建物は劣化して修繕積立金の使途も不明...リゾートマンションで勃発した「独裁管理組合」との闘い
“渋谷の北朝鮮”と呼ばれたマンションの住民たちが、1200日に及ぶ闘いのすえに30年近く続いた理事会の“独裁”を打倒する――。まるでTBSの『日曜劇場』の一幕のようなドラマが現実世界で起きていた。
事の顛末を取材してまとめたノンフィクションライター・栗田シメイ氏の著書『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』(毎日新聞出版)が発売1ヵ月で3刷り2万部を記録するなど、世間の注目を集めている。
栗田氏によると、特に反響が大きかったのが、理事長の吉野氏や管理人の大山氏(共に仮名)の独善的な姿勢に対する見解を問う箇所だったという。同書を執筆するに至ったキッカケなど、知られざるエピソードを栗田氏が明かす。

ダイアパレス白子第2の外観
住民を苦しめる数々の謎ルール
発端は「FRIDAY2020年8月14日号」に寄稿した2ページの記事だった。“独裁マンション”の謎のルールに関する証言が続々と寄せられ、取材を進めると秀和幡ヶ谷レジデンスの“悪評”はある程度の確度が高いことがすぐに分かった。“悪評”とは以下のようなものだった。
1.身内や知人を宿泊させると転入出費用として1万円を請求される
2.平日17時以降と土日は介護事業者やベビーシッターが出入りできない
3.夜間、心臓の痛みを覚えて救急車を呼ぶも、管理室と連絡が取れず救急隊が入室できなかった
4.Uber Eatsなどの配達員の入館を拒否される
5.購入した部屋を賃貸として貸し出そうとすると、「外国人や高齢者に(貸すのは)はダメだ」と管理組合から理不尽な条件を突きつけられた
6.マンション購入の際も管理組合による面接があった
7.引越しの際の荷物をチェックされる
しかし、「過半数の委任状に基づき規約を作っている」という理事会側の主張が正しければ、これらの“悪評”のうち、法に接触する可能性があるのは5と6くらい(理事会は後の取材で「その事実はない」と否定)。これが取材を進める上での懸念事項としてのしかかった。

ダイアパレス白子第2の建物は著しく劣化している
一向に開催されない総会
感情的になっている住民たちの言葉に対し、客観的に裏付け取材を行う必要があった。そのなかで大きな判断材料となったのが、九十九里浜に近い千葉県・白子町にあるリゾートマンション「ダイアパレス白子第2」だった。
なぜダイアパレス白子第2を取材することが、秀和幡ヶ谷レジデンスの実態を把握することに繋がるのか。実は、秀和幡ヶ谷レジデンスで約25年間実権を握った吉野理事長は、白子でも同じような長期政権を築いていた。
幡ヶ谷に負けず劣らず、いや、幡ヶ谷よりも一層酷い状況であったと言っても過言ではない。白子のマンションの場合は明確な瑕疵があったからだ。住民と管理組合の対話の場である定例総会が、吉野理事長の就任以降、23年間にわたって開催されていなかったのである。警察や弁護士の介入を経てようやく開催された総会は紛糾し、一部で暴動が起きる騒ぎとなった。
もう一つ、修繕積立金が“何に使われたか不明”という問題もあった。住民側が収支報告書の開示を求めても理事会は拒否。ダイアパレス白子第2は共有部分やコンクリートや建物の劣化が著しく、管理不足は明らかだった。
リゾートマンションという特性上、区分所有者が集まりにくい面は確かにある。しかし、住民が総会の開催を何度も強く求めたにもかかわらず、一向に開催されなかった。幡ヶ谷では総会という意見表明の場があったが、白子はそれすらなく、区分所有者が知るべき情報や当たり前の権利すら与えられていなかったのだ。
一部の住人の抗議に対して吉野理事長は「過半数の住民の委任状を得ている」と聞く耳を持たず、住民運動が立ち上がることになった。そして、いくつもの紛争を経て、帳簿閲覧などを求める訴訟にも発展していく。
後に秀和幡ヶ谷レジデンスを「政権交代」に導いたメンバーの1人は、私にこう明かしている。
「客観的に見て、白子は秀和幡ヶ谷よりもひどい状態にありました。対話の場すら与えられず、まさに独裁でした。白子で立ち上がった住民がいたことで、私たちも戦う勇気をもらえた。幡ヶ谷が健全化に成功したのは白子のおかげなんです」

発売後大きな反響を呼んでいる『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』(著者:栗田シメイ)
独裁政権の終わり
’21年11月、秀和幡ヶ谷レジデンスの理事会が交代となった後も、白子では理事長と住民の対立が続いていた。管理費や修繕積立金の支払いを拒否する住民も現れ、吉野理事長と住民たちの戦いは泥沼の訴訟に発展していった。そして今年4月30日、吉野理事長の職務を第三者の弁護士が一時代行するという決定が千葉地裁で下された。
吉野理事長は「任期満了後も規約の規定に基づき引き続き理事長の職務を行う者」として行動していたが、この期間中に総会が招集・開催されず、事業・決算の報告や役員選任決議もなされなかった点を千葉地裁は指摘。「この人物が区分所有法及び規約に違反して、理事長職務執行者としての職務を著しく怠っており、不正の行為又は法令若しくは規約に違反する重大な事実が認められる」として第三者が選任されることとなった。
こうして2つのマンションを巡る理事長の独裁政権は、住民たちの長い闘争により終わりを迎えたのだった。吉野氏が理事長として過ごした時間は実に34年を数えた。今後はできるだけ早い総会開催を目指していくことになる。
白子のマンションを巡る係争の原告女性は、何度もこう繰り返した。
「私たちは普通の暮らしがしたいだけなんです。ここまで来るのに本当に長かった」
マンション管理に伴う法律は、長年その瑕疵が指摘されており、ようやく本国会から法改正の動きが活性化している。裏を返せば、白子や秀和幡谷は特異な事例ではなく、誰にでも起こり得る問題だということだ。
無関心や他人事を背景に、一度崩壊した自治を取り戻すことは困難であることを、2つの住民運動が示唆している。
取材・文:栗田シメイ