「メガソーラー」と「自然」は共生できるのか…有害物質検出やずさんな生物調査が発覚、国策再エネ事業に脅かされる釧路湿原の希少生物

■国策「再エネ」と希少生物の営み, ■ずさんな調査と「ノーモアメガソーラー宣言」, ■森林法違反と深まる住民との対立, ■「希少種を主語にした法律を」自然との共生への道

「メガソーラー」と「自然」は共生できるのか…有害物質検出やずさんな生物調査が発覚、国策再エネ事業に脅かされる釧路湿原の希少生物

■国策「再エネ」と希少生物の営み, ■ずさんな調査と「ノーモアメガソーラー宣言」, ■森林法違反と深まる住民との対立, ■「希少種を主語にした法律を」自然との共生への道

今年3月、北海道・釧路湿原周辺のメガソーラー建設現場で土壌から基準値を超える有害物質が検出されていたことが確認された。

釧路湿原周辺の釧路市北斗では大阪の事業者がメガソーラーの建設を計画しているが、土壌汚染対策法にもとづく知事への届け出が提出されていなかったため、道の指導のもと1月から土壌に有害物質が含まれていないか調べる調査が行われていた。

3月3日、事業者が道に提出した調査結果報告書では、有害物質26項目のうちヒ素とフッ素、ホウ素の3項目で基準値を上回っていた。道は事業者である日本エコロジーに対して土壌汚染のおそれがあるとして調査命令を出し、より詳しい調査結果を7月16日までに報告するよう求めている。

国が推し進めてきた再生可能エネルギー事業の代表ともいえる太陽光発電。施設の建設現場となった釧路湿原に今、何が起きているのか…。

■国策「再エネ」と希少生物の営み

■国策「再エネ」と希少生物の営み, ■ずさんな調査と「ノーモアメガソーラー宣言」, ■森林法違反と深まる住民との対立, ■「希少種を主語にした法律を」自然との共生への道

北海道東部に広がる、日本最大の湿原「釧路湿原」。湿原一帯に生息しているのは国の特別天然記念物・タンチョウだ。湿原を支配するようなたたずまいに畏敬の念を込め、アイヌの人たちはサルルンカムイ「湿原の神」と呼んでいる。

雄大な自然に多くの生き物たちが息づくこの場所で、いま相次いでいるのが太陽光発電施設の建設だ。国策である「再生可能エネルギー」事業を進めたい企業。しかしその裏で、希少な生き物たちの営みが脅かされている。

獣医師の齊藤慶輔さん。釧路市で絶滅の危機に瀕した猛禽類の保護や治療のほか、人間と動物とのあつれきを減らす「環境治療」にも力を入れている。この日は、釧路湿原周辺にある放牧地で日本で繁殖する猛禽類のうち最も数が少ないチュウヒの生息調査を行った。

「最初から希少種が生息している場所が分かれば、申請があった段階で『ここはダメですよ』まで言える可能性がある。そのデータがないのが太陽光がどんどん進んでいってしまっている大きな原因になっていると思うので、データをアップデートして提供していきたいと思っている」(齊藤さん)

「2050年のカーボンニュートラル実現」を目指し、国が推し進める再生可能エネルギー事業。その代表ともいえるのが太陽光発電だ。釧路市内でもその数は増えていて、2012年には25カ所だったのが現在は600カ所を超えている(北海道テレビの取材では、2026年5月現在、釧路湿原周辺の4自治体(釧路市、釧路町、標茶町、鶴居村)で800カ所を超える施設を確認)。

釧路市でキタサンショウウオの研究をしている照井滋晴さん。「氷河期の生き残り」とも呼ばれる絶滅危惧種のキタサンショウウオは、開発行為によりすみかを奪われ2020年、レッドリストのランクが2段階引き上げられた。

「私が調査のために回っていた場所でも、ある日突然、太陽光発電施設を造るために更地になってしまった場所もいくつもある。そういった場所のキタサンショウウオはいなくなってしまったのではないか」(照井さん)

■ずさんな調査と「ノーモアメガソーラー宣言」

■国策「再エネ」と希少生物の営み, ■ずさんな調査と「ノーモアメガソーラー宣言」, ■森林法違反と深まる住民との対立, ■「希少種を主語にした法律を」自然との共生への道

大阪に本社を置く企業「日本エコロジー」。1000キロワットを超える大規模な太陽光発電施設・メガソーラーを全国各地に造ってきた実績を持ち、釧路市内で新たに17カ所の建設を計画している。

「できるだけ騒音のないような、規模の小さいやつ(重機)とか、そういうふうな創意工夫はしますね」(日本エコロジーの大井明雄営業部長、以下同)

「単なる我々の会社の営利だけで、利益だけでやろうとしていることではないですよ。もちろん営利がなければできません。しかし、もうひとつは社会的貢献、CO2を減らすということで、我々本州では全国700カ所、全てそこの地域の皆さんとともにやってきましたから」

地域住民とともに事業を行ってきたと胸を張る日本エコロジー。しかし釧路市では、自然環境に対する姿勢をめぐり不信感を生んでいた。

去年12月に行われた住民説明会では、参加者から建設予定地のひとつに国の天然記念物・オジロワシの巣がある可能性を指摘された。

「昭和地域、それから北園地域、両方に希少生物は存在しない。存在しないというか巣がない」(日本エコロジー)

「希少生物に全く影響がないと、どこでそういう結論を出したの?」(住民)

「全く100%影響がないという表現はしていません」(日本エコロジー)

「はっきり言ったでしょ、そうやって」(住民)

「営巣、すなわち巣を作っている…」(日本エコロジー)

日本エコロジーが説明会で配布した資料には、建設予定地が青い線の枠で示されていた。予定地のすぐ外側にオジロワシの巣がある。専門の業者が作成したという調査結果の資料でも、オジロワシの巣は建設予定地の外側にあるように見える。

しかし、釧路市に提出されている事業計画の内容から正確な位置を地図に落とし込んでみると、実際の建設予定地は南西方向におよそ40メートルずれていることが分かった。オジロワシの巣があるまさにその場所にメガソーラーが造られることになっていたのだ。

オジロワシの生態を脅かす開発に対策を講じてこなかった釧路市。市議会で市長が追及される事態になった。

「業者がもうすでに着工しようとしているときに、ガイドラインでいま対応しています、条例これからできます、だから何もできないんだ、市長として何も発言しないんだというのはおかしくないですか」(大越拓也釧路市議)

「市長しっかりしろ!」(市民からのヤジ)

「指名停止とかそういった状況もあるかもしれませんが、それを根拠に我々として声明を出していくとか、そういったことをすることは現在できない状態にございます。なかなか我々として実行力があることができないことは、悔しい。本当に悔しいです」(釧路市の鶴間秀典市長)

獣医師の齊藤さんは、10年以上前から建設予定地周辺でオジロワシのひなにGPSをつけ、生息状況の調査を行ってきた。

オジロワシのひなの活動範囲を示したデータがある。多くの点が巣から500メートル圏内に集中し、1キロ以上離れた場所でも活動していることが分かる。

「半径500メートル以内にソーラーパネルをつけてしまうと、ソーラーパネルの下にひなが潜り込んでしまう。上空から親がひなを発見できないので、餌を運ぶということができなくなる。最悪、ひなが餓死してしまう可能性がある」(齊藤さん)

釧路市からの通告を受け、日本エコロジーは巣がある場所での建設中止を決めたが、巣から500メートル圏内での建設は続行する方針を示した。

1980年に国内で初めてラムサール条約に登録され、国立公園にも指定された釧路湿原。雄大な自然と希少な生き物が息づくこの周辺でなぜメガソーラーの建設が相次いでいるのだろうか。

「日照時間が長いということと、平坦地が広がっているので開発費が抑えられる。道東というのは積雪がかなり少ないですから、年間を通して発電ができるということも電力会社としては大きな魅力なのだろう」(北海道教育大学釧路校の伊原禎雄教授)

さらに、釧路湿原の歴史をいまから50年ほどさかのぼると、建設が相次ぐもうひとつの理由が見えてきた。1970年代から80年代にかけて全国で被害が相次いだ「原野商法」。値上がりの見込みがない原野や山林を「将来値上がりする」などといったうたい文句で不当に買わせる手法だ。釧路湿原周辺もその舞台のひとつとなった。

「どうにかして土地を売ろう、売るほかないだろうなと思っていたんですけど、4000万円で買った土地なんですね。農業委員会に聞きに行ってご返答いただいたときには、もう200~300万(円)にしかならないと言われました」そう語るのは、釧路湿原の周りに5ヘクタールほどの原野を所有していた女性。父親の遺産として相続し、毎年支払ってきた固定資産税の総額はおよそ20万円に上っていた。

重荷となっていた土地を去年、買い取っていったのが太陽光発電事業者だ。買い取り価格は評価額の10倍だった。「私が期待していた以上の金額を提示していただいたので、本当にうれしかったです。正直、売却先なんて探せないですから」(同女性)

「自然環境と調和がなされない太陽光発電施設の設置を望まないことを、ここに宣言します」 釧路市は去年6月、全国で2例目となる「ノーモアメガソーラー宣言」を打ち出した。実効性はないものの、自然環境を脅かす開発に対する市の姿勢を示したものだ。

■森林法違反と深まる住民との対立

■国策「再エネ」と希少生物の営み, ■ずさんな調査と「ノーモアメガソーラー宣言」, ■森林法違反と深まる住民との対立, ■「希少種を主語にした法律を」自然との共生への道

釧路湿原周辺で相次いでいるメガソーラーの建設。希少な生き物が生息するすぐ近くでも新たな建設が始まった。

湿原を歩く2羽のタンチョウ。すぐそばにはこの春生まれたばかりのひなの姿もある。別の日に近くで撮影された映像には、タンチョウの親子のすぐ後ろで重機を使った大規模な工事が行われている様子が映っていた。「いま工事の音が聞こえてますよね。日中ずっとですね、最近は」(齊藤さん)

現場は齊藤さんが野鳥の治療をする環境省の野生生物保護センターから300メートルほどしか離れていない。

齊藤さんは「たくさんの野生動物がいて、まさに繁殖期であって、なおかつ環境省の希少種を保護する施設が間近にあってシマフクロウまで飼っている。こういうところでこれだけ音がするような工事を堂々と日中ずっとやっているということは、どういう判断のもとで保全というのがされているかを本当に知りたい」と訴える。

一方、日本エコロジーの大井営業部長は「騒音がそれだけ支障あるのなら、向こうも工事差し止めの手続きをするでしょ。ただプライドだけでしょ。灯台下暗しじゃないけれども、近いところでこんなことしやがってという感じなのではないか」と反論する。

この場所でメガソーラーの建設を行う大阪の「日本エコロジー」は、4.2ヘクタールほどの土地に6600枚のパネルを設置しようとしている。

「キタサンショウウオに関しては再調査しました。タンチョウはもともと大丈夫だというお墨付きをもらっています。近くにいるというのと現地にいるのは違いますからね」(大井営業部長)

日本エコロジーが釧路市のガイドラインに沿って行った希少生物の生息調査の結果が記された資料がある。タンチョウだけでなく絶滅危惧種のキタサンショウウオや猛禽類も建設現場には生息していないという内容だった。

日本エコロジーは、この結果を釧路市と野生生物の保護を監督する市立博物館に提出し、工事に取り掛かった。

齊藤さんは希少生物の置かれた現状を伝えるため、ドローンで撮影した映像をSNSに投稿。「土地をならしていますね。あとダンプで土砂を搬入したりというのもやっていましたね」(齊藤さん)

投稿は大きな反響を呼び、多いもので1600万回以上閲覧された。

事態は、その後急変する。道の調査で日本エコロジーの森林法違反が発覚したのだ。

「森林区域におきまして約0.8ヘクタールの開発行為が確認をされ、林地開発許可が必要な面積の0.5ヘクタールを超えていたため、本日工事の中止勧告を行いました」(道の担当者)

太陽光発電施設の建設で0.5ヘクタールを超える森林を開発するには、都道府県知事の許可が必要だ。しかし、日本エコロジーは道に申請をしないまま、0.86ヘクタールの森林を伐採してしまっていたのだ。

「北海道の貴重な財産である森林が失われたことについて大変遺憾でございます。事業者が指導に従わない場合、中止命令を発出するなど厳正に対処をしてまいります」(北海道の鈴木直道知事)

また、生物調査のずさんさも明らかになった。釧路市立博物館によると日本エコロジーが行ったタンチョウの調査は専門家への聞き取りのみで、現地での生息調査は行われていなかった。

オジロワシについては、2月から9月の繁殖期に2年にわたる毎月3日間の調査が必要だと環境省のガイドラインで定められている。しかし、実際には繁殖期でない時期に3日間行われただけだったのだ。

さらに、日本で繁殖する猛禽類のうち最も生息数が少ないチュウヒについては、調査すらしていなかった。

■「希少種を主語にした法律を」自然との共生への道

■国策「再エネ」と希少生物の営み, ■ずさんな調査と「ノーモアメガソーラー宣言」, ■森林法違反と深まる住民との対立, ■「希少種を主語にした法律を」自然との共生への道

去年9月初頭、自民党の国会議員らが建設予定地の視察に訪れた。説明を行ったのは、大阪の本社からやってきた日本エコロジーの松井政憲社長だ。

「今後におきましても、希少種、環境との調和というのを弊社としても行っていきますし、その中での指導というのは賜っていきます」(松井社長)

松井社長は、違法に伐採した部分については植樹をすると説明。希少生物の生息調査が不十分だという指摘については、「市などと協議し再調査を進めていく」としているが、建設の届け出が釧路市に受理されていることを理由に工事は続行する方針だ。

「我々も受理、ゴーサインが出た中で投資、事業開始というのを行っているわけですよね。その中で、立ち止まることもできない。投資額もかなりの投資をしていますので。どのようにすれば調和を取っていけるのかという協議を早急に行って、それに準じて工事を始めていきたい」(松井社長)

釧路市議会では太陽光発電施設の建設を許可制とする条例案が可決された。ただ、条例が適用されるのは来年以降に建設が始まる施設のため、すでに稼働しているものや建設中の施設には適用されない。

「国の法律での裏付けがなければ、なかなか我々の条例だけでは難しいところもございます。そこで生きる希少生物、自然を含めた我々の誇りを守りたい」(鶴間市長)

鶴間市長は東京を訪れ、法改正の必要性を環境大臣に自ら訴えた。「これから法整備のほうもよろしくお願いいたします」(鶴間市長)

環境に優しいエネルギーによって脅かされる自然。齊藤さんは、いまある環境の保全を第一に考えるべきだと話す。

「健全な生息環境というのは彼らの住環境ですよね。そこをしっかりとリスペクトしながら、人間も人間らしい生活を、ここは間違いない。太陽光というのを主語ではなくて、希少種というものを主語にした法律を変えていかなければ、この問題は釧路、北海道だけではなくて全国に広がってしまう」(齊藤さん)

釧路市との協議が続く中、日本エコロジーは「希少生物の調査について市の審査体制に問題がある」と主張し、去年12月末、工事を強行に再開した。建設地のうち1カ所では、絶滅危惧種のキタサンショウウオが生息していたことも判明している。

今年3月11日、鶴居村は村議会で、メガソーラーの建設予定地の購入費用などおよそ8300万円が盛り込まれた今年度の補正予算案を全会一致で可決した。

村が景観保護のため土地の購入を申し出たところ、当初、日本エコロジーは将来見込まれる利益などを含む1億5000万円を提示。その後の交渉で土地代400万円と日本エコロジーが森林伐採にかけた経費などの補償として7600万円のあわせて8000万円に減額された。

購入費用には全国からクラウドファンディングで寄せられた約8800万円があてられ、建設予定地周辺の16.8ヘクタールの土地も景観保護のために購入する予定だ。

(北海道テレビ放送制作 テレメンタリー『落日のメガソーラー 問われる自然との共生』より)

【映像】釧路湿原の希少生物たち(実際の様子)

【画像】釧路湿原の希少生物たち(複数カット)

【映像】バナナを誤嚥…重い障害が残った羽藤凰ちゃん(3)