ウクライナの無人艇がロシア軍機を次々撃墜、黒海上空はもはや安全ではない

携帯型地対空ミサイル「スティンガー」の発射訓練(5月9日ノルウェーで、米陸軍のサイトより)
2024年12月、ウクライナ軍無人艇の対空ミサイル「R-73」空対空ミサイル改良型「シードラゴン」が、黒海でロシア軍ヘリを攻撃し撃墜した。
海上の無人艇が空中を飛行するヘリを撃墜したのは、世界でも初めてのことであった。
私はこの時、無人艇の防空ミサイルがヘリを撃墜できたのは、飛行速度が比較的遅いヘリであったこと、そして偶然が重なって撃墜できたのではないかと考えた。
しかし、それから半年後の2025年5月3日、ウクライナ軍の無人艇「MaguraV5」に搭載された空対空ミサイルA「IM-9サイドワインダー」(射程:長距離18キロ、短距離5キロ)が、黒海のノボロシスク港の付近で、ロシア空軍戦闘機「Su(スホイ)-30」×2機を撃墜した。
無人艇が高速で移動する戦闘機を攻撃して撃墜したのも世界で初めてであった。
高速で飛行する戦闘機が、レーダー誘導や兵士の直接照準によるものではなく、数百キロ以上離れた遠距離誘導の無人艇搭載の防空ミサイルに撃墜されたことに、私は大変驚かされた。
戦争史に残る事例となるだろう。
1.なぜ戦争史に残るのか
ウクライナ戦争が始まってから、無人機(ドローン)は、戦場から少し離れた地点から誘導され、空中の高所から固定あるいは地上を走行する目標を見つけ、攻撃に入る。
つまり、これまでは、「上空から地上へ」というのが、無人機の常套戦術であった。
ところが、前述の2つの戦例は、この戦い方の根本を覆すもので、新しい発想であった。
これまでは大変難しいことのように思えていた。
しかし、無人機が上から下への攻撃しかできないという発想は、技術革新という要素を考慮に入れていない思い込みであったようだ。
無人艇がもつ先端的な防空システムを考えれば、無人艇が下から上への攻撃ができるようになって全くおかしくなかった(図)。
図 上から下への攻撃(左)と下から上への攻撃(右、イメージ)

出典:各種情報を参考に西村金一が作成(次の図も同じ)
そこで今回は、①短距離防空システムを遠隔操作するシステム、②無人艇が戦闘機撃墜を可能にする遠隔操作システム、③視認できない小型無人艇からの脅威、④無人艇を遠隔操作するための敵の衛星システムの破壊、⑤ロシア軍機、黒海とクリミア半島での飛行の可能性、⑥将来の防空戦・航空戦の変化の点を考察する。
2.短距離防空システムを遠隔操作する
戦闘機を発見できる無人艇の目はどうなっているのか。
無人艇は、全長が5.5メートル、幅1.5メートルの大きさであり、戦闘機を発見できる監視システムを搭載するには大きな制約がある。
そのため、短距離防空兵器の監視システムの能力か、あるいはそれ以下の能力を搭載できるだけだ。
その短距離の防空兵器が、敵の戦闘機などの目標の捜索を行う場合、3つの監視方法がある。
敵機の位置が目視距離を越える場合の長距離捜索レーダーによる監視、目視距離内であれば兵士の光学機器を使った目視監視、兵士の目視監視がある。
この3つのうち、無人艇に取り付けられるのはどれか。
捜索レーダー装置を防空兵器に取り付けると、重量が重くなるので不可能である。トラック、装軌車には取り付け可能だ。
3.戦闘機撃墜を可能にする遠隔操作システム
海上を移動する無人艇が、なぜ、戦闘機を撃墜できたのか。
その理由は、無人艇と防空ミサイルの能力だけではない。衛星を使った遠隔操作ができたからである。
そのシステムはどのようになっているのか。
無人艇による防空監視と戦闘機等へのミサイル攻撃とその遠隔操作は、概ね以下の要領(図)で行う。
①無人艇がGPS誘導を受けて目標近海に侵入
②無人艇の光学防空監視装置が目標の戦闘機を確認
③確認映像を通信衛星を中継して、本国の防空指揮所に伝達
④防空指揮所が無人艇の監視装置を確認しつつ、目標に照準を合わせ射撃を指示
⑤防空ミサイルが戦闘機に向けてミサイル発射
⑥ミサイルは目標を赤外線誘導により自動追随
⑦ミサイルは、戦闘機等が放出するフレア(赤外線を追尾するミサイルが、火炎弾(フレア)を戦闘機が発する熱源であると認識させ、欺瞞するもの)にごまかされなければ、目標に命中する
②から⑦までの映像は、ウクライナ国防省情報総局から公開されている。
この映像は、おそらくキーウ付近にある防空指揮所の遠隔操作の画面であると考えられる。
図 無人艇による防空監視と戦闘機等へのミサイル攻撃および遠隔操作

この一連の動きは、無人艇を操縦する兵士と上空の航空機を監視しミサイルを発射する兵士の2人で行うことになる。
戦闘機のパイロットが直接敵機を攻撃する場合の要領を、遠く離れた基地(ウクライナの場合は、おそらくキーウ付近の防空指揮所)にいて遠隔操作で行っているのである。
この無人艇防空システムの射撃範囲は、光学機器を通して、兵士が見ていることから、人が見える範囲(5~10キロ)に限定される。
4.ロシア軍機が視認できない無人艇の脅威
ウクライナ戦争以前までは、地上の部隊・兵器は、地上からの監視から隠れていればよかった。
だが、無人機が戦場で使用されるようになってから、地上の部隊は、簡単に発見され、発見されればそのまま攻撃されるということになった。
では、空中を飛行する戦闘機はどうだろう。
これまで、敵が防空兵器を地上や海上に配置できない空域では、脅威を受けずに自由に飛行できていた。
例えば、黒海の制海権を有しているロシア側からすれば、この海域からの戦闘機への脅威はこれまではなかった。
ところが最近、ウクライナの無人艇が、黒海のノボロシスク港付近に密かに接近して、港付近を飛行するロシア戦闘機を撃墜したのである。
ロシアにすれば、ウクライナの小型の無人艇に搭載された防空兵器がノボロシスク港に接近してくるとは考えていなかっただろう。
さらに、戦闘機を狙って防空ミサイルを発射してくるとは夢にも思わなかったに違いない。
ウクライナの無人艇は小さく、洋上で視認するのは難しい。
そのため、ロシアにすればいつ何時、海上のどこからかミサイルを撃ち込まれるか分からない。大変な脅威となったのである。
5.敵の衛星システムの破壊
ウクライナやロシアにとって、無人艇や無人機の遠隔操作のためには、測地衛星や通信衛星の支援が不可欠である。
だが、自軍のシステムが妨害されないためには、そのシステムを保全し敵軍のシステムを機能停止させる必要がある。
つまり、相手の衛星システムを破壊しなければならない。
とはいえ、衛星を破壊すれば、国際的な批判を受けることになる。
したがって、批判を受けずに遠隔操作を妨害するためには、衛星以外のシステムの弱点となる箇所を選んで破壊することが必要となる。
では、ウクライナは何を実行してきたか。
ウクライナは、ロシアの宇宙にある偵察衛星や通信衛星とのコントロールを遮断するために、地上の中継アンテナと衛星を使った情報収集用アンテナを破壊すればよいと考えたのである。
2024年6月、ウクライナはクリミア半島エフパトリア近郊の遠距離宇宙通信センターのアンテナ複合施設に、ATACMS(Army Tactical Missile System=陸軍戦術ミサイルシステム、最大射程は約300キロ)×4発を撃ち込んで攻撃した。
施設は火災を起こし、一晩中燃え続けたほどの重大な損害を与えた。
同年7月、ウクライナは、ロシアのスタヴロポリ地方にあるロシアGRU軍情報部所属の宇宙偵察システムの一部である基地を攻撃した。
約12基の大型パラボラアンテナが配置されている。衛星からの情報(信号)を傍受するために設立された基地である。
ウクライナは2025年5月にも、同施設を無人機で再び攻撃した。このことは、絶対に使用させないという意志を読み取ることができる。
宇宙からの情報伝達や情報収集機能を妨害することが、現代戦においては非常に重要であることを物語っている。
6.黒海とクリミア半島で飛行困難に
ロシア軍機は、侵攻当初、ウクライナの防空兵器が十分に機能しなかった一時期、ウクライナの国内のどこでも自由に飛行できた。
その後、ウクライナの防空兵器が米欧の支援を得て充実してきたことにより、飛行できるのはロシア国内に限定された。
前線では、ウクライナの防空兵器の射撃範囲には近づけなくなっていた。
ウクライナ無人艇防空兵器が、頻繁に黒海で行動するようになれば、ロシアの戦闘機やヘリの自由な行動は制約される。
ロシアの戦闘機や武装ヘリがウクライナの無人艇を攻撃するために低空を飛行すれば、逆に、無人艇から防空ミサイルの攻撃を受けるだろう。
ロシアの航空作戦は、ウクライナの地上配備の防空兵器に加わった無人艇の防空ミサイルにより、活動範囲が狭められてきている。
7.近い将来はロシア領内から戦闘機を狙う
今、黒海ではウクライナの無人艇がロシア軍機を狙っている。
無人艇の防空兵器がさらに発達し、また敵国内の地上に置く方法も考案されれば、敵国内の戦闘機を自国の防空センターにいて、遠隔操縦で撃墜できるようになるだろう。
例えば、ロシア国内に潜入しているウクライナのパルチザンが、戦闘機配備の空港近くのビルの屋上に、無人防空システムを設置するケースなどが考えられる。
キーウからそれらに戦闘機等の目標の捜索、照準、発射指示が出され、ミサイルが自ら軍用機を追随し、撃墜できるようになる。
将来、前述のような無人システムを使用した新たな作戦を実行することが想定される。
その変換点となるのが、今回の黒海に浮かぶウクライナの無人艇が戦闘機やヘリを撃墜した事例なのである。