ビル・ゲイツ氏、長年かけて築いた「虚像」に亀裂

米マイクロソフト共同創業者でゲイツ財団を創設したビル・ゲイツ氏(70)のスタッフは長年にわたり、同氏のイメージづくりを細部に至るまで入念に行ってきた。曜日ごとの装いを確認するため、本人の体格に合わせた特注のマネキンを用意しているほどだった。

現職および元職員によると、スタイリング担当チームは、落ち着いた色調のクルーネックやVネックのセーター、ボタンダウンシャツ、スラックス、さらにシルバー・ライニング・オプティシャンズ製「カーボン」モデルのメガネの予備を社外の別の建物に大量に保管している。公の場に出る予定があると、担当者は通常3通りのコーディネート案を用意し、上級スタッフの承認を仰ぐ。目標は、ゲイツ氏を穏やかで親しみやすい人物として印象づけること。いわば、ミスター・ロジャースのような人物だ(訳注:米国で長年親しまれてきた子ども向け番組の司会者)。

こうした細部への徹底したこだわりは、ゲイツ氏本人とその巨大な事業・慈善活動組織である、いわば「帝国」の広報を担う数十人規模のスタッフによる努力のたまものであり、同氏のイメージを磨き上げるのに大きく貢献した。ゲイツ氏は「独占企業マイクロソフトの経営者」というかつてのイメージから脱却し、知性あふれる大富豪であり、世界的な慈善家として温かな雰囲気をまとった人物として見られるようになった。総額890億ドル(約14兆2700億円)の資金を有するゲイツ財団は世界最大級の慈善団体の一つであり、乳幼児死亡率の低減や感染症対策など国際的な保健医療や社会の発展を支援する分野で先導的な役割を果たしてきた。2019年に実施された「尊敬する著名人」に関する調査で、ゲイツ氏はトップに選ばれた。チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ氏や、当時は存命だったローマ教皇フランシスコを抑えての首位だ。

だが、ゲイツ氏が長年かけて入念に築き上げてきたイメージは、故ジェフリー・エプスタイン元被告との関係について新たな事実が次々に公になるにつれ、音を立てて崩れた。この性犯罪者との関係を矮小(わいしょう)化させようとしてきたこれまでの努力も水泡に帰しつつある。今年2月に財団職員向けに開かれた全体集会(タウンホールミーティング)で、ゲイツ氏はエプスタイン元被告の電子メールに言及されていたロシア人女性らと2度にわたり不倫関係を持ったことを認めた。

事情に詳しい関係者の一部は、職員への同氏の告白を信じられない思いで聞いたと語った。同氏の離婚手続きでは、20件を超える不倫関係の疑惑が浮上していたからだ。

米司法省の文書によると、ゲイツ氏は当時の妻が懸念を示していたにもかかわらず、エプスタイン元被告と複数回会っていた。エプスタイン元被告はゲイツ氏の婚外関係の一部を知っていたほか、ゲイツ氏の側近2人が、同元被告が死亡した2019年まで何年にもわたって彼と何百通ものメッセージをやり取りしていたことが明らかになっている。

ゲイツ氏の行動に関する一連の暴露の余波は、同氏の評判を守るための取り組みをむしばみ始めている。ゲイツ氏は最近、長年出席してきた自社の年次CEOサミットに招待されなかったほか、バークシャー・ハサウェイの年次株主総会にも出席しなかった。

ゲイツ財団と同氏の個人事務所であるゲイツ・ベンチャーズの二つの異なる世論調査チームは長年、同氏に関する世論を綿密に追跡してきた。調査内容には、好感度や信頼性、インスピレーション(人を鼓舞するような存在かどうか)などが含まれている。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した内部文書によると、ゲイツ財団向けに作成されたメディア分析では、エプスタイン関連文書が公開されてから2月までの間に、ゲイツ氏と財団に関する「批判的な報道の論調」が40%以上増加したことが分かった。

あるグラフでは、世界的に大きな報道の波が起きた三つの出来事が強調されていた。それは、ゲイツ氏の元妻のメリンダ・フレンチ・ゲイツ氏がインタビューでエプスタイン元被告について語ったこと、ゲイツ氏がインドのテクノロジーサミットへの参加を取りやめたこと、そしてその後、財団職員とのタウンホールミーティングで同元被告との関係について語ったことの三つだ。その分析では、これらの報道は「否定的な論調」が継続していることを示すものだと指摘されていた。

ゲイツ氏と彼の部下たちは長年、エプスタイン元被告との関係は厳密に慈善活動に関するものであり、同元被告との会合に女性は同席していなかったと主張してきた。だが司法省の文書は、より複雑な状況を明らかにした。エプスタイン元被告はゲイツ氏と一緒に旅行し、ノーベル平和賞委員会の委員長にゲイツ氏を紹介した。同元被告はゲイツ氏の従業員とゲイツ氏本人の間の交渉に関与していた。さらにゲイツ氏は、一部の会合の前後に同元被告と彼を取り巻く女性たちと写真撮影に応じていた。

米司法省の文書にある写真には、エプスタイン元被告と同席するゲイツ氏の姿が写っている

ゲイツ氏の広報担当者は、同氏がエプスタイン元被告とともに違法行為に関与したことは一切ないとし、同元被告と会ったことは過ちだったと認めたと述べた。「ゲイツ氏はこの過ちについて謝罪しており、(6月)初旬には米下院監視・政府改革委員会で自発的に証言し、エプスタイン元被告との関わりについて質問に答える予定だ。ゲイツ氏は、被害者が当然受けるべき正義を得られることを願い、エプスタイン関連文書の全面公開を支持している」

ゲイツ財団の広報担当者は声明で、「エプスタイン元被告が女性や少女に行った加害行為は恐ろしいものであり、財団は職員がいかなる形であれ彼と交流したことを遺憾に思う」と述べた。

フレンチ・ゲイツ氏の広報担当者はコメントを控えた。

新たな事実の発覚を受けて財団内部で動揺が広がるなか、財団は職員に対し、エプスタイン元被告との関係について外部による調査を開始したと伝えた。今週、ゲイツ氏はエプスタイン元被告との関係を巡り、米下院の委員会で追及を受ける予定だ。

ゲイツ氏のチームは、共和党系で元司法省当局者の弁護士ジョン・モラン氏を代理人として起用した。その結果、議会委員会による任意聴取の日程を数週間先送りさせることに成功したほか、その様子を映像で公開しないという合意を取り付けた。

関係者によると、一部の委員会メンバーは、司法省の文書に含まれていたエプスタイン元被告の電子メールについてゲイツ氏に質問する予定だという。そのメールは同元被告が自分宛てに送信したもので、文面にはゲイツ氏が性感染症にかかっており、当時の妻に密かに投与する抗生物質について尋ねたという内容の記述があるという。ゲイツ氏の広報担当者は以前、2013年の同メールについて、「まったくばかげた内容であり、完全な事実無根だ」と述べていた。

財団職員向けに今年2月に開かれたタウンホールミーティング――内部では「BG Unplugged(ビル・ゲイツとの率直な対話)」と呼ばれている――で、ゲイツ氏は悔恨を示す一方で、強気に反論する姿勢も見せながらエプスタイン元被告との関係について語った。同元被告と会ったことは過ちだったと認めたうえで、この状況は「財団の価値観とは正反対のものだ」と述べた。

ゲイツ氏は、ロシア人女性との2件の不倫を認めたほか、顔が黒塗り処理された複数の女性と一緒に写っている写真についても言及。その女性たちはエプスタイン元被告のアシスタントだったと説明した。「私は違法なことは何もしていない。違法なことは何も見ていない」と同氏は語った。その女性たちは会合には出席しておらず、自分はその女性たちとは話していないと述べた。タウンホールミーティングの最前列には、ゲイツ氏の交際相手のポーラ・ハード氏、ゲイツ氏の姉妹の1人、そして長年にわたりゲイツ・ベンチャーズのCEOを務め、ゲイツ氏の右腕として知られるラリー・コーエン氏が座っていた。

エプスタイン元被告の死とネットフリックスの特番

内部文書や関係者によると、ゲイツ氏の側近たちは長年にわたり、同氏の人物像を注意深くつくり上げてきた。その狙いは、マイクロソフトを率いて独占禁止法違反訴訟への対応に追われ、当局と激しく対立していた頃の姿とは異なる人物像を印象づけることだった。

ゲイツ氏のチームは、ソーシャルメディアのフォロワーやブログ「Gates Notes(ゲイツ・ノーツ)」の購読者を増やすため、同氏のオンライン上での見せ方を細かく管理している。その中でも特に注目を集めた一つは、数年前に話題となったユーチューブ動画だ。ゲイツ氏と億万長者の友人ウォーレン・バフェット氏がアイスクリームチェーンのデイリークイーンで店員として働く様子を収めたもので、ネット上で大きな反響を呼んだ。

世論調査会社ユーガブが2019年に実施した調査で、ゲイツ氏が「世界で最も尊敬されている男性」に選ばれたことは、ゲイツ・ベンチャーズのスタッフたちを大いに喜ばせた。このゲイツ氏の個人事務所では大勢のスタッフが、同氏の発言内容から着用するセーターに至るまで、世間に与える印象を細かく管理している。

ゲイツ・ベンチャーズのCEOであるコーエン氏は、WSJが確認した電子メールの中で、「(ゲイツ氏が選ばれたことは)非常に素晴らしい結果であり、このチームの懸命な努力と創意工夫のたまものだ」と書いていた。それは「ビルと私たち全員が取り組んでいる活動に対する世間の高い評価」を示しているとも述べていた。

コーエン氏や関係者らは本稿のためのコメント要請に応じなかった。

2019年の夏、エプスタイン元被告は逮捕され、拘留中に死亡した。彼の死をきっかけに、その広範な人脈に改めて注目が集まり、ゲイツ氏を含む有力者とのつながりの一端も明るみに出始めた。

その年の9月、ネットフリックスはドキュメンタリー作品「天才の頭の中:ビル・ゲイツを解読する」をリリースした。この作品は、慈善活動家としての「第二の人生」を歩むゲイツ氏を、親密かつ好意的な視点から描いたものだった。その月にこのドキュメンタリーに関連してWSJが行ったインタビューで、ゲイツ氏はエプスタイン元被告との関係について質問を受けた。

ゲイツ氏はこう答えた。「彼に会ったことはある。彼とはビジネス上の関係も友人関係もなかった(中略)彼の周りには、世界の保健医療分野のために資金を集めたり、慈善活動への寄付を増やしたりしたいなら、彼は多くの金持ちを知っている、と言う人たちがいた。彼と一緒にいた会合はすべて男性とのものだった。パーティーやその類いのことには私は一度も参加したことがない」

ネットフリックスのドキュメンタリー作品「天才の頭の中:ビル・ゲイツを解読する」の一場面

翌月、コーエン氏は個人事務所の職員を集めたミーティングを開き、ゲイツ氏とエプスタイン元被告の関係に関するメディア報道について説明した。出席者によると、コーエン氏はスタッフに対し、見た目の印象は悪いが、2人の関係は慈善活動に関するものに限られていたと話した。

ミーティングの後、一部の出席者は、経営陣が透明性よりも情報発信のコントロールを優先しているように感じたと語った。

ゲイツ氏は後に、2011年から14年にかけて、ニューヨークのタウンハウスやフロリダ、シアトル、欧州などで、エプスタイン元被告と複数回会っていたことを認めた。

離婚ともう一つのネットフリックス特番

ゲイツ氏とエプスタイン元被告の関係は、同氏とフレンチ・ゲイツ氏が離婚手続きを進めていた2021年に再び大きな問題として浮上した。WSJは、夫婦間の緊張の原因の一つは、ゲイツ氏と同元被告との関わりに対する妻の懸念にあったと報じた。その懸念は2013年にまでさかのぼるという。

2023年にWSJは、エプスタイン元被告がゲイツ氏とロシア人のブリッジ(トランプゲーム)選手との不倫を把握しており、その情報を利用して同氏を脅迫しようとしたようだと報じた。当時、ゲイツ氏の広報担当者は「エプスタイン元被告は過去の交際関係を利用してゲイツ氏を脅迫しようとしたが、失敗に終わった」とコメントしている。

水面下では、ゲイツ氏のチームが同氏のことを「テクノロジー分野で先見の明があり、世界の保健医療や気候変動対策を支援する慈善家」と紹介する新たなネットフリックス作品の準備を進めていた。職員には、この企画は独立したドキュメンタリー作品として説明されていたが、内部資料によれば、ゲイツ氏側の組織が関与していたことは明らかだ。

ゲイツ・ベンチャーズ幹部のイアン・サンダース氏が書いた文書によれば、ゲイツ氏とコーエン氏はドキュメンタリーシリーズの公開前に、全エピソードを「一気見」した。サンダース氏はその後、トレモロ・プロダクションズなど、このドキュメンタリー制作に関わったスタッフに対し、六つの主要なフィードバックを伝えた。

ドキュメンタリーシリーズ「What’s Next? ビル・ゲイツと考える未来の展望」の一場面

同文書には「もし追加の資金が必要であれば、トレモロ側に損失が出ないよう、あるいはそれ以上の資金を出すことも可能だ。コストを理由に『制作の継続』を断念するようなことはしたくない」とあった。

ネットフリックスとトレモロの広報担当者は、ゲイツ氏側がドキュメンタリーの制作費を一部でも負担したかについては「関知していない」と述べた。また、ネットフリックスの広報担当者は、同シリーズの最終編集権およびクリエーティブ面の承認権は、引き続き同社が保持していると説明した。

事情に詳しい関係者によると、プロジェクトが完了した際、ゲイツ・ベンチャーズ幹部の名前がプロデューサーとして記載されており、ドキュメンタリー制作チームのメンバーの中には驚きや失望を覚えた人もいた。このシリーズのタイトルは「What’s Next? ビル・ゲイツと考える未来の展望」だ。

ネットフリックスの広報担当者は、プロデューサーのクレジットについてコメントを控えた。

司法省の文書公開

2024年のネットフリックスのドキュメンタリーが未来に目を向ける試みだったとすれば、司法省のエプスタイン関連文書は過去を掘り返すものとなった。司法省の文書には、ゲイツ氏本人やゲイツ財団、あるいはゲイツ氏のために働いていた人たちにつながる電子メールが1000通以上含まれていた。

財団内部では不満やいら立ちが次第に高まっていった。2020年にCEOに就任した財団生え抜きのマーク・スズマン氏は、文書が公開された数日後の2月初旬、職員向けのタウンホールミーティングを開いた。ゲイツ氏は出席していなかった。

出席者やミーティング内容について説明を受けた関係者によると、複数の職員がゲイツ氏とエプスタイン元被告の関係について質問した。その中には、財団のパートナー団体に対して、自分たちは何と説明すればよいのか理解できるよう助けてほしいとスズマン氏に求めた職員もいた。

スズマン氏は職員に対し、エプスタイン元被告と財団のいかなるつながりであれ、「何か汚点がついたように」感じており、財団の活動をより困難なものにしていると語った。会場では涙を流す職員が複数見られた。

スズマン氏は最後に二つ質問された。一つはエプスタイン元被告との関係に関するもので、もう一つは誰がスーパーボウルで優勝するかというものだった。スズマン氏はまず、なぜニューイングランド・ペイトリオッツを応援しているかについて、シアトルで過ごした長年の経験に触れながら、詳細に語り始めた。その後、エプスタイン元被告との関係については簡潔に答えるのみだった。

財団の広報担当者は声明で、「ゲイツ財団は、米国および世界中の人々の生活向上を支援するという使命に引き続き注力している。その使命を推進するため、当財団の理事長、CEO、および理事会はいずれも、財団の活動に全力で取り組んでいる」と述べた。

ゲイツ財団のマーク・スズマンCEO

ゲイツ氏のチーム内では、マラリアやポリオの根絶、妊産婦や子どもの死亡率低下といった課題に引き続き数十億ドルを投じていたにもかかわらず、自分たちのリーダーを取り巻く問題が簡単には収束しそうにないとの認識が広がっていた。特に連邦政府の資金が細ったこともあり、非営利団体などは依然としてゲイツ財団からの資金を求めていた。しかし、財団の威信は以前ほどではなくなっていた。各国の首脳や非営利団体の幹部らは、ゲイツ氏と関わることに慎重になっていた。マイクロソフトでさえも距離を置き始めた。

ゲイツ氏は通常、マイクロソフトの年次CEOサミットに合わせて、ワシントン州の自宅で夕食会を主催している。しかし、事情に詳しい関係者によると、5月のCEOサミットの数週間前になって、今年は開催しない方がよいとの意向を伝えられたという。

マイクロソフトの広報担当者は、「今年は実現しなかったが、来年のCEOサミットにはすでにビルを招待している」と述べた。

ゲイツ氏は2月中旬に、インドのニューデリーで各国首脳やテクノロジー業界のリーダーらが出席するAI(人工知能)会議で基調講演を行う予定だった。だが基調講演を数日後に控えた時点で、会議のウェブサイトで「主要出席者」検索にゲイツ氏の名前が表示されなくなっていた。インド政府当局者は地元メディアに対し、エプスタイン関連文書にゲイツ氏の名前があることを踏まえ、招待を見直していると説明した。

その頃、ゲイツ財団のインド事務所はX(旧ツイッター)に、「ビル・ゲイツはAIインパクトサミットに出席する。予定通り基調講演を行う」と投稿した。

財団のインド担当責任者のアルチュナ・ビアス氏はその後インド政府から、エプスタイン問題に関する報道が過熱しているため、ゲイツ氏が会議に参加するとAIから注意がそれてしまうため、ゲイツ氏は参加しない方が望ましいとの連絡を受けた。インド政府は、この変更の公表についてゲイツ側に委ねた。

ゲイツ氏が登壇する予定の数時間前、財団は「慎重に検討した結果、AIサミットの重要課題から焦点がそれないよう、ゲイツ氏は基調講演を行わないことになった」とXに投稿した。

数日後、シアトルに戻ったゲイツ氏は、財団のタウンホールミーティングで何が起こったのかを職員に説明した。「(インドには)そう感じる人たちがいたのだろうし、サミットから注意をそらすことになっただろうと思う」と話した。同氏は欠席について「双方の合意だった」と述べた。

内部文書によると、スズマン氏ら財団幹部は、計画が進められていた南アフリカ訪問についても、ゲイツ氏を参加させないことを決めた。

1月のダボス会議に参加したゲイツ氏

混乱の3月

3月初旬、エプスタイン事件を調査している下院委員会は、ゲイツ氏をはじめとするエプスタイン元被告と関係のあった著名人に対し、証言を求める書簡を送った。その翌週、ゲイツ氏が出資する原子力企業テラパワーも独自にダメージコントロールに取り組んだ。

内部文書によると、テラパワーは3月9日、全従業員向けのオンライン会議を3日後に開催すると通知したが、その理由は明らかにしなかった。それまでは通常、同社は数週間前には通知していたという。

会議の中でクリス・ルベスクCEOは、ゲイツ氏がこれまで説明してきた内容を繰り返した。ルベスク氏は従業員に対し、議会での聴取が予定されていることを踏まえると、今後数カ月間はゲイツ氏とエプスタイン元被告の関係について報道がさらに続くことが予想されると説明した。また、この問題について匿名の内部通報制度や管理職、人事部を通じて従業員から懸念の声が寄せられていることを認め、それを「憂慮すべきこと」だとした。さらに、自身はゲイツ氏の個人事務所とも話をしており、「この件にテラパワーが関与していないことは明らかだ」と従業員に伝えた。

WSJが確認した会議の録音によると、ルベスク氏は「テラパワーの活動とこの件は一切関係がない。ビルが公に認めることになった2件の不倫や、それに対する彼の後悔も、テラパワーとは何の関係もない」と話した。同氏は従業員に「業務に集中し続けてほしい」と呼びかけた。

現職および元従業員の中には、ルベスク氏の説明に戸惑いを覚えた人もいた。説明は事実と異なるのではないかと、ひそかに話していたという。ゲイツ氏が財団のタウンホールミーティングで「仕事を通じて知り合ったロシアの核物理学者」と説明し、不倫関係にあったことを認めた女性の1人は、テラパワーと密接な関係にあった人物だった。

その女性のリンクトインのプロフィールによると、2010年から12年までテラパワーで働いており、名前はテラパワーの社内システムにも登録されていた。テラパワーでの業務を紹介する11年の雑誌記事でも取り上げられており、ゲイツ氏とテラパワー副会長のネイサン・ミアボルド氏と一緒に写真に収まっている姿も掲載されていた。ミアボルド氏は長年にわたるゲイツ氏の側近として知られている。

あるテラパワー幹部は後に、懸念を表明した一部の従業員に対し、その女性はテラパワーの親会社に雇用されていたと説明した。だが、この幹部の説明は単なる言葉のあやであり、ゲイツ氏のイメージを守るために持ち出された形式的な理屈にすぎないと受け止められた。

テラパワーとその女性はコメント要請に応じなかった。ゲイツ氏の広報担当者は、同氏が「テラパワーのどの従業員とも不適切な関係」を持ったことはないと述べた。事情に詳しい関係者によると、その短期間の不倫関係は彼女がテラパワーを離れた後のことだったという。

3月下旬、テキサス州ヒューストンで開催されたエネルギー業界の年次国際会議「CERAウイーク」にゲイツ氏の姿はなかった。過去数年間、ゲイツ氏はテラパワーと気候変動対策などへの投資会社ブレークスルー・エナジーの両方の創設者として、この会議の主要な講演者の一人だった。

実際、CERAウイークの主催者はゲイツ氏側と登壇について話し合いを持ったが、最終的にはエプスタイン元被告との関係が改めて注目を集めている状況を踏まえ、今はゲイツ氏を登壇させる適切な時期ではないと判断した。

ゲイツ氏は自身が関わるより小規模なイベント「ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ・インベスター・サミット」に参加した。その会場では、ブレークスルー幹部が聞き手となってゲイツ氏にインタビューした。また、ゲイツ氏はCERAウイークの会場から数ブロック離れたフォーシーズンズホテルを拠点に、一部の事業パートナーや投資家らと面会した。

事情に詳しい関係者によると、ブレークスルー・エナジーは新しいファンドのために数億ドルを調達しようとしているが、資金集めは難航しているという。一部の投資家はその理由として、ゲイツ氏とエプスタイン元被告の関係を巡る懸念や、ブレークスルーが気候変動対策から距離を置きつつあることへの不安を挙げている。

1月にスウェーデンの首都ストックホルムで開催されたゲイツ財団のイベントに出席したゲイツ氏

ブレークスルー・エナジーの広報担当者は声明で、「当社の投資家コミュニティーは拡大を続けており、当社および投資先企業の将来について、これまで以上に楽観視している」と述べた。「投資家は、当社が抱えるパイプライン(投資案件)に大きな期待を寄せている」

事情に詳しい関係者によると、ゲイツ氏は6月10日に予定されている議会での証言に向けて準備を進めており、スタッフも手助けしているという。証言の際の主張の一つとなりそうなものは、ゲイツ氏と財団従業員との不倫関係に関する申し立てはなく、正式な苦情も出ていないという点だ。

しかし、そうした説明の筋書きは、ゲイツ氏に最も近い人々の間でさえ、ほころびが見え始めている。

財団幹部らがケニアでの社外会議に集まっていたさなか、ゲイツ氏の長年の友人であるバフェット氏が3月31日にテレビでゲイツ氏とエプスタイン元被告に関するコメントを発表し、彼らを驚かせた。

「投資の神様」とも称されるバフェット氏は財団の最大の支援者の一人であり、生涯を通じて毎年寄付を続けることを約束していた。しかし、ゲイツ夫妻の離婚が発表された2021年に財団の理事を退任。24年にはWSJの取材に対し、自身の死後、ゲイツ財団に渡る資金は一切ないと語った。

3月のCNBCのインタビューで、バフェット氏はエプスタイン関連文書が公開されて以来、ゲイツ氏とは話をしていないと言った。現在95歳のバフェット氏は、6月下旬に毎年恒例となっている寄付先の決定を行う前に、エプスタイン関連文書からさらにどういう事実が明らかになるのか見極めたいと話した。

ゲイツ氏は5月初旬に開催されたバークシャー・ハサウェイの年次総会に出席しなかった。同社はバフェット氏が数十年にわたって率いてきた企業で、ゲイツ氏自身も2020年まで取締役を務めていた。出席を禁じられていたわけではなかったものの、複数の関係者がゲイツ氏に対し、参加しない方がよいと助言していた。ゲイツ氏が総会を欠席したのは、かなり久しぶりのことだった。

そのわずか数週間後、ゲイツ氏はバフェット氏およびフレンチ・ゲイツ氏と共同で始めた寄付啓蒙活動「ギビングプレッジ」の年次集会で参加者たちを歓迎した。この集まりはカリフォルニア州オーハイで開かれた。だが、そこにはもうバフェット氏とフレンチ・ゲイツ氏の姿はなかった。(訳注:ギビングプレッジは世界の富豪たちに呼びかけて、資産の半分以上を慈善事業に寄付することを公に誓約してもらう活動)

ギビングプレッジの広報担当者は、参加者は年によって異なると述べたうえで、個別の出欠に関するコメントを控えた。