【特集】問題解決能力や創造的思考を養う探究活動を中学全学年に拡大…佐久長聖

  佐久長聖中学・高等学校 (長野県佐久市)は2025年度から、従来は中3だけで行っていた「探究活動」を、中学の全学年に拡大する。1年生から継続的に学習することで、高いコミュニケーション能力の醸成と、創造的思考力の育成を目指す。教務主任の中村諒教諭に導入の狙い、期待する効果について聞いた。

身近な問題を探究活動のテーマに

「探究活動を通じて、生徒たちは主体的、自発的に考えるようになっています」と語る中村教諭

 探究学習は、生徒自らが課題を設定し、解決に向けて情報を収集・整理・分析したり、周囲の人と意見交換したりしながら進めていく学習活動だ。特定の教科書はなく、目標や内容は各学校が自由に設定できる。テーマには環境、福祉、国際関係など複雑で、「正解」と言えるものがないような問題、教科の枠内では扱いにくい横断的なものを選ぶことが多い。

 探究活動は、実社会での課題解決能力を育むことも学習目的の一つ。企業の協力を受け、テーマ選びでも企業が求める課題をベースに決めることが少なくない。「ですが、『30年後の未来を考える』といった漠然としたものだと、生徒たちにはイメージしにくく、取り組みが中途半端に終わってしまっているのでは、という懸念がありました」と中村教諭は指摘する。

 そこで22年度からは、生徒が自分の興味のあるテーマに取り組むことのできる自己学習型のプログラムを採用するようにした。24年度までに扱ったテーマは、「学校指定の靴下の是非を考える」「学校のPR動画の改善案」「水難事故」「食品ロス」など多岐にわたる。いずれも生徒たちが普段の学校生活で感じている疑問や問題意識がベースになっていて、中村教諭は、「テーマが具体的で考えやすくなったため、活発な意見交換に発展するようになりました」と言う。

 下校時刻を守れていない生徒が多い実態を問題提起した生徒もいた。先生が帰宅するよう働きかけてもあまり改善されず、どのように行動を促すかが課題だった。全校生徒へのアンケートなどを基に改善策を検討した結果、生徒側から周知を呼びかけるのが良いのではという発想に行き着いた。そこで、放送委員長が放課後に放送でアナウンスする方式にしてみたところ、すぐに効果がみられたという。

 別のテーマでは、反省点も見られた。機能性を高めた新しい通学用カバンの導入を提案しようと考えた生徒たちが、全校生徒や学校説明会に来場した方々にアンケートをとったところ、カバンの色に関する意見・要望が多すぎて、収拾がつかなくなってしまったのだ。

 回答を自由記述にしたためで、数種類の色から選ばせるなど質問のたて方にも配慮が必要だということを学んだという。それでも中村教諭は、「生徒たちが積極的に学校生活やルールに関する問題意識を持ち、改善案を提示できるようになったことは大きな成果」と評価する。「うまくいかないこともありましたが、生徒たちは探究活動を通してたくましくなっています」

プレゼンテーション全国大会で決勝進出

中3(当時)の小澄君たちのチームは「学割発行申請の手続きを簡素化し、発行までの時間を短縮することができないか」というテーマで、探究活動の全国大会に出場した

 生徒たちにとって探究活動に挑戦することは、どんな意味を持っているのだろう。昨年度、 小澄琉輝(こすみりゅうき) 君たち中3生(当時)のチームは、「学校が発行する学割発行申請の手続きを簡素化し、発行までの時間を短縮することはできないか」という、少しハードルの高そうなテーマで探究活動に取り組んだ。

 JR切符の学割はあらかじめ学校に申請して発行願を出してもらう必要があるが、発行までに時間がかかるのが困る点だった。校長、教頭、担任、事務長のそれぞれの押印が必要で、タイミングが悪いと数日待つこともあったという。

 そもそも学割申請には、旅行用と帰省用の2種類がある。帰省用は、旅行用と違い、あらかじめ乗車区間が決まっていて申請理由もはっきりしている。小澄君たちのチームは「帰省用なら押印の作業を簡素化できるのでは」と考えた。調べてみると、高校の帰省用申請は担任と事務長の承認で発行されていることもわかった。

 チームは調査を続け、課題を洗い出し、探究活動の時間以外にも議論を重ねた。そして昨年11月、「帰省用の学割申請は、事務長の承認だけで発行してほしい」という案を中学に提出し、12月の学校職員会議で議題に取り上げられた。その後、事務長から「学割証の役割や申請内容の正当性を確認し、制度の適正な運用のために担任の確認が必要となっている」という事情の説明があり、学割発行の仕組みの検討は現在も慎重に進められているという。

 「学校の仕組みを変えたらどうかなんて、探究活動で取り組むまでは思いもしませんでした。疑問に感じたら、まず声を上げ、周囲の力を借りながら調べたり提案したりすることが大事だということを学びました」と小澄君。

 このテーマで昨秋、チームは探究活動の全国大会への出場を果たした。10月の文化祭で発表した6チーム中から選抜され、同校の代表としてオンラインでプレゼンテーションしたのだ。惜しくも上位に入ることはできなかったが、決勝進出の10チームに選ばれた。

 小澄君は「何度も話し合ってプレゼン内容を見直すのは大変だったけど、決勝にまで進めたことは自信になりました」と振り返る。

自発的に関わる生徒が主人公の学校に

普段の学校生活で感じている疑問や問題意識をベースに探究活動を進める生徒たち

 こうした成果を踏まえ、佐久長聖中学は今年度のカリキュラムから、中1、中2にも探究活動を組み込む。1年次には、探究活動の基礎として簡単な課題を通じて自分で情報を調べ、考える力を育むことを目指す。2年では、より複雑なテーマに挑戦し、さらに他者と協力して解決策を具体化する力を身につけることを目指す。

 3年次には探究活動の集大成として、実社会での応用を意識した課題に取り組む。中村教諭は「1、2年次よりも深い分析を行い、一連の探究活動で得た知識を実社会にどう生かすか考える力を養っていくことになります」と話す。

 同校は学校目標に、「互いの異なる個性を認め合い、尊重し合うことができる人材」「個性的で柔軟な発想力や高いコミュニケーション力を身につけた人材」「確かな知識のもと、未知の課題を発見し、多様な人たちと協働して、新たなものを生み出し、課題を解決していくことができる人材」を育てていくこと、を掲げている。

 中村教諭は、この目標に向かって、探究活動の発展に大きな期待を寄せる。「探究活動を通じて、生徒たちは主体的、自発的に考えるようになっています。学校活動に主体的、自発的に関わる生徒たちが『主人公』の学校になってほしいですね」  

 (文:江沢岳史 写真:中学受験サポート 一部写真提供:佐久長聖中学・高等学校)

 佐久長聖中学・高等学校について、さらに詳しく知りたい方は こちら