「開店1時間前から大行列」煮物、白和え、味ご飯の「映えない総菜」が 40分で完売…"町の小さな総菜屋"に客が殺到する訳

「お目当ての商品を買うなら、開店の1時間前ぐらいに並ばないといけないのよ」

【写真25枚を見る】飛ぶように売れていく…! 《爆売れ》総菜売り場の様子はこんな感じ

総菜とスイーツを求めて行列ができる人気店!

午前10時15分、開店まであと1時間。三重県津市の住宅街にある総菜屋「フードショップヒライ」の店前で、列の2番目に立つ40代の女性は教えてくれた。彼女は自分が食べる総菜と、友人から頼まれたスイーツを買うため、「前日から楽しみにしていた」と表情は晴れやか。

総菜とスイーツを求めて行列ができる人気店!, 開店と同時に、総菜が消えていく, なぜ、煮物のために1時間前から並ぶのか, 一度食べたら、また来たくなる理由, 行列の原点は、フルーツサンドの大混乱だった, フードショップヒライを変えた男

レトロな外観。周囲は住宅街なので、行列に驚く通行人も(写真:筆者撮影)

列の20番目に並ぶ50代の女性2人組は言う。「10時25分に来たら駐車場が最後の1台!ギリギリセーフで駐車できたわ」「待っている時間はテーマパークのアトラクションに乗る前のような気持ち。ワクワクですよ」。

客の目当ては、煮物、白和え、揚げ物、炊き込みご飯(三重県では「味ご飯」という)や弁当――。いわゆる“おふくろの味”と呼ばれる総菜が中心で、映えとは無縁。家庭料理の延長線上にある品々だ。

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手に取ってもらいやすいよう、彩りにこだわっている(写真:筆者撮影)

早ければ開店からわずか40分、遅くとも2時間で完売する。取材日は平日にもかかわらず、開店時間の11時15分で80人以上の客が並んだ。

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開店5分前。この行列を見ても、客は次々に並ぶ(写真:筆者撮影)

しかし10年前、この店は閉店危機を迎えていたという。作った総菜は毎日余り、値引きしても完売せず、余った総菜は近所の人に配っていたそうだ。

創業70年以上のフードショップヒライに、何が起きたのか。なぜ“素朴な総菜”がここまで客を惹きつけるのか。

開店と同時に、総菜が消えていく

「お待たせいたしました!開店でーす!お並びいただき、ありがとうございます!」

店から飛び出してきたレジ担当の多田良平さん(36)が、列の先頭から最後尾まで往復しながら声をかける。80人以上が並ぶ列の端まで、一人ひとりに届くように。その声とともに、客が順番に店内へ流れ込んだ。

店内に入ると、まず目に飛び込んでくるのは壁一面に貼られた三重県の絶景写真だ。鳥羽市の青い海、熊野古道の奥深い山、志摩市の夕焼け――。総菜屋とは無縁の光景と外観とのギャップに、思わず足を止めてしまう。

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店内は、店というよりもギャラリーのよう(写真:筆者撮影)

店に入ると中心に大きなテーブルがあり、その日の朝に作った総菜が9〜10種類並ぶ。コロッケ、味ご飯、弁当、照り焼きチキン、白和え、ぬた――。値札はすべて手書きで、価格は200円台から400円台が中心だ。店の奥には冷蔵ケースが2台あり、1台はスイーツ、もう1台は生の塩鮭や味付け鶏肉が並んでいる。

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小学校の教室半分ほどの広さ(写真:筆者撮影)

店内のルールは「右回りで、1列」。筆者は初めて来店したとき、入り口を直進した先にある冷蔵ケースの商品が気になって真っすぐ進んだことがある。その際、「ここは一方通行やよ」と常連客に声をかけてもらった。入店したら、すぐ右が鉄則。

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テーブルをぐるりと回りながら商品を手に取る仕組み。客のカゴは商品でいっぱい(写真:筆者撮影)

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タイムセールのような熱気。「いらっしゃいませ~」「〇〇円でーす!」と、レジにいる多田さんの元気な声がBGM(写真:筆者撮影)

「戻れないから、今ここで買っておかないと」「安いし、今あるうちに買おう」。そんな焦燥感が働くのか、客のカゴにはどんどん品物が積まれていく。吟味しながら「お先にどうぞ」と順番を譲る客や、商品を購入するか悩んでいる人に「これ、美味しいわよ」と勧める常連客もいた。

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「お目当てが全部買えた」とマイカゴを持参していた客の戦利品(写真:筆者撮影)

フードショップヒライは家族4世代で支える店だ。店長を務めるのは平井外澄さん(89)。営業日は天候にかかわらず外に立ち、旗振り棒を持って駐車場整備を担当する。レジを担当するのは娘の佐栄子さんと、孫の多田良平さん。スイーツ担当は孫の彩乃さん、調理は外澄さんの娘・みかさんと、みかさんの友人の征一郎さんが担う。

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左から多田良平さん、佐栄子さん、平井外澄さん、彩乃さん。ひ孫で看板娘のさくらこちゃんも一緒に(写真:筆者撮影)

なぜ、煮物のために1時間前から並ぶのか

客に話しかけると、口をそろえて出てくる言葉がある。「安くて、美味しい」。

列の先頭にいた50代の夫婦は“リベンジ来店”だった。「前回味ご飯を食べて、『昔お母さんが作ってくれた味と同じや』ってびっくりして。しかも具だくさんで安い。前回は商品があまり残ってなかったから、今日は一番乗りです。目当ての総菜は全部買えましたよ」とニッコリ。

「もういろいろ作るのめんどくさいなっていう時に来るんですよ。並べるだけで済むから。家事を楽したい時の強い味方です」と月2〜3回通う40代の常連客。

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「卵サンドは数量限定。絶対に買いたいから早く来た」と教えてくれた客のカゴ(写真:筆者撮影)

2カ月に1回通う80代の女性は言う。「煮物とかチキンの味付けとか、手の込んだものは作れないでしょう。最近は物価が高騰しているし、ガス代も高い。だから日頃食べられないものを買う“お楽しみ”として、ここで買い込むんです。煮物は冷凍できるって、隣に並んでたお客さんに教えてもらったんですよ」。

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これらの品を3食分にしていると話してくれた、80代女性のカゴの中身(写真:筆者撮影)

行列の中で電話しながら注文を確認している人も何人か見かけた。代表で買いに来る客も珍しくない。

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「カゴは、娘家族の分と分けています」と教えてくれた(写真:筆者撮影)

一方、総菜には目もくれず、入店からスイーツコーナーをじっと眺める40代男性もいた。メロンのフルーツサンドを1つ手にして、照れながら言う。「ケーキ屋さんって1人で入りづらいけど、総菜屋さんの一角にあると買いやすいですよね」。

自分では作れない、でも外食するほどでもない。その中間にある「ちょうどいい食」。それがヒライの総菜の立ち位置なのかもしれない。

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開店から45分後、テーブルの上はほとんど空になった(写真:筆者撮影)

一度食べたら、また来たくなる理由

ここからは、筆者がフードショップヒライで好きな総菜をご紹介しよう。総菜のパックの大きさは筆者の片手に乗る程度。量は筆者の主観だが、2食分程度はある。

・白和え(200円)

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パックの高さぎゅうぎゅうに詰め込まれている(写真:筆者撮影)

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パック半分ほどの量を皿に盛りつけるとこんな感じに(写真:筆者撮影)

ヒライの白和えは、口に入れると豆腐のやさしい甘みがふわっと広がる。水っぽさは感じない。人参、ほうれん草、こんにゃく、すべての素材の味も邪魔せず、それぞれ違った食感を楽しめる。時折、ゴマの香りが鼻から抜ける。きっとゴマもふんだんに使っているのだろう。

・かぼちゃの鶏そぼろあんかけ(280円)

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ピンポン玉ぐらいの大きさのかぼちゃが8~9個入っている(写真:筆者撮影)

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かぼちゃの皮は口当たりがよくなるよう少しだけむきつつ、栄養が取れるように残している。家庭料理ならではの心づかいだ(写真:筆者撮影)

ほんのり甘い鶏そぼろと、かぼちゃの甘みが重なって、気づけば箸が止まらなくなる、かぼちゃの鶏そぼろあんかけ。ホクホクしたかぼちゃの食感に、ギュッと身の詰まったミンチがいい仕事をしている。餡はそれほど主張しない。野菜と肉を同時に食べたいときは手にする一品だ。

・ナスの煮びたし(280円)

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ニンジンの飾り切りがかわいい(写真:筆者撮影)

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原型をとどめているのに、トロリとした食感のナス(写真:筆者撮影)

ナスの煮びたしは、あれば必ず購入する総菜だ。かむとナスの水分とだしがじゅわりと口に広がり、ナスがトロトロに溶ける。筆者は付け合わせの生姜を途中でかじるのが好きだ。やさしい味の中に、ピリッとした刺激が走る。かむというより、飲む。そんな表現が浮かぶほど、トロトロに煮込まれたナスだ。

・味ご飯からあげ弁当(430円)

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常連客から「この組み合わせは最高だよ」と教えてもらった(写真:筆者撮影)

味ご飯とからあげがセットの「味ご飯からあげ弁当」。味ご飯はかめばかむほど醤油の味が広がり、適度に塩味も感じる。それに対してからあげは少し甘め。脂っぽくなく、衣はさっくり。中央にある玉子焼きは、ふんわりしていた。甘みとしょっぱさが交互にやってきて、気づけば完食している弁当。

行列の原点は、フルーツサンドの大混乱だった

フードショップヒライが行列店になったのは、「偶然の重なり」だった。10年前の客層は70〜80代が中心。流れが変わり始めたのは、スイーツの参入だ。製菓の専門学校を卒業した彩乃さんが加わりフルーツサンドを販売し始めると、ブームの波に乗ってSNSで一気に火がついた。「100個作っても10分で完売することもあった」と彩乃さんは振り返る。

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今でも、スイーツ目当てで来店する客は多い(写真:筆者撮影)

当時、フルーツサンドはレジ横のショーケースに並んでいた。開店と同時にレジ前に客が殺到したが、フルーツサンドだけ買って帰る客が多く、総菜の売れ残りは依然として続いていた。やがてこの混雑がコロナ禍と重なり、密を避けるために「右回りの一方通行ルール」が誕生した。

この小さなルールが、客の流れを変えた。スイーツ目当てで来た客が総菜も手に取るようになり、若い世代も行列に引き寄せられた。取材日に、初来店だった30代の女性客は言う。「店の前を通るといつも行列で気になって。総菜屋で総菜を買うのは、初めてです」。

インスタグラムのフォロワーは現在約5.1万人。「インスタで『今日のメニュー』を見て来ました」という声は、行列の中で何度も聞かれた。

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案内板も手作り。現代の店では表せないレトロ感がある(写真:筆者撮影)

「味ご飯を食べたお客さんが『昔、お母さんが作ってくれた味と同じだった』と驚いていましたよ」と筆者が話すと、調理担当のみかさんは目を細めて笑った。「そうかもしれんね。母と一緒に作っとったから、その味は残っていると思う」。

ヒライの総菜の味のベースには、3世代にわたる「家の味」がある。料理上手な祖母の味を母が受け継ぎ、その隣で見て育ち、調理場に立つようになったのが、みかさんだ。味ご飯やチキンハンバーグには、その面影が今も残っている。

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照り焼きチキンも、昔からある人気メニュー(写真:筆者撮影)

ただし、すべてが「昔のまま」ではない。百貨店やデパ地下を巡りながら研究を重ね、昔の味を土台に今の素材や価格に合わせてアレンジしている。

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すぐに売り切れる「9品そうざい全部セット」(写真:筆者撮影)

「目分量というか、手分量というか。決まってないんですよ。味ご飯の中の具材はキノコ類が多かったり、ごぼうが多かったり、毎日私の感覚なんです」とみかさんははにかんだ。35年間積み重ねてきた感覚が、毎日少しずつ違う味を「ヒライの味」として成立させている。

「温めて食べられるものがあるだけでうれしい。しかも自分の味じゃないから、ちょっとした外食気分なの」。2カ月に1回の“お楽しみ”で行列に並んでいた80代女性のその言葉が、ずっと頭に残っている。

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コロナ禍以前はトングで取るスタイルだったコロッケ類も、今は1個・2個入りの小分けパックで並ぶ(写真:筆者撮影)

フードショップヒライを変えた男

現在、インスタグラムのフォロワーは約5.1万人。広告費ゼロで開店前に80人以上の客が並び、平均1時間半で売り切れる。しかし、取材日に行列に並んでいた20代の男性はこう言った。「コロナ禍前ぐらいはフォロワー4000人ぐらいで行列もなかった。それがいつの間にか、こんなにはやってて」。

この店の光景を変えたのは、前述したようにフルーツサンドのヒットと一方通行ルールの影響もあるが、レジに立つ多田良平さんの存在が大きい。広告費ゼロで行列を作った男が、何をどう考えて動いてきたのか。その戦略と歩みは、後編で迫る。