ミニ・クーパーの最上位「JCW」はどんな車か?

グロスブラックのエンブレムやヘッドライトリングと赤色のストライプを持つJCW(写真:MINI)
クルマの世界には、強力なブランドがいくつかある。そのうちのひとつが「ミニ」。
【写真】ゴーカート・フィーリングが戻った!? ミニ・ジョン・クーパー・ワークス(JCW)
このミニには、ブランド力を維持する秘訣がある。それが「もうひとつのブランド」の使用。
ミニは、「ファンの期待を裏切らないこと」がなにより大事だとわかっているのだ。
2023年にデビューした第4世代ミニに、「ミニ・ジョン・クーパー・ワークス(JCW)」と「ミニ・ジョン・クーパー・ワークス(JCW)・コンバーチブル」が加わった。
2024年10月に発表・発売され、2025年春にデリバリー開始している。私は5月中旬に、イギリスでのメディア向け試乗会に参加した。

赤の挿し色がジョン・クーパー・ワークスの特徴(写真:MINI)
元祖「ミニ・クーパー」の開発者であるジョン・クーパーの息子が設立した「ジョン・クーパー・ワークス」は、BMW傘下でミニのレース仕様などを手がけてきた。
それが正式にミニのラインナップとして組み込まれ、高性能バージョンの開発を担当するように。そしてミニJCWシリーズが生まれ、人気を呼ぶようになった。
いまのミニのラインナップでは、2024年3月に「ミニ・ジョン・クーパー・ワークス・カントリーマン」がまず登場し、今回一気に2つのJCWモデルが加わった。
その印象を一言でいえば、「運転が楽しい」。しかも、個性的だ。

運転席まわりの雰囲気やメーターディスプレイの表示も「楽しさ」を盛り上げてくれる(筆者撮影)
ミニにしかない独自性が、たっぷり盛り込まれている。それは、ソフトトップのコンバーチブルも変わらない。
今回、ともに英国の田園地帯でのドライブを堪能させてもらった。
「ミニ」と「ミニ・クーパー」の関係
ミニといえば、「ミニ・クーパーのこと?」と確認されることがある。それほど、ミニとクーパーは分かちがたいイメージを持っている。
なぜそうなったか。極端な推論としては、この2つを「ひとつの言葉」として捉えたほうが覚えやすいからだ。
最初のミニ・クーパーの登場は1961年と早い。
ミドシップのマシンでF1界に革命を起こした英国の技術者ジョン・クーパーが、BMC(当時)が発売したミニの馬力を上げたら「おもしろいクルマができるのでは?」と考えたことが、誕生の発端だ。
はたして、ミニ・クーパーは1964年に「モンテカルロラリー」で優勝して、続く1964年、さらに1967年にも勝利の栄冠を手にする。

1967年のモンテカルロラリーを走る「ミニ・クーパー」(写真:MINI)
その活躍ぶりはオンロードレースでも同様。並みいる高性能車がしのぎを削る中、小さなミニの活躍は大いに注目され、一気に知名度を上げた。
そのせいもあって、ヨーロッパでもミニでなくミニ・クーパーとして覚えた人が、少なからずいたそうだ。私も1960年代、ミニは知らなくてもミニ・クーパーは知っていた。
それが実はいま、ミニはミニ・クーパーとなっている。
というと、何のことやらと思うかもしれないが、現在の第4世代から「ミニ」という車名を「ミニ・クーパー」に改め、「ミニ・クーパー3ドア」「ミニ・クーパー5ドア」「ミニ・クーパー・コンバーチブル」としたのだ。
例外は「ミニ・カントリーマン」と「ミニ・エースマン」だが、このふたつはいずれもSUVモデル。ベーシックな車名が、ミニ・クーパーとなったのである。

もっとも基本でありミニの伝統的スタイルである3ドア・ハッチバックのJCW(写真:MINI)
まあ、ベーシックモデルがミニ・クーパーでも違和感はない。かつてのミニ・クーパーのように「ファン・トゥ・ドライブ=運転の楽しさ」がしっかり感じられるクルマだからだ。
10秒間パワーアップするBOOST機能も
今回のサブグレードであるJCW(ジョン・クーパー・ワークス)は、より“走り”に特化した仕様だ。
エンジンをみても、同じ1998ccユニット搭載の「ミニ・クーパーS」が最高出力115kW、最大トルク300Nmであるのに対して、170kWと380Nmに。
しかも「BOOST(ブースト)」と書かれたノブを引くと10秒間、20kWのパワーが上乗せされる。
エンジンマネージメントをつかさどるDME(ダイナミックモーターエレクトロニック)コントロールユニットからの電気信号で、ターボ圧を一時的に高めるシステムだ。
もちろんサーキットではないし、時速70マイル(112km)制限の慣れない道でやたら飛ばすほどおろかではないつもりなので、イギリスの路上で試したのは追い越し車線で一回だけ。
ブースト機能は、速い速い。同じBMWでやはりブースト機能をそなえている「M5」ほど異次元の加速は得られないものの、強烈さがあり、やみつきになりそうだ。

ブーストモードの起動スイッチは左のパドルにつく(写真:MINI)
「JCWに期待されるのはスポーティなハンドリングですから、それがなにより重要だと考えて開発しました」
今回、運動性能の開発を手がけたミニのパトリック・ホイスラー氏は、イギリス・湖水地方近くの試乗会場でそう語った。
「しっかりした足まわりと、切り始めから反応の速いステアリング特性、それにドライバーの手に路面の情報がよく伝わるステアリングインフォメーション……、これらのレベルを高めることに心を砕きました」
レースでの活躍も実力を裏付ける
興味深かったのは、ホイスラー氏の話のところどころに「JCWに期待されること」というフレーズが出てきたことだ。
BMW傘下でリブランディングされたミニで、JCWモデルは今回で3世代目となるが、技術のレベルは向上しつつも、「根幹のコンセプトは守ってきた」という。

BMWミニとして第2世代にあたるR56型で初めて設定されたJCW(写真:MINI)
最近のミニJCWは、同じイギリスの「ブルドッグ・レーシングチーム」と組んでニュルブルクリング24時間レースに挑戦している。2024年は、1台がクラス優勝。
ニュルブルクリンク24時間レースは、今年も6月19日から6月22日にかけて行われ、同様の体制で参戦する予定だ。
今回のJCW試乗会では、まずコンバーチブルに乗り、そのあと2ドアハッチバックに乗った。
どちらのモデルも、外観からしてスポーティ。
専用デザインのロードホイール、赤色のボンネットストライプやアウトサイドミラーキャップ、ロゴ入りの赤色ブレーキキャリパーと、赤の挿し色が目をひく。

ヘッドランプの光源はLEDだが丸型を使って“伝統”を強調(写真:MINI)
この差し色でJCWだとわかるのも、ブランド性が確立されている証拠だろう。
復活したゴーカート・フィーリング
走らせてみると、ドライブモードを標準モードの「コア」でスタートしても、予想以上のスポーティさだ。
理由は、発進時からトルクがたっぷりあるエンジンの特性にくわえ、切り始めから反応がよいステアリング特性、それに硬めのサスペンション設定にある。
走り始めた瞬間から、気分が盛り上がるよう“演出”が効いている。
ステアリング特性やドライバーへのインフォメーションについては、ホイスラー氏の言葉どおり。

素材の組み合せがユニークなシートは、スタイルだけでなくホールド性も座り心地もよい(筆者撮影)
牧場を横目に見て走るカントリーロードの一部では、舗装が荒れていて、そこでは結構強めのショックがくるが、路面がなめらかなところでは、いってみれば“痛快なドライブフィール”だ。
ドライブモードを「ゴーカート・モード」にすると、JCWのもっとも“おいしい”ところが味わえる。
アクセルペダルの踏み込みに対して、敏感に反応。鋭い反応のステアリングフィールや車体のロールを抑えた足まわりの設定とも、見事なバランスだ。

試乗した車両にはコンチネンタルのタイヤが装着されていた(写真:MINI)
先代のミニ・シリーズは、足まわりが少しやわらかめになって、2001年の初代(BMWモデルとして)売り物にしてきたゴーカート・フィーリングが丸められた印象だったが、今回はその前のフィーリングが戻った。
ホイスラー氏に確認すると「結局、市場の声で『ミニはゴーカート・フィーリングがいい』と、再度路線を調整しました」とのことだった。
実際、ゴーカート・モードではアクセルペダルの踏み込みに対して、より鋭い加速性が得られ、直線を走るのもカーブを曲がるのも、気分が昂揚する。
昔からのファンは「これがミニだ」と快哉をさけぶかもしれない。
2モデルとも、操縦感覚は近い。違いはいうまでもなくボディにあり、ミニ・クーパーJCWが凝縮感のある「2+2」的なパーソナル感が強いハッチバックであるのに対して、ミニ・クーパーJCWコンバーチブルは痛快と爽快、ふたつのよさがある。
コンバーチブルのいいところは、もちろんソフトトップを開け放ったときの開放感。

ウインドシールドの形状や位置と運転席の頭上との位置関係に注目(筆者撮影)
オープンといっても、世の中にはウインドシールドを長く、そして寝かせてドライバーの頭上まで伸ばすことで、風の巻き込みを抑える快適志向の強いモデルもある。
対するミニ・クーパーのコンバーチブルは、ウインドシールドを短く、かつ立てて、運転席にいてちょっと視線を上に上げるだけで空が見える。
さらにサイドウインドウを下ろすと、風がコクピット内に流れこんでくる。古典的なオープンスポーツカーのよう。とてもいい感じだ。
新しさと古典的要素のブレンド
コクピットは、2024年のカントリーマンに始まる最新のミニ・ラインナップに準じたデザイン。「ミニOS9」でアプリが動き、AR機能つきナビゲーションや「エクスペリエンスモード」と呼ばれる凝ったドライブモードの選択など、さまざまな操作が240mm径の円形モニター内で行える。

サードパーティのアプリも搭載可能なミニOS9(筆者撮影)
新しさと古典的な要素がうまくブレンドされている。それがいまのミニの魅力であり、市場性を高めている核心だろう。
ブランドの提供価値をよくわかっていると思わされる、好例といえる。