だけでは対策の効果は限定的」, ◆「名前を恒久的にホワイトハウスに刻もうとしているのでは」, ◆高市首相「暴力は世界のいかなる場所でも決して容認できません」, ◆暴力を許さない空気を

20万人以上が参加したとされるトランプ米大統領に抗議するロサンゼルス中心部の「ノー・キングス」デモ=2025年6月14日、山口哲人撮影

 トランプ政権の動向に詳しい明治大の海野素央教授(異文化間コミュニケーション論)は「目に見える形で政権の『レガシー』(政治的遺産)を残したいのだろう」と読み解く。

 ただ宴会場建設を巡っては、非営利団体が差し止めを求めて提訴し、ワシントンの連邦地裁が3月末、一時差し止めを命じていた。

 政権の動きに反対する人々を調査するために4月25、26日に渡米していたという海野氏は「待った」をかけようとする人々の意図について「『国民のホワイトハウス』の私物化を許さないという強い思いがある」と解説する。

◆「宴会場だけでは対策の効果は限定的」

 それでもトランプ政権の前のめり具合は続き、差し止めの効力停止を連邦高裁に申し立てたほか、今回の事件の前には、宴会場に「防空壕(ごう)や医療区域、最高機密の軍事施設」を併設する計画を明らかにしていた。

◆事件直後「予想外の出来事だった。凶悪犯が攻撃した」, ◆初めて出席した夕食会で, ◆「目に見える形で政権の『レガシー』を残したいのでは」, ◆「宴会場だけでは対策の効果は限定的」, ◆「名前を恒久的にホワイトハウスに刻もうとしているのでは」, ◆高市首相「暴力は世界のいかなる場所でも決して容認できません」, ◆暴力を許さない空気を

アメリカの星条旗(資料写真)

 では、要人の暗殺対策として宴会場建設は有効なのだろうか。

 日本大危機管理学部の福田充教授は「セキュリティーレベルが高い箱ものを建てれば一定の効果はある」と述べつつ「あらゆるイベントをホワイトハウスで実施するのは非現実的。集中させることで逆にリスクにもなり得る」と語る。

 要人を狙ったテロは、ローンオフェンダー(単独の攻撃者)が引き起こす例が増えているという。「未然に防ぐには早期に兆候を把握するインテリジェンス、つまり情報収集の強化が最も重要だ。現場での警護態勢も大切で、宴会場だけでは対策の効果は限定的だ」

◆「名前を恒久的にホワイトハウスに刻もうとしているのでは」

 同志社大の三牧聖子教授(米国政治外交史)も「大統領が公の場に姿を現す場面は、ホワイトハウス以外でもいくらでもある。公務中のセキュリティー態勢をどう盤石にするのかという問題と宴会場の必要性を結び付ける現状には、違和感しかない」と首をひねる。

◆事件直後「予想外の出来事だった。凶悪犯が攻撃した」, ◆初めて出席した夕食会で, ◆「目に見える形で政権の『レガシー』を残したいのでは」, ◆「宴会場だけでは対策の効果は限定的」, ◆「名前を恒久的にホワイトハウスに刻もうとしているのでは」, ◆高市首相「暴力は世界のいかなる場所でも決して容認できません」, ◆暴力を許さない空気を

トランプ政権下のアメリカと日本をテーマに講演した同志社大の三牧教授=4月20日、名古屋市東区で

 三牧氏は、宴会場が「トランプ大宴会場」と名付けられていると紹介し「(7月に迎える)建国250周年という国家の節目に合わせて自らを絶対的な存在として、その名前を恒久的にホワイトハウスに刻もうとしているのでは」とみる。

 ワシントンの総合文化施設ケネディ・センターの「トランプ・ケネディ・センター」への改称、トランプ氏の肖像画が入るパスポート(旅券)の発行計画も挙げ「死後に彼を敬愛する市民から自発的に生まれるのではなく、在任中に進行するのは異例。王のように振る舞う大統領が現れ、米国は権威主義化の道を着実に歩んでいる」と分析する。

◆高市首相「暴力は世界のいかなる場所でも決して容認できません」

 そんな中、宴会場建設に関しては「費用が膨らみ、経費が国民に転嫁される懸念や批判も高まっている。議会の承認も歴史家や建築家の助言もない」とし「ホワイトハウスは『人民の家』だ。夕食会の事件を政治利用せず、丁寧に議論を進めるべきだ」と説く。

◆事件直後「予想外の出来事だった。凶悪犯が攻撃した」, ◆初めて出席した夕食会で, ◆「目に見える形で政権の『レガシー』を残したいのでは」, ◆「宴会場だけでは対策の効果は限定的」, ◆「名前を恒久的にホワイトハウスに刻もうとしているのでは」, ◆高市首相「暴力は世界のいかなる場所でも決して容認できません」, ◆暴力を許さない空気を

首相官邸に入る高市首相=4月30日、佐藤哲紀撮影

 トランプ氏の意図はともあれ、尊い命が奪われる事態はあってはならない。有権者の負託を受けた代表者の命は重く、「要人をどう守るべきか」という点は大きな課題だ。

 今回の事件を受け、高市早苗首相はX(旧ツイッター)に「暴力は、世界のいかなる場所でも、決して容認できません」と投稿。トランプ氏も会見で「すべての米国民に、意見の違いを平和的に解決するよう求める」と述べ、憎悪を募らせて暴力に向かうことがないよう訴えた。

◆暴力を許さない空気を

 こうした発信の意味をどう捉えるべきか。

 中央大の山崎望教授(政治理論)は「一般論」と断った上で「社会において暴力を許さない意識や空気を改めて共有するために、影響力のある人物が呼びかけるのは一定の意義がある」と評価する。

 もっともトランプ氏や高市氏を巡っては「ダブルスタンダードになっており、言葉が非常に空虚だ」。

 米国とイスラエルによるイランへの攻撃は国際法違反との批判が強い。犠牲者も生んだ。「トランプ氏は国内政治と国外政治を切り分けているのか」といぶかしむ山崎氏は「高市氏も法的評価を避け続けている。暴力の行使を事実上、容認した形だ」と断じ、こう続ける。「権力者の言葉と行動が一致しない状況が続けば、非暴力や民主主義の価値はどんどん損ねられる」

◆デスクメモ

 暴力を断つ上で不可欠なのは世のモラル。許してはならぬという空気を広めることが必要だ。今は程遠い状況。大国のトップが力にモノをいわせる。悪い意味での手本。そうしても構わないと思わせないか。後世に名を残すとしても、それが悪名でもいいのか、と思ってしまう。(榊)

【関連記事】"トランプ氏参加の夕食会に武装した男が突入試みる レーガン暗殺未遂事件のホテル、銃撃戦になり31歳逮捕

【関連記事】"「影響力を持つからこそ標的になる」トランプ氏は銃撃事件後も強気 アメリカの分断はもう極限状態

【関連記事】"「トランプ氏の夕食会銃撃」で陰謀論ゾロゾロ…「自作自演」説まで 虚報を流すインフルエンサーの動機は