静かに始まった麻生氏との神経戦、高市首相はどう動く…「国力研」発足に裏の意図

政府与党連絡会議に出席した高市首相=5月18日、首相官邸

 高市早苗首相と自民党の麻生太郎副総裁の距離が、ここへきて急速に縮まっている。麻生氏が21日、自ら発起人の一人となって新たな国会議員グループ「国力研究会」(国力研)を立ち上げたからだ。高市政権を支える新たな枠組みであり、首相にとっては願ってもない援軍とも言える。

 だが永田町では、別の見方も根強い。国力研の発足によって、結果的に首相のフリーハンドは人事面を含めて狭まり、政権運営の主導権が麻生氏側へ傾いていくのではないか―という観測だ。今後、首相と麻生氏を巡る力学がどう変化していくのか。2人の静かな神経戦は、すでに始まっているとの見方もあるだけに、政権の行方に関わる重要な局面となるのは間違いない。(共同通信編集委員=内田恭司)

皇族数確保策に関する全体会議に向かう自民党の麻生太郎副総裁=5月15日、衆院議長公邸

▽「高市応援団」の裏の意図 

 「高市首相を支え、一致団結して目の前の課題に答えを出し、国民の信頼に応えていきたい」。21日、参議院会館の講堂で開かれた国力研発足の会合で、会長に就いた加藤勝信前財務相は述べた。

 国力研は、経済成長や安全保障、憲法改正など国家運営の根幹に関わる政策を幅広く議論する場と位置付けられる。発起人には最高顧問に収まった麻生氏と加藤氏に加え、茂木敏充外相や小泉進次郎防衛相、小林鷹之党政調会長、萩生田光一幹事長代行ら、党内の実力者がずらりと名を連ねる。

 会員数は347人と、党所属国会議員の8割以上。石破茂前首相や村上誠一郎前総務相ら不参加議員の中から「まるで大政翼賛会だ」との皮肉も出るほどの人数が集まった。麻生氏周辺によると、首相が掲げる政策課題の実現を後押しするだけでなく、来年秋の党総裁選で高市首相(党総裁)を無投票再選させる思惑もあるという。

首相は4月上旬に、麻生氏から国力研創設について聞かされたときに「立ち上げていただけるなら、これほどありがたいことはございません」と謝意を伝えていた。

 しかし永田町で、この「高市応援団」という説明を額面通りに受け止める向きは多くない。麻生派の中堅議員はこう語る。

 「麻生さんは『高市は安倍(晋三元首相)の後継者だ』と言って、本気で支えようとしている。日本が直面する危機を乗り越えるためだ。ただ、総裁選に出馬したことのある『ポスト高市』候補を含めて、これだけの顔触れと人数が集まれば、いつでも首相をけん制できる枠組みになる。この裏の意図は誰もが感じていることだ」

 高市首相と麻生氏の関係は、昨年10月の政権発足当初から微妙な緊張を内包してきた。高市氏が首相の座に就くうえで、麻生氏の後押しが大きかったのは周知の通りだ。党内基盤の弱い首相にとって、その支援は不可欠だった。

 だが、一度首相に就いた以上、いつまでも「麻生氏に支えられた首相」であり続けるかは別問題だ。先の中堅議員の発言は、そうした首相側の複雑な胸中を映し出しているとも言える。

「国力研究会」の初会合を終え、拍手する自民党の(左から)麻生副総裁、加藤前財務相、萩生田幹事長代行、小林政調会長=21日午後、国会

▽続く重要日程、選ぶ道は…

 首相が目指すのは、今年2月の衆院選で大勝して掲げた公約を着実に実現することだ。日本再興を掲げる経済政策「サナエノミクス」の推進、旧姓使用の法制化、安全保障関連3文書の改定と防衛力のさらなる強化、そして憲法改正。いずれも、首相を圧勝に導いた有権者から実現を託された重要課題であることは言うまでもない。

 しかし、その実現には官邸と党の緊密な連携が不可欠だ。加えて、来春の統一地方選、秋の自民党総裁選、さらに再来年夏の参院選と重要政治日程が続く。これらを乗り切らなければ、政策遂行に必要な長期政権への道筋は描けない。

 首相はどちらの道を選ぶのか。麻生氏の「支え」から一定の距離を取り、官邸主導を一段と強めるのか。それとも麻生氏との協調を受け入れ、安定運営を優先するのか―。

自民党大会に出席した日本維新の会の吉村洋文代表(右)と藤田文武共同代表=4月12日、東京都内(代表撮影)

▽注目は幹事長人事

 政権運営上の大きな岐路に立つ高市首相が、どの路線を選択するのか。その方向性は、特別国会後の7月下旬から秋にかけて想定される内閣改造と党執行部人事で見えてくる。中でも最大の焦点は幹事長人事だ。

 麻生氏が現在の執行部体制の維持を望んでいるとの見方は強い。義弟の鈴木俊一幹事長は麻生派出身であり、執行部内で存在感を高める有村治子総務会長もそうだ。先の中堅議員は「麻生派で党を押さえることが、政権への影響力を保つうえで重要だ」と、その本音を代弁する。

 一方、茂木外相や小林政調会長、小泉防衛相らも、「ポスト高市」候補として影響力を保持し、存在感を示したいといったそれぞれの思惑から、現態勢の維持を望んでいるとみられる。

 だが、それでもなお、首相が幹事長交代を模索しているとの観測は消えていない。昨年の総裁選で首相を支援したベテラン議員は「首相であり自民党総裁である以上、自らの意思を反映した人事を断行したいと考えるのは当然だ」と語る。

 とはいえ、仮に首相が幹事長人事に踏み込めば、正面から対峙することになる。麻生氏と渡り合えるだけの党内基盤を、現時点で首相が持っているわけではない。内閣支持率は高水準を維持しているものの、自民党内に自らを本気で支える派閥を抱えているわけでも、旧安倍派を完全に掌握しているわけでもない。

維新シフト

 そこで浮上してくるのが、日本維新の会との連立関係だ。

 この半年を振り返れば、高市首相にとって最大の支えは維新だったとも言える。吉村洋文代表(大阪府知事)と藤田文武共同代表との関係は良好で、自維連立は政党間合意だけでなく、首相とこの2人との個人的な信頼関係によって支えられてきた側面が強い。

 中でも首相が重視しているのは藤田氏とのパイプだ。4月18日には官邸で中華料理の昼食を交えて会談し、予算成立後の後半国会を見据えた政策課題をすり合わせた。藤田氏からは、自身のネットワークを通じて把握した自民党内外の情勢についても説明があったという。

 首相にとって、自維の連立合意こそ政権運営の土台だ。合意事項を着実に実現し、この先の内閣改造で閣内協力を得るところまでこぎ着けられれば、維新との関係は一段と強まる。それは同時に、自民党内への強烈なメッセージにもなる。

 つまり首相は、党内基盤の脆弱さを、連立パートナーとの結束によって補完しようとしているのである。

 だが、この構図は麻生氏にとって決して面白いものではない。維新が官邸に接近し過ぎれば、自身を含めた党執行部の影響力は相対的に低下しかねない。だからこそ国力研究会の発足は、首相による「維新シフト」を見越した先手と見ることもできる。

皇族数確保策に関する全体会議終了後の記者会見の様子。右奥から2人目は森英介衆院議長=5月15日、衆院議長公邸 

▽後半国会で始まった攻防

 当面の焦点は、後半国会だ。皇室典範改正、国旗損壊罪の創設、衆院定数削減、「副首都」設置法制定――。この4つの政策課題、とりわけ典範改正と定数削減が、高市首相と麻生氏、さらには維新との力関係を測る試金石となる。

 皇室典範改正と国旗損壊罪は、いずれも保守色の強いテーマである。高市首相にとっても重要課題だが、とりわけ典範改正には麻生氏の思い入れが強い。実現に向けて前進すれば、麻生氏や党執行部にとって大きな成果となる。

 一方、維新が重視するのは衆院定数削減と副首都設置法だ。これらは連立合意の核心部分であり、首相が本気で維新との関係強化を目指すのであれば、避けて通れないテーマである。

 しかし、いずれに対しても自民は、「野党の抵抗」や「制度設計の難しさ」を理由に、維新と歩調をそろえるには至っていない。

 首相はどう動くのか。

 

 高市首相が突き付けられている課題の難しさは、政策、連立、人事の3つが複雑に絡み合っている点にある。政策を進めるには、自民党内だけでなく維新の協力も必要になる。維新との関係を深めれば、自民党内には反発が生まれる。党内を抑え込むには人事が必要だ。しかし人事に踏み込めば、麻生氏と衝突することになりかねない。

 それでも、これまでの首相の政治姿勢を踏まえれば、後半国会で重要政策を前進させ、夏から秋の人事で自らの意思を示し、維新との連立をてこに独自の権力基盤を築こうとする可能性は高い。

 その時、麻生氏の国力研究会は、首相を支える土台となるのか。それとも、突如として首相の前に立ちはだかる壁へと変わるのか。

 政権の行方は、すでに静かな神経戦のただ中にある。