「偉そうに欧米から教えられる筋合ない」…日本支援〝ビジネス促しアフリカ貧困減〟で一貫 国際舞台駆けた外交官 岡村善文氏(52)

2019年、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)で記念撮影に臨む(前列右から)麻生太郎副総理兼財務相、国連のグテーレス事務総長、安倍晋三首相ら=横浜市(宮崎瑞穂撮影)

公に目にする記者会見の裏で、ときに一歩も譲れぬ駆け引きが繰り広げられる外交の世界。その舞台裏が語られる機会は少ない。50歳の若さで大使に就任し、欧州・アフリカ大陸に知己が多い岡村善文・元経済協力開発機構(OECD)代表部大使に、40年以上に及ぶ外交官生活を振り返ってもらった。

ニジェールの看板には「KAIZEN(カイゼン)」と書かれていた(岡村善文氏提供)

アフリカ流「カイゼン」

《日本が2013年6月、第5回アフリカ開発会議(TICAD)を横浜で開催する以前から、アフリカは日本の社会文化に特別な目を向けてきた》

1つの例が「カイゼン」です。トヨタが編み出した企業のマネジメント手法だと思われていますが、企業経営だけではない。私がコートジボワール大使(08~11年)だった頃も、アフリカ流の「カイゼン」があちこち根付いていました。

私が兼任大使をしていたニジェールの病院では、日本から伝授したわけでもないのに、院長が自分で「カイゼン」を見つけ、病院中で実践していた。

ゴミ箱(ポリバケツ)に蓋をすると、人々がゴミを捨ててくれない。蓋を外すと、カラスが来て荒らす。どうするかをみんなで「カイゼン」で考え、蓋に切れ目を入れて、カラスが来ないように蓋をしたままゴミが捨てられるようにしたのです。

また、病棟に家族や見舞客が来ても、患者がどこにいるか分からない。混乱を避けるため、大きな黒板を用意し、「名前と場所を書き込むようにした」と院長は得意になっていました。壁には「セイリ」「セイトン」など〝5つのS〟が貼り出してあった。

エチオピア大統領府での歓迎式典で、メレス首相(右)の出迎えを受ける小泉純一郎首相=2006年4月30日、アディスアベバ(代表撮影)

「カイゼン研究所」まで設立

《エチオピアのメレス首相が1995年に政権に就いた後、ベトナムを訪問した》

エチオピアは91年まで社会主義国家だったため、国民が本気で働こうとしなかった。メレス首相が「ベトナムも社会主義なのに、どうしてみんな働き、こんなに経済発展しているのか」とベトナム人に聞くと、「カイゼン」のお陰だ、と言われたそうです。

第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の全体会合で発言する安倍晋三首相=横浜市(宮崎瑞穂撮影)

メレス首相はさっそく、日本から大野健一・政策研究大学院大教授をエチオピアに招待し、「カイゼン」を伝授してもらった。また、「カイゼン」を国造りの基本に据えようと、首都アディスアベバに、5階建ての「国立カイゼン研究所」を設立しました。

カイゼンは〝精神革命〟

《「カイゼン」はなぜ、それほどまでアフリカで受けているのか》

ある在京アフリカ大使が私に、「カイゼンはアフリカの人々にとって、『精神革命』なのです」と解説してくれました。どういうことか。

アフリカは植民地時代、宗主国のもとで、欧米流の意思決定を学んだ。優秀な組織人であるためには、トップの指示を正しく受け取り、確実に実施することが肝心だ、と教えられてきました。

ところが「カイゼン」は、現場に判断の権限を与え、より良い結果が出るように工夫を求めるもの。担当者が自分の部門に責任を持ち、上司に提案します。

日本では、トヨタの「カイゼン」だなどと大仰に言われなくても、どこの組織でも実践している自然な社会文化。

ところが、アフリカの人々には、植民地主義時代からの常識を破る、革命的な思考の転換と受け取られるようです。

欧米流の上意下達

《もともとアフリカは、上からの命令に従うことが絶対、という社会ではなかった》

アフリカの部族社会で、人々は村の広場に集まり、「ああでもない、こうでもない」と何日も討論し、全体の結論を出す。アフリカはもともと、コンセンサス社会なのです。

それがいつの間にか忘れられ、欧米流の上意下達を当然に思うようになっていた。さらに悪いことに、アフリカの人々は上から命令が来るのを待つだけで、自分で何とかしようと試みることをしなくなってしまった。

そこに「カイゼン」が現れた。これを旗印に、アフリカ本来の社会文化と自主性を回復できるようになった、というのが、その大使の解説でした。

「これだから日本は素晴らしい」

《他にも日本の社会文化はアフリカの人々に新鮮に映っていた》

「現場主義」がその1つです。日本の企業の幹部が作業服姿ですぐ、現場に出ていく-。これは欧米の会社ではあまり見られない光景です。

また、「聞く文化」。日本人はふつう、自ら主張しない。相手の話を聞き、おもむろに自分の考えを言い出す。これは欧米社会では日本人の弱点であり、私は日本人のこうした受け身の姿勢を見ていて、イライラすることもあります。

ところが、アフリカの人々は「これだから日本は素晴らしい」と言い出すのです。欧米人と違って、アフリカの事情をよく聞いて、アフリカのことを考えてくれる、というわけです。

「企業、途上国搾取する『悪』」

《93年以降、5年ごとに日本が主導して開催してきたアフリカ開発会議(TICAD)が欧米のアプローチと違うのは、貿易と投資を前面に出していることだ》

援助も大事だが、企業のビジネスが経済開発を促進する、という考え方です。

ところが、欧米の開発経済学者や開発の非政府組織(NGO)はこの考え方に反発する。彼らによると、企業というのは利益本位で、途上国を搾取する「悪」である。企業が開発に貢献できるはずはなく、開発援助は純潔な公的資金で行わなければならない、と主張します。だから欧米諸国は、政府開発援助が国内総生産(GDP)の何%か、といった点でのみ、取り組みを計ろうとするのです。

欧米流に疑問呈す

しかし、TICADは初回の93年から「民間セクターの重要性」を打ち出し、欧米流の考え方に疑問を呈してきました。私が事務局長として第5回TICADを2013年6月に開催したときも、民間企業の方々から「アフリカの人々の生活を豊かにし、消費者市場を育てることこそが企業利益にもなる」と力強い励ましを頂きました。途上国がビジネス促進で豊かになればこそ、貧困も削減されるのです。

《欧米諸国も最近は、ビジネス重視の〝日本流〟を認めるようになってきた》

欧米は最近、アジアの例などを見て、「開発にはやはり、貿易・投資の促進も大事だ、企業にも役割がある」と認識してきたようです。それでCSR(企業の社会的責任)やESG(環境・社会・ガバナンス)などと言い出している。

ただ、この考え方は、日本が先鞭をつけ、アジアでずっと以前から実践してきたもの。欧米諸国から偉そうに教えられる筋合いではない、と考えます。(聞き手 黒沢潤)

<おかむら・よしふみ> 1958年、大阪市生まれ。東大法学部卒。81年、外務省入省。軍備管理軍縮課長、ウィーン国際機関日本政府代表部公使などを経て、2008年にコートジボワール大使。12年に外務省アフリカ部長、14年に国連日本政府代表部次席大使、17年にTICAD(アフリカ開発会議)担当大使。19年に経済協力開発機構(OECD)代表部大使。24年から立命館アジア太平洋大学副学長を務める。