「地方女子」はなぜ4年制大学に進学しないのか? 努力では越えられない「地域×性別」の壁の正体

なぜ地方女子は4年制大学に進学しないのか?(写真:graphica/イメージマート)

 どこに住んでいても、本人が努力さえすれば大学に進学できるというわけではない。実際、進学機会は決して平等ではない。東京では4年制大学への進学率が8割近い一方、地方では4割前後にとどまる地域もある。さらに、女性は男性よりも4年制大学への進学率が低い傾向にある。こうした差は、個人の努力だけでは説明できない。

 なぜ、地方に住む女性は4年制大学に進学しにくいのか。4年制大学に進学することが幸せに直結するのか。『なぜ「地方女子」は呪縛になるのか』(集英社新書)を上梓した寺町晋哉氏(宮崎公立大学人文学部准教授)に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──本書では、地方在住の女性(以下、地方女子)の進路選択における呪縛、すなわち心理的な束縛をテーマにしています。なぜ地方女子の進路選択に焦点を当てたのでしょうか。

寺町晋哉氏(以下、寺町):数年前、『教育格差』(著・松岡亮二、筑摩書房)が話題となり、親の学歴が子どもの進路に大きな影響を与えるという事実が広く知られるようになりました。

 一方で、SNSなどではいまだに「どこに住んでいても努力すれば大学に進学できる」という意見も多く見られます。学歴はあくまで個人の努力や意思の問題であり、結果は自己責任であるかのように語られがちです。

 ですが、現実はそれほど単純ではありません。たとえば、東京では男女ともに4年制大学への進学率は8割近くに達していますが、私が暮らす宮崎県では4割程度にとどまります。これを伝えると、多くの人は驚きます。学歴と居住地の関係は、まだ十分に認識されていません。

 さらに言えば、4年制大学への進学率は、徳島県を除き、ほぼすべての都道府県で女性より男性のほうが高い傾向にあります。つまり、進学機会には「地域」と「性別」という2つの要因が強く影響しており、決して自己責任論で片付けられるものではないのです。

──本書における「地方」の定義とは?

寺町:東北・九州地方を「地方」としました。

まず、日本には、東京や愛知、大阪を中心に栄えた、いわゆる大都市圏があります。大都市圏には大学が林立しているため、その通学圏内にある地域では大学進学率は高くなる傾向があります。

 もちろん、大都市圏か非大都市圏かだけで、大学進学率は決まりません。非大都市圏であっても、北海道、宮城、石川、岡山、広島、福岡は比較的大学数が多く、大学進学率は高くなっています。

 次に考えなければならないのは、大都市圏からの距離です。大都市圏から離れるほど、大学進学率は低くなる傾向が見られます。

 特に、宮城と福岡を除く東北・九州地方は、非大都市圏で大学が少なく、大都市圏から離れており、大学進学率が低い。そのため、本書では両地方を「地方」と定義しています。

──男女問わず、高校生は進路選択をする際に、どのような制約を受けるのでしょうか。

宮崎県の高校は半数以上が専門高校

寺町:まず大きいのは親の学歴です。東京在住社の最終学歴を見ると、大卒・大学院卒は男性で54.6%、女性で33.2%です。一方で、私が住む宮崎県では、宮崎市でも大卒・大学院卒の男性は33.8%、女性は14.1%です。

 地方では大卒者の割合が低いため、家庭内で大学進学が当たり前の選択肢として語られる機会が少ないのが実情です。

 親が大卒であれば、日常の中で自然と「大学に行く」という前提が共有されます。でも、親が大学に進学していない場合は、「なぜ大学に行く必要があるのか」という問いから始まります。教員など特定の職業を目指す場合に、初めて進学の必要性を認識するケースも少なくありません。

 さらに、地理的な制約もあります。大学数が多くない地方では、大学進学が「県外進学」となることが多いため、経済的な負担は大きくなります。自宅から通える範囲に大学がないというだけで、進学のハードルは確実に上がるのです。

 加えて、高校の種類も進路選択に大きな影響を及ぼします。

 ご自身の出身高校を思い浮かべてください。年度ごとに大学進学者や就職者の割合が大きく変わることはなく、ほぼ一定に保たれているはずです。これは、高校に進学した時点で、ある程度その後の進路選択が決まってしまうことを意味しています。

 商業高校や工業高校などの専門高校では、高校を卒業してすぐに就職することを前提としたカリキュラムで授業が進められるため、「大学進学」という選択肢自体が視野から外れやすいのです。

 東京の人には驚かれますが、宮崎県の高校の半数以上が専門高校です。延岡市には旭化成の事業所があり、地元の工業高校から優秀な人材が就職するルートが確立されています。こうした環境では、大学進学よりも就職が「合理的」な選択となる場合も多いでしょう。

 大学に進学するのか否か、どの大学で何を学ぶのかという選択は、本人の意思や学力だけで決まるわけではなく、さまざまな要因が絡み合っているのです。

──女性は高校卒業後、すぐの就労を検討しにくいため、高等教育進学が選択肢に上がりやすい側面があると書かれていました。一方で、本書の第4章は「女子はなぜ4年制大学に進学しにくいのか」というテーマです。一見矛盾するようにも感じられます。

女性の進学率を下げる隠れた要素

寺町:まず、高卒で女性が働こうとすると、非正規雇用になるリスクが非常に高くなります。仮に正規雇用で働けたとしても、賃金はほとんど上がらず、何十年働いても額面で年収200万円に届くか届かないか、という現実があります。

 高卒で自立した生活を送ることは、女性にとってかなり厳しいものがあるのです。

 一方で、男性の場合は、高卒でも現業職での正規雇用の道があります。もちろん、現業職で高卒の女性が就職することも可能ですが、いまだに「男の職場」というイメージが強いのが現状です。

 実は、高卒男性の収入は大卒女性よりも少し低い程度で、比較的安定しているケースが多いため、男子高校生には高卒で就職するという選択肢がある。

 もう一つは、女性は短期大学や専門学校に進学して資格を得ることで、キャリアを継続しやすくなるという側面です。保育士や栄養士、看護師などの資格は、4年制大学でなくても取得できます。そうした職種で安定して働くことができるため、高等教育に進みやすいという傾向があります。

 実際、短期大学や専門学校を含めると、女性のほうが高等教育全体の進学率が各都道府県でほぼ高いというデータがあります。けれども、4年制大学に限定すると、2024年度の数値では、徳島県以外のすべての都道府県で女子よりも男子のほうが高いという結果になっています。

 さらに重要なのが、保護者が娘か息子かによって「大学に進学してほしい」という期待、つまり進学期待が明らかに異なるという事実です。都市規模が小さくなるにつれて男女共に進学期待は下がりますが、どの都市規模にかかわらず、4年制大学への進学期待は息子の場合の方が10%程度高くなっています。

 つまり、「4年制大学に進学してほしい」と思われている割合が、そもそも女性のほうが低いということです。

 加えて、保育士、栄養士、看護師といった、いわゆる「安定した」職業の資格は専門学校や短期大学で取得できます。このような理由から、女性の専門学校や短期大学への進学率が高くなっているものと考えられます。

 とはいえ、専門学校や短期大学を卒業した女性の賃金は、高卒の男性よりも低い傾向があります。長期的な労働条件を考えると、たとえ専門学校や短期大学を出たとはいえ、厳しい条件で働き続けなければならないという課題は依然として残っています。

大学に進学しなくても幸せに暮らせる社会に

──高卒女性が非正規雇用になりやすいという社会構造自体も問題だと感じます。

寺町:先ほどお話ししたように、高卒での正規雇用での就職先に多い現業系が、男性の仕事というイメージが根強く残っているのも原因の一つだと思っています。

 また、大学進学の拡大という観点から見ると、1990年代には大学の定員が増加し、4年制大学に進学する女性の数が増えました。それにともない、高卒女性が就いていた職業が、より高学歴な女性の仕事とされるようになったのではないでしょうか。

 いずれにせよ、高卒で働きたい女性が正規雇用で働けるような職業が十分にないという社会自体が、ある意味ではかなり歪んでいると言えるかもしれません。この点は注目されにくい部分ではありますが、非常に重要な問題です。

──「地方女子」を呪縛としない社会を構築していくためには、何が必要だと思いますか。

寺町:そもそも大都市圏と比較すると、いわゆる地方に住んでいる高校生は、男女ともに4年制大学に進学することが難しい。これは、まぎれもない事実です。学力の高低にかかわらず、さまざまな条件が重なって、地方に住んでいること自体が大学進学における一つのハードルとなっています。

 その中で、さらに「女子」という属性が加わると、教育期待の面でも、将来のキャリアを見据えた選択という面でも、さらに制限が加わります。「手に職をつけて安定して長く働きたいなら、看護師か保育士」という話になると、必ずしも4年制大学に進学する必要はありません。

 このような「壁」の存在は確かにあります。けれども、それを踏まえた上で「どのような社会にしていけばよいか」を考えたときに、「地方女子の4年制大学進学率を上げること」は解決策にはなりません。まずやるべきことは、4年制大学に進学しない女性たちが安定して暮らせる社会を作っていくことだと考えています。

 現在の社会では、「経済的自立」や「安定した生活」というゴールが設定されている一方で、その達成手段として大学進学が半ば前提になっています。でも、進学の機会自体が限られている地方の女性にとって、この構造は極めて不利に働きます。

 私は宮崎で暮らして10年ほどになりますが、大学に進学せずとも豊かに暮らしている人たちが周囲にたくさんいます。「なぜわざわざ大学に進学する必要があるのか」というのが日常の感覚になっている社会です。

 そうした現実があるにもかかわらず、大都市圏の価値観から「大学に行けないのは不幸だ」と捉えること自体が、地方の人々にプレッシャーを与えているのではないでしょうか。

「大学に進学しなければ幸せになれない」という思い込みや社会構造を問い直さない限り、「地方女子」というカテゴリーはこれからも呪縛として機能し続けるでしょう。地方女子の進学の問題は、社会のあり方そのものの問題なのだと思います。

寺町 晋哉(てらまち・しんや)

宮崎公立大学人文学部准教授

1983年、大阪府生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(人間科学)。専門は教育社会学。「学校の当たり前」を問い直し、教育の背後にある社会構造やジェンダーの力学を探究している。著書に『<教師の人生>と向き合うジェンダー教育実践』(晃洋書房)、『現場から変える!教師の働き方』(共編著、大月書店)など。

関 瑶子(せき・ようこ)

早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。

関連記事

細木数子ブーム再来で考える、「地獄に堕ちるわよ」はなぜ人の心を縛ったのか?元占い師が明かす当たるカラクリ

阪神ファンはなぜこれほど幸せなのか?叫び、推しタオル、暗黒時代、判官贔屓を生む熱狂の正体

なぜ日本の小学校は世界を驚かせたのか?海外がうらやむ日本人の集団思考、掃除と日直に宿る「小さな社会」の力