ガソリン高騰でも衰えぬ中高年! 40代以上の9割が「ドライブデート好き」と回答、“クルマ黄金期世代”が支える週末需要を考える

見落とされた中高年の移動需要

 若者の車離れ、というフレーズを耳にするようになってから、ずいぶんと長い時間が経つ。維持費の負担や都市部の交通網の発達、あるいは生活に対する価値観そのものが変わったこと。色々な理由から、あえて車を持たない生き方を選ぶ若い世代が増えたのは確かなのだろう。実際にKINTOがまとめた2025年の調査をめくってみても、都内で暮らすZ世代(1990年代後半~2010年代前半生まれの若年層)の72.8%が「クルマ離れを自覚している」と答えている。前年からの増え幅が21.5ポイントというのを見ても、その足取りはかなりはっきりしている。

【画像】「えぇぇぇ!」 これが今回の「調査結果」です!(計8枚)

 けれど、そんな世間の賑やかな議論から少し離れたところで、確かな存在感を放っている人たちがいる。ミドルシニア層の動向だ。40~80代のユーザーが集まるマッチングアプリ「ラス恋」を運営するアイザック(東京都渋谷区)が2026年5月、1365人のユーザーを対象に行った調査がある。その結果を見ると、なんと全体の88.8%が

「ドライブデートが好き」

と答えていた(「とても好き」(44.0%)と「まあまあ好き」(44.8%)の合計)。世代ごとに覗いてみても、

・40代:88.6%

・50代:89.6%

・60代:88.9%

と、驚くほどきれいに横一線の数字が並ぶ。一部の限られた人たちの、一過性のブームとして見過ごすわけにはいかない数字である。

 この世代の心の奥には、日本中に自家用車が普及していったあの時代の熱気が、今も心地よく残っているのかもしれない。そんな彼らが今、新しい暮らしの形やパートナーシップを求め、スマートフォンを器用に操りながら再び外の世界へと出かけていく。

 ふと足元を見れば燃料費の負担は増すばかりで、2026年3月16日にはレギュラーガソリンの全国平均価格が1Lあたり190.8円という最高値を記録した。その後も政府の補助金などでいくらか抑えられてはいるものの、今なお170円前後で行ったり来たりしている状況だ。

 コストを考えれば当然、遠出を控えたくなるところだが、現実には多くの中高年が平然とハンドルを握り、遠くへの旅を楽しんでいる。消費の主役がどこへ移り、この先どう広がっていくのか、私たちはその実態を少し見誤っているのではないだろうか。

燃料高に勝る避暑空間の価値

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40~80代のユーザー1365人を対象に実施された「ミドルシニアの幸福度に関する実態調査」(画像:アイザック)

 今回の調査を眺めていておもしろいのは、ドライブの行き先である。

 一番の人気を集めたのは「海沿いの絶景ドライブ」で56.6%。これに「道の駅・ご当地グルメ巡り」が38.8%、「温泉地」が35.8%という具合に続いている。ここで目を引くのが、近場よりも圧倒的に遠出が好まれているという事実だ。「待ち合わせから食事までのプチドライブ」は20.4%に過ぎず、「仕事帰りのプチドライブ」に至っては6.2%にとどまっている。移動の面倒を避けるどころか、むしろそこにかかる時間まで含めて、丸ごと楽しもうとする姿が見えてくる。

 物価が上がれば買い控えが起きるというのは世の常だ。だが、今の車を巡る動きは、目的地へたどり着くための手段という話だけでは収まらない。美しい景色やたわいもない会話、旅先での食事といったものが一体となった、ひとつの上質な時間を過ごす場所として車が選ばれている。

 海沿いの風景に出会うのも、その土地のおいしいものを食べるのも、温泉地に足を運ぶのも、やはり車があって初めて無理なく形になるものだ。乗る人からすれば、ガソリン代という目に見える支出以上に、その道中で得られる体験の方がはるかに大きな意味を持っているのかもしれない。

 もうひとつ、近年の極端な天候もこうした選択に影響を与えている。気象庁の発表によると、2025年夏の日本の平均気温偏差は+2.36度と、1898(明治31)年に統計を始めてから最も高い数値を記録しており、厳しい暑さが当たり前になりつつある。じりじりと照りつける屋外を歩くのを避け、エアコンの効いた室内ごと移動できる車を、快適な避暑空間として活用する動きが出るのは自然なことだろう。

 価格の理屈を超えたところで、安全で心地よい週末を守るための選択肢として車が選ばれている。こうした背景が、今の底堅い需要を支えているのではないだろうか。

世代で異なる車への価値観

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『東京クルージング・デートブック』(画像:講談社)

 若い世代と中高年層とでは、車というものに向ける眼差しがずいぶんと違っている。若い層にとって車は、通勤や日々の買い物といった日常をこなすための移動手段であり、効率の良さや便利さといった基準で天秤にかけられやすい。

 とりわけ都市部を見渡せば、鉄道が隅々まで発達し、カーシェアリングや配車サービスといった代わりの手段もいくらでもある。使う頻度がそれほど高くなければ、わざわざ自分で車を抱え込む理由は薄くなるだろう。こうした意識の開きがどこから生じるのかを考えていくと、連絡方法の移り変わりと、それぞれの世代が過ごしてきた乗り物文化の歴史が浮かび上がってくる。

 かつて昭和の時代、デートの待ち合わせといえば駅前の時計台などで行うのが定番だった。今のように連絡を簡単に取る方法がなかったからこそ、車は相手との距離をぐっと縮めてくれる特別な場所として機能していた。若者向けの情報誌『スコラ』が1988(昭和63)年1月28日号で発表した調査によると、女子大生の26%が男性の魅力の条件に「クルマ所有」を挙げていたという。車がなければ「約4回に1回は無条件でフラれる」という、今思えば冗談のようでありながら、当時の若い男性にとっては切実な空気がそこにはあった。

 1989(平成元)年に発行されたデートマニュアル本『東京クルージング・デートブック』の帯には、

「クルマを飛ばしてアーバンからサバーバン(注:郊外)を元気いっぱい遊びまくろう!」

「ダッシュボードに常備のスーパー・デートバイブル」

と記されていた。当時はデートの計画を立てるその手前に、いつも車が不可欠だった。たとえば当時、中央区勝どきに誕生したウオーターフロント系の複合店舗「パイク・ファクトリー」は、日産の個性的なモデルである「パオ」や「エスカルゴ」が店頭に並び、異国の音楽が流れる若者たちの聖地のような場所だった。今でこそタワーマンションが立ち並び、地下鉄で気軽に足を運べる場所だが、当時は鉄道のインフラがなく、車を持たない人間にとっては立ち入ることすら難しいエリアだった。

 世の中の好景気も手伝って、ホンダ「プレリュード」や日産「シルビア」、トヨタ「ソアラ」のような格好の良い2ドアクーペが「デートカー」として爆発的な人気を呼び、街中ではBMW 3シリーズやメルセデス・ベンツ 190Eといった高級な輸入車も、一種のステータスとして扱われていた。

 1990年代に入りバブルが弾けた後も、車で出かけたいという思いは根強く残り、トヨタ「セルシオ」や「アリスト」の中古車がもてはやされたり、日産「フィガロ」のようなレトロな車、あるいはスズキ「カプチーノ」といった軽のオープンスポーツカーが登場するなど、好みに合わせた多様な広がりを見せる。

 当時の若者たちが必死になって格好の良い車を手に入れようとしたのは、他愛のない見栄のためだけではなかったのだろう。社会が大きく変わりゆく不透明な空気のなかで、意味のある物にお金を使い、自分の立ち位置をまわりに伝え、社会と繋がろうとする彼らなりの真剣な表現方法でもあったのだ。

 だが、その後の長い経済の停滞に合わせるように、車に向ける視線は使い勝手の良さへと大きく傾いていく。狭い2ドアクーペから室内が広いRVやミニバンへ、そして現代では日産「エクストレイル」やトヨタ「ハリアー」、レクサス「NX/RX」に代表される、街乗りからレジャーまでこなすSUVへと主役が移り変わった。

 この歩みは、ポケベルから携帯電話、さらにはスマートフォンやSNSへと連絡のインフラが発達し、出会いや付き合いのあり方そのものが手軽で効率的になった歴史とも重なり合っている。端末ひとつでいつでも緊密に繋がれる環境で育った若い世代にとって、車にスマートさと実用性を求めるようになるのはごく自然なことだろう。

 一方で中高年層は、車をただの道具として見るのではない。あの頃の懐かしい原体験も心のどこかに抱きながら、週末の時間をいかに豊かに過ごすかという視点でハンドルを握っている。目的地へ行くための枠組みを超えて、ふたりの結びつきを深めるおしゃべりの場として、車は今も機能している。

 事実、前述の調査で最初のデートでドライブを提案されたとき、男性の75.1%が「嬉しい、ぜひ行きたい」と歓迎するのに対し、女性は35.0%にとどまっており、そこには40.1ポイントの大きな開きがある。女性の55.1%が

「初デートでは緊張してしまう」

と答えているように、逃げ場のない空間だからこその戸惑いも見える。しかし、寄せられた声の中に

「上がり症で緊張するタイプですが、車の運転はお互いに横の関係で前を向いているので、緊張せずリラックスして話せるので好きです」(千葉/50代/女性)

とあるように、正面から視線がぶつからないからこそ、カフェでの対面以上に本音や将来の夢を語り合いやすいという一面もあるようだ。

「面と向かって喋るカフェデートより、何気ない会話をしながら楽しめるドライブデートがより好きになった」(愛知/40代/女性)

「ドライブすると、いつまでも一緒にいたくなるので困ります」(大阪/50代/女性)

「車中で将来の事とか話しをした」(山形/60代/男性)

といった言葉が並ぶ。車内という閉じられた空間がもたらす心の変化。それらが引き起こすお出かけの需要は、若者の車離れという一言だけでは到底こぼれ落ちてしまうような、深い市場の厚みを形作っているのだ。

旅路をまるごと楽しむ地域消費

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自動車(画像:写真AC)

 今回の調査は一見、男女の仲に焦点を当てたものだが、経済の目で見つめ直すと、地方の観光産業といかに深く結びついているかがよくわかる。前述のとおり、行く先として人気を集めた「海沿いの絶景ドライブ」(56.6%)や「道の駅・ご当地グルメ巡り」(38.8%)、「温泉地」(35.8%)は、いずれも都市部を離れた地域に点在するものばかりだ。

 ここからは、たどり着いた場所だけでなく、そこへ至る道中も含めてまるごと楽しもうとする新しい消費の広がりが見て取れる。こうした中高年層の移動は、高速道路の利用やガソリンの消費、さらには旅先での飲食や宿泊といった幅広い経済活動をひとつの太い流れに変え、地域を活性化させることになりそうだ。

 さらに、それぞれのこだわりを数字から読み解いていくと、地域ビジネスがこれから仕掛けるべき方向性も見えてくる。たとえば、女性は「桜・紅葉などの季節スポット」を45.8%が支持しており、男性の27.5%に比べて18ポイントも高い。その一方で、男性は「温泉地」が41.1%を占め、女性の24.1%を17ポイント上回っている。また、40代の44.3%が「道の駅・ご当地グルメ巡り」を選ぶのに対し、70代以上では23.5%にとどまるといった、年齢による関心の違いもおもしろい。

 誰かと時間を過ごしたいという個人的な熱量が発端となり、それぞれの好みに応じた沿道の店舗やさまざまな消費へと繋がっていく。活発に動く中高年層をどう迎え入れるかという取り組みは、地域に人を呼び込み、お金を循環させる上での大きな原動力になるに違いない。

性能から感動への役割転換

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40~80代のユーザー1365人を対象に実施された「ミドルシニアの幸福度に関する実態調査」(画像:アイザック)

 業界ではずいぶんと長い間、

「どうやって若者を振り向かせるか」

という話が繰り返されてきた。もちろん、これからを担う若い世代が大切な市場であることに変わりはない。ただ、いま目の前にある需要の姿を眺めると、ミドルシニア層がもたらす影響の大きさから目を離すわけにはいかないだろう。

 40代から80代にいたるまで、これほど幅広く親しまれているドライブの文化は、これからの高齢化社会にあっても確固たる規模を保ち、むしろさらに広がっていく可能性さえ含んでいる。

 仕事の一線を退いたあとも元気に動き回り、健康でいられる期間が延びるなかで、車は日々の暮らしに欠かせない道具という枠を越え、余暇の充実や人と人との心の通い合いを支える基盤として、その価値を高めている。

 こうした人々の動きに合わせるように、自動車メーカーが担う役割も少しずつ変わり始めている。これまでは馬力や燃費といった性能を競うものづくりが中心だったが、これからは移動のなかで生まれる感動や心地よさを届ける役割へと、その重きが移りつつある。

 現に2025年7月に行われた夏のデートに関する調査を見ても、「この夏にしたい理想のデート」の1位として

「日帰り旅行・ドライブ」

を挙げた人が42.2%にのぼり、60代の男性に限れば53.3%が支持している。これほど活動的な人々を惹きつけるためには、車内の操作パネルの使いやすさや音響環境のこだわり、あるいは安全な移動を支えて運転を楽しんでもらうための先進技術など、車そのものとサービスの両面から工夫を凝らさなければならない。

 若い世代に向けたデジタルの取り組みや新しい定額サービスを進める一方で、移動そのものを楽しみたいと願う人たちをいかに支えていくか。それこそが、これからの開発が向かうべき新たな道筋となっているのだ。

構造転換がもたらす市場の拡張

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自動車(画像:写真AC)

 これらの数字や声に触れてみると、自動車の市場が一筋縄で縮小に向かっているわけではないことに気づかされる。若い世代が車から離れていく流れが止まらない反面、中高年層は変わらずハンドルを握り、遠出を楽しみながら誰かとの結びつきを深める手段として使いこなしている。

 この状況を、若者が乗らなくなった斜陽の市場と見るのか、それとも乗り手の年齢層や使い道が移り変わっている過渡期の市場と捉えるのか。その視点の置き方によって、これからの業界の景色はまるで違ったものになるはずだ。

 環境の変化を並べるだけでは、説明のつかない底堅い需要がここにはある。目的地へ向かう足であると同時に、心が弾むような体験や豊かなおしゃべりを包み込む場所。そんな車のあり方が今も人々に求められているのだろう。こうした活発な動きは、自動運転や通信を伴う技術、あるいは電気自動車(EV)といった新しい仕組みが、社会でどのような心地よさや豊かさを届けるべきかという、これからの進路を指し示しているようでもある。

 移動を売るビジネスから、人生の時間を豊かにするビジネスへ――市場は形を変えながら、その可能性をさらに外へと広げている。