習近平による軍首脳粛清は中国の「火種」になるか? 林載桓青山学院大学教授に聞く

「中国人民解放軍によるクーデターは考えにくい」と話す林教授(東京・日本記者クラブ)
習近平国家主席と中国人民解放軍との間の緊張関係が、新たな「火種」として浮上してきた。習主席による軍幹部の人事粛清が続いていることから、軍の反発も懸念される。権威主義国家だけに両者の関係が悪化すれば軍事クーデターの可能性も出てくる。そうなれば世界第2位の中国経済は間違いなく失速し、現地でビジネスを展開する日本企業も大打撃は避けられない。中国政治が専門の林載桓青山学院大学教授に、中国の「軍事クーデターリスク」について聞いた。
相次ぐ軍幹部の粛清も、クーデターの可能性は低い
習主席は2023年半ばから2024年末にかけて、30人を超える軍幹部を更迭している。李尚福国防相が2カ月にわたって動静についての報道が途絶えた末の2023年10月に解任、2024年12月にも人民解放軍出身の2人を詳しい説明もなく全国人民代表大会(全人代)代表から解任した。2025年5月には中央軍事委員会のナンバー3だった何衛東副主席が姿を消している。いずれも汚職の発覚が原因と見られている。

習主席による相次ぐ軍首脳の粛清に「クーデターリスク」も囁かれるが…(Photo By Reuters)
苛烈とも言える粛清が続いているが、林教授は「軍によるクーデターは想定しにくい」と見ている。日本記者クラブの会見でM&A Onlineの質問に答えた。
習主席が軍に対する権限を自身に集中していることが大量粛清につながっているのだが、「軍にとっても複数の指導部から干渉を受けるよりも、(習主席)1人に集中している方が都合が良い。習主席の影響力強化を排除する動きが出るとは考えにくい」(林教授)という。
林教授は「中国人民解放軍は中国共産党の軍隊であるとのイデオロギーが徹底しており、表立って党に反発するようなことは考えにくい」と分析する。その根拠として「鄧小平時代の1990年代に軍の生産部門を民間に移転する改革を断行して軍の経済権益を奪ったが、それでもクーデターは起こらなかった」と指摘した。
米中両国で権力集中による「人事の弊害」が
ただ、林教授は「習主席による軍事改革の結果、軍の実戦能力は確実に上がったが、党の軍に対する制度的な統制は進んでいない」と問題点を挙げる。一連の改革で軍事における指導権限を国家主席に集中。さらに、中央軍事委員会の委員数は11人から5人に減らされるなど、習主席が軍の意思決定に強大な影響力を持つようになった。
習氏は将軍級人事にも深く関与しており、「自ら面接して適性を判断する」との証言もある。かつて個人秘書だった人物を軍の中枢に登用するなど、異例の人事も相次ぐ。「軍の人事で習主席個人に対する忠誠心が重視され、軍務の専門性が軽視される恐れがある」(林教授)という。
林教授は「習主席自身が登用した軍幹部の更迭も目立ち、人事決定時に十分な情報がなかった可能性がある」と分析する。米国でもドナルド・トランプ大統領が「忠誠心重視」で高官人事を決めているが、政府効率化省(DOGE)を指揮した実業家のイーロン・マスク氏のような「失敗事例」も出始めた。
米中の二大国で権力集中による人事面での弊害が出てきたことは、国際政治・経済の新たなリスクになりかねない。
文・写真:糸永正行編集委員
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糸永正行

日刊工業新聞社入社後、松山支局記者、中・四国支社編集部記者、本社第一産業部記者、経済部編集委員(財界・首相官邸担当)、第一産業部次長、横浜総局長、企画調査部長、日刊工業広告社社長、編集局次長 産業研究所長、日刊工業開発センター社長を歴任。2017年ストライクへ出向し、M&A Online 編集委員に。2022年ストライクに転籍、現在に至る。早稲田大学社会科学部卒。東京大学情報学環教育部、同大学院学際情報学府修士課程修了。