「図書館戦争」に勝った共産党籍の新市長は、なぜ施設の廃止を止められなかったのか 市民の怒りで当選したのに、直後に「公約違反」となったその訳は

東京都清瀬市長選で初当選を決め、記者団の取材に応じる原田博美さん=3月、東京都清瀬市
それは、本当に「思いがけない勝利」だった。3月29日投開票の東京都清瀬市長選。自民党推薦の現職・渋谷桂司さん(52)が、共産党籍を持つ無所属新人に敗れたのだ。
勝利した原田博美さん(50)は後にこう振り返っている。
「とても勝てる見込みなんてなかった」
現に4年前の前回は、共産党が推薦した別の候補がほぼダブルスコアで渋谷さんに敗れた。当時と決定的に違ったのが、図書館の再編だ。
渋谷市長時代、6カ所あった市立図書館のうち、中央図書館を含む4館が廃止・再編された結果、3館となった。これに市民が怒ったのだ。
市議だった原田さんは「知る権利を守る」と再開を訴え、再編の是非を正面から問いかけて争点化した。選挙戦は「図書館戦争」の様相を呈した。
ところが、原田新市長は就任してほどなく、閉館された施設のうち中央図書館の再開断念を表明した。公約を早々に一部撤回したのだ。なぜなのか。本人にじっくり聞くと、再編が決まった当時、議会が事実関係を詰め切れていなかったのではないか、という一面が見えてきた。(共同通信=河内俊英)

解体された中央図書館の跡地=4月25日、東京都清瀬市
▽1日100万円の費用が生じる
原田さんは市長就任から3日後の4月6日に記者会見を開き、中央図書館で始まっていた解体工事の続行、つまり図書館再開の断念を表明した。このときの記者との主なやりとりは次の通り。
原田さん)
就任した3日、中央図書館の解体工事の進捗を確認するため現地に足を運び、職員からも説明を受けました。想像以上に解体が進んでいることが分かりました。工事の中断によって生じている課題、解体を中止する場合の課題も説明を受けて、結論から申し上げると、解体は続行せざるを得ないと判断しています。再開を願っていた市民の皆さんには本当に申し訳ない思いでいっぱいです。
工事中断によって、解体業者に対する費用が1日100万円程度発生しています。人件費と重機のリース料です。工事が延期されるとその分、追加費用が発生します。
また、中央図書館の敷地も含めた一帯は都市計画公園として事業の認可を受けました。この場合、整備する上で建築可能な用途、面積に制限があることも説明を受けました。(別の複合施設を敷地内に整備したため)中央図書館を再建する場合、一部を削らなければなりません。これは大変困難で、設計からやり直さないといけないことも認識しました。
再開の前提条件が大きく崩れていると認識し、中央図書館の再開は極めて困難と判断せざるを得ないと考えています。

インタビューに答える東京都清瀬市の原田博美市長=4月23日、清瀬市役所
▽公約との齟齬がないかと言われれば…
記者)
面積に制限があることはいつ、どういう形で認識したのか。渋谷前市長からの引き継ぎはなかったか。
原田さん)
建ぺい率の関係で図書館を削らなければならない、という事実は3日に知りました。正直驚きました。渋谷前市長からの説明も受けていません。
記者)
建物を残すと判断できるかどうか、選挙前や選挙時点で部局に確認しなかったのか。
原田さん)
建物を残せるかどうか、選挙前は直接は確認をしていませんでした。これは私の認識不足もあって、2025年度中は解体工事は入らないと考えていました。予算書を見る限り、解体費用が含まれていなかったので。ただ、実際は3年間の継続費ということで計上されていて、解体のスケジュールは既に入っていたということが後で分かりました。
記者)
今回の決断と、選挙で掲げた公約は齟齬を来さないのか。
原田さん)
齟齬がないかと言われれば、あるということなんでしょう。それ以外、地域の図書館の再開にはこだわりたいと思っています。歩いて行ける場所に図書館があることの大切さということで、たくさんの方から声が寄せられました。図書館サービスの向上は追求したいと思っています。今回は「図書館戦争のような選挙だった」と皆さんから言われるほど、図書館が大きな争点の一つになりました。図書館の役割を皆さんと再確認しながら、地域館の再開を含めて本当に追求したいと決意しています。

東京都清瀬市役所=4月6日
▽質問しなかったのは「痛恨の極み」
原田さんは4月6日の記者会見で「公約違反」を事実上認めた。なぜこのようなことになったのか。改めて話を聞こうと市役所を訪ねて、選挙戦の振り返りから今後の市政運営まで語ってもらった。インタビューは4月23日に実施した。
記者)
市長選に立候補した理由を改めて教えてください。
原田さん)
ここ2~3年の間に、図書館の廃止に加えて、市役所の出張所や学校のプールも廃止されました。市民の財産が、市民との十分な対話も合意形成もなく進められてしまい、たくさんの方から「どうして?」と、こんな市政は変えてほしいという声を聞いていました。渋谷市長には(市議として)最も対峙していた自覚もあったので、自分が立候補することで少しは反省を求められるかなという思いもあって、とても勝てる見込みなんてなかったんですが、立候補するに至りました。情報公開を徹底して、皆さんとの対話によっていろいろな問題を解決したいということを一番に訴えました。
記者)
図書館の再編については具体的にどう訴えたのか。
原田さん)
3カ所あった地域図書館の再開と、中央図書館を残そうということです。都市計画公園内にできた複合施設内にある「南部図書館」は規模の小さい、子どもの本が多い場所ですので、大人の方には物足りないということも聞いています。中心は(中央の機能を移した)駅前図書館だけで、そこは混雑してゆったり新聞を読むのも難しい、ということも聞いていました。そういう意味で中央図書館はやっぱり残そう、ということを訴えていました。
記者)
中央図書館に関する公約違反との指摘にはどう答えるか。
原田さん)
市議会では毎回毎回、中央図書館の役割を問うていましたし、残すべきだという議論をしていたんですが、本当に残念ながら建ぺい率の話が出てこなかった。質問しなかったのは本当に痛恨の極みです。解体時期が新年度に入ってからだろうと思っていたのも、勘違いと言えば勘違いだったんですが。
解体工事を休むと1日100万円かかりますというのもあって。清瀬にとっては1000万円、2000万円というのは本当に大きなお金です。工事中断によってかかるのは避けたい思いも強かったです。中央図書館の再開を訴えて、それを守れないところは本当に申し訳ない思いでいっぱいでしたが、地域図書館の再開を含めて全体を充実させていくところはまだ追求できると思っています。
記者)
中央図書館を除く3カ所の地域図書館は再開を目指すという理解で間違いないか。
原田さん)
私としてはそういう思いです。
記者)
再開が難しいということはなぜ、選挙前に分からなかったのか。
原田さん)
解体工事を進めるという答弁はもらっていたんですが、再開が困難な理由として提供された情報はあまりに少なかった。市長に就任して現地を見に行って、担当課から説明を受ける中で初めて知る情報があまりにも多かったです。
記者)
建ぺい率の問題があるという点は選挙前に詰めなかったのか。
原田さん)
当然議論になってよかったんですけど、私だけじゃなくて、議会全体でその追及ができていなかったんです。説明も当然なかったので、どうして気付かなかったんだ、分からなかったんだと言われれば、もう答えようがないんですけれども…。
▽何でも反対、にならないように
本を読む自由を守るために戦う人を描いた小説「図書館戦争」。これになぞらえられた選挙に勝利した原田さんには、市民から大きな期待が寄せられる。共産党によると、党籍を持つ現職首長は埼玉県蕨市長、大阪府忠岡町長、長野県中川村長に次いで4人目だ。
一方、清瀬市議会は渋谷前市長を推薦した自民党、公明党系の会派で過半数を占める。図書館再編を議決した議会であり、原田さんにとっては「アウェー」の環境となる。
記者)
今後はどのような市政運営を目指すか。
原田さん)
私は市議会議員として23年活動してきましたので、今の議会の皆さんとは顔なじみです。立場が変わったので、胸襟を開いて、市民のためになることは議論を重ねて合意を形成していきたいと思っています。
予算が通らないということはあってはならないと思っているので、来年度の予算編成に向けては、1年かけて自分の考えを伝えて、自民党や公明党の皆さんからの意見もしっかりお聞きしながら、考えていることを共に練り上げていければ、市民のためなら一致できると思うんです。変にイデオロギーとか、私が提案するものはみんな反対、みたいになってしまうとちょっと困るんですけど、そうならないように議論は重ねたいと思っています。