【特集】生徒の積極性にも好影響、全教員が議論する「校内研修」…多摩大聖ヶ丘

  多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校 (東京都多摩市)では月1回、全教員が集まり、学校のさまざまな課題について話し合う「校内研修」を行っている。これは2017年に始めた「教科主任会」から発展したもので、回を重ねるごとに、教員の姿勢がこれまで以上に積極的に変わり、生徒たちも、その背中を見て、さまざまなことに挑戦するケースが増えたという。校内研修でどんな取り組みが行われているのか、狙いや成果を、石飛一吉校長と担当教諭らに聞いた。

探究講座「A知探Qの夏」を生んだ、「授業を変えたい」という声

「多くの教員と時間を共有し、腹を割って議論できる土壌ができた」と振り返る出岡教諭

 同校は多摩市と連携した「探究ゼミ」など独自の取り組みを進めているが、それを可能にしているのが、全教員による校内研修だ。その原形である教科主任会をスタートさせた入試対策部長で探究基幹教員の出岡由宇教諭は、「当時は、16年に本校の入学志望者が減ったことに加え、文部科学省が主体的・対話的な深い学びを推進し始めた時期でもありました。そこで、本校独自の学びを生み出そうと毎月1回、管理職や教科主任が集まって議論できる場をつくったのです」と振り返る。

 「教科主任会では、『授業を変えていきたい』という声があがりました。そこで、まずは夏の講習を一新し、22年度から実施される『探究』をキーワードとした新カリキュラムを先取りして、中学から探究活動を行う特別講座『A知探Qの夏』を18年度にスタートさせました」

 「A知探Qの夏」は、カリキュラム上の位置づけを変えながら、今年度も18講座が開講されている聖ヶ丘の名物イベント。全教員が自身の専門を生かした講座を担当するが、当初はどうしていいかわからない教員も多かった。そこで、全教員が集まり、5人1組になってお互いの講座を体験するなど、事前・事中・事後研修会を実施したという。

 出岡教諭は、「研修会で『この先生は、こんな面白いことをやるんだ』『こんな講座もやっていいんだ』など多くの気づきを得て、全員が同じ方向を向き始めました」と語る。「教員と1対1で話す場合も常に真剣に議論し、意見のぶつかり合いを避けないよう意識しました。多くの教員と時間を共有し、腹を割って議論できる土壌ができたと実感しています」

 20年度からは、特別講座だった「A知探Qの夏」を年間カリキュラムに落とし込む議論を全教員で開始。水曜の午後は、高校生の探究ゼミのためだけに学校を使う大幅な時間割変更を行い、同校独自の探究プログラムをつくり上げた。

議論を重ね「中高6年間の学びのデザイン」作成

全教員が集まり、学校のさまざまな課題を話し合う「校内研修」

 探究研修会は24年には「校内研修」という名称に変わり、進路指導部の主導のもと、全教員が集まって、さまざまな課題について議論する場となった。初回は「聖ヶ丘の6年を考える」というテーマで話し合った。進路指導部長の金高護教諭は、「教員それぞれが、中高6年間で目指す教育のイメージを持っていたものの、目線合わせができておらず、明文化もされていませんでした。そこで改めて、中高6年間の学びをデザインする必要があると考えました」と語る。

 まず教員一人一人が、各学年における「教員の役割」と「生徒をどう育てるか」について考えをワークシートに書き込み、議論を重ねた。その結果、「自己決定ができる人・妥協しないで挑戦できる人の育成」を柱に据え、中高6年を2年ずつに分けた学びのロードマップを作成。中1・中2は「学びをひらく準備の期間」とし、課題への取り組み方などをチーム担任制でじっくりと学ぶことを目指した。中3・高1は「学びの扉を開く期間」とし、「教えてもらう」から「自ら学びとる」へ移行させるのを狙いとした。そして、高2・高3は「学びを活かして未来を拓く」期間とし、同校でしか得られない体験を確かな自信に変え、将来への道を開いていくこと、と設定した。

金高教諭は「中高6年間で目指す教育のイメージについて議論を重ねた」と話す

 石飛校長は、校内研修ではオブザーバーに徹しているが、議論の指針となっているのは石飛校長が掲げる「ユニークネス」「スピード」「エンゲージメント」という三つの行動指針だ。「学びは卒業して終わりではなく、一生続きます。そのためには、教員もさまざまなことに挑戦し、生徒に『ユニークネス』を伝え、教員を超える生徒を育ててほしいと考えています」と石飛校長は語る。

 「また、めまぐるしく変化する現代では、何事もスピート感が必要です。さらに、生徒も教員も本校を好きであってほしいですし、ほかにはない唯一の学校でありたいと考えています。そのためにも、本校だからこそできることを、生徒と一緒に考えてほしいと願っています」

「海外へ」「目標貫徹、あえて浪人」などチャレンジする生徒が

 約8年、「校内研修」を続けてきたことで、教員は少しずつ変化している。金高教諭は、「回を重ねるごとに、『例年通りでいい』と考える教員が減り、議論することに抵抗がなくなりました」と話す。「職員室の雰囲気もよくなり、『まずはやってみよう』『改善するにはどうしたらいいか』など、前向きな発言に変わりました」

「今後も校内研修を通して、教員らが生徒に学ぶ楽しさを伝えていってくれると期待しています」と語る石飛校長

 石飛校長も、「一つの物差ししか持っていない教員が多いのかなと思っていましたが、校内研修によって教科を超えて情報を共有して学び合えるようになりました。さまざまな物差しを持てるようになったのは、大きな変化です」と語る。

 さらに、「教員が変わったことで、生徒も変化しました」と、出岡教諭は語る。「教員が『従来のルーチンをこなせばいい』という思考から離れ、積極的に改革を進める姿を見て、自分で考え、さまざまなことに挑戦できる生徒が増え、進路もこれまで以上にバラエティー豊かになりました」と言う。

 「昨年度の卒業生には、海外の大学に進学した生徒や、最後まで自分で頑張りたいと、塾には通わず国立大学に合格した生徒もいます。また、『早く進路を決めてしまいたい』という理由から指定校推薦を選ぶ生徒が減り、一般入試にチャンレジする生徒が増えた。難関私立大に合格したが、あくまで自分が学びたいことを目指し、浪人を選ぶ生徒もいました」

 多くの成果を上げている校内研修だが、今年度からは、これまで進路指導部が行っていた課題設定を各部署が持ち回りで行い、多様なテーマを扱うことにした。「中高6年間の学びのデザイン」についても、具体的にどのような授業を展開するか、各教科・各学年の活動を全教員が共有し、教科を横断した学びに広げていく予定だ。

 石飛校長は展望を語る。「学びにおいて重要なのは、『楽しい』ということ。生徒に学びの楽しさを伝えるには、教員も授業や生活を楽しまないといけません。今後も校内研修を通して、教員らが生徒に学ぶ楽しさを伝えていってくれると期待しています」

 (文:籔智子 写真:中学受験サポート 一部写真提供:多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校)

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