走るほど「CO2が減る」マツダの技術の可能性

走れば走るほど大気中のCO 2 を減らすのが、マツダの「カーボンネガティブ」という考え方(マツダの資料より)

走れば走るだけ空気中のCO2が減り、理論上はカーボンニュートラルならぬ「カーボンネガティブ」が実現できるという発想。

【写真】走れば走るほどにCO2が減っていく夢の技術を研究中

そんなクルマは本当に実現するのだろうか?

マツダは「ENEOSスーパー耐久シリーズ・富士24時間レース(決勝5月31日〜6月1日)」でCO2回収に関する新たなる試みを紹介した。

イベントでの対象は主に子どもたちだ。冒頭、マツダのエンジニアは次のように話した。

クルマっていいな!ワクワクする!

それが地球を元気にすることにつながっている。

これが当たり前になっている未来をつくっていきたい。

こんな未来に必要な技術を体験してみませんか?

用意されたのは、「マツダ3」のボディをまとったタミヤ製2ストロークエンジン付きのラジコンカーだ。

排気量は2ccと、一般のクルマと比べると1000分の1程度と極めて少ないが、最高回転数は毎分2万回転(20000rpm)に達する。

どんどん下がるCO2濃度

では、実験の様子を紹介しよう。

まず、センサーで大気中のCO2濃度を計測した。このとき計器の表示は0.04%。

次にラジコンカーの排気ガスを計測すると、CO2濃度は0.16%と一気に4倍に跳ね上がった。

「マツダ3」に架装したラジコンカーにゼオライトを使う簡易的なCO 2 回収装置をつけ、CO 2 濃度を測定する実験(筆者撮影)

今度は、マツダが開発中のCO2回収装置を模した、ゼオライトが入った小さな機器をつなげる。

すると、CO2濃度はどんどん下がっていき最終的には、0.02%にまで減少した。つまり、CO2濃度が「もとの空気中の半分」になったことになる。

ゼオライトは100を超える種類がある鉱物で、さまざまな物質を吸着する。マツダが採用しているのは、CO2を吸着することができる種類のゼオライトだ。

ラジコンカーに接続されたゼオライト。これによってCO 2 濃度が1/8まで減少した様子を確認できた(筆者撮影)

話はこれで終わらない。

マツダはCO2を吸着するゼオライトを用いたCO2回収装置を、富士24時間レースにも出走したマツダ本社直轄で運営する「マツダスピリットレーシング 3 フューチャーコンセプト」に今後採用し、将来的には量産技術につなげていくというのだ。

エンジン性能開発部の上杉康範氏は「今シーズン中には実戦導入したい」と、車両後部に搭載する予定のCO2回収装置の画像を指差す。

課題は、背圧と温度の管理だという。

車体後部に搭載する予定のCO 2 回収装置。想定重量は約50kg(筆者撮影)

CO2回収装置が排気ガスの勢いを弱めてしまうため、CO2回収装置の内部構造を工夫して排気ガスの抜けをよくする必要がある。

温度については、ゼオライトのCO2吸着効果が得られる30〜50℃に調整しなければならない。

量産車の場合、排ガスの温度は100〜200℃程度だが、レースマシンでは700℃まで上昇するため、CO2回収装置で温度を一気に冷やす。

また、吸着したCO2は150℃程度で離脱する。

つまり、CO2回収装置内の温度コントロールをうまく制御すれば、ゼオライトから離脱したCO2を専用タンクなどで集めることが可能となるのだ。

そうなれば、クルマで走行して集めたCO2と、太陽光など再生可能エネルギー由来の水素とで合成燃料(e-Fuel)を生成するというサイクルが理論上、成り立つことになる。

富士24時間レースを完走し、チーム関係者から祝福を受けるST-Qクラスの「マツダ スピリッ トレーシング ロードスター」と「マツダ スピリット レーシング 3 フューチャーコンセプト」(筆者撮影)

または、自動車メーカーが自動車販売店を通じてCO2を回収し、それを販売して利益を出すことも考えられる。

実用化まであと十数年か?

では、CO2回収が事業化されるのはいつごろか?

この点について、ENEOSが将来構想を図表化して示した。

それによると、カーボンニュートラル燃料の活用は2030年代に拡大し、CO2回収などは2040年代に入ってから実用化されるイメージだ。

これは、今回の富士24時間レースの決勝スタート前にEXEOS、トヨタ、マツダ、スバル、そして日産が共同記者会見を開き、エタノール20%含有のバイオ燃料(E20)を供給することを明らかにしたもの。

その中で、国が進めようとしているガソリンのカーボンニュートラル化について説明した。

その説明によると、現状では「ほぼ化石燃料」だが、移行期の第1段階ではバイオ燃料の割合を増やし、第2段階から合成燃料を強化。

将来的には、EV(電気自動車)やFCEV(燃料電池車)の普及が進む中で内燃機関向けの液体燃料は合成燃料が主流となり、それをバイオ燃料が支える形を目指すという。

ENEOS、トヨタ、マツダ、スバル、日産による共同会見にて(筆者撮影)

課題は、バイオエタノールの原料の確保とそれに伴うE20のコストだ。

 

バイオエタノールについては現在、とうもろこし(アメリカ)やサトウキビ(ブラジル)など植物資源が主流だが、これは農業政策の一環でもある。

日本では、農産物からバイオエタノールを精製する量は限定的であるため、草本や古紙などのセルロースを原料とすることを想定している。

こうして出来あがったE20のコストは、量産効果が生まれるまで通常ガソリンよりも高額になる可能性が高い。

これを消費者がどう捉えるのか。地球環境に配慮した液体燃料を使う意義を重視するのか、それとも日常コスト最優先で考えるのかが問われるところだ。

なお、地球環境を意識した新しい液体燃料の事例としては、ヨーロッパで実用化されているHVO(再生可能ディーゼル)がある。

廃食油など廃棄物由来の原料から精製する燃料で、石油由来よりもトータルでCO2削減できることが実証済みだ。

マツダは、スーパー耐久シリーズでこのHVOを使用し、それを量産技術へと結びつけた実績がある。

余談だが、今回の富士24時間レースは筆者が日常的に使用している「ハイエース キャンパーアルトピアーノ」 を持ち込み車中泊しながら取材した(筆者撮影)

カーボンニュートラルの一歩先へ

カーボンニュートラルに対して、日本の自動車産業はこれまで世界を牽引し、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、EV、FCEV(燃料電池車)、水素燃料車などによる「マルチパスウェイ」を推進してきた。

そこに燃料関連産業がタッグを組むことで、カーボンニュートラルの一歩先となる、カーボンネガティブという発想が生まれた。

むろん、クルマの製造や燃料の精製の過程で生じるCO2総量を的確に算出することは難しいが、それでもクルマに関わる人々が、事業と地球環境との良きバランスを懸命に探そうとしている姿勢は評価するべきだと思う。