メガソーラー建設現場で土砂流出2回の根本問題

奈良県平群町のメガソーラー建設現場。6月2日にドローンにより撮影された(提供:平群のメガソーラーを考える会)
奈良県平群(へぐり)町のメガソーラー造成現場で5月下旬に土砂崩れが発生し、下流域の住民が盛土規制法に基づく対応を奈良県に求めている。
【写真を見る】メガソーラー建設現場からの土砂が流れ出た跡が残る町道
このメガソーラーをめぐっては住民が裁判を起こし、事業者を相手取って工事差し止めを、県に対し林地開発許可の取り消しを求めて係争中。奈良地裁は今年3月、住民の訴えを退けたが、住民側が控訴し、近く大阪高裁で控訴審が始まる。
造成工事現場からの大量の土砂流出は昨秋に次ぎ2度目で、行政による規制のあり方が改めて問われる事態になっている。
造成地からの土砂流出の原因は、盛土の崩落だった
このメガソーラーは、事業者が協栄ソーラーステーション合同会社(東京)で、山林約48haを整地して約5万3000枚の太陽光パネルにより、出力約2万kWの電力を生み出す予定。

平群町の位置(国土数値情報を使用してごん屋が作成)
5月25日早朝、その建設現場から大量の土砂が流出し、フラワーロードと呼ばれる町道や田畑にあふれた。前夜からの雨の影響を心配した住民らが現場に駆け付けたときには、町道の土砂の清掃作業中だったが、土砂が高さ1.1mのガードレールを超えた跡があった。
下流域の椿台(477世帯)は造成地から1km弱の距離にあり、造成地から流れ下る川や水路に囲まれている。昼ころに住民が撮影した写真には、その水路を流れ下る濁流が写っている。
24日夜からの雨は、24日午後10時〜11時の時間降水量が20mm。梅雨時が近づくなかでの強い雨だが、近年全国各地でみられる「これまで経験したことがないような雨」ではない。なぜ土砂が流出したのだろうか。

土砂が流れ出た跡が残る町道(提供:須藤啓二氏)
事業者による工事の許可申請書によると、切土、盛土とも100万㎥以上に及び、渓流の上に盛土をする「谷埋め盛土」が行われている。
京都大学などの研究者らによる「国土問題研究会」の「平群メガソーラー調査団」は5月末に現地調査を行い、渓流や湧き水の水抜き・排水対策が十分ではなかったと推察している。調査団は、崩落した盛土付近に水が噴き出して生じた穴を確認した。
造成地の土は、真砂土と呼ばれる水の浸透性が高い土。それほど強くない雨でも雨量が多いと盛土の中に水が貯留され、崩落の原因になる。
6月18日に行われた平群町議会の一般質問。住民団体「平群のメガソーラーを考える会」代表世話人で町議会議員の須藤啓二さん(73歳)が事故原因を尋ねたところ、町は「4.5haの盛土が崩落し、仮設調整池に土砂が流入して土堰堤が破堤した」として、盛土の崩落が原因だったことを明らかにした。

草がなぎ倒され、高さ1.1mのガードレールの上にかぶさっていた。土砂がガードレールを乗り越えた跡だ(提供:須藤啓二氏)
建設現場は大阪のベッドタウン・平群町が誇る「平群の山」
平群のメガソーラーを考える会の金澤清美さん(72歳)と山岡由紀さん(69歳)が、建設現場の山全体を見渡せる場所に連れていってくれた。

応急の対策工事が進む現場と、土砂が乗り越えたガードレール(撮影:河野博子)
金澤さんは40年ほど前に平群町に引っ越してきた。「メガソーラーの造成現場になっているあたりを歩き回りました。山野草がたくさん、ノウサギもいました。川には蛍が飛んでいました。蛍は、ここ数年、泥が流れるようになっていなくなったんです」と話す。

盛土の側面には、雨水に浸食され、筋状に削られた跡が残る(撮影:河野博子)
山岡さんも「素敵な山だったんですよ」と懐かしむ。「里道があって、大阪からハイカーがいっぱい来た」とも。里道とは、かつて薪炭材や馬などのエサ、肥料になる草を採るために村人たちが行き来した道。修験道の開祖が開いた寺・千光寺に通じる道でもあることから、ハイカーに人気の道だったという。
山岡さんが地元平群町で小学校教員をしていた昭和50年代半ばころには、転校生が一度に200人も入って来た。大阪のベッドタウンとしての開発が進み、ノウサギが走る山のふもとに住宅がどんどん建った。
平群町のホームページには、倭建命(やまとたけるのみこと)が詠んだとされる「国偲びの歌」が載っている。古事記にあるこの歌には、「平群の山」が登場する。歌に出てくる広葉樹の林もあったことから、「造成工事が進む現場付近を詠んだのではないか」(平群町幹部)とされている。
住民たちがメガソーラーを問題視している理由は、土砂災害を誘発する恐れが一番大きいが、景観や歴史的に愛着のある場所であることも大きい。

建設現場を含む平群の山。左下の端にある椿台の住民が土砂災害の可能性を心配している(撮影:河野博子)
住民らは奈良県に盛土規制法に基づく調査や改善命令を求めた
4年前の2021年7月、静岡県熱海市で発生した大規模な土石流が日本列島を震撼させた。源流部の盛土の中に堆積した水が原因とわかり、翌2022年5月、通称「盛土規制法」が公布された。都道府県知事が盛土により人家に被害が及ぶ可能性のある区域を指定し、安全対策が行われているかどうかの調査や是正措置を命じることができる。
奈良県は2025年5月、県全域を規制区域に指定し、盛土規正法の運用がスタートした。
このため、平群町のメガソーラー造成地の下流域に住む住民、室谷悠子弁護士ら、土砂災害の専門家が6月11日に奈良県庁を訪れ、盛土規制法に基づく立ち入り検査や改善命令の発出を行うよう求めた。
というのも、平群町のメガソーラー造成地で土石流が発生したのは、5月24-25日が始めてではないからだ。昨年11月にも同様の事故があり、事業者は「土砂及び濁水流出の原因と対策」を奈良県と平群町に提出。住民説明会でも「二度と土砂流出が起きないようにする」と決意を述べていた。
しかし、わずか半年の間に起きた二度目の土砂流出。
平群町都市建設課の島野千洋参事は「すでに2回、町道や水路に土砂が流出する事故が起こっています。開発事業者が自ら安全管理をするのが本当ですが、それができていなかったのが事実。開発許可を出した奈良県には、きちっと監視して安全に開発が進むように指導をお願いしたい」と述べた。
奈良県は盛土規制法にもとづく調査や改善命令について、「どう対応するかについては現在検討中です」(建築安全課)とし、「事業者さんの方も今回の土砂流出を深刻に受け止めて対策を行うとしている。我々もその経過状況をきっちり確認させていただくということで、現地の対策の進捗状況の確認をしています」(森林環境課)と話している。

2024年11月の土砂流出直後に椿台の住宅近くの水路を流れ下る濁流(提供:平群のメガソーラーを考える会)

同じ水路の通常の状態(撮影:河野博子)
住民が林地開発許可の取り消し求めた裁判を起こした訳
このメガソーラーの周辺住民が奈良県を相手取り、林地開発許可の取り消しを求める訴訟を奈良地裁で提起したのは、2023年8月。原告住民のうち26人は、下流水路沿いの椿台に住んでいる。
森林に雨が降ると、木の葉や枝に雨水が付着して後に太陽に照らされて空に戻るほか、雨水が木の根や土壌から地下に浸透する。一方、山林を切り拓いて太陽光発電所を作ると降った雨のほとんどが事業地から流れ出ることになる。
原告は、大雨などの際、下流域の小河川や水路があふれることがないよう、開発地内に調整池を設けて下流河川・水路への悪影響を減らすことが重要であるという点に着目。国土交通省や林野庁などの法令、他府県の状況を精査したうえで、林地開発を許可する際に奈良県が行った審査や指導は誤りであったと論じた。
2025年3月25日、奈良地裁(和田健裁判長)は、奈良県による審査基準の設定や運用に裁量権の逸脱またはその乱用があったとは認められない、として原告の主張を退けた。
住民側が抱いた不信感
そもそもこの提訴の背景には、林地開発をめぐる奈良県の審査や運用について、住民側が大きな不信感を抱いたことがある。
原告の一人で、平群のメガソーラーを考える会の代表世話人、須藤啓二さんは、1級土木施工管理技士の資格を持ち、下水道の水処理施設の設計・施工を行う会社を経営している。4年前、事業者が県に提出した書類を情報開示請求により取り寄せて読み進むうちに、須藤さんは「えっ、なんやこれは」と声を上げ、手を止めた。
事業者は2019年に林地開発許可申請を出し、同年秋に許可を得ている。須藤さんがチェックしていたのは、このときの計算書。「ha2」と書かれた書類を見つけたのだ。ヘクタールは面積の単位で、その二乗というのはあり得ない。
須藤さんは仕事柄、設計や施工に関する様々な書類を行政に提出し、審査を受けてきた。書類審査ではまず単位の間違いをチェックされることから、同じようにメガソーラー事業者側の書類の単位チェックから始めたわけだ。さらによく見ると、奇妙な数字に気づいた。計算書には、下流河川の22カ所における勾配がすべて「180‰」と書かれていた。‰(パーミル)は1000分の1で、%に直すと18%。道路構造令が定める勾配の上限は12%。どの地点でも18%の急勾配であるということはあり得ない。
この「申請書類上の誤り」問題は、県の指示で事業者が工事を停止したうえで事業地と下流域を再調査、書類を作り直して林地開発の変更申請を出し直す形で「決着」。2023年2月には改めて林地開発許可が降りて、建設工事が再開された。

メガソーラー開発地(赤い部分)と下流域の住宅地(地理院タイルを使用し、裁判資料に基づきごん屋が作成)
林地開発許可制度をめぐる問題
「林地開発は、要件が満たされていれば都道府県が許可しなければいけないので、許可が降りないケースはまれ」と、森林地域の開発をめぐる取材を行うたびに、私は何度も耳にした。
要件とは、災害の防止、水の確保、水害の防止、環境の保全。平群町のメガソーラーでも、4つの要件をクリアして許可が降りている。そう判断した審査の中身を問うたのが、住民による県を相手取った裁判だといえる。
一方で、林地開発許可制度を所管する林野庁も、太陽光発電事業を目的とした開発案件が増えたことから、制度の改善について検討した。古くは、2019年6月~9月に「太陽光発電に係る林地開発許可基準のあり方に関する検討会」で検討した結果、同年12月末に許可基準の整備を行った。
また、2022年6月には同検討会が中間とりまとめを公表。その結果、許可が必要な開発面積の引き下げなどが行われたが、その後、検討会は開かれていない。奈良県平群町の住民が問題視している開発地内の調整池などの防災設備のあり方や、造成工事中の2度にわたる事故の原因と対策は、こうした全国での規制のあり方にも関係してくる。大阪高裁で始まる控訴審の行方が注目される。