16歳の筋ジストロフィーの娘と“人生を楽しむ”母の行動力 ユナイテッドアローズと共同して「よだれかけにみえないよだれかけ」を制作

■社会の中にある不和を“調律”していく, ■「Soup for all!」を障害がある子にも, ■敵にはしない。「素敵」にする, ■車いすユーザー6人と無人島へ, ■子離れをして、私は私の夢をかなえる

 16年前、加藤さくらさんの次女・真心(マコ)さんは「福山型先天性筋ジストロフィー」という難病をもって生まれました。「一生、立つことも歩くこともできない」と診断され、現在もマコさんは車いす生活。言葉も多くは話せません。それでも加藤さんは「マコも家族も人生を最大級に楽しんでいる」と満面の笑みを浮かべます。これまでに出会ったヒト・モノ・コトをつなぎ、小さな不便を大きな喜びに変えてきた加藤さんの歩みを聞きました。※前編<筋ジストロフィーの16歳娘を育てる母が“絶望”から脱することができたワケ「常に娘の気持ちをベースにして考えることができるようになった」>から続く

■社会の中にある不和を“調律”していく

――加藤さんはマコさんを育てるなかで、一般社団法人を立ち上げたり、新たな商品を開発したり、コミュニティーを運営したりとさまざまな活動をしています。肩書は「社会調律家」だそうですが、その意味は?

 マコと生活していると、「こういうものがあるといいな」と考える場面がとても多いんです。その解決のために法人を立ち上げたり、コミュニティーをつくったり……いつの間にか「お仕事は何をされているんですか?」と聞かれても簡単に答えられなくなっちゃって(笑)。

 そんなとき、私の活動を応援してくださる人が「社会調律家」という魅力的な肩書を考えてくださったんです。「さくらさんの仕事は、社会の中で不和を感じることを、いい感じに調律していくことでしょ?」って。

――社会を調律するっていい言葉ですね。ちなみに加藤さんは、どんな「困った」を変えてきたのでしょう。

 たとえば、マコは筋肉が弱いせいでお口のまわりがゆるくて、たまによだれが出てしまうんです。洋服が汚れないようにスタイをつけるんですが、3歳くらいになると違和感があるみたいで、見知らぬ人に「かわいそうねぇ」って言われるようになったんです。

 悪意はないのはわかります。でも「かわいそう」って言われて喜ぶ人はいませんよね。マコだって、そんな言葉にはニコニコしないんです。

■社会の中にある不和を“調律”していく, ■「Soup for all!」を障害がある子にも, ■敵にはしない。「素敵」にする, ■車いすユーザー6人と無人島へ, ■子離れをして、私は私の夢をかなえる

 それで「じゃあ、マコがつけて違和感のないスタイをつくるか!」と。

 でも、残念ながら私にはまったくセンスがない(笑)。「だったらセンスのいい人に頼むか!」と動き始めたら、アパレルブランドの「UNITED ARROWS(ユナイテッドアローズ)」がめちゃくちゃおしゃれなものをつくってくださったんです。

 その名も「スタイにもなるエプロンドレス」。

 インクルーシブなデザインなので、上の子とおそろいでも着られます。生地は吸水・速乾素材。デザイン面でも機能面でも理想的な「よだれかけ」が誕生しました。

■「Soup for all!」を障害がある子にも

――外食チェーンの「Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)」とともに、食べやすさに配慮したスープを提供するサービス開発もされたそうですね。

 ここ数年でマコは筋力の衰えが少しずつ進んできて、外食できるお店が減ってしまったんです。「このまま外食ができなくなったらツライなぁ。どこで食べられなくなるのが一番ツライかな?」と考えたとき、独身時代から大好きだったスープストックトーキョーが思い浮かびました。

 スープは食材をやわらかく煮込んでいるから食べやすいし、「Soup for all!」という価値観を持っている会社だし、もしかしてマコみたいに嚥下(えんげ)や咀嚼(そしゃく)が難しい人でも食べられるスープを作ってもらえるかもしれない……と思いついたんです。

 ただ、スープストックトーキョーさんとはまったくご縁がありません。それでいろんな人に「知り合いはいない?」と聞きまくりました。すると、たまたま企業のミーティングに同席していた人が「うちの息子、この4月にスープストックトーキョーに入社したよ」って。

 すぐさま息子さんに連絡をとらせていただいて、企画書を送りました。

■社会の中にある不和を“調律”していく, ■「Soup for all!」を障害がある子にも, ■敵にはしない。「素敵」にする, ■車いすユーザー6人と無人島へ, ■子離れをして、私は私の夢をかなえる

――すばらしい行動力ですね!

 すばらしいのはスープストックトーキョーさんです。新入社員に送った企画書が、あっという間に副社長に届く風通しのよさに驚きました。

 その後、実際にお会いして話をさせていただき、じっくり時間をかけて「食べやすさ配慮食」サービスを開発してくださったんです。現在、東京・立川、大阪・箕面、埼玉・大宮の店舗などのほか、公式オンラインショップでも購入できます。

■社会の中にある不和を“調律”していく, ■「Soup for all!」を障害がある子にも, ■敵にはしない。「素敵」にする, ■車いすユーザー6人と無人島へ, ■子離れをして、私は私の夢をかなえる

■敵にはしない。「素敵」にする

――加藤さんの周りには、いっしょに夢をかなえてくれる仲間がたくさんいます。人の協力を引き出し、巻き込んでいくために大切にしていることは?

 マコや私が「本当に困っている!」という切実な状況を訴えても、「できません」と言われることはとても多いんです。失望するし、ガッカリもします。

 それでも絶対に、その相手を「敵」にはしないと決めています。

 役所の人も企業の人も、一人ひとりは基本的にみんないい人です。前例がない、手段がないなどいろんな事情で「できません」になるので、その事情を受けいれたうえで「では、こういう方法はどうでしょう?」と提案したり、その障壁を取り除く方法を「いっしょに考えてくれませんか?」とお願いしたりします。

 こちらが「味方になってください!」という姿勢で話していくうちに、相手もどんどん素敵な面を見せてくださるんです。「敵かも」と思えた人が「素敵」になる瞬間に出会えることが、私はたまらなく好きなんです。

――「敵」を「素敵」にしてしまうんですね! 

 いいでしょう? そう考えられるようになったのはマコのおかげです。

 マコは体も動かせないし言葉もあまり出てこない。それでも「やりたいことはやりたい」とまっすぐに伝え、周囲の人を動かしてしまうのだから、上級者ですよね。

■車いすユーザー6人と無人島へ

――昨年は車いすユーザー6人とその家族で、「まったくバリアフリーではない沖縄の無人島」への旅に出かけたそうですね。

 はい。漁船の乗り下り、無人島の砂浜での移動、車いすが使えない大浴場、乗馬……すべて、同行してくれた筋肉自慢の男性たちのサポートのおかげで楽しめました。

 泊まった宿にはエレベーターさえないのに、屋上でバーベキューをしたんですよ。彼らが子どもたちを軽々と抱えて階段をひょいひょい上るし、なんなら踊り場でスクワットまでするの(笑)。

 親は笑いっぱなしだし、子どもたちは楽しそうだし、彼らはトレーニングが人助けになってうれしそう。「すみません」がどこにも存在しないんですよ。

■社会の中にある不和を“調律”していく, ■「Soup for all!」を障害がある子にも, ■敵にはしない。「素敵」にする, ■車いすユーザー6人と無人島へ, ■子離れをして、私は私の夢をかなえる

――大変なことも多いがゆえに、うれしいことや楽しいことは何倍にもふくらむのですね。

 私が15年前に絶望したのは、障害児の子育ての陰の部分だけしか知らなかったからです。でも絶望があるからこそ、喜びも感動も健常の子育ての何倍にも輝くのだと思います。

 障害イコール不幸ではないと親が気づいていれば、子どもだって不幸じゃない。私はそれを、世界中の障害者やその家族の方々に教えていただきました。

■子離れをして、私は私の夢をかなえる

――将来、どんな社会になっていたらいいと思いますか?

 20年後の社会は、もっと「表現」を大切にできるといいなと思います。

 もちろん今だって、言葉や文章以外にも芸術やダンスなどさまざまな表現方法はあると思うんです。でもそれだけでなく、目が動く、内臓が働く、それだけで表現できる方法がつくられるといい。「あなたは目の動きで表現する人なんですね」と周囲が理解すれば、言葉が話せなくても体が動かなくても「障害」にはなりませんよね。

 人それぞれの表現方法を大切にできる世の中になってほしいと心から思います。

――加藤さんご自身の将来の夢を教えてください。

 マコが18歳になったら、子離れを考えようと思っています。

 以前、デンマークで出会ったヤコブ・リースくんは、重度障害を抱えながらもいろんな人の手を借りて一人暮らしをしていました。

 日本の場合、障害者は親がずっと世話をして、親亡きあとは施設に入ることが多いですよね。

 でもヤコブのママは「子どもは18歳になったら親から離れたいと思うものよ」とあっけらかんと言うんです。

 なので、今後はマコはマコの人生、私は私の人生を考えていこうと思います。

 私の夢ですか? 「世界平和」の実現です。……と話すと「ちゃんちゃらおかしい」と思われるかもしれませんが、憧れのオードリー・ヘプバーンさんのように、私にできることを小さくてもいいから実現していきたいと思っています。

 私たちの力は小さいけれど、無力ではありませんから。

■社会の中にある不和を“調律”していく, ■「Soup for all!」を障害がある子にも, ■敵にはしない。「素敵」にする, ■車いすユーザー6人と無人島へ, ■子離れをして、私は私の夢をかなえる

(取材・文/神 素子)

○加藤さくら/1981年茨城県出身。2女の母。次女に重度の障害があることを機に、障害がある子が生まれても誰も絶望を継続しなくていい世の中にするために、食・リハビリ・遊び・アート関連のプロジェクトを複数推進中。社会の調和を促進し、個人やコミュニティーの幸福を追求する「社会調律家」。一般社団法人「mogmog engine」共同代表、一般社団法人「障害攻略課」理事など、さまざまなプロジェクトを推進。著書に『えがおの宝物 ―進行する病気の娘が教えてくれた「人生で一番大切なこと」―』(光文社)、『障害のある子が生まれても。』(A-Works)。

・【写真】UNITED ARROWSが手掛けたインクルーシブデザインのドレスはこちら(ほか、全5枚)

・【前編を読む】筋ジストロフィーの16歳娘を育てる母が“絶望”から脱することができたワケ「常に娘の気持ちをベースにして考えることができるようになった」

・高1で義足になったパラ陸上・銅メダリストの一言をきっかけに生まれた「ギソクの図書館」とは?「子どもたちに競技用義足を使って自由に走ってほしい」