1日の乗客が49人?廃線の危機を乗り越え奇跡の復活、JR只見線が「地方創生路線」として日本一に輝いた理由

只見川に沿ったまばゆい新緑のなかを進む只見線。「世界一ロマンチックな鉄道」とも呼ばれている
豪雨被害により10年以上も運休
只見線は福島県の会津若松と新潟県の小出を結ぶ、135.2kmのJR路線。区間によっては1日にわずか片道3本しか列車が走っていない超ローカル線である。とはいうものの、撮り鉄や乗り鉄には人気の路線。その訳は、すばらしい絶景のなかを進んでいるからである。ご多分に漏れずボクも大好きな路線で、年に2~3回は必ず撮影しているほどである。
特に福島県側では只見川に沿った渓谷が美しく、なかでも第一只見川橋梁は只見線を代表するビューポイント。1938年に完成した全長176mの鉄橋で、只見川に架かるなかでは唯一のトラス橋である。町の特産の桐の花と同じ薄紫色に塗装されており、只見線が「紅葉の美しい鉄道路線ベストテン」の第1位に選ばれたことなどから鉄道ファンのみならず有名になり、地元自治体の三島町が展望台を建設したことで国内外を問わず観光客が激増し、人気に拍車がかかっている。

国道252号線沿いの「道の駅 尾瀬街道みしま宿」より徒歩10分ほどの展望台から第一只見川橋梁を望む
赤字のローカル線ではあるもののジワジワと知名度が上がり注目されつつあったさなかの2011年、この路線に悲劇が訪れる。7月27日から30日の4日間にかけて沿線は局地的な豪雨となり、29日の日雨量は430mm、時間最大雨量は69.5mmに達し、猛烈な雨が降り注いだ。
この豪雨の影響とともに只見川の増水によって只見線は盛り土が崩壊し土砂が流入。橋脚や護岸の洗掘なども相次ぎ、橋梁の橋桁が流出するなど甚大な被害となってしまった。一部区間では翌月以降になんとか復旧にこぎつけたものの、会津川口~只見間は復旧の見込みが立たず、10年以上もバスによる代行輸送を余儀なくされたのである。
なぜこのような長期間にわたって路線が復旧しなかったのだろうか。JR東日本によると、当時この区間の復旧費は約85億円と試算していた。ところが不通区間の利用状況は1日に49人ほどしか乗客がおらず、JR東日本のなかでも最低クラス。また只見線は全国でも有数の豪雪地帯を走るため、線路や信号など鉄道施設関連の経費だけでも年間2.1億円(2009年度)もかかっており、営業損益は約3.3億円の赤字であったため、JR東日本としては当初から鉄道の復旧は厳しいと判断していたからである。
上下分離方式で復旧を実現した日本一の「地方創生路線」
地域住民の多くは鉄道による復旧を求めていた。費用の1/4にあたる21億円を地元が積み立てて鉄道の復旧にあてるとし、2016年3月にJR東日本との第1回検討会が開催された。5月におこなわれた第2回検討会では、JRはバス転換が望ましいとの考えだったが、地元は更なる負担を表明し、鉄道復旧の可能性を検討するようJRに強く要請。これを受けて6月の第3回検討会で、JRは初めて上下分離方式による鉄道の復旧案を提示する。
この上下分離方式とは、福島県が第三種鉄道事業者として線路や土地などのインフラを保有・管理し、JR東日本が第二種鉄道事業者として列車を運行するというものだ。
ただJRは上下分離方式で進めるためには運営費の一部についても地元の負担が必要との考えを示したものの、自治体としてはクリアしなければならない課題が明らかになったと、前向きに受け止める意見も出たという。是非とも鉄道を残したいという地元と鉄道の復旧は難しいとしていたJRとの平行線だった議論が、この提案によって歩み寄りや方向性が見えかけ転機となった検討会とも言えるだろう。
その後、復旧工法の見直しや更なる安全対策などが検討され、12月におこなわれた第6回検討会で、只見線を上下分離方式により鉄道で復旧するとの方針が全会一致で取りまとめられた。2018年には議員立法により鉄道軌道整備法の改正が実現したこともあり、国、県と沿線自治体17市町村、JR東日本がそれぞれ復旧費用を1/3ずつ負担することが決まり、2022年10月1日、晴れて只見線は全線で運行再開を果たしたのである。

工法の見直しにより工事費の減額と工期の短縮がおこなわれた第八只見川橋梁
従来であれば赤字ローカル線は廃線となるかバス転換、もしくは第3セクターへの移行しか選択肢がなかったことから、上下分離方式による鉄道の継続というのは全国的にみても画期的なことである。

JR東日本より柳津町が譲受した会津柳津駅。駅舎内にカフェが併設されたほか、赤べこ張子工房もオープンした
このように奇跡とも呼べる復活を遂げた只見線。復旧後の持続性を高めるため日本一の「地方創生路線」として、ビューポイントの整備や学習列車の運行、オリジナルグッズの開発などさまざまな取り組みもおこなわれている。そして今、なにより只見線沿線は新緑が真っ盛り。先述した第一只見川橋梁以外にも絶景スポットが満載なので、乗車してその魅力を存分に感じてもらいたい。
(編集協力:春燈社 小西眞由美)
関連記事
「秘境路線」只見線のなかでも高レア度、マニア感あふれる3つの駅
只見線のキセキ、11年の長い年月を経てよみがえる橋と駅
田んぼの中に高層ビルが!?中国・広東省の世界遺産、開平の水田地帯に“摩天楼”が誕生した理由と、その見どころ