【全文公開】遠藤久美子「萩原健一さんからの言葉で救われました」――芝居の面白さに気づくまで

’78年4月、東京都葛飾区生まれ。5人兄妹の次女。’95年に全国ネットで放映されたマクドナルドのCMで一躍有名に。″エンクミ″の愛称で親しまれ、明るく元気の良いイメージでブレイクした。映画『ショムニ』など出演作は多数

’98年8月に撮影。当時20歳

演じること

「家庭でも『この場面はどんな気持ちでセリフを言えば良いのかな』と相談できるのは、夫婦ならではですね。監督と役者は通常、撮影現場でしか話し合えませんから。場所や時間を問わず、主人と役柄について話せる環境はありがたいなと思っています」

「私の役柄は、姉妹を受け入れる民宿の女将(おかみ)の一人です。実は共同で民宿を営んでいる二人の女性も姉妹(遠藤は妹役)。心がトゲトゲしている宿泊客の若い姉妹が遅く起きてきても、『おそよう』と挨拶して温かく受け入れます。意識したのは、女将になりきり、同じ姉妹として生き方に悩む若い二人に共感できるようになること。ただ芝居に正解はない。なかなか納得できる演技はできませんね」

いつも元気な″エンクミ″から、幅広い役柄をこなす役者に成長した遠藤。幼いころから、演じることへの憧れは強かったという。

〈アナウンサーか声優になりたい〉

小学校の卒業文集にはこう綴っていた。

「アニメ『ちびまる子ちゃん』の声優TARAKOさんに感化されたんです。まる子の怒りや悲しみを、声だけで表現できるなんて『スゴイ!』って」

中学、高校時代はバスケットボールに熱中していた遠藤に、転機が訪れたのは高校1年生の時だ。

「私、ファストフード店でアルバイトしていたんですよ。ある時、ハンバーガーを食べに来た5歳上の姉の友達が、芸能関係の人だったんです。なぜか私に強い興味を持ってくれて『(事務所を)紹介するからやってみない?』と、スカウトされました。オーディションへの参加を勧められ『行ってみようかな』と軽い気持ちで受け、たまたま決まったのがマクドナルドのCMでした」

「また共演させてください」

遠藤を一躍有名にしたのが、’95年に放映されたマクドナルドのCM「証明写真編」だ。証明写真を撮るために個室に入った遠藤は、マクドナルドで買ったポテトなどを友人たちに預ける。友人は「シェイク飲んでいい?」などと個室の外から話しかけ、戸惑いながらも「いいよ」と答えるショートカットの美少女、遠藤の表情が視聴者に好評だった。

「当時の私には演技経験などありません。どういう感じで『いいよ』と言えば良いのかわからない。上手くいかず、撮影後は家に帰って泣きました。でも、でき上がったCMを見るとハマっている。訳がわからず混乱して『いいよ』と言う私の表情が、結果的に戸惑う少女の役柄にピッタリ合っていたんです」

芸能界入りした直後のこと。遠藤には、今でも忘れられない言葉がある。

「当時の事務所の社長に、こう言われたんです。『好きにやりなさい。失敗したら私が土下座でもなんでもして謝ってあげるから』と。社長に土下座なんかさせちゃいけない。一所懸命にお仕事しようと、強く感じたのを覚えています」

ドラマ初出演は17歳の時。’96年に放送された『冠婚葬祭部長』(TBS系)だ。

「主演の萩原健一さんの娘役でしたが、失敗の連続でした。例えば萩原さんと言い合いになるシーンがあるんですが、実際に父親とケンカしたことのない私は上手く演技できない。なかなかOKが出ず、助監督から別室で2時間も指導を受けました。撮影をストップさせ申し訳ないやら情けないやら……。救われたのは萩原さんの一言です。撮影が再開すると『さっきよりイイよ』と言っていただき……。何気ない言葉ですが、自信を失いかけていた私の気持ちを楽にしてくれました。

萩原さんの姿勢には刺激を受けましたね。ベテランですから個室の楽屋があるのですが、出番待ちの時でもスタジオにいてセリフ合わせやセットを見て動きの研究をしているんです。プロの役者の生きざまに接し、番組が終わる際『いつかまた共演させてください。成長して帰ってきます』とお話ししたのを覚えています。残念ながら(’19年3月に)亡くなられ、次の共演はかないませんでしたが」

20代に入ってからも遠藤の苦闘は続く。頭で描いている芝居が形にできない。「上手くいった」と思った演技も、実際に放送を見ると「あっ、違う」と反省することばかりだった。

「『オヤジ探偵』(’01年に放送されたテレビ朝日系のドラマ)で共演した中村雅俊さんに聞いたことがあるんです。『自分のお芝居に納得されたことはありますか』と。雅俊さんは『ない。納得できないから続けているんじゃないか』とおっしゃっていました。当時は謙遜しているんだろうなと思っていましたが、今なら雅俊さんの言葉の重みがわかります」

舞台で気づいたこと

一方で遠藤は、バラエティでも人気を博した。『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』(日本テレビ系)や『人気者でいこう!』(テレ朝系)などの番組で、『ダウンタウン』の浜田雅功らにイジられる天然キャラがウケたのだ。

「バラエティでは、お笑いのプロの方にトークで『この人面白いよ』と飾り立てていただいていました。私自身には、視聴者に喜んでもらえるような珍しいエピソードや巧みな話術などありません。恋愛経験すら、ほとんどなかった。ディレクターからは、よく『あの時みたいな感じでお願いします』と言われましたが、『あの時』の私はお笑いのプロが引き出してくれたキャラクターだったんです。

当時の事務所は、久本雅美さんのようにバラエティ番組の司会をさせたかったみたいです。でも、私に大勢の出演者の魅力をトークで引き出す能力はありません。バラエティで楽しく仕事ができたのは、お笑い芸人さんたちのおかげです」

’02年には初の舞台『ダブリンの鐘つきカビ人間』に挑む。この舞台をきっかけに以後、軸足を舞台に置くことになる。

「『芝居って本当に面白い!』と思えたのが、この舞台だったんです。役者や演出家が意見を言い合い、みんなで作品を作りあげていく感覚が新鮮でした。劇場に来たお客さんの反応が、ダイレクトにわかるのも刺激的でしたね。私の演技で、目の前で泣いたり笑ったりしてくれる……。それからは、ドラマでもカメラの向こうにいる視聴者を意識しています」

ただ、遠藤は先述の言葉通り現在でも自分の演技に納得していない。

「『ありがとう』のセリフ一つでも、相手がどういう人物なのか、どんなシチュエーションなのかによって言い方が変わってきます。正解は一つではないんです。私はこれからも、自分の演技に納得しないかもしれません。でも、だからこそ芝居を続けられるのだと思います」

キャリアを積んでも笑顔はそのままに、エンクミの成長は止まらない。

下町出身らしく好物は和食。ホッケの塩焼きやどら焼きを好む。カラオケの定番は細川たかしの『矢切の渡し』

「舞台はお客さんの反応が刺激的でした」 エンクミのイメージと実際の自分とのギャップに悩んだことも。解決策は「等身大で楽しむ」こと

直筆の色紙

本誌未公開カット 遠藤久美子インタビュー ″エンクミ″が芝居の面白さに気づくまで

本誌未公開カット 遠藤久美子インタビュー ″エンクミ″が芝居の面白さに気づくまで

本誌未公開カット 遠藤久美子インタビュー ″エンクミ″が芝居の面白さに気づくまで

『FRIDAY』2026年6月5・12日合併号より