15万円台のAI PCで勝負に出たマイクロソフト

15万円で買えるAI PC新型「Surface Pro」(筆者撮影)
15万円でAI PCが買える時代が来た。
【写真で見る】ノートパソコン型の「Surface Laptop」も展開する
6月3日、都内で開催された日本マイクロソフトのCopilot+ PC体験イベント。6月10日に発売予定の新型Surfaceの実機に触れてみて、単なる低価格化以上の戦略が見えてきた。
15万円台のAI PC投入で勝負に出たマイクロソフト
タブレットPCの新型「Surface Pro」は12インチ・686gの軽量ボディ、ノートパソコンタイプの新型「Surface Laptop」は13インチで最大23時間駆動という特徴を持つ。どちらも8コアのSnapdragon X PlusプロセッサとAI処理用の45TOPS NPUを搭載する。価格はそれぞれ14万9380円、16万4780円からだ。

ノートパソコン型の「Surface Laptop」も展開する(筆者撮影)
第11世代Surface Pro(13インチ)が20万円台後半からだったことを考えると、実質10万円近い値下げを実現している。
この価格設定の狙いは、Windows 10のサポート終了問題と合わせて考えると見えてくる。Microsoftが発表したWindows 10延長セキュリティ更新プログラム(ESU)は、個人向けで年額30ドル(約4500円)。3年間利用すれば1万円を超える。一時しのぎの延命措置に毎年費用をかけるか、15万円でAI機能を搭載した新PCに買い替えるか──企業も個人も、真剣に検討すべき選択肢が提示された。
この価格を実現するために、いくつかの割り切りもある。プロセッサは前世代機種が10コアまたは12コアだったのに対して、今回は8コアのSnapdragon X Plusを選んだ。ストレージもSSDではなくスマホに搭載例が多いUFS規格だ。しかし、日常的な業務で体感できる差はほとんどない。むしろ、この「割り切り」によって実現した15万円という価格が、AI PCの普及に与えるインパクトは計り知れない。
会場奥にはAcer、富士通(FMV)など各メーカーのCopilot+ PC対応機種も展示された。各メーカーから71機種が出揃い、業界全体がAI PC普及に本腰を入れ始めた様子をうかがわせた。

MicrosoftのAI PCブランド「Copilot+PC」は7機種から71機種に増加した(筆者撮影)
日本マイクロソフトの平井健裕氏によると、当初はQualcomm(Snapdragon)プラットフォーム限定だった機能も、現在は各プラットフォームで「横並び」になってきているという。どのCopilot+ PCを購入しても同じ機能が使えるよう、Intel/AMDプロセッサ搭載機でも同等の機能提供を進めている。
リコール機能——「あの資料どこだっけ」を解決する
Copilot+ PCの目玉機能の一つが「リコール」だ。過去に作業したものや閲覧したコンテンツを素早く見つけ出す機能で、PCの画面を数秒ごと、または画面内容が変更されたタイミングでスクリーンショットとして保存する。すべての画像は暗号化され、必要な時にローカルのAIが内容を解析する。

過去の画面にさかのぼって探せるリコール機能(筆者撮影)
「あの青いグラフがあった資料」のような曖昧な記憶でも、自然言語で検索すれば関連する画面が時系列で表示される。PowerPointのスライド、Outlookのメール画面、Webブラウザで閲覧した資料まで。画面に映っていたテキストはすべてコピー可能だ。
面白いのは、過去のスナップショットからその時点の作業状態に戻れる点だ。開いていたWebページ、編集中だったドキュメント、表示していたメールなど、中断した作業をそのまま再開できる。現時点ではMicrosoft製アプリが中心だが、開発者向けに実装方法が公開されている。Copilot+ PCの普及が進めば、他社製ブラウザなどでも同様の機能が使えるようになるだろう。
セキュリティは厳重だ。Windows Helloによる生体認証(顔認証または指紋認証)が必須で、起動時と検索時の両方で本人確認が求められる。すべての処理はローカルで完結し、Microsoftのサーバーに情報が送信されることはない。
Windows Insider Previewが示す未来
イベントでは、Windows Insider Previewで提供開始される新機能のデモも行われた。これらは今後数カ月で一般ユーザーにも展開される予定の機能だ。
まず目を引いたのがAI Actionsだ。エクスプローラーの右クリックメニューに、従来のアプリケーション選択ではなく「やりたいこと」が直接表示される。画像ファイルなら「背景を削除」、Wordファイルなら「Copilotでサマリー作成」といった具合だ。
さらに「Click to Do(クリックで実行)」機能では、画面上の任意の場所でWindowsキー+クリックすることで、AIが次のアクションを提案してくれる。テキストを選択すれば「Webで検索」「Copilotに質問」などのオプションが表示される。アプリケーションを経由せず、やりたいことを直接実行できる世界が近づいている。

画像を選択して「クリックで実行」を起動すると背景の除去などを素早く起動できる(筆者撮影)
設定アプリも進化する。設定エージェントでは「マウスが遅い」と自然言語で入力すれば、AIがマウススピードの調整画面へ直接誘導してくれる。パーフェクトスナップショットは、スクリーンショット撮影時にAIが最適な範囲を自動認識。手動での微調整から解放される。

設定アプリで「マウスが」と入力するだけでスクロールスピードの調整メニューが提案される(筆者撮影)
これらの機能に共通するのは、すべてが「操作の簡略化」を目指している点だ。
MicrosoftはWindows 11のAI対応を2023年秋のCopilot搭載から始めた。当初は多くの人がイメージする「AI」そのもの、つまりチャット型のアシスタントとして提供された。AIとの対話で作業を支援する形だった。しかし平井氏は「チャットはチャットなので、一つの機能でしかない」と語る。
今、Microsoftが目指すのはAIを通じたユーザーインターフェースの全面的な刷新だ。画像認識、コンテキスト理解、自然言語処理といった多様なAI技術をOSのあらゆる場面に溶け込ませる。右クリック、設定変更、スクリーンショット。日常的な操作すべてにAIが寄り添う。それがMicrosoftの描く「Copilot+ PC」の真の姿だ。
15万円が変えるもの
2025年10月14日のWindows 10サポート終了まで、あと4カ月。Windows 10 ESUによる延命に年間4500円を払い続けるか、15万円でAI機能満載の新PCに買い替えるか。
過去モデルに付属していた永続版Officeが、新モデルではMicrosoft 365 Personal(24ヵ月分)に変更された点は残念だが、延命措置に毎年お金をかけるより新PCへの買い替えの方が合理的だろう。
チャットボットに話しかけるのではなく、普段の操作の中でAIが自然に支援する時代が始まった。右クリックメニューに「やりたいこと」が表示され、曖昧な記憶から過去の作業を瞬時に呼び出せる。6月3日時点で71機種が出揃い、各社がこぞってAI PC市場に参入した今、「AIネイティブ」な働き方への転換は、もはや未来の話ではない。15万円という価格は、その転換点を多くの人に開く扉となるだろう。