40代後半でも要注意 アルツハイマー病は「早期予見・早期予防」に変わりつつある

「健脳カフェ」で行われる運動の様子。腕を曲げる、伸ばす、たたくなどの動きで脳を活性化させる=4月、東京都新宿区のアルツクリニックPETラボ(織田淳嗣撮影)

認知症の7割を占めるアルツハイマー病で、早期の検査によって予見・予防をする動きが広がっている。血液検査など体への負担が少ない方法で予兆をとらえる手法も出てきた。ただ、進行型の病気であるアルツハイマー病は患者と長い関係になることが多く、専門家は「単発の検査ありきではなく、総合的な診察やその後のフォローが重要だ」と訴える。

症状表れる20年前から蓄積

「検査だけでなく総合的な診察が必要だ」と話す新井平伊医師=東京都新宿区のアルツクリニックPETラボ(織田淳嗣撮影)

「アルツハイマー病の対策は早期発見・早期治療から、早期予見・早期予防に変わりつつある」。アルツクリニックPETラボ(東京都新宿区)の新井平伊医師は、こう指摘する。

アルツハイマー病は脳内にタンパク質「アミロイドβ(ベータ)」が蓄積し、神経細胞が減って発生する。新井氏は「症状が表れる20年ほど前から、脳にアミロイドβが蓄積する」と指摘。70代で発症する人は50代から蓄積が始まっており、40代の後半でも要注意だという。

現時点で、蓄積を判断できる精度の高い手法の一つがアミロイドPET(陽電子放出断層撮影)検査だ。アミロイドβに結合して「目印」となる薬剤を注射し、専用カメラで撮影する。脳の形状を見るMRI(磁気共鳴画像装置)では検出できない蓄積を判別でき、腰から針を刺す脳脊髄液検査より体の負担は少ない。

しかしアミロイドPETは、症状がなく検査目的の場合は全額自費で、目安は約30万円と高額だ。機械のある施設も限られる。それでも40~50代の健康な人が脳ドックを受ける際、アミロイドPETを追加受診することもあるそうで、新井氏は「最近は早期に対応する意識が高くなっている」と語る。

アミロイドPETや脳脊髄液検査が保険適用の対象となるのは、アルツハイマー病による初期症状や認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)が疑われ、アミロイドβを除去する専門薬「レカネマブ」の投与を検討する場合などに限られる。医療費の自己負担を一定額に抑える「高額療養費制度」の対象にもなっている。

検査後のフォローも必要

予兆を血液検査で調べる手法も広がっている。

「MCIスクリーニング」は、脳からアミロイドを排出する機能を持った別のタンパク質の血中量を測定。量が少なければ、MCIのリスクが高まっていると判断する。保険適用ではなく、全額自費の自由診療で2万~3万円が目安だ。

血中のアミロイドβなどを調べる「血液バイオマーカー」という検査手法もあり、複数の国内メーカーや研究機関が保険適用に向けて研究を進めている。

血液検査は手ごろな価格で体への負担を抑え、予見する手法として期待が高まっている。ただ血液バイオマーカーについて、日本認知症学会は昨年3月「急速な進歩をとげている分野」とした上で、「実臨床環境下においてデータをより一層蓄積し、性能を検証することが望ましい」とした。

新井氏によると、血液検査の結果で不安になって受診した人が、アミロイドPETではアミロイドβの蓄積が確認されないケースがあるという。

新井氏は検査手法の広がりを評価しつつ、「単発の検査ありきではなく、本人の病歴や、症状が出ていれば出てきた時期、内容など総合的な診察が重要だ。検査後に患者をフォローアップする態勢も必要ではないか」と話している。

認知症「前段階」での自覚が大切

アルツハイマー病は脳の変性疾患で、進行させない「横ばい」がゴールになる。アミロイドβを減らしても脳が回復するわけではないが、症状の進行を遅らせることができる。

一方、認知症の前段階とされるMCIは睡眠不足や鬱病、強いストレスなどが原因の場合もあり、治療によって症状が回復する場合もある。

新井氏は「大切なのは自覚症状だ。物忘れや鍋を焦がすといったミスを本人が意識しているかが早期対応のポイントになる」と指摘する。ミスの頻度や程度が上がったり、言葉が出てこないなど範囲が広がったりする〝変化〟に注目すべきだという。

MCIの非薬物療法としては、運動や十分な睡眠、社会参加、視力や聴力の回復を促すことが挙げられる。アルツクリニックPETラボでは、MCIや物忘れが気になる人たちに向け、運動やレクリエーションを通じて認知機能の低下を防ぐ「健脳カフェ」を設置し、社会参加を促している。新井氏は「いかに人生を豊かにできるか、サポートしていくことが求められる」と説明した。(織田淳嗣)