麻辣湯チェーンに「閉店ラッシュ」が起きない極めてシンプルな理由…高級食パンブームとは何が違うのか

「麻辣湯(マーラータン)はすでに一時的なブームというレベルはとうに超え、日本の外食に定着しつつあります。このままいけば、ラーメンなどと同じく、中国発祥ながら“日本の国民食”へと上り詰める可能性すらあり得ます」

そう語るのは、外食専門コンサルタントの永田雅乙氏だ。

花椒(ホアジャオ)がもつ痺れ、唐辛子がもつ辛みがそれぞれ効いたスープに、春雨や野菜、きのこなど様々な具材を自由に入れて煮込む、中国・四川発祥の麻辣湯――2024年から2025年にかけて数多くのメディアに取り上げられ、一大ブームとなったが、今なおその勢いは衰えを知らない。

はたして、麻辣湯のブームは“本物”なのか。本当に国民食になりえるポテンシャルを秘めているのだろうか。

何度も見てきた《大量出店→閉店ラッシュ》

写真/株式会社ダイニングイノベーション公式プレスリリースより引用

タピオカ、からあげ、それに高級食パン……。外食業界で一躍大ブームになった料理は数あれど、その大半は《全国に大量出店→すぐに閉店ラッシュ》というお決まりのパターンを懲りずに繰り返してきた過去がある。

一例として「高級食パン」ブームの衰退を取り上げておく。ブームの火付け役は2013年に大阪で創業した「乃が美」とされている。その後、2018年に同チェーンが100店舗、全店売上100億円の大台を突破すると、これを機に異業種からの参入も相まって、雨後の筍のように高級食パン店が全国で乱立していった。

そのひとつが「銀座に志かわ」で、ピーク期には全国に140店舗を構えるに至っていた。しかし、食パンはそもそも差別化が難しいもの。市場が飽和状態になった途端、ブームはすぐ下火に。今現在、同チェーンの店舗数はピーク期のおよそ3分の1、国内40店舗にまでその数を減らしている。

では話を戻して、麻辣湯はどうだろうか。日本における“元祖的”な立ち位置にあるチェーン店は、2007年に創業した「七宝麻辣湯(チーパオマーラータン)」だ。ちなみに同チェーンは、“ラーメン王”や“神の舌を持つ男”などの呼び名でメディアでも度々取り上げられている料理評論家、石神秀幸氏が立ち上げたことでも知られる。

ただ、この時点ではご存じの通り、まだ麻辣湯ブームの兆しすらなかった。本格的に認知度が高まるのは2017年、本場・中国発の麻辣湯チェーン「楊国福(ヤンゴフ)麻辣湯」が日本に初上陸してからだ。

実は「国内100店舗以上のチェーン」がゼロ?

「楊国福麻辣湯」は2003年に中国・黒竜江省ハルビンで創業した外食チェーンで、フランチャイズによって現在進行形で本土でも店舗数を増やしている。その規模は文字通り日本のチェーンとケタ違い。店舗数は世界7000店舗以上を誇っているという。

日本発「七宝麻辣湯」と中国発「楊国福麻辣湯」。この、出自の異なる2つのチェーンが国内で店舗数を増やしていき、ブームが過熱していくこととなる――。

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と、ここまで見ると麻辣湯市場の成熟は、先述した「乃が美」「銀座に志かわ」などの代表的なチェーンの店舗数拡大を皮切りにブームが起きた高級食パン市場とよく似ていることがわかる。ならば、どうしても我々の頭をよぎるのは「近いうちに市場が飽和して、麻辣湯チェーンも閉店ラッシュに陥るのでは?」という疑問である。

だが、これに対して前出の永田氏は「そう簡単にはならない」と否定する。その最たる理由は、ずばり麻辣湯チェーンの出店スピードが“偶然にも”きわめて緩やかという点だ。永田氏が続ける。

「これまで一過性のブームに終わった外食業態を見ると、特定のチェーンが短期間のうちに100店舗以上の出店攻勢をかけ、業態全体を引っ張る存在になるもの、その後、市場の飽和によって閉店ラッシュに陥るというのがよく見られました。ですが、麻辣湯は国内100店舗以上を超えるような規模感のチェーンが現時点でも見当たらない、稀有なケースなのです」

“強気すぎる”FC契約条件がかえって…

編集部の調べによれば、「七宝麻辣湯」は国内最大規模ながら70店舗(2026年6月末時点)に留まるほか、同じく代表的なチェーン「楊国福麻辣湯」にしても、こちらは首都圏と関西圏、それに福岡県に合計25店舗しかない。

出店ラッシュがない以上、閉店ラッシュなど起こりえない。麻辣湯はメディアで報じられるような熱狂ぶりとは裏腹に、その実きわめて緩やかな出店スピードでブームを維持している、というわけだ。

写真/株式会社ダイニングイノベーション公式プレスリリースより引用

とはいえ麻辣湯サイドも端から出店拡大に“弱気”だったわけではない。「七宝麻辣湯」にしても、当初は国内100店舗以上の展開を目指していたようだが、“幸か不幸か”それがなかなか叶わなかったという。

「石神氏が立ち上げた『七宝麻辣湯』は、2021年に『焼肉ライク』などを手がけるダイニングイノベーション社とマスターライセンス契約を締結しており、当初はこれによりフランチャイズ展開を加速させていくと見られていました。

ところが、未開拓の地方都市に声をかけるも、強気すぎる契約条件がたたってか、なかなか加盟者が集まってこないのが実情のようです。結果として、時間をかけて業態そのものをブラッシュアップすることにつながっているわけですが……」(前出・永田氏)

「七宝麻辣湯」としては当初の目論見から外れ、店舗数を増やせずにいる。ところがそれが意図せずして分不相応な出店ラッシュを未然に防いだ、とも言えるのだ。

【後編記事】『「楽しいマーラータンと苦痛のサブウェイ」同じ食材選びでも《日本人の定着率》がハッキリ分かれた理由』